──包み隠さずに云う。
俺とヴィルジールの間には、途轍も無く巨大な壁がある。
“絶対に越えられない壁”というやつだ。
そもそも俺は、ヴィルジールのギルドランクである『ゼクス』の中で、最強と呼ばれるファリドにすら勝利している。
それも、その頃の時点で使用可能であった炎装を使わずに。
⋯⋯ヴィルジールの実力は、確かに優秀なものなのだろう。
だがしかし、本日までに俺が育まれてきた環境というのは、恐らくこの世界で最も高水準の場所・魔王城である。
魔王ゼルリウス、ティガやアイン等の魔王幹部、
そんな連中と、俺は数ヶ月の間 毎日の様に鍛錬を積んできたのだ。
そして、その努力も着実にモノにしている。
それはつまり、俺が強くなったのと同時に、周囲へ与える影響も大きくなった事を意味する。
とりわけ戦闘については、手加減をしない限り一般の冒険者なら確実に殺してしまう程だ。
無論、俺はヴィルジールを殺したくは無い。
しかし。男同士の戦いにおいて、あからさまな手抜き行為は絶対に避けたい──。
そんな葛藤が生まれる程、あまりに大きな力の差がある中。
今の俺がやるべき事は、恐らく“これ”しかないだろう。
「──殺す気で来いよ、ヴィルジール」
そう言って、俺は構えた。
その直後。即座に斬り掛かって来ようしたヴィルジールが、踏み込みの寸前で動きを止める。
成程、勘がいい。俺と彼の力量差なら、向こうの魔力感知はあまり意味が無いだろう。
魔力の質が大きく違うと、対象の感知は難しくなるからな。
それでも尚 彼が動きを止める判断をしたのは、微かにでも俺の魔力の流れの変化に気付けたからか。
──ゴウッ!!!!
炎輪・現最強形態。
蒼色に燃え盛る全身と、背中にある
計三つの炎輪からなるこの姿は、魔力の循環能力を主とした形態である。
形態維持の可能時間は、現状で十二分。その間、俺は徹底的に“受け”に回る事にする。
「ヴィルジール。俺に擦り傷でも付けれたら、その時はアンタの勝ちでいい。
ただし、俺も負ける気は無いし、全力でやらせてもらうぜ」
「あぁ、上等だ⋯⋯!!」
両剣を一回転させ、ヴィルジールが再び構える。
此方が警戒すべきは、あの両剣と本人の判断能力の高さか。
さて、向こうの初手は何が来──
「ふッ!!」
ヴィルジールの呼気が、真上から聞こえる。
少し遅れ、振り抜かれた両剣による風圧が俺の
彼が放った斬撃を、頭を下げて回避した結果の一連の流れ。
たった一度の僅かな
コイツ、以前よりもずっと強くなっている。
「ハアアッッ!!」
「────。」
高速で両剣を回転させ、攻撃を繰り出すヴィルジール。
対する俺は、上半身を左右前後への“引き”と“倒し”を駆使して攻撃を躱し、様子を窺った。
ヴィルジールの両剣での攻撃方法は、一見すると槍術に似たもの思える。
しかし
同様の攻撃方法であれば、槍術とは比べ物にならない手数を誇っているな。
「ふんッ!!」
ブオン! と、両剣が横八の字に振るわれる。
一瞬にしてX形の斬撃が正面に放たれ、俺は首と上半身を後方へ引いた。
──カキンッ。
その時、ヴィルジールの両剣が真っ二つに割れた。
俺が何かした訳ではなく、唐突に半分になったのである。
二対の刃になったその姿は、まるで双剣の様な⋯⋯
「フ──ッ!!」
「⋯⋯!」
斬 斬 斬 斬。捌 捌 捌 捌。
一呼吸。その刹那、ヴィルジールは高速で斬撃を繰り出し、俺は刃の側面を叩いて軌道を逸らした。
攻撃と迎撃の応酬は加速を続け、その余波によって周囲には風が吹き荒れる。
どうやら、俺が両剣だと思っていたヴィルジールの武器は、双剣への形状変化を可能としていた様だ。
この感覚⋯⋯。恐らくだが、ヴィルジールは双剣の方が得意なのかもしれない。
少なからず、両剣の扱いとの練度の格差は感じられないし、双剣での戦闘にも長い付き合いがあるのだろう。
──カキンッ。
斬撃の嵐の最中、ヴィルジールが双剣を両剣へと戻す。
直後、縦一閃。手数に気を取られていた俺に、真上から垂直に両剣が振り下ろされた。
回避に移るまでは問題無く間に合う。⋯⋯が、ここは意図的に当たりにいってもいいか。
炎装形態の最も優秀な点は、攻撃力の上昇でも魔力操作率の向上でも無い。
この炎装形態の真価は──
「ッ!!?」
咄嗟に、後ろへ飛び跳ねる。
そして俺は、自分の額に大粒の冷や汗が流れるのを感じた。
⋯⋯今のは危なかった。俺の見立てが正しければ、ヴィルジールの“あの武器”はヤバい。
俺の炎装の真価は、全身の硬化による異常なまでの防御力の上昇だ。
だからこそ、あの程度なら斬り付けられても問題無いと思っていたんだが⋯⋯
あの武器。よく見たら、
まず間違いなく、炎装形態の俺にも傷を付けられる鋭利さがあるだろう。
「──その武器、どこで手に入れたんだ?」
「ハァ、ハァ⋯⋯。白厳に、親愛の証って言われて、な」
息切れしながら、ヴィルジールが答える。
白厳め、あんな凶悪なモンをプレゼントしやがって⋯⋯。
こうなったら戦術変更だ。ヴィルジールに攻める隙を与えない様、一気に畳み掛けるとしよう。
やれやれ。受けに回るとか考えた俺がバカみたいだ、全く。
「⋯⋯ふぅ、今度は俺から行くぜ」
そう言い、地面を踏み締める。
右拳に魔力を込めた俺は、無空間へと正拳を打ち込む。
飛拳。巨大な蒼炎の塊が、拳の形となっては放たれた。