「──うッ!?」
俺が放った
彼が左へ大きく飛び跳ねると、直後にその場を飛拳が通過。
先程まで立っていた地面を抉って、そのまま街の外へと消えて行った。
そして数秒後、街から少し離れた地点で衝撃と轟音が発生。
蒼い煙の様な魔力の残滓が、空へと登って消えてゆく光景が生まれた。
「今、のは⋯⋯?」
「『飛拳』って呼んでる。連続技の『
おっと、技の自慢が出来て思わず笑みが。
まぁ求めてたリアクションをされると、ついニヤけてしまうのが人間だわな。
今まで俺の周囲には、圧倒的な格上の存在以外は居なかったからなぁ。
ヴィルジールには悪いが、こうして技の自慢が出来る相手が居るのは嬉しいぜ。
「──随分、差を付けられちまった様だな⋯⋯」
「何言ってんだ。まだまだこれからだろ?」
「⋯⋯フッ。確かに、それもそうだ」
静かに笑い、ヴィルジールが両剣を構る。
対する俺も、両手を正面に構えて猫足立ちで向かい合った。
そして起爆。両剣を振り被ったヴィルジールが、勢いよく駆け出した。
右へ左へ。地を走る稲妻の様な歩法で、一息に間合いを詰めてくる。
俺の飛拳を警戒して、狙いを定めにくくしているのだろう。
やはり冒険者。状況への対応速度が優秀だ。
「──全力で迎え撃つ!! 来い!!」
「おおオッ!!」
最後の攻防。間合いが潰れる。
全身を空中で横回転させ、ヴィルジールは両剣の最先端へと遠心力を乗せる。
彼の攻撃を見極めた俺は、すぐさま迎撃態勢に移行。大きく尻尾を振り上げて⋯⋯
直後に、片手を正面に突き出した。
その手はヴィルジールの肩を叩き、彼の体は後方へ下がる。
そして次の瞬間、
──ズドオォォ──ンッッ!!
俺とヴィルジールの間に、“黒い影”が飛来する。
突然の事象にヴィルジールは困惑し、俺は呆気に取られた。
動きを止めた俺達の間では、砂煙がもうもうと舞い上がる。
直後。ヴィルジールが何か言おうとしたタイミングだった。
飛来物の着弾地点で、人型の影が揺れ動いたのは。
「──よォコラ。ヒトサマの飯を台無しにしながらする喧嘩は楽しいか?」
ビキキと額に青筋を作り、ティガが現れる。
猛烈にキレている様子だが、飯を台無しとはなんの事だ?
俺はベルトンに入ってからはずっと──って、いやちょっと待てよ?
そういえば、ついさっき放った飛拳について少し違和感があったんだよな⋯⋯。
魔力を少量にしたとはいえ、ヴィルジールに躱された飛拳が街から随分と近い地点で爆発したのが気になってたんだが⋯⋯
ま、まさか、そこに偶然ティガが居て、飯の支度をしてたタイミングで俺の飛拳が⋯⋯?
「え、えと、ちょっと待って? いやホントに!」
「あ"? 今の俺ァ、詫びの言葉しか耳に入んねェんだよ」
「ごめんって! でもワザとやった訳じゃないから許して!!
と言うか、アンタ程なら俺の飛拳くらい片手間で対処が出来ただろ!! 絶対!!」
「うっせェ! 適当に軌道を逸らしたら、俺が狙ってた獲物に当たっちまったんだよ!! お陰で昼飯が消し炭だぜ!!」
いや、それは自業自得じゃね!?
ティガの力量なら、掻き消すどころか仮に当たったところでノーダメージだろ!!
自分のミスを人に押し付けやがって!! 身勝手な奴だ!!
本人に言うのは怖いから、絶対に口には出さないけどな!!
「お、おい? お前は誰だ? なぁ、コイツは誰なんだ?」
「あァ? 誰だテメェ、殺されてェのか? あ"ぁ"ン!?」
「ああーーっ!! ごめんヴィルジール!! 悪いヤツでは無いんだよ!!」
「ハッ!! よく分かってンじゃねーか!! 悪ぃのは紅志、テメェだぜ!!」
「わっ、分かったから暴れないでぇえーー!!」
あああ、頭痛がヤバい。
この調子だと、ベルトンがティガに壊滅させられかねない。
ヴィルジールとの勝負がいい所だったのに、なんだってこんな時に⋯⋯。
あぁもう! ティガは魔王幹部! 自由に力を振るう存在!
その点を理解していながら、これっぽっちも配慮しなかった俺のミス!! それでヨシ!!
兎にも角にも、まずはアイツの気を鎮める事が先決だ!!
「ヴィルジール!! 俺の荷物って、まだ保管してるか!?」
「お、おう。ウチに⋯⋯」
「よしきた!! ティガ、着いてこい!!」
「ンだとォ!? この俺に命令してんじゃ──⋯」
「⋯──ゲフッ、ア"ァ。紅志って、料理上手ェんだなァ。
随分と満足したし、しょうがねェから許してやるぜ♡」
「そりゃどうも。機嫌が治ってなによりだ」
やれやれ、なんとかなったか。
俺が愛用してた調味料セットが腐ってなくて良かったな。
まぁ料理の腕には自信はあまり無かったが⋯⋯。下手すりゃ死ぬって状況だったからか、信じられない程に集中出来たぜ。
「──にしてもよォ? 俺は1人寂しく飯の支度だってのに、お前は楽しく喧嘩だなんてひでェ話だよなァ?」
「いや、真剣勝負を邪魔される方が酷い話だろ⋯⋯」
「あン? “あれ”が真剣勝負だァ? 俺の目には、手を抜いて戦うオメェの姿しか見えなかったけどな?」
「違ッ、ああいうのは手抜きじゃなくて、互いの力量を考慮して公平性をだなぁ!?」
バン! と、ティガがテーブルを叩く。
当然の如くテーブルは粉砕され、それどころか家中が大きく揺れた。
折角、機嫌が治りかけていたのに。ティガの癇に障る事を言ってしまったのだろうか⋯⋯?
「──テメェが真剣勝負だと言うなら、どうして
互いの力量なんだってんだ? 公平性がなんだってんだ?
漢が
それともなにか? そこの
「⋯⋯!! ヴィルジールは、最初から決めに来ていた⋯⋯」
「そォら見ろ。ケツの青いガキなのはテメェだけぜ? 紅志。
いいかよく聞け。“試合”がしてぇ、“喧嘩”がしてぇンなら、テメェやテメェの相手が好きにルールを決めてやりゃあいい。
だが、“勝負”がしてぇッつうんなら、テメェも初めから全力でぶつかれ。たとえ圧倒的な力量差があってもな」
「⋯⋯ッ。で、でも、下手したらヴィルジールを殺しかねないし⋯⋯」
「だからなんだ? “手を抜かれたから生き残る”より、“全力で戦ったから死ぬ”って方が満足だろうが」
それは、ティガの価値観であって⋯⋯。
そんな事を言おうとした俺だったが、ここでヴィルジールの様子に意識が向いた。
ティガの台詞に深く共感し、拳を強く握り締めているのだ。
結局は俺も、心の奥底で“殺さない様に”と考え、手加減して戦っていたのだろう。
そして、恐らくヴィルジールもそんな俺に気付いていた。
⋯⋯今の彼を見れば分かる。ティガが包み隠さずに言葉にした事で、俺が軽々しく台詞を放った事で。
味わった重い悔しさに、全身を締め付けられている様だ。
「──ヴィルジール。俺は⋯⋯」
「いや、いいんだ。確かにそいつの言い分には納得させられるが、俺だって死にたくない気持ちの方が強い。
仮にお前に殺されてたら、化けて出てたかもしれないぜ」
「ハッ。今日のトコはソイツの優しさに甘えとけ、紅志」
ポンポンと俺の背を叩き、ティガは静かに笑う。
ヴィルジールも、軽蔑する様な目ではなく、優しい眼差しで受け入れてくれた。
涙すら零れそうになる中、俺は顔を上げて彼らに向き合うのだった。
「ところで、結局アンタは誰なんだ?」
「俺か? 俺ァ──」
「ティガだ。魔王軍の最高幹部の1人。“
「⋯⋯は?」
間の抜けた、ヴィルジールの声。
さらっと暴露してしまったが、コレ、かなりマズイんじゃないか⋯⋯?