──戦場・東側。
大荒地となったその上空では、テュラングルとアルマが激しい一騎打ちを繰り広げていた。
「むうんッ!!」
アルマが、右正拳突きを打ち出す。
轟音を伴って突き進むソレは、
──ドゴォンッッ!!
巨拳炸裂。
紅色の龍の飛膜に打撃が命中し、空気を大きく揺らした。
⋯⋯が、
「効かぬな」
余裕の台詞と共に、テュラングルが大翼を
弾かれる形で吹き飛んだアルマは、空中に背を打ち付ける様に急停止。「チィ」と舌を打ちつつ、テュラングルを睨んだ。
「──それが限界か? 神威の代行者とやら」
「フン! 貴様がこの我と戦うに相応しい者か見定めただけの事よ。
ほんの小手調べを捌いた程度でその言い草とは⋯⋯。やはり愚物、ここで我に滅せられるがよい」
「ほう? ならば早く掛かってこい。我は逃げも隠れもせん。
貴様の打つ手の
互いに揺さぶりを掛け、両者は様子を窺う。
一騎打ち開始から5分。現在、この戦いは拮抗状態だった。
特にテュラングルは、“
ここで彼にとって厄介になったのが、神将達に備わる転送能力の「性能の高さ」である。
事前に聞かされた話ではグレンデルの攻撃が、実際に目で見た光景ではエレクの攻撃が。それぞれ無効化された。
超高出力の魔力攻撃によって転送速度を上回る事で、強引に攻撃を当てる事は可能らしい。
しかし。それをやってみせた者は、あの魔王であったとか。
「──くらえいッ!! ❨
「ム⋯⋯」
思考を中断し、攻撃に備えるテュラングル。
アルマが放ったのは、巨拳に纏った魔力を左右の正拳突きの動作で撃ち込む技であった。
手数も然る事ながら、その巨拳から放たれる魔力の塊も巨大なものだ。
ダメージこそ少ないが、全身に響く様な打撃が暴雨となってテュラングルを覆い尽くした。
だがしかし、そこは火龍の王。
鋭い瞳に魔力を集中させ、アルマを強く睨み付けると共に、そこから猛烈な熱波を放つ。
飛来する全連撃を眼力で掻き消し、テュラングルはアルマへ向き合った。
「フ、フン! 今のも小手調べである!! 我の小技を貴様の小技で相殺した程度で、調子には乗らぬ事だ!!」
「そうか。二度の小手調べとは、貴様は随分と慎重なのだな」
ビキキ。アルマの額に、青筋が走る。
目の前の龍が発した『慎重』という言葉が、『臆病』という意味を孕んでいる事を理解したからだ。
「マァ、構わん。三度でも四度でも、貴様の小手調べに付き合ってやろうぞ?」
「このッ、ほざくなァッ! ❨闘神──
「⋯⋯アクリュウゼツメツトウ?」
珍妙な名の技だ。そんな考えがテュラングルに浮かぶ。
それもその筈。その技名はアルマがたった今考えた、テュラングルへの当て付けを目的として付けられた。
それ故に、攻撃方法も至って単純で明快──単調で安直な、手刀である。
「ぬぅんッ!!」
勢い良く、指を揃えた右手を振り下ろすアルマ。
単調とはいえ、その技の使用者は神将の中で“闘神”と呼ばれる男だ。
右手に凝集された魔力は、結界の様に強固な物質となり、本物の刃が如き鋭利さを誇っている。
──しかし。どんな得物であっても、相手の肉体へと直接当てなければ効果は発揮しないのが自明の理だ。
「むおッ!?」
驚愕の声を漏らし、アルマは攻撃を止める。
止めざるを得なかったのである。今まさに斬り付けようとした相手が、真紅の爆炎を身に纏ったのだから。
「⋯⋯どうした。斬り掛かってこんのか?」
滾る炎の隙間から、緋色の龍瞳が覗く。
爆炎の結界を解除したテュラングルに、アルマの額の青筋が増えた。
だが──この時。テュラングルもまた、内心では多少の苛立ちを覚えていた。
アルマを含む神将と、オーガが有する転送能力。それには、大きな相違点が二つある。
一つが「発動形式」。オーガの能力が常時展開型なのに対して、進化した神将達の能力は
代わりに、肝心の転送能力はオーガのそれと全く同じという極めて面倒な状態なのだ。
そして更に厄介なのが、その自動防御の「性能の高さ」である。
それを掻い潜るには、能力の危機感知速度を上回る速度での攻撃が必須。
しかし、それ程の速度で攻撃すれば、周囲の味方への被害はほぼ確実に避けられぬ実態があるのだ。
二つ目が「外部干渉」。
神将が転送能力の発動中に魔法を使用したとして、その魔法に逆干渉する形で本体への攻撃を試みた場合。
転送能力の範囲内では、エネルギーが内から外の一方通行にしか動けない為、その攻撃手段は無効化されてしまうのだ。
これはオーガにもいえる事だが、そもそも彼が扱うのは“神の力”という特殊エネルギーである為、初めから論外である。
その上、魔力にて攻撃を行う神将の場合ですら、魔力攻撃を通り道としての干渉は不可能である現状。
対峙するテュラングルとしては、攻めるに攻めれないのだ。
故に、先程の様に神将側から攻撃をしてきた所に“カウンター”を合わせたのである。
物理攻撃の瞬間ならば、神将の転送能力も解除されるのだ。
その“隙間”に神経を集中して戦うというのが、対神将においての有効戦術なのである。
「
赤いオーラを纏い、アルマは叫ぶ。
迸る魔力に暗黒の四翼が逆立ち、紅色と稲妻模様の袴は大きくたなびく。
「❨神器解放❩!!!」
声が響き、アルマの手の中が
次の瞬間。光は大きく形を変え、3mという体格のアルマを凌ぐ程に巨大化。長い棒状となったその光は、その上部先端が更なる変形を始める。
そして、光がT字の形状に変化し、先端が堅牢な物質だと理解した、その時──
「“
金色の大槌が、アルマの肩に担がれた。
全長にして5m。円錐台型で分厚い殴打部分に対して、柄はしなる程に細く、奇形と呼んでも差し支え無い見た目だ。
だが、武具全体から放たれる強大な魔力は、それが“本物”であるとテュラングルに理解らせた。
「成程、つまらぬ相手とばかり思っていたが⋯⋯。多少は遊べそうだな」
「フン!! 貴様の余裕気取りもそこまでだ!! 真の力を解放した我に、恐れ! 地を這い! そして死ねい!!」
燃え盛る炎が如く、アルマは闘志を高める。
迎え打つテュラングルは、目の前の相手を見据えゆっくりと構えを取った。
長い首を正面に伸ばし、大翼を背後の無空間に叩き付ける用意をして、姿勢は低く、狙いは正面に──。
滾る両雄、迫る接触。起爆寸前の両者を、静寂はただ包むのだった。