猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第180話・“神”魔大戦【降臨】

 そんなこんなで、やって来ました最前線。⋯⋯が、10km程先に見える地点。

 本隊の進軍ルートから少し逸れたその場所は、地平線までをくまなく見渡せる断崖絶壁の端っこである。

 そこから見える光景は、鮮やかな閃光の点滅が大地を無数に覆っている、といったものだった。

 いやもうホント、壮絶だとか異常だとか、そういうレベルの話じゃない。

 空間そのものがバグっているというか、バグり散らかしているというか⋯⋯

 兎に角、表現するにも言葉が足りなすぎる光景が広がっている。

 魔力感知を展開しても、無数の魔力攻撃の余波が嵐となって襲ってくる始末だ。

 情報を収集する能力が、情報を収集し過ぎておかしくなりそうだぜ。

 

「ふぅぅ⋯⋯」

 

 頬を軽く膨らませ、ゆっくり大きく息を吐く。

 頼もしい味方が集まっている場所に向かうというのに、緊張は高まるばかりだ。

 仲間の攻撃の巻き添えでオダブツだなんて、本当に笑い話にならないからなぁ。

 

「──行くか」

 

 意を決して、崖から飛び降りる。

 200m程を自由落下した俺は、着地すると同時に炎装形態へ移行。周囲に舞い上がった砂煙を吹き飛ばして、勢いよく駆け出した。

 兎にも角にも、俺が指をくわえてただ待っている訳にはいかない。

 まぁそりゃあ、こっちも出来れば前線には出たくないが⋯⋯

 テュラングルやヴィルジールがあの場所で戦っているのに、俺だけ日和っているなんてのも出来ないからな。

 

──ドンッッ!!

 

 空気の壁を破り、更に加速する。

 鮮やかに点滅する大地を先に見据え、俺は蒼炎を滾らせるのだった。

 

 

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「──ぬうあああッ!!」

 

 凄まじい気迫で、ヴィルジールは黒異種に斬り掛かる。

 紅志が目指す前線。その場所で、男は昂る気合いを己の武器に乗せて戦っていた。

 

「⋯⋯ふうむ。あの男、確かヴィルジールと言ったか」

 

 黒角馬(クロノバ)を斬り倒した男を横目に、テュラングルは呟く。

 ドラゴン族の王ですら一目置く、ヴィルジールの働きぶり。

 猪突猛進の活躍の要因は、彼が受けたセイリスによる演奏に他ならない。

 「身体能力の向上」。そのバフ効果が、ヴィルジールに不足していた「一欠片」となったのである。

 彼の大きな欠点は、優秀な頭の回転速度だ。優秀過ぎるが故に、それについて行けない肉体との、いわば「ラグ」が発生していた。

 その結果、肉体の動きが遅過ぎる──のではなく、寧ろ逆の、「頭の回転に合わせようとするあまり、行動が早過ぎる」という事態に陥っていたのだ。⋯⋯が、

 

「──まとめて掛かってこいコラッ!」 

 

 それを見抜いていたティガとの鍛錬と、セイリスから受けたバフ効果によって、ヴィルジールは己の“100%”を引き出せる様になっていた。

 ──主な弊害として、短くも濃かったティガとの鍛錬のせいで、彼と性格が似てしまった点もあるが。

 

「オオアアアーーッッ!!」

「ハッ⋯⋯!!」

 

 向かって来た黒異種を見て、ヴィルジールの口角が上がる。

 見上げる程に巨大な黒異人(コクト)だったが、彼の内心は穏やさを保ったままだ。

 極めて調子の良い自身と、そんな自分に狙いを定める愚かな敵──。

 “負ける気がしない”。そんな台詞を思い浮かべると共に、ヴィルジールの顔から邪悪な嗤いが零れた。

 

「うおおオオッ!!」

 

 巨大黒異人(コクト)の左足の甲に乗り、一息に駆け登る。

 それと同時に、巨体へと両剣を深く突き刺し、膝へ、腰へ、腹へ。背中を走り抜け、肩まで到達し、そして頭頂部までを斬り裂いた。

 轟音を立て大地に倒れる巨大黒異人(コクト)。その頭に乗ったまま、ヴィルジールは息をゆっくり整える。

 その後、両剣を握る自身の右手を眺めながら、彼は無意識に言葉を口にした。

 

「⋯⋯堪らねぇな」

 

 両剣を握り締め、付着した血液を振り落とす。

 「思考」と「肉体」の動きがリンクしただけで発揮された、驚異的なまでの戦闘能力。

 自分自身のソレに驚愕しつつ、同時に、己が秘める可能性にヴィルジールは歓喜した。

 

『──神のご意思に背く小さき者共よ! 聞くがいい!!』

 

 天空に響き渡る、“天神”セラフの声。

 各々が空を見上げる中、ヴィルジールもまた声がした方へと頭を向ける。

 雲の隙間から差す金色(こんじき)の光。大地に降り注ぐその極光の中に、四つの人影が揺らいだ

 

『我らは、神威の代行者! 世に蔓延る不遜な輩よ、貴様らは(きた)るべき新時代には不要な存在である! 

 今日! ここで! 我らが力の前に滅せられるがよい!!』

 

 “闘神”アルマが、紅白の袴を(なび)かせながら言い放つ。

 ──と、その直後。地上から突き上がる形で、桜色の電撃が四つの人影を覆った。

 神将達の話に痺れを切らし、雷龍エレクが攻撃を加えたのである。

 

「ハハーッ! ざまぁねーなぁ!!」

「よさぬか、エレク。こういった場合は、敵であれ話を最後まで聞いてやるものだ」

「なぁにいってんだよ、びびってんのかぁ〜??」

「貴様が恥をかくのだぞ⋯⋯」

 

 威勢の良いエレクに、テュラングルが溜息をつく。

 眩い桜色の閃光が静まると、そこには顔色一つ変わらない神将達の姿があった。

 「えっ!」と目が点になるエレクは、すぐさま周囲のドラゴン達へと視線を移す。

 おバカな子を見つめてヒソヒソと話す彼らに、エレクは思わず頬を赤くした。

 

「──あの神将達には、オーガと同じ能力が備わっている。

 この戦いが始まる前に、何度も伝えた筈ですよ? エレク」

 

 呆れた様子で、白銀と水色のドラゴンが降り立つ。

 テュラングルと似た体躯だが、こちらの方が全体的に細身で脚が長い特徴がある。

 氷の彫像の様な一対の大翼と、四本の脚や尻尾の先端を覆う氷の鎧。そして、王冠にも見える透き通った氷の角──。

 真の姿となった氷月龍リゼルが、エレクへと歩み寄った。

 

「⋯⋯げ、リゼルねぇさん」

「『げ』とはなんですか? 貴方が話を聞いてさえいれば、こうして笑い者にならずに済んだものを⋯⋯

 いいですか? よくお聞きなさい。我々ドラゴンは──」

「まぁ、そう言ってやるなリゼ。これも若さ故だ」

 

 説教モードに入りかけたリゼルを、テュラングルが宥める。

 しかし。続けて何か言おうとした彼より早く、天空から再び声が響いた。

 

『──刮目し! そして恐怖しろ! これが、貴様ら悪逆の徒を滅する我らの姿だ!!』

 

 “迅神”ゼト。戦場に声を響かせた彼が、台詞を言い切った瞬間だった。

 神将達を包む金色の極光の輝きが一層増し、それぞれの神将へと収束していく。

 球状に変化した光は、やがて物質化し、まるで卵の殻の様に神将達を包み込んだ。

 そして、六角形の欠片が無数に組み合わさった形状の殻に、大きく亀裂が入り──

 

「ウギャオアアアアアーーーーーーッッッ!!!」

 

 “狂神”ギオスの咆哮によって、神将達が顕現した。

 その背に、四枚二対、暗黒の翼をはためかせて。

 

「「「我ら、神威の代行者! 創世神オーガ様に仕えし者! 今より、愚かなる生命達に神罰を下す!!」」」

「ギャオアアッッ!!」

 

 セラフは金。アルマは赤。ゼトは紫。ギオスは陽炎。

 神将達は、神々しく煌めくオーラをその身に纏い、四枚の翼を広げる。

 続けて右手を地上に向け、大地そのものを空高く浮かび上がらせた。その範囲、実に270k㎡。

 流石のドラゴン達もこれには驚愕し、急いだ様子で離陸を始める。

 しかし、それを嘲笑ったアルマとゼトが、今度は左手で魔力の操作を開始。浮かび上がらせた大地を外側から覆う形で、超巨大な竜巻を発生させた。

 

「く⋯⋯うおおお!?」

 

 四方八方の全てが荒れ狂う中、ヴィルジールは大きめの岩石にしがみつく。

 周囲では、黒異人(コクト)や黒異種までも神将達による攻撃の巻き添えになっていた。

 己の属性の結界を作り出す、驚異的な飛行技術で瓦礫の豪雨を躱すなど、余裕で凌いでいる様子のドラゴン達。

 セシルガとセイリスは、瓦礫から瓦礫へ縦横無尽に跳ね回り、こちらもまた表情に動揺は無い。

 唯一ヴィルジールだけが、現状で命の危機に瀕していた。

 

「──クソが、やっとあの野郎が見えたってのに⋯⋯!!」

 

 怨敵ギオスを思い浮かべ、ヴィルジールは必死に立て直す。

 取り敢えずはセシルガ達の真似をすべきだと、瓦礫の上に大股で立った。

 次の瞬間。彼がいる瓦礫に、別の巨大な瓦礫が迫って来る。

 大慌てで付近の瓦礫に飛び移ったヴィルジールだが、上手く掴める場所が見つけられず、今度は滑り落ちそうになる危機に。

 先程まで乗っていた瓦礫が背後で粉砕される中、双剣を瓦礫に突き刺したヴィルジールはそれを全力で掴んだ。

 ──ふと目線を下にやると、地上は遥か彼方の場所になっていた。

 

「うう、チクショウがぁ⋯⋯!! こんな⋯⋯こんなところで死んでたまるかぁーーッ!!」

 

 浮かんだ言葉を全力で。ヴィルジールは叫ぶ。

 それに呼応する形で、救いの手が差し伸べられる──などという事は無い。

 ここは戦場。自分に降り掛かる危機は、自分で乗り越えねばならない場所である。

 

「──味わうがいい! これが、我らが主の怒りだ!!」

 

 どこからともなく、セラフの声が響く。

 直後、荒れ狂う瓦礫という光景から一転。全てが、ある方向へと真っ直ぐと直進を始めた。

 正しくは、人も、ドラゴンも、黒異種も、ただ“従った”だけであるが。

 

 ──総てが等しく、重力に。

 

「う⋯⋯おおおおお!!?」

 

 後悔。そんな文字が、ヴィルジールに浮かぶ。

 そしてそれを振り払う間も無く、大地は高速で迫ってきた。

 どうするべきか、誰かに助けを求めるべきか、紅志は無事なのだろうか。

 様々な思考は浮かんでくるが、一向に解決策は見出せない。

 だがその事実に、慌てるか諦めるかの無意識な反応が現れるより早く、

 

────ッッドドドォォオオオオオオオオオォォォォーーーーーーンンッッッ!!!!!!

 

 大地が、大地に。叩き付けられる。

 砕け散った地面と共に、テュラングルやセシルガ達は大きく分断。

 戦場はその姿を変え、東西南北の四つの戦地が新たに生まれたのであった。

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