猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第176話・“新”魔大戦【出陣】

 ──地球。

 果てまで続く大地、どこまでも広がる空、無数の命の営み。

 全てをその背に乗せて、青く輝く奇跡の星。

 しかし、宇宙という視点から観測すれば、そんな奇跡の星も線香花火の様な儚さである。

 ましてや、それを吹き消そうとする者達が、辺り一面を覆い尽くしているとなれば、文字通り風前の灯という他無い。

 

「──では、始めるとしようかの。神話の終結、そして新たな創造を!!」

 

 暗黒神オーガによる号令。

 杖を振りかざした彼に、黄金の転移ゲートから出現した無数の黒異種が蠢いた。

 地球という星を宇宙から取り囲み、赤い目の残光を揺らめかせながら、それらは一斉にエネルギーのチャージを始める。

 攻撃対象は、魔王でも星廻龍でも無い。彼らが住まう、地球そのものである。

 無論、黒異種一体一体の攻撃力は微かなものだ。──が、塵も積もれば山となるという言葉がある様に。

 地球を、全方位から。大気圏付近〜月までの距離を覆っている黒異種の一斉砲火であれば、話は変わってくる。

 

「「「「「「「オオオオオオオオ────ッッ!!!!」」」」」」」

 

 地球を囲う黒異種の数、約200兆。

 オーガが、数多の「世界」にばら撒いていた黒異種である。

 当然、これで全てでは無い。あくまで、「この世界」に存在する黒異種の“現状の”総数が200兆というだけだ。

 そして。「他の世界」から「この世界」へは、虚無空間にある“魂の間”を通路として一瞬で接続が可能。

 つまり、オーガが転移ゲートを開き続ける限りは、天文学的な数の黒異種が常に流れ込んでくるのである。

 

「やれい!!」

 

 オーガが杖を振り下ろし、ついに賽は投げられた。

 黒異種、黒異人(コクト)、そして五大神将。その全てが、全身全霊を持って星の粉砕に取り掛かる。

 地上から“それ”を見上げる者達にとっては、超高密度の流星群と見紛う程の美しさだった。

 しかし、それも一瞬の出来事。天空を覆う無数の攻撃から、全ての隙間が瞬時に消えたのである。

 喩えるなら、異様に濃いオーロラが高速で落下してくるかの様な光景。

 それが、地球全土を覆った。

 

「──最後の悪あがきにしちゃあ、随分と地味だな」

 

 地上の、とある大陸の、とある場所。

 とある城の、その屋上。魔王と呼ばれる男が、右手を空へと掲げる。

 その直後。宇宙から見た地球は、集中攻撃による眩い爆発に包まれた。

 

 ──それを見て、誰かが言った。

 まるで、初めから“この結果”を知っていたかの様に。

 

「じゃあ、俺達もボチボチ働くとするか」

 

 転生者の一人の青年が、拳の骨を鳴らす。

 地球一つを包む程の巨大結界の中、初めから地球は無事である事を理解していた様子で。

 そしてそれは、彼の周囲にいる者達もまた同じく、

 

「この戦いってさ〜、紅志(あかし)って人が重要なんだって〜。死なないといいね〜」

「いやマジそれな? その人死んじゃったら、ウチ本気で萎えるわ」

 

 女子高生のノリの2人や、

 

「Hey、聞いたか? HAKU(白厳)のニイさんが、しばらく地球(コッチ)に留まるって話」

「聞いた聞いた。折角だし、俺も久し振りにコッチでのんびりしようかな」

「お前、働き詰めだったもんな。流石、前世が社畜の国JAPANの男だよ」

「ハッ。お陰で過労死、晴れて今世も社畜って感じだけどな」

 

 タバコを吹かしながら雑談するオッサン達や、

 

「よう、(ひびき)

「うん、久しぶり」

「そのさ、この件が終わったら一緒にメシでも──」

「ん、合図が来る。ちょっと待って」

「お⋯⋯おう。そうか、分かった。なんでもない⋯⋯」

 

 あまつさえ、青春を謳歌する者達まで。

 何事も無かったかのように、静かに配置についていた。

 彼らは、ただ待っていた。此方から仕掛ける、その合図を。

 そして──

 

「それじゃあ、各自お好きにどうぞ♪」

 

 アリアの声が、様々な場所へと届く。

 地球の端から端。ありとあらゆる地域で待機していた、全ての者達に。

 旧き神話に、決着を付ける合図が出された瞬間である。

 

「──来たか、神に仇なす者達⋯⋯!!」

 

 宇宙空間。オーガの表情が険しくなる。

 地球からずっと遠い場所にいるオーガだが、彼の目には鮮明に映っていた。

 地球の地上から、無数の影が飛び出し、凄まじい勢いで黒異種の大群を殲滅していく様子が。

 

 自身の背後から幾千もの武具を召喚し、変幻自在に操作する者──。

 赤と灰色の巨人に変身し、その巨体を活かした超速突進をする者──。

 両手から莫大な青いエネルギーを一直線に放ち、一息に黒異種達を薙ぎ払う者──。

 行う打撃を巨大なエネルギーの塊に変え、遠隔の敵にまで打ち込む者──。

 

 化け物と喩えるにも、その言葉の強さが物足りなくなる程の化け物が揃っていた。

 だが、オーガに焦りは無い。その化け物達をねじ伏せれると思い込める程の圧倒的な“数”があるからだ。

 

「──では、オーガ様。我らも往ってまいります」

 

 オーガの背後で、“天神”セラフが呟く。

 彼の台詞に合わせる様に、他四人の神将も出陣の構えを取った。

 肩を大袈裟なまでに回して鼻息を荒らげ、まさに意気揚々といった“闘神”アルマ。

 脚に装備した神器を起動し、亀裂の様な溝にエネルギーを流し込む“迅神”ゼト。

 全身の包帯を自身の迸る魔力で(なび)かせ、赤く妖しい瞳をギョロつかせる“狂神”ギオス。

 そして“魔神”ラートは、その水流の様に美しい髪を血で紅くしていた。

 

「⋯⋯あら?」

 

 ──この時、最も驚いたのはラート自身であった。

 他の神将達と同様、彼女も戦への高揚振りを態度で示そうとした。

 しかし、直前に気が付いたのだ。

 目の前の景色が、いつの間にか正面から上側へと変化していた事に。

 そして、その視界の上端に、自身の額を鷲掴みにする黒い腕がある事にも。

 

「おっ、お前──」

 

 その続きを、ラートは言えなかった。

 首をもがれたので、それは当然であるが。

 

「貴様!? 魔王軍の!!」

 

 ここでようやく、アルマが反応する。

 それに釣られる様に、オーガや他の神将達も事態に気が付いた。

 魔王の手下(グレンデル)が一瞬にして戦場の最後方まで到達し、同時にラートの首をもぎ取ったという事態に。

 

「──こらこら、グレンデル〜? 先走っちゃダメだろ〜?」

「失礼しました、魔王様。つい高揚が抑えきれず⋯⋯」

「あぁ、気持ちは分かるぜ。やっとブチのめせるんだってな」

 

 グレンデルに続き、魔王ゼルが出現する。

 昂っていた神将達も、一連の出来事に困惑が隠せなかった。

 このタイミングになって、やっとラートが屠られた事実をアルマが理解した程に。

 

「決着を付けに来たよ、オーガ」

「⋯⋯アルノヴィア」

 

 現れたアリアに、オーガは表情を変えない。

 しかし、その内心は大いに揺らいでいた。

 自身の能力へは絶対的な信頼を置いているものの、“攻撃転送”の能力に殺意を遮断する性能は無いのだ。

 自分ですら察知出来なかった速度の魔王配下と、その怪物を従わせている魔王本人。

 そして、何万年もの永い年月を此方を殺す事だけに費やした(かつ)ての友──。

 ぞくりと、オーガの背筋を冷たい感覚が這い上がった。

 

「──グレンデル。この老害の周りにいる雑魚を片付けとけ」

「了解致しました、魔王様」

 

 セラフ達をギロリと睨み、グレンデルが構える。

 真正面に対峙するセラフは静かに向き合いつつ、オーガの指示を待った。

 

「神将達よ、オヌシらは地球へ向かえ。そして燗筒(かんとう) 紅志(あかし)を抹殺するのじゃ」

「⋯⋯しかし、オーガ様」

「行けと言ったのが聞こえなかったのかの?」

「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯承知致しました」

 

 オーガの命令を、セラフは遂行に向かう。

 互いに思いはあれど、下僕と主という壁によってそれを伝える事は叶わなかった。

 金色に煌めくランスと丸盾を携え、セラフは出発する。

 彼に続く形で、アルマ、ゼト、ギオスの四体の神将が地球へ進撃を開始した。

 

「馬鹿が。俺が逃がすとでも──」

 

 追跡しようと動くグレンデルを、ゼルが止める。

 すぐさま彼の思惑を理解したグレンデルは、オーガの周囲にいる黒異人(コクト)達へと狙いを変えた。

 この時のゼルの思惑は二つ。“神将は地上の連中に任せろ”というものと、“俺のサポートを頼む”というものだ。

 主に二つ目に関しては、周囲の鬱陶しい黒異人(コクト)達を消して欲しいという魔王本人の思いでもある。

 グレンデルからすれば、それに応じられない様では魔王様の側近足りえぬ、といった思考に至る内容だ。

 そして、その点までを考えたゼルが相槌で伝えた指示が、たった今グレンデルが遂行を始めたソレである。

 

「屑共が、消えろ⋯⋯!!」

 

 蒼黒(そうこく)の魔力を身に纏い、グレンデルは行う。

 虐殺を、鏖殺を、惨殺を。あらゆる形の“殺”を、刹那の間に(おびただ)しく──。

 空虚な宇宙空間を、文字通りの血の海へと変えていった。

 

「──さて。ほんじゃあ、俺達もお楽しみと行きますか♡」

「はいはい。楽しみ過ぎて、私を巻き込まないでよね?」

 

 ゴキリと首の骨を鳴らし、一歩前に出るゼル。

 呆れた様に溜息を零すアリアも、右人差し指の骨を静かに鳴らすのだった。

 

 

NOW LOADING⋯

 

 

「──始まったな」

「ええ、そうみたいね」

 

 一方、地上では。

 “最強(セシルガ)”と“最響(セイリス)”が空を見上げていた。

 これといって驚く様子もなく、冷静に戦場を見渡す彼らは、その胆力すらも人類の最高峰に相応しいのだった。

 

「我らも行くぞ。遅れをとるなよ、人間達よ」

 

 火龍の王・テュラングル。またの名を『紅帝龍(こうていりゅう)』。

 大翼をはためかせ、ドラゴン達の先陣を切る彼もまた、この星の最高峰である。 

 地上に飛来する無数の黒異種の群れ。それを彼方に見据え、彼らは駆け出し、そして飛び立つ。

 人類の希望の為──ではなく、この星の未来の為──でもない。

 そんな美的な動機を持った者は、この戦場には存在しない。

 全員が勝ちを確信し、何かを背負って戦う迄も無い程の大きな戦力差があるのだから。

 つまるところ、オーガの軍勢との戦いに身を投じる者の目的とは、ただ一つ。

 

「──さて。コッチも楽しませてもらうとするぜ」

「あら? 気が合うわね。私も同じ事を考えてたところよ」

「フン。人間に同意してしまうのは少しばかり癪だが⋯⋯。

 まぁ、今日ほど特別な日もあるまい。共に愉悦に浸ろうぞ」

 

 獰猛に嗤い、彼らは敵群へ向けて出陣する。

 神話の果て。その先の明日を目指し、強者達は前へと進んだ。

 

 新たなる魔大戦が、ここに勃発した。

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