猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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1章【死の山編】
第18話・いざ、新天地。向かうは死の山。


 

 

 

 

【ギフェルタ】

死の山と名付けられたその山は、魔物たちの巣窟になっており、その名に恥じぬ不気味なオーラを放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

⋯そう、ほんの先程までは。

 

 

「⋯⋯⋯。」

 

 

今、俺は無数の魔物に取り囲まれている。

襲われている訳では無い。種族こそバラバラだが、全員が俺に向かって頭を垂れる様に地に伏していた。

 

そして、次から次へと目の前に差し出される、木の実や、直近に仕留めたであろう獲物。魔物たちは目を輝かせながら俺を見つめ、尻尾を勢いよく振っていた。

 

まぁ⋯その、アレだ。

感謝、されている訳だ。コイツらに。理由は大方予想はつくんだが、それでもやり過ぎと思うくらいに感謝されている。

 

特に今、俺が鎮座しているここ。

端的に言えば、大きな平たい岩の上なんだが⋯。周囲は大量に供えられた食べ物だらけだし、集まった魔物たちは俺を崇める様に見上げているし、岩の上には木の葉がクッションの様に敷いてある訳で⋯もはや祭壇だった。

 

 

「ピャ──ッ!!?」

 

 

背後から虎徹の悲鳴を確認。

呆れ気味に振り向くと、案の定白いモコモコが魔物たちに追い掛けられている。ガル、と俺が唸ると一斉に動きを止めた。ニュアンス的には『こら』みたいな感じで唸ったんだが、種族は違っても意思の疎通はある程度出来るっぽいな。

 

コイツは食い物じゃないぞ、と軽く睨みをきかせると魔物たちは即座に虎徹から距離をとって地面に伏せた。

 

懐に逃げ込んできた虎徹をすくい上げ、頭に乗せる。

どうやらここが安心するらしい。俺も頭が暖かくて嫌いじゃない。

 

 

「お前、案外足速いんだな。」

 

 

そう言いながら、俺は頭上の虎徹を撫でた。

最近になって気付いたのだがコイツ、中々脚力がある。⋯まぁ事情があって俺も虎徹が走り回るタイミングが多かったと言うか⋯なんと言うか。

 

始まりは⋯あの日か。

俺達がリーゼノールを出発した日まで遡る──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

──1週間前──

 

 

 

 

 

テュラングルとの激戦の後、俺が意識を取り戻した翌日のこと。珍しく早起きした俺は湖のほとりで体操をしながら、例の手紙の内容を思い返していた。

 

『リーゼノールを離れる』。

 

と言うのが簡単では無かったからだ。

折角作った家、この立地、何より虎徹の事が気掛かりだった。この地を離れたのが原因で、虎徹が群れに戻れない、なんて事になればそれは問題だ。

 

逆に虎徹を置いて行く、というのも心配だ。

何より、既にコイツは俺を『食べ物をくれる相手』だと認識してしまっている。本来の生態がどんなものかしらないが、自分で餌を確保できないのは、かなりマズい。

 

とはいえ、いい加減移動しなければいけないのも事実。悩みに悩んだ結果、俺は虎徹を同行させることにした。特別深い理由はない。今すぐ考えて即解決、という訳にもいかなかっただけだ。ペットとして飼い始めた話でも無し、何も攫ってきた訳でも無し。

 

子が親を間違える。

自然界において特別珍しいことでは無い。虎徹は俺に着いてきた、そして俺はそれを突き放しはしなかった。それが全てだ。あくまで保護という名目ではあるが、俺の代わりが見つかるまでは、一緒にいたい。

 

ワガママかもしれないが、この生活の中での数少ない癒しを俺は失いたくはなかった。

 

 

「クルルッ」

 

「おっ、お前も起きたのか。」

 

 

後脚に擦り寄ってきた虎徹を頭に乗せ、そのまま湖の縁まで近づく。金属を生成し、十字の板を形成。それを組み立て、人ひとりが入れる程の箱をつくる。繋ぎ目を固定してから、湖の水を組み上げた。

 

予め集めておいた木の枝と、それを囲む様に設置された金属の土台。そこに先程の箱を設置し、木の枝に着火した。ここまでしたら、なんの準備をしていたのかは、もうお分かりだろう。

 

そう、風呂だ。

 

いい加減、暖かい湯に浸かりたいという願望がここ最近になって強くなってきたので、魔法の習得は本当に助かった。特に生活面での活用法は、しばらく思い尽きることは無さそうだな。

 

さて、お湯が出来るまでまだ時間がかかりそうだし、先に朝飯にでもしますかね。まだ昨日の肉が少しだけ残っているが⋯何を食べようか。

 

家には昨日の肉と⋯この前採った茸⋯お、卵もあるな 。

 

 

「よし、スープにしよう。」

 

 

鍋を作って、湧き水を汲んでっと⋯

まずは茸から入れようか、出汁が取れそうだし。細かく切った肉を入れて、味付けにニンジャー投入。粉末状に砕いたしょっぱい岩石で味を整えて、完成⋯

 

 

⋯じゃなくて卵か、忘れてた。

あんまり使いたくなかったんだよなコレ。ボロボロの巣に置き去りにされた卵だったし、孵らなかったのかは分からないが、放置されてた時間がどの程度かわからないのから衛生面での心配があったし。

 

折角だし、見るだけ見るか。

⋯因みに孵か試しに温めてみたのは俺だけの秘密だ。結局ダメだったが。

 

 

──コッコッ⋯パカッ

 

 

ふーむ、匂いは問題無し。

見た感じ普通の生卵だな。1点、色が赤っぽいのを除けば。⋯これは、元々そういう色をしているのか?真っ青とかだったら『異世界だし』で納得できるんだが、赤って微妙だな。うーん。

 

⋯微妙だが、割っちゃったモンは仕方ないか、使おう。

腹壊したらそれはそれでいいか。どうせ排泄しない身体だし。

 

 

⋯え?説明?

しょーがねぇーなぁー。

 

まぁ俺も転生してしばらくは気が付かなかったし、なんなら最近気付いたばっかりなんだが⋯この身体、無いんだよ。⋯⋯その、アナが。わ、分かるだろ?

 

個人的には摂取した物は全て運動エネルギーと魔力に変換されてるって考えてるんだが⋯。幼女に聞くのもなんだし、それで納得してる。

 

ただ疑問なのは、虎徹は普通にトイレするし、ここら辺歩いていてもフンとかは落ちてたりするし、見たところ俺、もくしは俺の種族が特別らしい。

 

因みにだか、ムスコはある。

普段は身体の内側に収納されている様だが、興奮状態になると、こう⋯

 

いや、この先はいいか、うん。

飯食う前に考えることじゃないわコレ。料理に戻ろう。

 

 

火を止め、掻き混ぜた卵を沸騰したスープに回し入る。

火が通り、ややオレンジっぽくなった黄身がいい感じに料理を演出している。我ながらの出来栄えだ。

 

⋯それにしても転生する前より腕が上がっている気がする。というか上がっている。自分の料理に腹が鳴るなんて経験はまず無かったし。

 

俺は机と椅子を外に持ち出し、湖のほとりに下ろした。

スープの入った器と手製の箸を並べ、席に着く。虎徹には焼いた肉と果実の入った皿を用意し、虎徹用の小さな椅子に乗せる。

 

 

「ッシ、いただきます。」

 

「クエーッ!」

 

 

⋯こことももうすぐお別れか。

そうなると、急に寂しくなるものだな。俺が生まれ、成長し、虎徹と出会った場所。リーゼノールのこの景色もあと何回観れるのか。

 

地平から日が昇り、湖を照らしてゆく。

⋯久し振りにこの日の出をみたな。そういえば。

 

しみじみと思い出を噛み締めながら、俺はスープを啜った。美味い、と感じると同時にある事に気がつく。それはこの地で採れる調味素材がこの先の地域でも確保出来るのかという心配だった。

 

ここで採れる素材の数々はあまりに魅力的だ。

少なくとも、この地を離れる事を躊躇する程には強力に。しかし、任されている事態の大きさ故、ここで駄々をこねる程、俺も阿呆じゃない。

 

出発は出来るだけ欲しい物を確保してからにしよう。

 

その後に何をするべきかは手紙が教えてくれる。

俺はそれに従う。まぁ素直に向こうの要件を飲み込む自分に多少の抵抗はあるが、それよりも今は自分の成長が楽しい。目的どうのこうのを考えるよりも、明日、また明日と自分が強くなっていくのが楽しくて仕方ない。

 

⋯これは、転生前から思っていたことなんだが、人間の成長において最も重要なのは『結果』ではなく『実感』だと俺的には解釈している。

 

RPGをやっていて、楽しいのはクリアよりもレベル上げって例えれば分かりやすいか?敵を倒して経験値も入手するという実感。レベルが上がり新たな技を身に付ける実感。以前の自分とは明らかに違うという実感。

 

『強くなったから、自分は成長したんだ』では無く、強くなるその瞬間、それを実際に感じた時こそ、人間は成長するんだ。

 

⋯久しく忘れていたな、この感覚。

子どもの頃に熱中していたゲームで、倒せない強敵がいる訳でもないのに、ただひたすらにレベルを上げていた事。ただ主人公が強くなっていくあの感覚が好きだった。これはゲームじゃない。今、俺が『実感』している成長だ。

 

ワクワク⋯してるんだろうなぁ、俺。

 

 

あーもう。

なんか考えていたら疼いてきた。飯食って風呂入ったら修行しよう。出発までの猶予は5日って所でいいか。

 

その間にここでやり残したこと全部片付けて。

持っていきたいもん全部詰め込んで⋯⋯よし!

 

 

子どものように足をばたつかせながら、スープを飲み干した。それを間近で見ていた虎徹は、目の前の竜がニヤけているのを疑問に思いながらも、好物の肉を頬張るのであった──⋯

 

 

 

 

NOW LOADING⋯

 

 

 

 

 

「ぃよっし、準備オーケだな。」

 

「クエックエッ!」

 

 

そして出発当日。

最後の確認を終えた俺達は、リーゼノールを背に手紙が示す方角を向いて並んでいた。

 

この5日間、特に最初の2日は魔法の操作に特化した修行をした。覚えたての魔法を初戦であそこまで応用できた感覚から、ある程度の察しはついていたが、やはり成長の幅は大きかった。

 

最初は、作れてもサッカーボール程度の金属の塊だったのが、この2日間の修行だけでも、ピンポン玉程までのサイズ調整ができるようになった。

 

形も、鍋や風呂といった簡易な箱状だけでなく、やや大きめではあるが、ペットボトルのキャップの様な構造を作る事ができた。お陰で、前までの竹製水筒の様に直ぐに傷む、なんて心配もなくなった。

 

残りの3日は、ここら辺の素材集めに専念した。

さっきの構造が作れる事になったので、把握している全種類の調味素材たちを、それぞれ粉末状にして容器に入れ、ついでに蓋に(勝手につけた)素材名を鉤爪で削っておいた。結構気に入っている。

 

そのあとは当面の食事の用意だったな。

地図を見た感じ、どうやらしばらく歩くと人工道に出れるのらしいのだが、この道を使う人間はいないらしい。まぁ【死の山】なんて名付けられる所に続いている訳だから、そりゃそうだ。

 

道なりに進めば数日で到着できるらしいが、この人工道周辺は魔物が少なく、狩りが行いにくいのが難点らしい。まぁ人間も襲ってくる魔物が少ないポイントを選んで道を作るんだろうから当たり前っちゃあ当たり前なんだが、ソッチ側の俺としては好ましくない。

 

というわけで、予め確保した生肉を作った箱に詰め、できるだけ空気を抜いておいた。⋯あんまり意味無いだろうし、なんなら魔物の胃袋だし、多少腐ろうが問題ないんだが、どうせ食うなら美味い方がいいよな。

 

余りの肉はは試しに作ってみた干し肉がいい感じに完成したので、それも別に作った容器に詰めた。結構イケる。

 

最後に今までの容器をまとめて、形成するのに1番時間を要した台車に積んだ。

 

特に車輪が難しかったな、作るの。真ん丸に作るのが大変で大変で⋯。あ、それとここの部分だな。車輪が回るたんびに金属が擦れて不快音を出すもんだから、悩んだ。 結果としては電車の車輪とレールの様に凹凸を作ることで解消された。いやー、閃いた時『俺天才かも』って思ったね。あ、そうそう。そういえばここも(以下略

 

 

蛇足だが、生成した金属はこちらの干渉が途切れると、自然消滅する。干渉できない程に遠くに離れるとか、生成してから長時間放置する、とかな。まぁ干渉って言っても、触れたりすればいいだけなんだが。

 

 

「さてと、」

 

 

深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

いよいよ、ここの空気とも別れる時が来た。1度振り向きかけるが、俺は直ぐに前を向き直した。

 

準備は整った、名残惜しさも吹っ切れた。

 

 

いざ、新天地。向かうは死の山──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⋯──と、心地よく踏み出した俺達なのだが。

 

 

「う、おおおおぉっ!?」

 

「ピャアアアァッ!?」

 

 

予定通り人の作った道に出た訳だが、間もなく魔物の大軍に追いかけ回されるハメになった。原因は俺の頭上で一緒に喚いているコイツ。

 

出発してからしばらくは新しい景色とかを堪能しながら旅を楽しんでいたんだが⋯。強力な魔物の気配も無いし、虎徹もはしゃいでいる様子だったし、ある程度自由に動き回らせてのが⋯失敗だった。

 

そう、“強力な魔物の気配は” 無かったんだ。

 

じゃあ何かって?

草食で普段大人しい性格のプラルトロスだよ。それも子どもの。虎徹が寝ている子にちょっかいをかけ、それに驚いたプラルトロスの子供が鳴き声を上げ、群れの大人たちは一斉に鳴き声の方向に振り向いた。

 

はい、虎徹は小さくて向こうからは見えません。

 

はい、子どもの近くには肉食の竜が居ます。

 

はい、どうなりますか。

 

 

 

こう!こうなるの!

 

 

「「「ブォオオオオォオン!!」」」

 

 

怒号と砂埃と上げて迫り来るプラルトロス達。

普段の俺なら余裕で撒ける速度なんだが、荷物を積んだ台車、猛ダッシュで頭に飛び乗ってきた虎徹、全てを被害なく運ぶ為にこんなノロノロ走らなければならない訳だ。

 

アカン、どないしよ。

 

チラリと頭上の虎徹を見る。

まぁ見えてもモフモフの尻が視界の端っこに入るだけなんだが、まぁそれはいいとして。取り敢えずアイツら追い払うからちょっと耳塞いどいてやるか。

 

 

右後脚でブレーキを掛け、台車を右に切る。

ドリフトしながら振り向き、真正面から対峙する。虎徹が上で暴れそうになるのを両手で抑え、耳を塞いだ。

 

 

「「「ブォオオオオッッ!!」」」

 

 

物凄い形相と速度で迫る一群。

間違いなく押し潰す気だな、あれは。

 

俺は息を大きく吸い込み、1歩前へ踏み出した。

久し振りにやるからか、不思議と高揚感が込み上げてくる。

 

 

──ガルオォアアアアアァアァァァアアッッ!!!

 

 

最早、一生物から発せられたは思えない程の声量。

地面が感電したように小刻みに震え、咆哮を真両面から浴びた魔物たちは、あまりの迫力に暴風が吹き荒れたと錯覚する程に圧倒されていた。

 

 

(⋯ちょっ、と。やりすぎたか。)

 

 

警戒からの静止というよりは、恐怖のあまり動けない感じか。まぁ追ってこないなら先に進もう。一体だったとは言え、肉食の魔物に喧嘩売ったんだ。反撃を喰らわない筈がないだろう。

 

悪いとは思うが、これが自然界だ。

弱肉強食の世界において『弱』が『強』に恐怖するのは当然であるべきだ。

 

 

「「「⋯⋯⋯⋯。」」」

 

(まぁ⋯立ち直るだろ。⋯うん。)

 

 

あーやだやだ。

魔物だけと人間の考えが未だ混じっている。俺って半端なのかなあ。

 

俺は虎徹を頭上に戻し、再び台車を引いて歩き始めた。

ゾロゾロと足音が遠のいていくのが聞こえる。俺に攻撃の意思が無いのを確認したから向こうも撤退したのか。

 

⋯気を取り直して、また進むか。

 

幼女の手紙では『道なりに歩けば数日で到着できるよ♪』ってあったが⋯数日って2日とかの少ない方か6日とかの多い方がどっちなんだろう。

 

食糧はまだあるし、さっきので少なからず魔物は居る事は確認できたのでその点は問題ないが⋯。

 

まぁどうせ初日だし、1日でどれくらい進めるのかだな。虎徹は今ははしゃいではいるが、長旅になればなるほど疲れてくるだろうし、ストレスも溜まるだろう。夜はちゃんと睡眠を取りたいしな⋯。

 

干し肉を齧りながら、俺は無意識に虎徹を撫でたのであった─⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⋯─その日の夜。

 

 

結局、あの後は問題なく歩き続ける事ができた。

地図上のリーゼノールとギフェルタの丁度中間を流れる、小さな川を最初の経過地点として目指していた俺たちだったが、意外にも初日で到着してしまった。

 

到着した頃には日も暮れ、明かりの無い辺りは真っ暗闇になっていた。蛍の様に発光する虫がいるのか、闇の中に時々無数の金色の光が見えた。幻想的な夜道を歩くのも悪くはなかったが、ここら辺の魔物は基本的に夜行性なのを知っていた俺は、一晩この川で明かす事にした。

 

俺1人での旅ならまだいいが、虎徹も大量の荷物もある。致し方ない選択だった。まぁコレはコレで味があって好きだがな。

 

焚き火を囲み、羽虫の鳴き声と焚き火の音に耳を澄ませ⋯そして、夕食。風情がイイ。

 

 

(あのペースでこの距離か⋯これなら明日には到着ってのも難しくなさそうだな⋯)

 

 

夕食後。

相も変わらず、ふとしたタイミング出現する缶コーヒーを魔法で作ったマグに移し、焚き火でホットにして嗜みながら、俺は1つ考えていた。

 

急いで向かっていた訳では無いのに、この距離を移動できた事。勿論、いい事には違いないのだが、想定よりも早く進めた為、今後の予定をまだ立てていなかった事に気がついたからだ。

 

このまま問題なければ明日には到着、拠点作りに手を付けるのも難しくなさそうだが、その後はどうするか。

 

「⋯⋯。」

 

 

ここで、俺はしばらく無言になった。

理由は─⋯

 

 

「Zzz─⋯Zzz─⋯」

 

 

夕食後、すぐに眠りについた虎徹を横目で様子を見ながら、ゆっくり立ち上がった。

 

キャンプ開始後、予め用意していた風呂に音を立てないように、静かにお湯に浸かりながら、周囲を見渡した。

 

 

「⋯⋯⋯⋯。」

 

 

⋯─今日の夕方辺りから感じていたんだが⋯ぼんやりと魔力感知に反応がある。遠いのか、それとも魔力が少ないのかは分からないが、どうもつけられている。

 

向こうから攻撃してこない限りは、俺も動きはしないが⋯。

 

ざわめく林が、流れる川の水音が、はたまた羽虫の鳴き声全てが、俺が警戒するに十分な要素となっていた。

 

 

(人間⋯ではないな。感知できる魔力の大きさは、俺と同じかそれ以下⋯)

 

 

つまり、頭から脚元までの高さが1メートルそこらしかないという事だ。仮に人間だとして、身長から子どもである、という予測が立つ訳だが、子どもだけでこの地域に来るというのも納得し難い。

 

⋯⋯。

 

 

⋯むう。

 

 

俺が夜間、ずっと起きてい監視しているのも、正直疲れる。こうなったら、ここら辺に柵でも作っておいて朝まで寝るか。少々面倒だが⋯仕方ない。

 

俺は金属を操作し、俺たちを囲うように外側に棘の着いた柵を作った。

 

風呂を上がり、魔力感知を最大にしながら木の葉を敷いた地面に寝転ぶ。目を閉じると、感じる情報が限定されてより感知が鋭くなったが、それよりも眠気が強く襲って来た為、最後に虎徹を抱き寄せるようにして、俺は眠りについた─⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

⋯─。

 

 

 

 

 

「クエッ!!」

 

「ハッ!?」

 

 

俺は勢いよく起き上がった。

寝起きの頭を手で叩きながら、俺はまた周囲を見渡した。焚き火は灰になり消えている。空を見上げると、既に日が高く昇っていた。

 

 

(随分と長寝をしたらしいな⋯頭が痛い⋯)

 

 

と、次の瞬間、ある事に気が付いて俺の心拍数が大きく上がる事になる。昨日、設置した柵に血痕が残っていたからだ。睡眠により途切れていた魔力感知を展開し、拡張する。周囲に魔物の反応はなし、俺も虎徹にも異常はなかった。

 

虎徹を頭に乗せ、警戒しながら柵に近付いた。

見ると、棘の中腹まで血痕がついている。かなり深く刺さった様子だ。暗闇で棘に気が付かなかったのか、それともかなりの速度でぶつかってきたのか⋯

 

真相は分からないが、感知に反応が無い今のうちにここを離れてしまおう。兎に角、柵を作っていたお陰で俺も虎徹を無事な訳だし、依然、この旅に支障は無い。

 

まぁどうせなら襲ってきて貰った方が返り討ちにして解決だし、楽なんだがな。台車に水を汲んだ箱を新たに積み、再びギフェルタに向かって俺は歩き始めた。

 

 

血痕の主の正体は分からないが、狙ってくるなら夜のうちに俺を仕留めるべきだったな。俺はリーゼノールでの修行で大幅に強くなった。それでも尚、警戒していた理由は単純に寝ている時は無防備だからだ。

 

殺気に気付いて飛び起きれたとして、寝起きの頭で虎徹を守れるかの心配もあったが、ぐっすり寝て日も昇った今となっては、もう大丈夫だ。

 

ストレッチをしながら歩き、脳を覚醒させていく。

今朝は少し慌てた起床となったが⋯良く考えれば、悪くない結果になったな。いい目覚ましになったし。

 

 

「⋯よし、朝飯にでもするか。」

 

「クエ〜」

 

 

俺は干し肉を取り出して齧り付いた。

虎徹には硬すぎるので俺が少し噛み砕いたのをやる。⋯鳥の餌やりみたいでなんか笑える。

 

因みに干し肉の味は塩気のある堅いグミみたいな感じだ。酒は好きでは無いが⋯これを食べると少しだけ欲しくなる気もする⋯なんつってな。ハハッ─⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉああぁあっ!?」

 

「クェ──ッ!?」

 

 

⋯─そして、俺たちは出発後2度目の全力疾走をするハメになるのであった。

 

 

え、原因?

 

まぁ今回に関しては誰も悪くないんだが⋯

 

いや、いるな、悪いヤツ。

 

『この道の周辺は魔物はほとんど居ないから安心してね♪』なんて言ってたヤツが。

 

まぁ冒頭で言った通り、走り回るタイミングが多かったってこの事だ。

 

因みにだが、あと2回俺も虎徹も同じ目に遭う。

ほぼ俺だが。

 

まぁ何とかはなる訳だが、ヒドイよな。

だってさ、あ(作者の都合により削除されました)

 

 

─ 閑 話 休 題 ─

 

 

「「「ガルルルル⋯⋯ッ!!」」」

 

 

というわけで。

今日も今日とて歩き続け、途中で腹が減ったので昼飯にし、再び歩き出してから数時間後。

 

感知に反応があり振り返ってみれば猛スピードでこちらに迫ってくる、黒く、金色の目をした魔物が。

 

 

「ガムナマール⋯久し振りに見たな⋯」

 

 

感知に反応してたのはコイツらか。

数は3⋯やっぱり頭良いなコイツら⋯。少なくとも、自分たちより強い相手と認識しているからこそ、じっくり観察していたのか。俺が寝たタイミングを狙って襲ってきたのも納得だな。

 

 

「ピャ──ッ!」

 

「わかった わかった!頼むから静かにしててくれ!」

 

 

喚く虎徹を宥めながら、俺は悩んだ。

迎え撃つのは難しいし、昨日のプラルトロスの様に咆哮でビビってくれる相手でもない。かと言ってこの荷物。逃げ切れる速度も出せない。

 

そもそも、アイツらリーゼノール辺りじゃあ脚の早い魔物だったし。

 

 

「グルオァッ!!」

 

 

と、1匹が突然飛び掛ってきた。

台車を操作してなんとか躱すが、もうすぐ後ろまで迫ってきている。かなり不味い状況だった。

 

しかも今のを皮切りに、別のガムナマールたちも次々に飛び掛ってきた。右へ左へガムナマールたちへ見事な煽り運転⋯ではなく、止まない攻撃を躱しながら、取り敢えず走る。

 

 

「⋯ん?」

 

 

ふと、視界に飛び込んできたのは、一つの大きな山だった。紫色の不気味なオーラを発している事意外は、見た感じ普通の山。不気味なオーラを発している事意外は。

 

その瞬間、察した。

【死の山】と呼ばれている山がアレだという事に。

 

さて、どうするか。

出来れば次の拠点となる山に問題は持ち込みたくない。が、1度林にに入ってしまえば撹乱ができる。ガムナマールはあくまで平原で狩りを行う魔物だ。

 

つまり、あそこに入ってしまえばもう俺の領域だ。

 

 

(⋯決まりだな。)

 

 

俺はニヤリと笑った。

少しばかり強引に速度を上げ、山に接近する。が、急に魔力感知に異常が発生したのを確認し、後ろを振り返る。

 

見ると、先程まで真後ろにいたガムナマールたちは脚を止めて、俺たちを遠くから睨んでいた。最初は意味不明だったが、その行動を理解するまでに時間はかからなかった。

 

 

「⋯成程な。流石【死の山】と呼ばれているだけある。魔物でも余所者は寄り付かない、という訳か。」

 

 

感知した異常、それはガムナマールたちの魔力が遠のいただけの一つではなかった。もう1つ、異常な反応があったのだ。それはこの山の頂上から発せられるこの圧倒的な魔力。間違いなく、この山を包んでいるオーラの主⋯

 

俺の額に一筋の汗が流れたのであった──⋯

 

 

 

 

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