猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第166話・努力、才能、片鱗

 ──包み隠さずに云う。

 俺とヴィルジールの間には、途轍も無く巨大な壁がある。

 “絶対に越えられない壁”というやつだ。

 そもそも俺は、ヴィルジールのギルドランクである『ゼクス』の中で、最強と呼ばれるファリドにすら勝利している。

 それも、その頃の時点で使用可能であった炎装を使わずに。

 ⋯⋯ヴィルジールの実力は、確かに優秀なものなのだろう。

 だがしかし、本日までに俺が育まれてきた環境というのは、恐らくこの世界で最も高水準の場所・魔王城である。

 魔王ゼルリウス、ティガやアイン等の魔王幹部、星廻龍(アリア)に、火龍の王(テュラングル)──。

 そんな連中と、俺は数ヶ月の間 毎日の様に鍛錬を積んできたのだ。

 そして、その努力も着実にモノにしている。

 それはつまり、俺が強くなったのと同時に、周囲へ与える影響も大きくなった事を意味する。

 とりわけ戦闘については、手加減をしない限り一般の冒険者なら確実に殺してしまう程だ。

 無論、俺はヴィルジールを殺したくは無い。

 しかし。男同士の戦いにおいて、あからさまな手抜き行為は絶対に避けたい──。

 そんな葛藤が生まれる程、あまりに大きな力の差がある中。

 今の俺がやるべき事は、恐らく“これ”しかないだろう。

 

「──殺す気で来いよ、ヴィルジール」

 

 そう言って、俺は構えた。

 その直後。即座に斬り掛かって来ようしたヴィルジールが、踏み込みの寸前で動きを止める。

 成程、勘がいい。俺と彼の力量差なら、向こうの魔力感知はあまり意味が無いだろう。

 魔力の質が大きく違うと、対象の感知は難しくなるからな。

 それでも尚 彼が動きを止める判断をしたのは、微かにでも俺の魔力の流れの変化に気付けたからか。

 

──ゴウッ!!!!

 

 炎輪・現最強形態。

 蒼色に燃え盛る全身と、背中にある仁王襷(におうだすき)の様な双対の火柱の輪。そして、背後に浮遊する炎の輪。

 計三つの炎輪からなるこの姿は、魔力の循環能力を主とした形態である。

 形態維持の可能時間は、現状で十二分。その間、俺は徹底的に“受け”に回る事にする。

 

「ヴィルジール。俺に擦り傷でも付けれたら、その時はアンタの勝ちでいい。

 ただし、俺も負ける気は無いし、全力でやらせてもらうぜ」

「あぁ、上等だ⋯⋯!!」

 

 両剣を一回転させ、ヴィルジールが再び構える。

 此方が警戒すべきは、あの両剣と本人の判断能力の高さか。

 さて、向こうの初手は何が来──

 

「ふッ!!」

 

 ヴィルジールの呼気が、真上から聞こえる。

 少し遅れ、振り抜かれた両剣による風圧が俺の(うなじ)を撫でた。

 彼が放った斬撃を、頭を下げて回避した結果の一連の流れ。

 たった一度の僅かな()り取りだが、存分に分からせられた。

 コイツ、以前よりもずっと強くなっている。

 

「ハアアッッ!!」

「────。」

 高速で両剣を回転させ、攻撃を繰り出すヴィルジール。

 対する俺は、上半身を左右前後への“引き”と“倒し”を駆使して攻撃を躱し、様子を窺った。

 ヴィルジールの両剣での攻撃方法は、一見すると槍術に似たもの思える。

 しかし()の実は、武器の両側にある刃が絶え間無く振るわれている戦術だ。

 同様の攻撃方法であれば、槍術とは比べ物にならない手数を誇っているな。

 

「ふんッ!!」

 

 ブオン! と、両剣が横八の字に振るわれる。

 一瞬にしてX形の斬撃が正面に放たれ、俺は首と上半身を後方へ引いた。

 

──カキンッ。

 

 その時、ヴィルジールの両剣が真っ二つに割れた。

 俺が何かした訳ではなく、唐突に半分になったのである。

 二対の刃になったその姿は、まるで双剣の様な⋯⋯

 

「フ──ッ!!」

「⋯⋯!」

 

 斬 斬 斬 斬。捌 捌 捌 捌。

 一呼吸。その刹那、ヴィルジールは高速で斬撃を繰り出し、俺は刃の側面を叩いて軌道を逸らした。

 攻撃と迎撃の応酬は加速を続け、その余波によって周囲には風が吹き荒れる。

 どうやら、俺が両剣だと思っていたヴィルジールの武器は、双剣への形状変化を可能としていた様だ。

 この感覚⋯⋯。恐らくだが、ヴィルジールは双剣の方が得意なのかもしれない。

 少なからず、両剣の扱いとの練度の格差は感じられないし、双剣での戦闘にも長い付き合いがあるのだろう。

 

──カキンッ。

 

 斬撃の嵐の最中、ヴィルジールが双剣を両剣へと戻す。

 直後、縦一閃。手数に気を取られていた俺に、真上から垂直に両剣が振り下ろされた。

 回避に移るまでは問題無く間に合う。⋯⋯が、ここは意図的に当たりにいってもいいか。

 炎装形態の最も優秀な点は、攻撃力の上昇でも魔力操作率の向上でも無い。

 この炎装形態の真価は──

 

「ッ!!?」

 

 咄嗟に、後ろへ飛び跳ねる。

 そして俺は、自分の額に大粒の冷や汗が流れるのを感じた。

 ⋯⋯今のは危なかった。俺の見立てが正しければ、ヴィルジールの“あの武器”はヤバい。

 俺の炎装の真価は、全身の硬化による異常なまでの防御力の上昇だ。

 だからこそ、あの程度なら斬り付けられても問題無いと思っていたんだが⋯⋯

 あの武器。よく見たら、刃先(はさき)が恐ろしく薄い。

 まず間違いなく、炎装形態の俺にも傷を付けられる鋭利さがあるだろう。

 

「──その武器、どこで手に入れたんだ?」

「ハァ、ハァ⋯⋯。白厳に、親愛の証って言われて、な」

 

 息切れしながら、ヴィルジールが答える。

 白厳め、あんな凶悪なモンをプレゼントしやがって⋯⋯。

 こうなったら戦術変更だ。ヴィルジールに攻める隙を与えない様、一気に畳み掛けるとしよう。

 やれやれ。受けに回るとか考えた俺がバカみたいだ、全く。

 

「⋯⋯ふぅ、今度は俺から行くぜ」

 

 そう言い、地面を踏み締める。

 右拳に魔力を込めた俺は、無空間へと正拳を打ち込む。

 飛拳。巨大な蒼炎の塊が、拳の形となっては放たれた。

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