猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第181話・一騎打ち

「──皆、無事だな?」

 

 炎の結界を解除し、周囲を確認する。

 当然、我がドラゴン族があの程度の攻撃に打ち砕かれる事態など有り得ないが⋯⋯。

 しかし、あの神将共め。無駄に広範囲の攻撃を繰り出しよってからに。戦場の形状自体が、かなり変化しておるわ。

 大きく抉られた大地に、砕かれ粉々になった大地だったものが突き刺さり⋯⋯まさに荒地といったところか。

 皆も、大きなダメージこそ負っておらぬが、それぞれが各地に分断されてしまった様だな。

 現状、我の付近にいる者は⋯⋯

「ウ、ウゴゴ!!」

 

 エレクのみ、か。

 頭から地面に突き刺さっているのは放っておくとして、何故結界を創って己を守らんかったのだ?

 マァ、彼奴の事ならば、大勢の前で格好を付けたかったのであろうが⋯⋯。

 確かに、奴の飛行能力には目を見張るものがあるが、自信があり過ぎるのも問題の様だな。

 ふうむ。この戦いが終われば、リゼにエレクへ稽古を付ける様に言っておこう。

 

「ウゴッ、ウググ⋯⋯」

「お前も最上位ドラゴンの一員ならば、恥を晒さぬ努力をしろ。──ほれ、」

 

 エレクの尻尾を顎で掴み、地面から引っこ抜く。

 全身泥まみれのエレクは、我にぶら下がったまま顔を振って土を払った。

 

「ぶっはあ!! じめんのなかって、いきしずれ〜!!」

「そうか。では、次からは頭から地面に刺さらぬのを心掛ける事だな」

「あ、どうもサンキューたすかりました!!」

「やれやれ。若さとは、素晴らしくも困難が尽きぬものだな」

 

 さて、それに頭を捻るのは別の機会でよいとして。

 いい加減、我も呆けている場合では無いな。現戦況の整理と今後の立ち回りを考えねば。

 まずは、リゼ達との合流を目指すか? 否、戦場が分断されたならば、各地で指揮を執る者が必要だ。

 彼女達は彼女達の。我は、我の場所で同胞達を指揮せねば。

 ⋯⋯では、ここで肝心となるのが、やはり神将共の存在だろうな。

 全開では無いとはいえ、エレクの技を受けて全くの無傷であった事を考えると、リゼ達では少々都合が悪そうだ。

 我やヴァルソルならば、力押しで撃破は可能だろうか⋯⋯?

 ──否。勝利自体は難しく無いだろうが、全力を解放しては仲間に被害が及ぶ危険性があるな。

 いやしかし、ヴァルソルはそれを気にする様な(おとこ)では無い。

 となると、最も都合が良い展開というのは──我と神将との一騎打ち、か。

 

「⋯⋯エレクよ、頼みがある。周囲の者達に、“今より──」

「ええっ、メンドクセーなぁ。じぶんでいえよ〜」

「 命 令 だ。周囲の者達に、“今より我の半径1km以内に近寄るな”と、そう伝えてこい」

「ふぁ、ふぁい⋯⋯」

 

 おっとイカン、少しばかり威圧してしまったか。

 だがマァ⋯⋯彼奴にとっては、このくらいの当たりの強さの方が教育になるだろう。

 リゼに見られたら、凍らされてしまいそうではあるが。

 

「──さて、」

 

 エレクも行った事だ、我も動くとしよう。

 神将共は分断した戦場に散開した様だが、我から最も近い場所に居るのは⋯⋯

 ふむ、この魔力はあの神将か。では、向かうとしよう。

 

 

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「──ぐうう⋯⋯うッ!?」

 

 飛び起き、男は自身の周囲を(あらた)めた。

 武器⋯⋯ある。前後左右⋯⋯荒地。味方の姿⋯⋯なし。

 一つ一つ丁寧に確認にしつつ、男はゆっくりと立ち上がる。

 そして数秒後。彼はようやく、最も重要な点について確認をした。

 

 命⋯⋯ある。

 

 それを認識したと共に、ヴィルジールは膝から崩れ落ちる。

 極限の緊張から解放され、全身から一気に硬直が消えたのである。

 

「はぁっ! はぁっ!」

 

 死ぬかと思った。死ぬかと思った。死ぬかと思った。

 心の中で幾度もそう唱えながら、ヴィルジールは両剣を支えに再度立ち上がる。

 味わった凄まじい恐怖と、今この瞬間に生きれている歓喜。

 渦巻く二つの感情にフル稼働する心臓によって、ヴィルジールの全身に滝の様に汗が流れた。

 

「ふうう⋯⋯」

 

 深呼吸をして、改めて状況を整理する。

 地面に激突する直前に、稲妻の様なドラゴンの頭に乗っかった。⋯⋯気がした。

 「うおっ!?」という驚愕の声と、「前が見えねえ!」という慌てた台詞が耳に残っている。

 そいつに乗っかったまま、地面との距離が残り僅かになった所で、派手に振り落とされた様な──気がした。

 

 ぼんやりとした記憶を辿りながら、ヴィルジールは後頭部をさする。

 着地時に受身を取った記憶が無いので──取っていたとしても覚えていないので──頭を強く地面に打ったのだろう。

 そう自己完結して、ヴィルジールは最後にもう一度深呼吸をした。

 正確には、己の未熟さに呆れた、深い溜息であるが。

 

「俺も、まだまだって事か⋯⋯」

 

 自嘲気味に笑い、気持ちを切り替える。

 状況を再確認し、単独行動は良くないと考えた彼は、すぐに魔力感知を展開した。

 付近に強い魔力反応は無いが、感知に流れ込んでくる魔力の方角から戦場となっている地点の特定は可能だった。

 取り敢えずは其方へ向かおうと、ヴィルジールが踏み出そうとした──その時だった。

 

「⋯⋯!!」

 

 ヴィルジールの魔力感知に、異様な反応が現れる。

 高速で飛行するその反応は、真っ直ぐと魔力感知の中心へ。

 即ち、ヴィルジールへと向かって来た。──そして、

 

──ズドオォーーンンッッッ!!

 

 着地と共に砂煙を撒き散らし、現れた。

 黒い全身に黄金の包帯を巻き付け、焼け焦げた切れ端を静かな風に(なび)かせる黒異人(コクト)が。

 その瞳は赤い光の尾を引き、身に纏う魔力は陽炎の様に空間を歪ませている。

 ──“狂神”の名を与えられた神将ギオスが、ヴィルジールの眼前に飛来した。

 

「ヴゥルルルルル⋯⋯」

「⋯⋯へッ、心配して損したぜ。俺以外の奴にやられちまってるじゃないかってよ⋯⋯!!」

「ウギャオアァァァーーーーーッッッ!!!」

 

 ──互いに、取り逃がした獲物。

 ──互いに、晴らすべき因縁がある相手。

 

 睨み合う両者は、思いを胸に構える。

 起爆の瞬間。同時に飛び出した二人は、己の武器を全力で振りかざした。

 ヴィルジールは両剣を。ギオスは広げた右手を。真正面へと突き出す。

 そして──また別の戦場では。

 

「フン! 我の相手は貴様か!!」

「フン。我の相手が、貴様に務まると思うのか?」

 

 似た様な台詞を言い合い、両雄は対峙する。

 片や、火龍の王。片や、闘神の名を与えられた神将。

 “紅帝龍” 対 “闘神”。その戦いの火蓋は、周囲を包む静寂に、一筋の稲妻が走った事で切って落とされた。

 

 戦が、激化を開始した。

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