猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第17話・嵐の後

 

 

 

「⋯⋯!⋯!」

 

(⋯なんだ、煩いな。)

 

 

何かの鳴き声のような音で、俺は目を覚ました。

ここがどこかも分からない。うつ伏せで倒れている事は分かるが。⋯身体中痛い。おまけに岩にでもなったかのように動かない。目は⋯少しずつ開けれるか。取り敢えず状況の把握を⋯うぐっ、

 

 

──紅い龍。バルドール。魔法。もう1つの意識──

 

 

そうだ、断片的だが思い出せてきた。

テュラングルをぶっ飛ばした後、急に目眩がしてそのまま⋯。くそ、頭痛がするし、身体が異常にだるい。無理に動かそうもんなら激痛が波のように襲ってくる。兎に角、目を開けなくては⋯

 

 

「クエェッ!!」

 

 

虎徹の声!⋯って、虎徹?

という事はここは家か?⋯にしては眩しいというか、まぶたの裏が明るい。それになんか焦げ臭い匂いもするし、何より身体に当たる感触が地面のそれだ。まさかとは思うが、あれからずっとこの状態だったって事か⋯?!

 

待てよ?だとしたら何で虎徹がいるんだ?

いや、今はテュラングルがどうなっているのかの確認が優先だ。覚えている限り、強烈な一発をお見舞したんだが、バルトールのあの魔法をくらっても、元気に動き回ってたヤツだ。死んでいる筈がない。

 

むしろ、パンチ一発で倒せる相手だったら俺はこんな状態になってない。身体よ動け、目を開けるだけでもいい。

 

俺は力を振り絞り、途轍もなく重いまぶたを上げた。

まず視界に入ったのは青空。戦闘が終わったタイミングで朝日は若干見えていた。既に半日ほどたったのか。⋯虎徹め、腹が減って俺を探し出したな?1匹だけでは危険すぎるから、勝手に家を出ないように教えたつもりだったんだが⋯。

 

⋯!!

魔力感知に反応アリ!極めて微弱だが、確実にテュラングルの魔力だ。瀕死なのかはわからないが、感知できている魔力が少ない。どうやら、第2ラウンドの心配はなさそうだ。

 

俺はうつ伏せになったまま、深呼吸をした。

しばらく深呼吸を繰り返すと、徐々に身体の自由が戻り、立ち上がれる体勢にまで持ってくることができた。⋯ここからは気合いだ。

 

全脚に力を込め、踏ん張る。

ズキンと痛みが走るが、気合いで堪え無理矢理立ち上がった。まるで激しい運動を長時間行った次の日の筋肉痛。動く度に痛みが襲ってくる、あの感覚。だがその痛みもすぐに引き、いつもの調子へと戻るのにそう時間はかからなかった。

 

 

「ピャッ!」

 

 

甲高い鳴き声と共に、虎徹が背後から落ちてきた。

どうやら背中に乗りながら俺を起こそうとしていた様だ。地面を転がる虎徹を左手でキャッチし、モフる。左腕は完全に修復され、感覚も異常は無し。綿菓子の様な柔らかい感触がよく伝わる。

 

身体も問題なく動くし、なんならいつもより調子がでそうな程だ。軽くストレッチをしながら、周囲を見渡す。心做しか目が冴え、世界がハッキリと見えた気がした。

 

しばらく周囲を観察し、テュラングルの姿がない事を確認した。探そうとも考えたが、今は腹が減った。虎徹も随分ひもじい思いをしていた事だろう。頭部の二本の角の間に虎徹を乗せ、家に向かって歩き始めたその時、後脚で硬い何かを蹴っ飛ばした事に気が付いた。

 

例えるなら、紅い岩石の破片。

光沢を放ち、陽の光を乱反射している。高級感漂う『ソレ』を手に取ってみると、そのサイズからは想像できない重量に驚かされた。硬さも中々のものだ。少なくとも、俺の生成する金属よりも強度がある。

 

見ると、辺りの地面一帯に散らばっている。

さっきはあの巨体を探すのに目線より高い位置を見渡していたから気が付かなったのか。

 

俺は落ちている『ソレ』を全て回収し、生成した金属の器に入れた。有効活用ってやつだ。これだけあれば何かと使えるだろう。新しく武器を作るのもアリだな。この素晴らしい素材をどう使うか、想像だけで期待が膨らむ。⋯だが今は─⋯

 

 

「クェッ!クェッ!」

 

「分かった 分かった。落ち着け、虎徹。」

 

 

⋯─俺らの空腹の対処が先だな。

あぁそうだ、ムングレーは食べきったんだっな。帰宅ついでに食料の確保をしなくては。

 

俺は『ソレ』が入った器に魔法をかけ、浮かせた。

クイッと鉤爪を動かし、ついてこさせる。やっぱ魔法って便利だな。⋯ところでこの魔法、どこまでの重量を浮かせられるのだろうか。自分にかけられなくとも、金属の板を生成してこの魔法をかければ、それに乗って空をとべるんじゃないか?⋯名付けて空中サーフィン、なんつって。

 

しょーもない妄想をしながら、俺は紅く輝く欠片を1つ手に取り、野球ボールの様に軽く上へ投げ、キャッチするのを繰り返しながら、再び歩き始めた。

 

これの正体について検討はついている。

言うなれば『テュラングルの鱗』ってところだな。先程の感知した微弱な魔力の原因はこれか。そう言えば、テュラングルをぶっ飛ばした時に何かが砕けたような感触があったが⋯そういう事か。

 

『テュラングルの鱗』。

ゲームのアイテム名みたいで好きだな、こういうの。まぁこれ以外に名付けようがないんだが。

 

 

ドロップアイテム

 

【テュラングルの鱗】レア度★★★★☆

 

『紅く輝く鱗。僅かに魔力を帯びている。』

 

 

 

みたいな感じか。

星4なのはアレだ、そっちの方がそれっぽいからだ。⋯因みにではあるが、俺は特別ゲーム好きという訳ではない。経験としては、子どもの頃にやったRPGとか、ソシャゲとか、あくまで一般人並だと思っている。

 

⋯強いて言うならば、子どもの頃は走り回って遊ぶよりゲームしているタイプだったか。懐かしいなあ、友達の家とか公園に集まって全員でゲーム機囲んだの。そーいや、佐々木はゲーム下っ手くそだったな。

 

あー⋯醤油使えない未練に続くその2。

いや、白米食べれない未練も含めてその3か。基本的に一日中、修行場で身体作りして偶に食材の確保だの、家具作成だの、虎徹と散歩だのしているが、どうしても退屈な時間が出てくる。特に寝る前のあの小一時間はどうしても退屈になる。

 

正直、スマホが無いのはかなり堪える。

今でも、天井見上げながら無意識に手で首元漁って、あれ?ってなる事あるし。スマホ探して、そう言えば無いんだった⋯みたいな。

 

まぁ起床と同時にスマホ探して時間確認して、やばってなる事はなくなったし、それはそれでいいんだが。平日に起きてからスマホに手を伸ばす速度って、まじで半端ないよな。あとアラーム止める速度。あれ絶対、反応じゃなくて反射だろ。

 

スマホいじりたい、笑える動画が見たい。

そして動画を見ながら菓子パンを食いたい。アレ、あの長くて中にクリームがサンドしてある⋯なんだっけ?

 

考えれば考える程、心残りってあるもんだな。

缶コーヒーも飲みたいな、高級なコーヒーじゃなくて缶の方。あ〜神様〜⋯俺をこの世界に転生させたお爺さん〜♪贅沢言わないから、1日3回缶コーヒー送ってくれ〜♪昼、午後、夜、くらいのペースでぇ〜♪

 

 

「缶コーヒぃ〜⋯1日三本〜⋯」

 

 

⋯⋯。

 

 

⋯。

 

 

割りと真面目に祈った。

だって人に世界救わせようとしといて、自己努力に任せるってどうかと思う。力を付けるのは楽しいし、成長の実感があるからいいとして、モチベーションがさぁ⋯ねぇ?

 

いや、モチベーションは成長する程上がっていくな。

言うなれば、モチベーションの為のモチベーション的な?自分でもよく分からない表現だが、まぁそーゆーことだよな。

 

 

⋯っと、魔力感知に反応。

これはプラルトロスか、丁度いい。獲物を探す手間が省けたな。都合のいい事に単独。ここは一撃で仕留めよう。この茂みの向こう、5⋯いや4メートル先か。

 

息と足音を殺してゆっくり忍び寄る。

大丈夫だ、まだ気付いていない。このまま接近して、首の骨を折る。俺の様子が変わったのを察知した虎徹かモゾモゾし始めるが、右手で撫でて静まらせる。ついでに向きを変え、見えない様にした。

 

魔物とはいえ、まだ子どもだし刺激が強いからな。

更に距離を縮め、姿を捉える。⋯まだ若いな。群れとはぐれたか。以前の俺だったら、間違いなく躊躇していたが、今は違う。若い命を絶つことへの嫌悪感が薄い。決してゼロという訳では無いが、中和されている。

 

ここは自然界。

いつまでも同じように生活が出来るとは限らない。だから、今日という瞬間を必死に生きている。そこに人間としての情で甘さを出してしまうのは以ての外。喰らわなければ死ぬ。自身の生命を繋ぐという魔物以前の生命としての本能が、嫌悪感を中和していた。

 

 

(あと少し、2メートル弱⋯)

 

 

姿勢を極限まで低く保ちつつ、忍び寄る。

草むらに埋もれ、向こうは気が付いていない。間合いまで後1メート「クエッ」

 

 

「!!?」

 

 

猛スピードでプラルトロスが逃げる。

なんで⋯なんでよりによってこのタイミングで鳴いたんだ。後でお仕置だよお前。全く、アイツ脚だけは中々だし虎徹抱えたままじゃ面倒だよな⋯

 

⋯ん?ちょっと待てよ?そうだ!

今、俺は魔法を使える!あーっ、何で忘れてたんだ。

 

急いで右手に槍を生成、投擲の姿勢をとる。

神経を集中。移動先を予測し、標準を絞って─⋯

 

⋯─投げッ!

 

 

「ギッ──⋯」

 

 

頭部横に命中し、そのまま貫通。

崩れ落ちる様に倒れ、木に激突する事でようやく停止した。近寄るが1ミリも動かない。ありまえだが即死だ。合掌と黙祷をし、その場で捌く。最初はグロデスクで抵抗もあったが、今となれば慣れたものだ。

 

このまま持ち帰らなかったのは、血の匂いで肉食魔物に家を襲撃されたくなかったからだ。肉を確保する時は、毎回仕留めたところで解体して持ち帰る。これが俺のやり方だ。骨や皮など、俺が使わない部位は他の魔物が食べて処理をする。前までは湖に沈めていたが、こちらの方が自然だと思う。

 

まぁ元人間の俺な自然がどうのこうの言えたもんじゃないが、出来うる限り違和感の無いほうでやる事にしている。

 

 

「⋯さてと、かなりの量だが☾フーへ(操作)☽!」

 

 

やっぱり便利だ。

金属の箱を生成し、肉をバランスよく詰め込んで閉じる。野晒よりもいくらから長持ちするだろう。今までは多少腐っても食べていたが、かなり美味しくない。しかし魚だけでは足りない。しかも確保効率も悪い。というわけで肉を食べていたが、これなら腐る前に食べきれそうだな。

 

注射器のような道具がつくれれば、真空にもできるんじゃないか?そうだ、帰ったらキッチン周りを金属で覆って耐火性を高めて⋯⋯あ、鍋も欲しいな。最近汁物が飲みたかったところなんだよな〜

 

あ〜魔法、最っ高。

 

 

膨らむ期待を胸に、虎徹が振り落とされそうなのに気付かないまま、家に向かって猛ダッシュする銀灰竜であった──⋯

 

 

 

 

 

 

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一面真っ白で、無数の扉が漂う空間。

死亡した燗筒 紅志が目を覚まし、魔物として異世界への転生を行った空間である。そして一箇所、扉がはけた場所に佇む1人の老人。

 

燗筒 紅志に転生の儀式を行った張本人である。

老人の目の前にはバランスボール程の大きさの球体が浮かんでいた。

 

その球体の中で何かが動く。

中、というのは語弊があるか。正確には、球体に映し出された映像が動いたのだ。銀灰竜、この世界そう呼ばれている魔物が。

 

 

『缶コーヒ〜⋯1日三本〜⋯』

 

「ふぅむ。『かんこぉひぃ』とやらを欲しているのか。」

 

 

関わった魂、ましてや自身が転生をさせた魂から送られた祈り。老人の立場上、無視する訳にはいかなかった。結果的にすんなり転生してくれたが、それでも自己都合で転生させた人間の切なる望み。むしろこちらから叶えてやりたい程だ。

 

老人は彼がもっと大きな要求をしてくるのでは、とすら考えていた。

 

実は、人間を転生させたのはこれが初めてではない。

彼らは総じて『大きな力』を求めてきた。そして、尽き果てた。それら総てを見届けてきた老人はつくづく人間の怠惰さに落胆していた。

 

だか『彼』は違った。

 

彼が求めてきたのは力ではなく、娯楽。

それもほんの些細な。転生の際もこれといった要求をするでも無い。魔物として生きていく中で成長し、そしてその成長への喜びすら覚えている。

 

傷付くのを嫌い、戦いを避ける臆病者たち。

そんな今までの転生者とは明らかに違う素質。

 

調べれば『かんこぉひぃ』とは彼が元々住んでいた世界の飲み物。特別高級でもない単なる飲み物。ここまで一方的に押し付けておいて、願うものがそれだけ。人間にこれ程までに謙虚な者が存在するのか。

 

これ以降、別の願いがあったとしても老人は叶えてやると誓った。1度願いを叶える以上、何度も祈りを捧げてくる可能性はあるが、この人間の性格上、恐らくだか大きな力などに興味を示すことはないだろう。仮に願ってきたとしても、確実に使いこなしてくれる。

 

これからも、この人間には期待を寄せていこう。

 

老人は目を僅かに細め、銀灰竜が映る球体を消した。

全ては世界の為。

 

 

目的は文字通り、神のみぞ知る──⋯

 

 

 

 

 

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「銀灰竜、やったか。」

 

「えぇ、その様ですね。⋯あ、ちゃんと食器片付けて下さい。」

 

 

所変わってヴィルジール宅。

ギルドから配られた報告書に目を通しながら食事をとっていたヴィルジールだったが、テュラングルと激しい戦闘を繰り広げ、生き延びているという文章に驚き、握っていた鉄製のフォークをへし折ってしまいグレイスに説教を受けた。

 

が、その後の補足文で『冒険者が接触した』という部分を見た瞬間に、今度は皿を叩き割ったのだ。グレイスは事前に異変を察知して机の下に逃げ込んだが、冒険者の中でも上位の実力を持つヴィルジールの拳を受けた憐れな皿は、見るも無惨に砕け散り部屋中に散弾の様に飛び散ったのだった。

 

その後の展開は、彼の後頭部のタンコブを見れば想像がつくだろう。グレイスから箒を渡され、飛び散った破片を回収しながら、ヴィルジールは報告書を眺めながら不貞腐れていた。

 

理由はその報告書の内容。

テュラングルに接触したのなら分かる。強大な力を持った魔物だし、冒険者なら対処しない訳にはいないからだ。

 

しかし、この冒険者が接触したのはテュラングルも含める銀灰竜の両方。ヴィルジールが獲物と決めた相手に対しての接触。簡潔に言えば『嫉妬』していた。自分より先にアレと邂逅した人物がいる事への嫉妬、だった。

 

集めた破片を握り締め、1つの塊にしながらヴィルジールは溜息をついた。この、接触した冒険者が無所属、つまりフリーの冒険者たちだった為、誰かは分からないが、何かしら銀灰竜に手を出してしたら、簡単には割り切れない。正体が分かった暁には──

 

 

「ああっ!!」

 

「オッ?!どうしたっ!」

 

 

彼の険悪な表情を崩したのは、グレイスの透き通った悲鳴だった。

彼女はヴィルジールを睨みながら机を指差す。その先を見ると、木製の机には稲妻の様に見事に⋯ではなく無惨に入った亀裂が。皿が飛び散る程の衝撃で殴ったので、そりゃあ当然のように机にも被害が及んだ訳で⋯

 

 

「そっっんなにその銀灰竜が大事なんでしたら、さっさと会いに行ってしまわれたらどうです!?」

 

 

まぁこの家の家事全般を行っているグレイスからしたらブチギレ案件である。中々に核心を突いた発言と彼女の気迫にヴィルジールは言葉に詰まったが、間を置いてから落ち着いた声で返した。

 

 

「すまん、悪かった。直ぐに買い換えるから、近くの家具屋へ行こう。」

 

「⋯え、いや、えぇ⋯」

 

 

グレイスは動揺した。

いつもの彼なら、大抵反論か言い訳をしてくるので、彼と長く生活しているグレイスは、頭の中で論破する言葉を幾らか並べていたからだ。

 

しかし、今回のこの発言。

用意していた言葉が全て掻き消され、ヘンテコな反応しか出来なかった彼女は、顔を背け僅かに赤面してから、『準備してきます』とだけ言い残して自室へと向かっていた。

 

 

「しまった。勢いに任せて言ってしまったが、この流れでは俺も一緒に行く事に⋯」

 

 

腕を組みながら目を瞑って俯いた。

人差し指を二の腕に軽く打ち付けながら、グレイスが向かった方を見上げた。

 

顔を両手で覆い、擦る様に動かしているのが分かる。

ヴィルジール自身、いつもと違う反応をしたと自覚していた為、彼女が対応に困っているのが新鮮で、小気味良く思えた。そして、普段立っている耳が萎れるように畳まれている事に愛らしさも覚えた。

 

 

(⋯ま、いいか。適当な頭防具でも被っていけば。)

 

 

頭のタンコブを撫でながら、俺は自室に戻った。

確かに、ここ最近はずっと銀灰竜の事を考えている。もしかしなくてもアイツにとってストレスだっただろう。話し掛けられても気が付かない、なんて事もあった。

 

グレイスだけじゃない。

ゼクスのメンバーで会議をする時も指摘される事が多かった気がする。最近、調子が狂っていると感じ始めていたところだ。気分転換にはいい機会だし、ついでに茶屋でも寄ってご馳走してやるかな。

 

俺は防具を変えてから、裏口でグレイスを待った。

なぜ裏口からなのかと言えば、もう分かるだろう。敢えてここでは説明はしない。敢えて。

 

纏った防具の見た目は、鉄と皮製の安価なもの。

だが、一般冒険者にカモフラージュするには十分な見た目であった。特に顔部分は防具で覆われ、視界を確保するための最低限の隙間しかない。

 

グレイスに関しては、別に変装などはしなくてもいい。

人間と魔物が共生している地域や街は珍しくない。この街も一定数、魔物と人間が共に暮らしている。ペットの様に可愛がったり、家畜として育てたり、そしてグレイスとヴィルジールのように友の様に。

 

いや、或いは──

 

 

「⋯お待たせ致しました。行きましょう。」

 

「おう。」

 

 

首から金色の装飾が施された時計を下げ、茶色いチェック柄のベストに着替えたグレイスを肩に乗せ、家を出る。扉の鍵を閉める音が庭に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──先程の続きはご想像にお任せします♡うふっ♡

 

 

 

 

 

 

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「ゴフッ!⋯ゲフッ、ンンッ!」

 

 

俺は勢いよくコーヒーを吹き出した。

そう、何故か家の扉の前に置かれてきた缶コーヒーを。

俺の願いが届いたのか?さっきのが聞こえていたのか?という事は普段から監視されてるってことか?などなど疑問は尽きなかったが、考えてもしょうがので、俺はそのうち考えるのをやめ⋯

 

⋯てはいないが、今はとある事に驚いて吹き出していた。折角の、そして久し振りのコーヒーを少々無駄にした事に若干腹を立てながら、俺は幼女からの手紙を凝視した。

 

数日ぶりに手紙の内容が更新されていたので、目を通した所、驚愕の事実が綴られていたのだ。それも最後に、おまけ程度に。

 

 

内容はこう。

 

『あのテュラングルとやりあったんだって?

まったく、私が見込んだ以上に凄いヤツだよ君は♪

 

積もる話もあるだろうけど、ゆっくり話そう♪

あ、因みにだけどベルトンの街に向かう約束、ちゃんと覚えてる?忘れてたら激おこだよ♪』

 

(きめえ。)

 

『きもいって?照れるなぁ♪

って、貶されて照れるってなんでやねーん!てへ♪』

 

(更にきめえ。)

 

『まぁそんな事はどうでもいいさ。覚えてさえいてくれればね♪

 

さて、気になる事も多いだろうけど⋯

まずはテュラングルについて話そうか♪

 

彼は魔物中でもかなりの猛者クラスだね。

特に炎の扱いに関しては天才的だ。最近はリーゼノール付近に留まっているっぽいけど、基本的にあっちこっち飛び回ってるコだね。

 

君にちょっかい掛け理由は⋯ちょっと分かんないや。

ゴメンね〜♪

 

 

そう言えば、彼がよく言っている様だけど【龍種がナントカ〜】ってあるじゃん?あれは種族名の事だね。

 

君と彼は同じ部類に入るけど、君は【竜】で彼は【龍】まぁ違いは純粋に強さかな。大体は骨格とかで種族は区別されてるけど、同種族の中で更に区別されてるのはのは【ドラゴン種】くらいなものだよ。

 

 

そのほかにも色々な種族がいるね。

大まかに別けるなら、

 

高い知能と社会性を持つ【魔人種】。

 

比較的知能は低いけど身体能力は圧倒的な【魔獣種】。

 

この2種かな?

この中から、例えば【グリフォン】は魔獣種だね〜とか、【ゴブリン】は魔人種だね〜って別けられてくんだ。

 

 

そしてそこから更に判別がされていく感じかな。

【魔獣テュラングル】【ドラゴン(龍)種】【有翼型】みたいな?まぁ、私もあんまり詳しくないんだけどね♪』

 

(成程、つまり俺は【魔獣グレイドラゴン】【ドラゴン(竜)種】【無翼型】って訳か。)

 

『そーゆー事になるのかな?多分。

 

あ、面白い話があるんだけど【獣人種】っていう種族がいて、人間たちの間で魔獣か魔人かって意見が割れてるんだって〜!

 

骨格は魔人、もとい人間のソレに近いけど、耳とか爪とかの特徴が獣だからもう大変!

 

 

⋯って、君が聞きたいのはもっと別の話だよね〜』

 

(相変わらず、こっちの考えを先に読んで手紙書くの凄いよな。直接会話しているみたいだ。)

 

〖うわあ!何この手紙!すごーい!〗

 

 

うお、急に出てきたなコイツ。

手紙に集中していただけに驚いたぞ。眠るとは言っていたが、案外早起きなんだな。

 

 

(今忙しいから後で、な?)

 

〖むー〗

 

 

あー、頬を膨らませている顔が見える気がする。

ロリに幼鳥、更にショタに囲まれる幼竜とはこれいかに。

 

さて、手紙の続きを読まなくては。

彼女の言う『別の話』は、かなり重要な話題だ。しっかりと読んでおきたい。まぁどうせこの展開も読んでいる事だろうし、どんな文章が綴られているのかは⋯

 

 

『リーゼノールを離れるんだね?分かってるよ♪

ずっとここに留まる訳にもいかないしね。当日に出発何てのは、流石の君でも間に合わないし。』

 

(⋯ん?この子へのツッコミ無しか。)

 

『まーそうだねぇ⋯まず目指すは【ギフェルタ】かな?別名【死の山】。うー!物騒!こわ〜♪

 

でも!君なら大丈夫。むしろ快適に過ごせるかもね♪この言葉の意味は、行ったら分かるよ♪

 

それじゃあ、今日はこの辺で〜

 

 

っとと、危ない危ない♪

勘違いしてるっぽいから補足しておくと、君がテュラングルとドンパチやったのは3日前の事だよ♪ちゃんとその虎徹君にいっぱい食べさせてあげてね〜♪

 

あらためて、今日はこの辺で〜♪』

 

(あ〜そうかぁ。テュラングルとやりあったのは3日前のことだったのかぁ⋯)

 

 

ポク

 

ポク

 

ポク

 

チーン。

 

 

「ゴフッ!⋯ゲフッ、ンンッ!」」

 

 

俺は勢いよくコーヒーを吹き出した。

 

 

〖わあーっ!?ばっちいーっ!一応僕の身体でもあるんだから、そんな泥水で汚さないでよう!〗

 

(これ泥水ちゃう、コーヒーや。)

 

 

俺は水で濡らした毛皮で身体を拭きながら、再度手紙を手に取り、虎徹と文章を交互に見た。あの小さな身体で何かを仕留める事はまず不可能だ。家に果物のストックも無かったし、3日間何も食べていなかった事になる。⋯こうしちゃいられない。

 

肉!肉!

 

焼き!焼き!

 

ほら、食え!

さっさと火を通す為、細かく千切って適当に焼いた肉を、これまた適当に盛り付けて虎徹の前に出す。相当腹が減っている筈だ。なんなら、さっき取ってきた肉全部使うのも考えておく⋯が⋯、⋯ん?

 

虎徹が中々食べようとしない。

あ、焼きたてで熱いからか?⋯いや、いつもなら食べている。毎日3時間もしない内に飯をせがんでくるのに、3日も何も食べなかったコイツが、この肉を前にして喰らい付かない筈がない。

 

元々肉は嫌いだったのか?

いつもは一瞬で食べているからノーだな。分からない。食べない理由が⋯分からない。

 

頭を抱えて悩んでいると、虎徹が必死に肉の盛られた皿を身体で押している光景が目に入った。俺に向かって健気に頑張っている。そして、ようやく俺は虎徹の意図に気が付いた。

 

──自分より先に俺に食べさせようとしている──

 

俺の足元まで皿を押してきた虎徹が、見上げるようにこちらに向かって身体を揺すった。

 

 

「クエッ!」

 

 

涙が出そうになった。

虎徹が食事において自分より誰かを優先するなんて。3日間倒れていた俺を心配してくれているのか。

 

その目は羽毛で隠れて見えないが、真っ直ぐと俺を見ている。さっきの一声は正に、「食えっ」って意味だったんだな。←(?)

 

虎徹の頭を優しく撫で、肉に食らいつく。

その様子をみた虎徹は嬉しそうに部屋中を駆け回ってから、同じく肉に食らいついた。やはり、空腹だった様でいつもの2倍程の速度で食べている。

 

俺は尻尾で生肉をフライパンに投げ入れ、焼き始めた。こんなに何かを愛くるしいと思ったことは無い。虎徹を見つめながら、俺は静かに肉を頬張ったのだった──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〖おいしいーっ?!なにこれッ?!〗

 

 

約1名やかましいのもいたが。

 

 

 

 

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