そんなこんなで、やって来ました最前線。⋯⋯が、10km程先に見える地点。
本隊の進軍ルートから少し逸れたその場所は、地平線までをくまなく見渡せる断崖絶壁の端っこである。
そこから見える光景は、鮮やかな閃光の点滅が大地を無数に覆っている、といったものだった。
いやもうホント、壮絶だとか異常だとか、そういうレベルの話じゃない。
空間そのものがバグっているというか、バグり散らかしているというか⋯⋯
兎に角、表現するにも言葉が足りなすぎる光景が広がっている。
魔力感知を展開しても、無数の魔力攻撃の余波が嵐となって襲ってくる始末だ。
情報を収集する能力が、情報を収集し過ぎておかしくなりそうだぜ。
「ふぅぅ⋯⋯」
頬を軽く膨らませ、ゆっくり大きく息を吐く。
頼もしい味方が集まっている場所に向かうというのに、緊張は高まるばかりだ。
仲間の攻撃の巻き添えでオダブツだなんて、本当に笑い話にならないからなぁ。
「──行くか」
意を決して、崖から飛び降りる。
200m程を自由落下した俺は、着地すると同時に炎装形態へ移行。周囲に舞い上がった砂煙を吹き飛ばして、勢いよく駆け出した。
兎にも角にも、俺が指をくわえてただ待っている訳にはいかない。
まぁそりゃあ、こっちも出来れば前線には出たくないが⋯⋯
テュラングルやヴィルジールがあの場所で戦っているのに、俺だけ日和っているなんてのも出来ないからな。
──ドンッッ!!
空気の壁を破り、更に加速する。
鮮やかに点滅する大地を先に見据え、俺は蒼炎を滾らせるのだった。
NOW LOADING⋯
「──ぬうあああッ!!」
凄まじい気迫で、ヴィルジールは黒異種に斬り掛かる。
紅志が目指す前線。その場所で、男は昂る気合いを己の武器に乗せて戦っていた。
「⋯⋯ふうむ。あの男、確かヴィルジールと言ったか」
ドラゴン族の王ですら一目置く、ヴィルジールの働きぶり。
猪突猛進の活躍の要因は、彼が受けたセイリスによる演奏に他ならない。
「身体能力の向上」。そのバフ効果が、ヴィルジールに不足していた「一欠片」となったのである。
彼の大きな欠点は、優秀な頭の回転速度だ。優秀過ぎるが故に、それについて行けない肉体との、いわば「ラグ」が発生していた。
その結果、肉体の動きが遅過ぎる──のではなく、寧ろ逆の、「頭の回転に合わせようとするあまり、行動が早過ぎる」という事態に陥っていたのだ。⋯⋯が、
「──まとめて掛かってこいコラッ!」
それを見抜いていたティガとの鍛錬と、セイリスから受けたバフ効果によって、ヴィルジールは己の“100%”を引き出せる様になっていた。
──主な弊害として、短くも濃かったティガとの鍛錬のせいで、彼と性格が似てしまった点もあるが。
「オオアアアーーッッ!!」
「ハッ⋯⋯!!」
向かって来た黒異種を見て、ヴィルジールの口角が上がる。
見上げる程に巨大な
極めて調子の良い自身と、そんな自分に狙いを定める愚かな敵──。
“負ける気がしない”。そんな台詞を思い浮かべると共に、ヴィルジールの顔から邪悪な嗤いが零れた。
「うおおオオッ!!」
巨大
それと同時に、巨体へと両剣を深く突き刺し、膝へ、腰へ、腹へ。背中を走り抜け、肩まで到達し、そして頭頂部までを斬り裂いた。
轟音を立て大地に倒れる巨大
その後、両剣を握る自身の右手を眺めながら、彼は無意識に言葉を口にした。
「⋯⋯堪らねぇな」
両剣を握り締め、付着した血液を振り落とす。
「思考」と「肉体」の動きがリンクしただけで発揮された、驚異的なまでの戦闘能力。
自分自身のソレに驚愕しつつ、同時に、己が秘める可能性にヴィルジールは歓喜した。
『──神のご意思に背く小さき者共よ! 聞くがいい!!』
天空に響き渡る、“天神”セラフの声。
各々が空を見上げる中、ヴィルジールもまた声がした方へと頭を向ける。
雲の隙間から差す
『我らは、神威の代行者! 世に蔓延る不遜な輩よ、貴様らは
今日! ここで! 我らが力の前に滅せられるがよい!!』
“闘神”アルマが、紅白の袴を
──と、その直後。地上から突き上がる形で、桜色の電撃が四つの人影を覆った。
神将達の話に痺れを切らし、雷龍エレクが攻撃を加えたのである。
「ハハーッ! ざまぁねーなぁ!!」
「よさぬか、エレク。こういった場合は、敵であれ話を最後まで聞いてやるものだ」
「なぁにいってんだよ、びびってんのかぁ〜??」
「貴様が恥をかくのだぞ⋯⋯」
威勢の良いエレクに、テュラングルが溜息をつく。
眩い桜色の閃光が静まると、そこには顔色一つ変わらない神将達の姿があった。
「えっ!」と目が点になるエレクは、すぐさま周囲のドラゴン達へと視線を移す。
おバカな子を見つめてヒソヒソと話す彼らに、エレクは思わず頬を赤くした。
「──あの神将達には、オーガと同じ能力が備わっている。
この戦いが始まる前に、何度も伝えた筈ですよ? エレク」
呆れた様子で、白銀と水色のドラゴンが降り立つ。
テュラングルと似た体躯だが、こちらの方が全体的に細身で脚が長い特徴がある。
氷の彫像の様な一対の大翼と、四本の脚や尻尾の先端を覆う氷の鎧。そして、王冠にも見える透き通った氷の角──。
真の姿となった氷月龍リゼルが、エレクへと歩み寄った。
「⋯⋯げ、リゼルねぇさん」
「『げ』とはなんですか? 貴方が話を聞いてさえいれば、こうして笑い者にならずに済んだものを⋯⋯
いいですか? よくお聞きなさい。我々ドラゴンは──」
「まぁ、そう言ってやるなリゼ。これも若さ故だ」
説教モードに入りかけたリゼルを、テュラングルが宥める。
しかし。続けて何か言おうとした彼より早く、天空から再び声が響いた。
『──刮目し! そして恐怖しろ! これが、貴様ら悪逆の徒を滅する我らの姿だ!!』
“迅神”ゼト。戦場に声を響かせた彼が、台詞を言い切った瞬間だった。
神将達を包む金色の極光の輝きが一層増し、それぞれの神将へと収束していく。
球状に変化した光は、やがて物質化し、まるで卵の殻の様に神将達を包み込んだ。
そして、六角形の欠片が無数に組み合わさった形状の殻に、大きく亀裂が入り──
「ウギャオアアアアアーーーーーーッッッ!!!」
“狂神”ギオスの咆哮によって、神将達が顕現した。
その背に、四枚二対、暗黒の翼をはためかせて。
「「「我ら、神威の代行者! 創世神オーガ様に仕えし者! 今より、愚かなる生命達に神罰を下す!!」」」
「ギャオアアッッ!!」
セラフは金。アルマは赤。ゼトは紫。ギオスは陽炎。
神将達は、神々しく煌めくオーラをその身に纏い、四枚の翼を広げる。
続けて右手を地上に向け、大地そのものを空高く浮かび上がらせた。その範囲、実に270k㎡。
流石のドラゴン達もこれには驚愕し、急いだ様子で離陸を始める。
しかし、それを嘲笑ったアルマとゼトが、今度は左手で魔力の操作を開始。浮かび上がらせた大地を外側から覆う形で、超巨大な竜巻を発生させた。
「く⋯⋯うおおお!?」
四方八方の全てが荒れ狂う中、ヴィルジールは大きめの岩石にしがみつく。
周囲では、
己の属性の結界を作り出す、驚異的な飛行技術で瓦礫の豪雨を躱すなど、余裕で凌いでいる様子のドラゴン達。
セシルガとセイリスは、瓦礫から瓦礫へ縦横無尽に跳ね回り、こちらもまた表情に動揺は無い。
唯一ヴィルジールだけが、現状で命の危機に瀕していた。
「──クソが、やっとあの野郎が見えたってのに⋯⋯!!」
怨敵ギオスを思い浮かべ、ヴィルジールは必死に立て直す。
取り敢えずはセシルガ達の真似をすべきだと、瓦礫の上に大股で立った。
次の瞬間。彼がいる瓦礫に、別の巨大な瓦礫が迫って来る。
大慌てで付近の瓦礫に飛び移ったヴィルジールだが、上手く掴める場所が見つけられず、今度は滑り落ちそうになる危機に。
先程まで乗っていた瓦礫が背後で粉砕される中、双剣を瓦礫に突き刺したヴィルジールはそれを全力で掴んだ。
──ふと目線を下にやると、地上は遥か彼方の場所になっていた。
「うう、チクショウがぁ⋯⋯!! こんな⋯⋯こんなところで死んでたまるかぁーーッ!!」
浮かんだ言葉を全力で。ヴィルジールは叫ぶ。
それに呼応する形で、救いの手が差し伸べられる──などという事は無い。
ここは戦場。自分に降り掛かる危機は、自分で乗り越えねばならない場所である。
「──味わうがいい! これが、我らが主の怒りだ!!」
どこからともなく、セラフの声が響く。
直後、荒れ狂う瓦礫という光景から一転。全てが、ある方向へと真っ直ぐと直進を始めた。
正しくは、人も、ドラゴンも、黒異種も、ただ“従った”だけであるが。
──総てが等しく、重力に。
「う⋯⋯おおおおお!!?」
後悔。そんな文字が、ヴィルジールに浮かぶ。
そしてそれを振り払う間も無く、大地は高速で迫ってきた。
どうするべきか、誰かに助けを求めるべきか、紅志は無事なのだろうか。
様々な思考は浮かんでくるが、一向に解決策は見出せない。
だがその事実に、慌てるか諦めるかの無意識な反応が現れるより早く、
────ッッドドドォォオオオオオオオオオォォォォーーーーーーンンッッッ!!!!!!
大地が、大地に。叩き付けられる。
砕け散った地面と共に、テュラングルやセシルガ達は大きく分断。
戦場はその姿を変え、東西南北の四つの戦地が新たに生まれたのであった。