「──さてと、」
ヴィルジールと合流し、俺は周囲を見渡す。
乱戦状態⋯⋯というのは見て分かるが、一方的な蹂躙に近い状況の様だ。
オーガ側の軍隊も、かなりの数と、先程のゴリラの様な新型黒異種──黒ゴリと呼ぼう──を新戦力に投入しているが⋯⋯
コッチ陣営の連中があまりに暴れまくるので、大して効果は発揮していないらしい。
「ルオオオオーーッッ!!」
「お、」
刹那、背後から強襲を受ける。
正面に伸びた二本の角と、オーラの様に揺らめく黒い
さしずめ、
二本の鋭い角を突き立てるソイツは、大地を震動させながら真っ直ぐと此方へ走って来る。
対する俺は、猛突進の通過地点に立ち、両手と両足を大きく広げて待ち構えた。
その直後。二本角が俺の胸に突き刺さる寸前に──
「ふんッ!!」
両手で角を引っ掴み、強引に突進を受け止める。
砂煙を巻き上げ、俺の身体は三歩分ほど後方へと下がった。
しかし、それ以上は左脚を地面につっかえさせる事で押し込ませず、その場で留まらせる。
黒い二角獣──
寧ろ、無理に踏み込むあまり体力を消耗したのか、徐々に押す力が弱まっていった。
「ルオ"ーッ! ルオ"ーッ!」
「それじゃあ──なッ!!」
鼻息の荒い
それと同時に。俺は左膝を突き上げ、奴の顎下へと思い切り打ち込んだ。
──ガッ──ツンッッ!!!
重厚な打撃音が轟き、
空高く打ち上がったその肉体は、冗談の様に高速回転しつつ戦場のどこかへ吹っ飛んでいった。
いつもの俺なら、ここで自画自賛しているトコだが──今は戦闘の、しかも乱戦の最中だ。
敵を倒す度に一喜一憂している様では、いずれ背中をグサリといかれてチーンである。
「よし次ッ!」
「──パオオオオオオーーンッッ!!」
俺の言葉に呼応するかの様に、黒異種が襲い掛かってきた。
先程の
今度はゾウ⋯⋯というよりマンモスの姿をした黒異種だな。
子どもの頃に図鑑で見たイラストよりも、体毛が長いし多く見える。例えるなら、黒色のモサモサに2つの赤い目の光が揺らめいてる様な⋯⋯
まぁあまり気味の良い見た目じゃ無いし、なんならキモイ。
「オオオオオォーーッッ!!」
長い鼻を振り上げ、黒いマンモス──
豪快な風切り音と共に薙ぎ払われる鼻。それを姿勢を低くする事で回避しながら、鼻が上空を通り過ぎるより早く、自分の尻尾を巻き付けた。
──と、そのタイミングで、また別の方向から黒狼の群れが向かってくるのを確認。
巨体の
「ぐぬうう──らァッ!!!」
「「「「ガルルルルルルッッ!!??!」」」」
ブン投げられてきた
何体かは素早く回避したが、少なからず20体が
当の
「パオオ──」
「おおおあッ!!」
双剣状態のヴィルジールが、横に回転しながら刃を振るったのである。
巨体とはいえ彼の斬撃が致命傷になったらしく、
「──うっし、ナイスコンビネーションってやつだな」
「バカ、今みたいなのは横取りって言うんだぜ?」
「それじゃあ、早くトドメを刺さなかった
「は? マジどさくさに紛れてやっちまうぞ、アンタ」
冗談を言い合いつつ、周囲の様子を窺う。
敵の最前線をずっと向こう側まで押し込んでいるらしく、俺達の周りにはもう雑魚しか残っていない様だ。
ついさっきの
どうせなら、前線の連中の戦いを見物したい気もするが⋯⋯
「──あぁ、いたいた。アンタ、遅すぎじゃないのよ?」
「セイリス、なんでここに?」
どういう理由か、最前線にいる筈のセイリスが現れた。
彼女が先陣を切っていたのは間違いないので、この状況を考えると戦場をわざわざ一往復してきた事になるか。
⋯⋯え? それってやばくね? なんで装備が微塵も汚れていないんだ?
息もちっとも上がってないし、なんなら汗の一粒も流してないんだけど? もしかしてサボってた?
「脚力が自慢の魔物なんじゃないの? 全くもう」
「え、あっ、ゴメンナサイ。身の安全を優先してて⋯⋯」
「まあ、アンタが死んだら元も子も無いのはあるかしらね。
取り敢えず、アンタに“やっておきたい事”があるから、今は動かないでちょうだい」
「“やっておきたい事”⋯⋯? それって?」
俺の質問に、セイリスは答えない。
ただ、自身のギターを静かに構えて、今から行う事を示してみせた。
──ギュアアア────ンンッッ!!
戦場に、エレキギターの快音が鳴り響く。
数秒の沈黙。そして、セイリスによる演奏が始まった。
「これは⋯⋯?!」
セイリスの足元に、地面に魔法陣が刻まれ始める。
オレンジ色に光るそれは、激しさを増す演奏と共に拡大し、俺やヴィルジールの足元にまで到達した。
「──『音律組立式魔法陣』って言えば分かりやすいかしら。
各音階に魔法式の一部が割り振られていて、それを演奏によって組み立てる⋯⋯というワケよ」
「へ、ヘぇ⋯⋯!!」
凄いな、世の中には面白い道具があるもんだ。
魔力の動きを見るに、セイリスは常にあのギターに魔力を注いでいる感じだな。
演奏によって出力される魔法陣の一部は、音の大きさの違いによってサイズが変化している様だが⋯⋯
僅かにでも演奏が狂えば、魔法陣として機能するものが作れない可能性だってある筈だ。
それを、あれ程までに自信に満ち溢れた表情で続けるのは、流石人類の最高峰といったところだぜ。
しかも、彼女が今作っている魔法陣⋯⋯!!
一般的なソレと比べると⋯⋯。いや、比べ物にならない程に巨大だ。
魔法の使用ではなく、魔法陣の制作の時点で莫大な魔力を使っているのに、当のセイリスは顔色一つ変えない。
成程。あのギターの様な道具があれば誰でも出来るという訳ではなく、彼女の演奏技術と、なにより大量の魔力があってこその“これ”なのか。
セイリスが持つ肩書きの【最響】。⋯⋯どういう意味かずっと気になっていたが、ようやく理解出来たぜ。
「コレで──
天空が、大地が、最後の一音で震え上がる。
作り上げられた、半径50m以上にもなる大きさの魔法陣。
演奏の終了と共に発動したそれは、即座に俺の身体に変化をもたらした。
試さなくても分かる。今の俺は、身体能力が大幅に上昇している筈だ。
血流が早くなっているのを感じるし、テンションがドンドンと上がってくる感覚がある。
察するに、この魔法の効果は交感神経の大幅活性化。アドレナリンの強制分泌といった具合だろう。
まぁ先程の演奏を聴けば、どの道ハイテンションになりそうだがな。
「──ふう。それじゃあ、私は前線に戻るから。くれぐれも、死なないでちょうだいね」
「あ! 待っ──。あぁ、行っちゃった。礼が言いたかったんだが⋯⋯」
超速で走り去るセイリスを見送り、俺は自身を眺める。
ふと違和感を覚えたが、どうやら無意識の内に炎装を発動していたらしい。
彼女のアツい一曲による興奮で、心だけじゃなく身体まで震わされた様だ。
「なぁ、ヴィルジール。アンタも感じたか? 身体が内側から滾る様な⋯⋯って、アレ?」
隣に居た(ハズの)ヴィルジールに目をやると、黒焦げの地面に風だけが通り過ぎた。
魔力感知に意識を絞ると、どうやら前線へ向かっている様だが⋯⋯
ううむ、こんなトコに一人ぼっちとはな。別に寂しくなんかないけど。
アイツもテンション上がってたのかな? せめて一言でも掛けてくれてら嬉しかったな。別に寂しくなんかないけど。
「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯さて、」
まぁここで立ち止まってても仕方が無い。
俺も、ぼちぼち前線に向かうとしますかね。