猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

186 / 218
第185話・“紅帝龍” VS “闘神”②

──ドゴォンッッッ!!!

 

 重厚な打叩音が、大気を震わせる。

 神器・“闘神之大槌(イトゥル・ラ・ドルガン)”が、テュラングルの下顎をかち上げたのである。

 

「ガッ⋯⋯!!」

 

 僅かに血を吹き、テュラングルはよろめく。

 思いもよらぬ被弾だった。

 独特な形状である点を除けば、アルマが所有する神器は単なる大槌である──。そう思い込んでいた。

(チィ。ぬかったわ⋯⋯)

 内心で舌打ちをして、口元の血を拭うテュラングル。

 思い違いをしていた。もっと早く違和感に気付いていれば、敵に醜態を晒す事も無かった。

 ふつふつと湧き上がる苛立ちを理性で抑え、目の前で憎たらしくニヤつくアルマへと構えた。

 

「──おやおやおや? 我が神器の()()⋯⋯。よもや、説明が欲しかったとは言うまいなぁ?」

「フン。我はただ、()()()()()()()()()の威力を知りたかっただけだ。

 わざわざ伝えてやる必要も無いだろうが、己の技量で命中させたとは思わない事だな」

 舌戦の最中、テュラングルは見極める。

 伸び、畝り、渦巻き、アルマの周囲を囲う形状となった大槌の動きを。

 打撃部分自体に変化は無い。大槌の細い柄が、蛇の様に動き回っているのだ。

 それ故に、当初「大槌よる打撃は直線的である」と想定して戦闘していたテュラングルは遅れを取った。

 “闘神之大槌(イトゥル・ラ・ドルガン)”は、火龍の王に対して明確に能力を発揮したのである。

 そして、これを好機とみたアルマが攻勢に動いた。

 

「ぬうんッ!!」

 

 連接棍棒(モーニングスター)の様に大槌をブン回し、その先端を投げ付ける。

 顔面に迫る大槌を、テュラングルは首を傾ける事で躱した。

 しかし。大槌は鋭いV字ターンをして、背後から再び迫る。

 

「ムッ、」

 

 追撃を躱したテュラングル、ここで違和感を覚える。

 背後からの打撃には、当てる気配が感じられなかったのだ。

 一体何故。そう疑問が浮かぶテュラングルだったが、更なる追撃が疑問の解消を遅れさせる。

 回避は容易な攻撃速度であった為、テュラングルは最小限の動きで大槌を躱し続けた。

 無数の方位から繰り出される大槌の打撃を、軽く首を傾げ、少しばかり姿勢を逸らし、僅かに弾いて無力化してゆく。

 その反応速度が想像以上だったのか、アルマはあからさまに焦った表情を見せた。

 だが──それは演技であった。

 敢えて余裕を持たせ、可能な限りその場から動かさない事で、“罠”に嵌めやすくする為の。

 

「⋯⋯!!」

 

 ()()()()テュラングルの表情が変わる。──そして、

 

「掛かったなこの阿呆がッ!!」

 

 嬉々として叫んだアルマが、神器を素早く操作する。

 蛇の如く畝る大槌の柄。テュラングルを全方位から取り囲むそれを、一息に縮小させた。

 

「グゥッ!!」

 

 神器の柄は、テュラングルの全身に絡み付き、締め上げる。

 特に頸部への圧迫力は凄まじく、火龍の王であっても思わず歯軋りをする程であった。

 

「グワッハハァ!! これがドラゴン族の王だと!? 口程にも無い奴め!!」

 

 高らかに笑いながら、アルマは柄による圧迫を強める。

 メキメキと音を立てつつ、テュラングルの巨躯の各部位が、徐々に、あらぬ方向に、曲がってゆく。

 大翼は裏返しに折れはじめ、四つの脚のそれぞれが軋む音を鳴らした。

 

「これで最期だ。貴様には、蜥蜴(とかげ)の王に相応しい死をくれてやるッ!!」

 

 アルマの周囲に、赤いオーラが満ち溢れる。

 “それ”は、迅神ゼトが披露した“狂化形態(カオスモード)”──では、無い。

 本来、狂化形態(カオスモード)とは、神器の“不完全な完全解放”なのだ。

 完全解放時の出力は確かに100%だが、その数値を維持するには、それに耐えれるだけの肉体強度が必要になるのである。

 そして、ゼトにおいては肉体強度が完全解放の魔力出力には耐えられず、異常をきたしていた。

 それ故、神器が有する能力の完全な発揮は出来ていなかったのである。

 

「❨神器──“天上到達(フルダイブ)”❩ッッ!!!」

 

 完全解放の名は、“天上到達”。

 (かつ)て、神の下僕として、天の使いとして、“神の領域”にまで到達していた力を称賛し、オーガが名付けた。

 その技の本質は、神器の能力を肉体へと移行すると同時に、自身が有する全エネルギーを身体能力に変換する事にある。

 

「圧倒的な力に蹴散らされ、踏み潰され、その愚かな命を散らすがよいわッ!!」

「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯むう」

 

 赤く迸る魔力を纏うアルマに、テュラングルは目を回す。

 呆れた様に、気怠そうに、面倒臭さを全面に。

 

「フハハハァッ!! 力が漲ってくるわッ!!」

 

 気分上々といった様子のアルマは、テュラングルへの拘束を更に強める。

 口角を醜く歪ませ、テュラングルにとどめの一撃を入れるべく、アルマが突撃を開始した。

 

「❨真・闘神之大槌(二ル・ドルラガン)❩!!」

 

 アルマの右腕が、三倍近くも巨大になる。

 神器の能力である「伸縮」は、完全解放によって「拡大」へと進化。

 己の肉体を巨大化させる能力を、アルマは身に付けたのだ。

 

──ドゴンッッッ!!!

 

 拳が、肉体を打ち上げる。

 口から大量の血を吹き出し、地面に勢いよく落下し、派手に叩き付けられ、大の字になったまま──

 

 

 アルマは、何度も瞬きをした。

 

「がはッ⋯⋯!?」

 

 大困惑。状況が飲み込めないアルマは、周囲を見渡す。

 そして見付けた。砂煙の向こうから、此方に歩み寄ってくる一人の男の姿を。

 

「この姿⋯⋯。我としては、あまり好かないのだがなぁ」

 

 短く粗い黒紅の髪が風に(なび)き、紅色の瞳が鋭く光る。

 紅色の袴を着ているものの、上半身は大きく着崩し、彫りが深く隆々とした筋肉が露出していた。

 

「全く、窮屈で仕方が無い。手短に終わらせるとしよう」

 

 揺らぐ炎の如き紅色の刺青が、黒い帯から上、腰から胸元へ走っている──“その男”。

 人間ならば50代程度に見える“その男”は、何を隠そう擬人化状態のテュラングルである。

 

 つまりはこうだ。

 

 拘束された状態で、擬人化を発動。

 ドラゴンとしての巨躯から、190cm程度まで縮んだ事で拘束から脱出。

 渾身の一撃を放とうとするアルマを見て、転送能力が解除されている点を察知。

 この気を逃さず、クロスカウンターを完璧なタイミングで打ち込んだ──という訳である。

 

「今ので終わらせてやってもよかったのだがな。簡単に決着を付けては、貴様の無様な姿を見られぬ。

 我としても、貴様の物言いには腹が立っておったし、可能な限り加減してやったつもりだが⋯⋯無事そうか?」

 

 テュラングルは、筋肉質な腕を組んで尋ねる。

 対するアルマは、未だに地面に仰向けのまま。

 数秒後の間を開けてから、ようやく飛び起きて口を開いたのだった。

 

「きッ、貴様ァ!!」

「なんだ?」

「許さんぞ⋯⋯。貴様はぁ、絶対に許さんぞォッッ!!!」

「うむ、その意気や良し。では、続きを始めようか」

 

 右拳を引き、左拳は正面に。

 四股立ちで構えるテュラングルは、爆発的なまでの威圧感と闘気を放ってアルマと対峙した。

 

「死ねえぇいッ!! ❨真・闘神之──」

「ふんッ!!」

 

 ドゴン! と打撃音が響き、アルマの顔面が窪む。

 二連続で転送能力が展開する速度を上回れた理由。それは、擬人化した際のテュラングルが行った“ステータス配分”によるものだ。

 人間の肉体を形成する時、持ち前の莫大な魔力を「筋力」と「動体視力」に全振りしたのである。

 その結果、神経を研ぎ澄ました状態であれば、神将の転送能力を掻い潜る事が可能になったのだ。

 

「むうぉおオオオオオオーーッッ!!!」

「ふうむ。そんな事も出来るのか」

 

 関心するテュラングルの正面では、アルマの肉体が急激に巨大化を始めていた。

 雄叫びを轟かせるアルマは、背丈が300mにまで上昇。足の小指ですら、テュラングルが見上げる程の小山の様なサイズへ変化した。

 

「──愉しめそうだな」

 

 ゴキリ。首を鳴らして、テュラングルは嗤う。

 踏み付ける動作に入ったアルマに、紅瞳の男は静かに構えを取るのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。