猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第186話・対紅

「圧し潰れるがいいわァーーッッッ!!!」

 

 巨大化したアルマが、大地を踏み付ける。

 地響きと衝撃音が戦場に轟き、砂煙が空高く舞い上がった。

 さながら、巨大爆弾の起爆。もうもうと空へと舞う砂煙は、キノコ雲の様に形を変える。

 砕けた大地を見下ろしながら、アルマは己の勝利を確信したのだった。

 

「──むんッッ!!」

 

 力強い掛け声が、アルマの足裏から響く。

 次の瞬間。大地の激しい揺れと共に、踏み付けを行ったアルマの足が浮き上がった。

 そしてその下には、屈強な両腕でアルマの巨体を持ち上げるテュラングルの姿が。

 

「ふぅんッッ!!」

 

 彼の額と両腕に、見事な青筋が入る。

 アルマの足裏の僅かな皮膚を掴んだテュラングルは、大股で後方へと踏み込んだ。

 それと同時に素早く振り返り、自身の何百倍もある巨体を引き寄せ──

 

「せあァッッ!!!」

 

 一本背負いにて、アルマを大地に叩き付ける。

 舞い上がった砂煙は、アルマ自身の踏み付け攻撃時よりも、更に高い地点にまで到達した。

「オオオ⋯⋯バカなぁ⋯⋯ッ!!」

 

 鼻っ面を押さえ、アルマが立ち上がる。

 “先程よりも強力になった”という確信と、それに反する現状の有様に、彼は脳内回路は混線気味だった。

 そもそも、彼は見落としているのだ。

 「巨大化した」と「勝率が上がる」といった二つの事柄は、別物であるという点を。

 巨大化によって質量が上昇した分、比例して攻撃の威力も上がったのは確かな事実だ。

 だが、その分 攻撃速度は遅くなり、加えて被弾面積が増えたのもまた事実。

 つまりは、アルマが巨大化した事で「相性」が変化し、テュラングルにとっては寧ろ戦い易くなったのである。

 

 そして更に。超がつく程の巨大化をした事で、アルマには途轍も無く大きな“欠点”が生まれていた。

「──小虫がああアアーーッッッ!!!」

「フン。我が小虫ならば、貴様は蛞蝓(なめくじ)といったところだな」

 

 テュラングルを握り潰そうと、アルマは両手を振り回す。

 勢いよく迫り来る巨大な掌。その指の隙間を、テュラングルは縫う様に通り抜ける。

 直後に加速をして、アルマの顔面へと急上昇。右の拳に炎を纏わせ、下顎を殴り付けた。

 

「ぐンンッ⋯⋯!?」

 

 歯茎から血を吹き出し、アルマはよろめいた。

 しかしギリギリで踏み留まり、そこから反撃を開始──などという隙を与えず、テュラングルによる追撃。 

 後方へ体勢が崩れるアルマの背後へ回り込み、今度は背中に打撃を打ち込んだ。

 左肩甲骨、脊柱、右肋骨。それぞれ粉砕しながら、アルマの周囲を大きく旋回する。

 再び正面へと戻ると、続け様に急上昇してアルマの頭上へと飛び上がった。

 そして、堅牢で重厚な拳骨を、アルマの脳天へと、

 

──ゴッッッ──ツンンンッッッ!!!!!

 

 重い快音を轟かせ、打ち込んだ。

 

「ぐぁがあああッ!!」

 

 鈍い痛みに絶叫しつつ、アルマは頭部を覆って防御の姿勢を取る。

 だが、直後に彼を襲ったのは重い打撃では無く、真紅の炎の大津波であった。

 

「むおオオオァーーーーッッ!!?!!?」

 

 灼熱の炎が、アルマの全身を包み込む。

 その業火の先には、本来の龍の姿へと戻ったテュラングルの姿があった。

 彼は、気付いたのである。巨大化した事で生まれた、アルマの“欠点”について。

 巨大化した際に、アルマの転送能力は性能が大きく低下していたのだ。

 

 そもそも神将の転送能力とは、自動防御(オートガード)の様に“攻撃が来た時に自動的に能力が展開する”仕組みになっている。

 故に、その展開速度を超える速度で攻撃を打ち込む事が、能力突破の一つ方法として挙げられる──のだが。

 巨大化したアルマの肉体では、その展開された能力が全身に行き渡るまでに時間が掛かっているのだ。

 そして何より、転送能力はアルマの巨大化に伴って、彼の全身に“引き伸ばされた”状態にある。

 それを言い換えるなら、“転送能力の効果が薄まっている”とも表現出来るのだ。

 

 ──魔王ゼルがやった様な、高い魔力出力によるゴリ押しでの転送能力の突破が可能な程に。

 

「ぐぬうう⋯⋯ッ!!」

 

 巨大化という選択が過ちだった事に気付き、アルマは縮小を開始する。

 同時に転送能力の性能も徐々に回復し、全身を包む火炎の無効化を始めた。

 しかしここで、テュラングルは火炎の出力を大幅に上げる。

 アルマを撃破するには、今この瞬間が最も好都合だと考えたのだ。 

 

「おッ、おのれぇぇえええーーーーッッ!!!!」

 

 再び灼熱に包まれたアルマが、前進を開始する。

 既に、転送能力の性能回復が間に合わないと理解したのだ。

 だからこそ、前進する。せめて道連れに出来る様に。

(ここが好機だな。いい加減に終わらせてやるとしよう)

 アルマを見据え、テュラングルは爆炎の威力を更に上げる。

 そして遂に、転送能力の完全突破が目前となった──その時だった。

 

「ム⋯⋯!?」

 

 思わず、火炎の出力を弱める。

 全てを焼き尽くす己の炎。その射線上に、ドラゴン族の指揮を取って戦うリゼルがいたのだ。

 このまま火炎の出力を上げ続ければ、いずれ確実に被弾してしまう様な場所に。

 最上位ドラゴンの一体である彼女であれば、炎を食らっても死ぬ事は無いだろう。

 しかし、そういった話ではない。

 過去の事とはいえ元々は(つがい)であり、そして今も尚愛している存在が⋯⋯

(──否。リゼでなくとも、王自らが同胞を傷付ける事など、あってはならん!!)

 カッと目を見開き、魔力の操作を始めるテュラングル。

 そして──例えるなら、振動を電気信号に変換して伝達する電話の様に。

 テュラングルは、脳内の言葉を魔力によって信号に変換し、リゼルへと飛ばした。

 

『──リゼ、聞こえるか』

『はい』

『すまないが、我に協力してくれ』

『はい、あなた様』

 

 僅かなやり取りの後、リゼルは即座に行動に移る。

 テュラングルとアルマの様子を見て、彼女はこれ以上無く完璧な回答を示してみせた。

 広範囲に氷を生成を開始し、更にはそれを防壁の様な形状に変化させたのである。

(──流石だな、リゼ)

 静かに称賛し、テュラングルは微かに笑みを浮かべる。

 彼の考えとは、リゼルに自身の炎を防いでもらう、というものであった。

 アルマの撃破には、転送能力の完全突破が不可欠だ。だが、その為に火炎の出力を上げ続ければ、退避させた者達にすら影響を与えかねない。

 だからこそ、リゼルに頼った。この場において、自身の炎を確実に防ぎきってくれるという信頼があったからだ。

 王の炎が、他のドラゴン達までをも焼いてしまわない様に。

 

『──うぐっ?!』

 

 突然、リゼルの苦しそうな声が伝達される。

 理由を尋ねるまでも無く、彼女の悲鳴の原因をテュラングルは察知していた。

 リゼルの安否自体には、懸念は全く不必要だった。

 確かに彼女は攻撃を受けたが、それに殺意が無かった事の断言が出来るからだ。

 事実、リゼルは傷の一つも負っていない。

 その全身が、黒い(たこ)の足の様な触手で締め付けられている事を除けば、一応は無事と言える状態だ。

(くッ、ヴァルソル⋯⋯!!!)

 テュラングルの視線の先には、リゼルの遠い背後でしたり顔を浮かべる黒龍(ヴァルソル)の姿があった。

 烈火が突き刺さる様な視線をものともせず、ヴァルソルはただリゼルの行動を阻害する。

 その理由に、大きな意味は無い。

 憤怒と、憎悪と、嫉妬と、哀傷と孤独を。晴らせるタイミングが、たまたま今だったというだけである。

 

「オ"オ"オ"オオオォォオオオアアァァーーーーッッ!!!」

 

 その瞬間。アルマの手が、テュラングルを掴んだ。

 火炎の範囲を絞り顔面へと集中させるが、このまま出力を上げようにも、リゼルが拘束された事で氷の防壁が消滅してしまっている。

 アルマを倒すには今が絶好の機会だが、仲間のドラゴン達を王である自分の手で危険に晒す事は出来ない。

 リゼルの動きが封じられている以上、今は攻撃を中断するしか選択肢が──

 

「なにやってんだ、このアホがぁッ!!!」

 

 不意の台詞が、テュラングルの葛藤を掻き消した。

 その直後。拳の形をした蒼い魔力の塊が、リゼルを締め付けていた触手に高速で命中する。

 僅かに弱った拘束に、リゼルは即座に反応。氷の刃を形成して、全ての触手を瞬時に斬り裂いた。

 

「──テュラングルッッ!!!」

 

 叫んだのは、銀色の竜だった。

 蒼焔を身に纏い、大きく空中へ飛び出し、口元に紅い炎を揺らがせた。

 

「来いッ!!!」

「⋯⋯!!」

 

 予想外の言葉に、テュラングルは驚いた。

 しかし、直ぐに理解する。彼なら大丈夫である、と。

 

「「──ガルオオォオオオアアァァァァァァアアアアーーーーーーッッッッッ!!!!!!」」

 

 龍と竜、二重の咆哮が轟く。

 二つの紅い炎が、アルマを挟み込んだ。

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