猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

165 / 218
第164話・“MUSH ROOM”

「──()()()だったなァ」

 

 不意に、ティガが言う。

 結局、クローネには目当ての人物が誰一人居なかったので、上空から軽く眺めて通り過ぎたのだが⋯⋯。

 まぁ確かに、街の中を通っている魔導列車の仕組みを考えると、多少は変な部分がある。

 魔導列車が通るという理由だけで、街を魔物の侵入等から守る防壁に穴を開ける訳にもいかない。

 なので、列車の往来の瞬間にだけ専用の門が開くといった、かなり独特な仕組みがあるのだ。

 つまりは、列車が門を通過する直前まで、巨大な防壁に列車が高速で突っ込んで行く状態な訳である。

 初見の者には極めて心臓に悪い仕組みではあるが、あくまでそれは安全性を意識をしたものだし⋯⋯

 ティガは、それに気付けない程の馬鹿では無い筈だが⋯⋯?

 

「価値観の違いっつうのか? 人間って、感性がわからねェ」

「そんなにか? 意外な点で相容れないんだな⋯⋯」

「オメェも“アレ”が普通だと思うか。やっぱ、違ぇなァ」

 

 悩む様子のティガは、グルグルと旋回飛行する。

 魔族と人間。それぞれ、思考の相違点は少なく無いらしい。

 ⋯⋯それはそうと、旋回飛行はやめてくれないだろうか。

 背中にしがみつくので精一杯だし、そろそろ振り落とされそうなんだが。

 

「まァ、どうでもいいか。──それで、次は?」

「うぐぐ⋯⋯。む、向こうの線路に沿って真っ直ぐと⋯⋯」

「せんろ? せんろってのはなんだ?」

「あそこのっ、列車のっ、通り道というか⋯⋯。ちょ、いい加減に普通に飛んでくれないか!?」

「お? そうだ忘れてたぜ」

 

 ふわりと旋回を止め、ティガは笑う。

 背中で息を切らす俺は、ペシと彼の頭を後ろから叩いた。

 表情と手の動きで「悪ぃ悪ぃw」と伝えるティガに、少しだけ呆れつつも笑顔で返した。

 ⋯⋯ふと思ったが、こんな風に魔王幹部を小突ける奴というもの珍しいのではないだろうか。

 魔王城で初めて会った時は、ここまでの仲になれるとは考えもしなかったが⋯⋯。

 やっぱり、世の中というのは分からないもんだなぁ。

 

「──線路って言うのは、地面にある()()の事だよ。

 あの道が列車の車輪と上手く接する様になっていて、安定した走行を可能にしてるんだ」

「あン? 線路っうのが無くても走れんなら、わざわざ作んなくてもよくねェか?」

「人間はな、ワガママな生き物なのっ。実用性は当然として、安全性や堅実性や生産性──。挙句の果てには、乗り心地やら迅速さまで求め出すんだ」

 

 ⋯⋯まぁそのワガママを求めているからこそ、人類は発展し続けている訳なんだが。

 しかし、こうして言葉として並べてみると、人間って物凄く欲張りな生態をしているな。

 ──ある意味では、それが人間の本質(らしさ)とも思えるが。

 

「人間って、やっぱヘンテコな生き物だなァ」

「愚かな下等生物共め、か?」

「ハァ? グレンデルじゃねェんだし、ンな事ァ言わねーよ。

 寧ろ、人間の頭ん中はキョーミ深ェと思うぜ? 俺はよ」

「⋯⋯!!」

 

 今のティガの台詞、前にも似た様なのを聞いたな。

 アインも言っていた。『人間の魔力への考え方は興味深い』という台詞を。

 もしかしたら、人間と魔族が手を取り合う時代は本当に創れるんじゃないか?

 白厳や幼女もそうだが、俺だって頑張れば何かのきっかけになれるかもしれない。

 オーガを倒した後は、ティガやアインの様な魔族を宣伝しながら旅をしようかな。

 ⋯⋯いや。もしも本人達にバレたとしたら、流石に消し炭にされちゃうだろうな。止めておこう。

 

「──今のティガの言葉、グレンデルには黙っとくな」

「ハッ! 確かに、アイツが聞いたらブチ切れそうだ。ヨロシク頼むぜ」

「おう。その代わり、今度組手にでも付き合ってくれよ」

「オッ、いいのかァ? 俺にそんな事を言っちまってよォ?」

 

 ニヤリと笑うティガに、拳を突き出すジェスチャーを行う。

 『上等だ』という俺の仕草に、更に大きく笑うティガであった。

 

 

 

「──それじゃ、」

「おう、行ってこい」

 

 しばらくして、俺達はベルトン付近の林に降り立った。

 ティガに手を振ってから別れた俺は、辺りの景色を見渡つつベルトンまでの道を歩いていた。

 2km程度先に見えるベルトンには、隅から隅まで懐かしさを覚える。

 あの建物がギルドで、あっちのがヴィルジールの別荘で⋯⋯

 あっ! あそこの特別訓練場では、シルビアと戦ったなぁ。

 今になって見ると、全力で戦うには随分と小さなスペースに感じてしまうぜ。

 

「⋯⋯⋯⋯。」

 

 少し、緊張してきたな。

 ここからでも感知出来(わか)る。ヴィルジールもシルビアもサンクイラも、あの街に居る。

 彼らと再会した時には、なんて言葉を掛けるべきだろうか。

 子どもの姿の俺を、“あの時のグレイドラゴンだ”と信じてもらう為には──。

 ⋯⋯いや、別にそんな事考えなくてもいいな。きっと直ぐに分かってくれる筈さ。

 どうせなら、擬人化も今の内に解除しておこう。

 

「⋯⋯ふう。さて、行くか」

 

 竜の姿に戻り、ベルトンへと進む。

 ⋯⋯初めて来た時より、建物が少しだけ小さく見える。

 俺も、ちゃんと成長してるんだなぁ。

 

「──な、なんだッ!? 魔物か!?」

「いや、例の黒異種に違いない!! こんな所にまで!!」

 

 街の入口まで行くと、お約束通りの展開に。

 衛兵の男二人に、武器を突き付けられてしまった。

 まぁ最初から最後まで穏便に済むなんて思ってなかったし、今の世の中を考えるならコレも当然だろう。

 とはいえ、モチロンだが“手荒な手段”をするつもりも無い。

 じゃあ、どうするかって? 何もしないさ。()()、な。

 

「いやぁ、どうもどうも。怪しい者では無いんで、ちょっと街に入らせてもらいますね」

「なッ⋯⋯喋った!? 何だ、このっ、コイツは!?」

「とっ、兎に角、ギルドの冒険者達を呼んだ方がいい!!

 俺が様子を見ておくから、お前はギルドに行ってこい!!」

 

 騒ぎ立てる衛兵二人は、援軍を乞う様だ。

 ありがたい。上手く俺の望み通りに動いてくれているな。

 特に、相方をギルドに向かわせた男は良い仕事をする奴だ。

 冷静な判断と自己犠牲の精神。よし、後でチップを渡そう。

 

「怪しい化け物め⋯⋯!!」

「そう身構えるなって。そうだ、ガバンは元気にしてるか?」

「⋯⋯ギルドマスターは、以前の大襲撃で亡くなった」

「──!! ⋯⋯そうか、悪かった」

 

 まさか、ガバンまで⋯⋯。

 誰よりベルトンを思っていたドワーフだったが、そうか⋯⋯

 この街自体に被害が見受けられない点からして、別の場所で攻撃を受けた様だな。

 彼は、この世から居なくなるには あまりに惜しい人間だ。

 俺がオーガを倒したら、アリアに必ず生き返らせてもらわなくては。

 

「お、お前は何者だ!! なんでこの街に来た!?」

「俺か? 俺は、少し話をしにな」

「話だと⋯⋯!? 一体、誰と何を──」

「ぎッ、銀槍竜ッ!?」

 

 衛兵の言葉を(さえぎ)る、女性の驚いた声。

 聞き覚えのあるその声と、それによって放たれた言葉──。

 衛兵の後方。街の門の向こう側から、一人の冒険者が蒼髪を揺らして走って来た。

 

「──よう、シルビア」

「はあっ!? 本当に銀槍──じゃなくて、猛紅竜なの!?」

 

 駆け寄って来たのは、やはりシルビアであった。

 相変わらずの、胸元が大胆に開いた鎧姿での出迎えとはな。

 こんな世の中でも、冒険者としての仕事は尽きないらしい。

 

「あ、アンタ、今まで何処に⋯⋯って言うか、なにその姿!?

 確かに暫くは見てなかったけれど、それでも()()は有り得なさ過ぎるでしょ!?

 前よりも、軽く一回りくらい大きくなってるじゃない!!」

「まぁ色々⋯⋯凄く色々⋯⋯有り得ない程に色々あったんだ。

 そこら辺の話は、落ち着いてからにしようぜ。──まずは、ヴィルジールに会いたいんだ」

「彼に? まぁ、いいけど⋯⋯」

 

 ──そこからの話は、全てが迅速に進んだ。

 街の住民にも覚えてくれていた者が何人かおり、俺の安全を証明してくれたのが幸運だった。

 少し遅れて、片方の衛兵が呼んできた複数の冒険者に囲まれる事態も発生したが、ここで更なる幸運が。

 その冒険者の中に、桜色の髪を持つ少女・サンクイラが居たのである。

 出会い頭に泣きながら抱き着かれたが、優しい性格が変わってなくて良かった。

 『なんで急に居なくなるのー!!』という、反論の余地も無い台詞は返答に困ったが⋯⋯。

 何はともあれ、騒ぎが派手に大きくなった事で、一番の目的であった男にも再会が出来そうだ。

 

「──お、お前⋯⋯!!」

「⋯⋯よう」

 

 群衆を割って現れた男に、俺は肩を一回上下させる。

 同時に微笑んでみせると、彼は困惑気味になりつつも笑みを浮かべた。

 ⋯⋯互いに事情はあれど、こうして再会が出来たんだ。

 この瞬間は喜びを噛み締めたいし、取り敢えずは握手だな。

 

「久し振りだな、ヴィルジール。⋯⋯少し痩せたな」

「あぁ。まぁ、少しだけ⋯⋯って、俺の話はいいだろ?」

「ははっ、いいじゃんかよ」

 

 握手をしつつ、軽く抱き合う。

 様々な会話を交わしながら、俺とヴィルジール、そしてシルビアとサンクイラの4人で場所を移した。

 移動した先は、勿論ヴィルジールの別荘である。

 

「キュルルーーッ!!」

「うおっ!! 虎徹(こてつ)!?」

 

 扉を開けた途端、白いモコモコが飛び付いてきた。

 この鳴き声、この手触り、間違い無い。俺の愛しい相棒だ。

 ふふふ、コイツは全く変わってないな。かわゆいヤツめ。

 

「虎徹君、今まで元気が無かったのに⋯⋯!!」

「そうなのか? 元気無いコイツの姿なんて、おうヨシヨシ、全く想像出来ないけどな〜」

「キュルル〜」

 

 虎徹を頭の二本角の間に座らせ、俺もソファに腰を降ろす。

 向かって右にサンクイラが。左にシルビアが。正面にはヴィルジールが席に着き、かくして準備は整った。

 

「──さて、さてさて⋯⋯」

 

 何から、本当に何から話そうかね。

 ネタの豊富さには困らないが、豊富過ぎて洪水しているぜ。

 まずは、アリアやゼルとの出会いから話し始めるとするか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。