猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第190話・赴く

「──ホントに」「許して」「もうしない」

 

 正座させた黒竜達が、謝罪とともに頭を下げる。

 ポン、コウ、ツー。三人ともかなり不貞腐れている様だが、二発目の俺の拳骨は嫌らしく、大人しく座っていた。

 やれやれ。ヴィルジールを襲っていた黒い獣の首を狙撃し、大急ぎで駆け付けたまではいいが⋯⋯

 なんでったって、味方であるハズの黒竜キッズ達と睨み合ってたんだ? あと少しで攻撃する所だったぜ。

 

「⋯⋯悪いな。助けられたぜ、紅志」

「アンタ、ピンチに好かれてるんじゃないのか? 若しくは、アンタを助けるってシチュエーションに俺が好かれてるか」

「スマン⋯⋯。俺が実力不足だったばかりに、面倒をかけた」

「そんな落ち込むなって。別に嫌味を言った訳じゃねーよ」

 

 炎輪形態を解除して、俺は両手を腰に当てる。

 地面にへたり込もうとするヴィルジールを尻尾で支えつつ、彼の全身へと☾治療回復(ハイルング)☽をかけた。

 ⋯⋯それにしても負傷が酷いな。火傷に青痣、切創(せっそう)に骨折、まるで怪我のバーゲンセールだ。

 あの黒竜(ポンコツ)達もかなり消耗している様子だし、彼らには戦場を離脱して休んでいて欲しいトコだが⋯⋯

 それより先に、“この状況”に至ったまでの経緯を説明して貰わなくちゃな。

 

「アンタは⋯⋯()()()をどうする気なんだ?」

 

 ヴィルジールに尋ね、視線で指してみせる。

 その先には、うつ伏せで地面に倒れる何者かの姿があった。

 焼け焦げた灰色の包帯が全身に巻き付き、首に空いた傷の孔から血が流れ出ている状態だ。

 詳細は不明だが、恐らくヤツは黒異人(コクト)の特異個体だろう。

 肝心な点は、俺が駆け付けた時のヴィルジールは彼を守ろうとしていた──様に見えた事だ。

 しかし。俺のその考えが正しければ、先程の黒竜達の行動は正常であった事になるワケで⋯⋯

 

「──巨大な赤ん坊に、家族や友人が踏み潰されたとする。

 紅志。お前は、その赤ん坊を心の底から恨み、殺意を持って行動するか?」

「⋯⋯ん?? なんだよ急に?」

「ただの例え話だ。⋯⋯だが、お前の答えを知っておきたい」

 

 ほ、ホントに急だな。

 こんなタイミングでそんな話をするという事は、あの灰色の黒異人(コクト)と何らかの関連があるのだろうが⋯⋯。

 しっかし、巨大な赤ん坊か。

 もしや、“力を持った無知な存在”を暗喩しているだろうか?

 だとすると、あの灰色の黒異人(コクト)がヴィルジールの言う赤ん坊という事で⋯⋯

 そうなってくると、ヴィルジールはあの黒異人(コクト)に因縁があるものの、その正体が赤ん坊ある事に気付いて⋯⋯

 って、なんか深読みし過ぎてるな。

 ヴィルジールが質問した事が実際に起きたとして、俺だったらどうするか⋯⋯。もっとシンプルに考えてみよう。

 

「⋯⋯多分、恨むな。殺意まで芽生えるかは分からないけど、引っぱたきはすると思う」

「うん、まぁ、そうだよな⋯⋯」

「ただ──許す気がする。どれくらい時間が掛かるかは分からないし、もしかしたら結局許せないかもしれないけど⋯⋯。

 赤ん坊は、“良い事”とか“悪い事”とか、そもそも“行動の意味”とか、そういうのも全部分からないし」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」

 

 まぁそんなもんだよなぁ、赤ん坊ってのは。

 赤ん坊を野放しにする親、赤ん坊の近くに居た小さな連中。

 問題なのは、周りの環境だと思う。

 

「俺は、コイツに⋯⋯。住んでいた街と、同じ街の人々と、仲間の冒険者達と──“相棒”を目の前で焼かれた。

 俺がこの決戦に参加したのも、コイツに復讐する為だった」

「──だけど、しなかった」

「⋯⋯!!」

「アンタの答えが正しいかは分からない。⋯⋯けど、一度決断したことなら、それを貫くのが覚悟の示し方だと思う」

 

 ⋯⋯って、自分より年上の男に言う台詞じゃないか。

 まぁどの道 未来の事なんて分からないし、好きな様に生きるってのが俺のモットーだし。

 葛藤しているのなら、ヴィルジールも自由な考え方で物事を見てみて欲しいな。

 

「──コイツは、本当に子どもだった。俺の街を襲ったのも、オーガからの指示があったのと、子どもながらの好奇心と、力を振るう高揚感の結果だろう。何より⋯⋯

 ハハッ。コイツ、たった二回攻撃を受けただけで戦意喪失したんだぜ? 信じられるか?」

「ハッ、まぁ子どもはなぁ。転んで膝を擦りむいた程度で泣き喚くもんだしなぁ。

 大の大人とドラゴン三匹が殺す気マンマンで襲ってきたんなら、そりゃあ戦意も消え失せるぜ」

 

 談笑しながら、共に黒異人(コクト)へ目をやる。

 ⋯⋯瀕死だ。このままだと、ほっとくだけでも死ぬだろう。

 しかし、ヴィルジールはアイツに生きていて欲しい、と。

 

「フッ⋯⋯。アンタが死なせないって決めたんだから、アンタが責任持って面倒見てやれよ?」

 

 そう言って、俺は黒異人(コクト)に手をかざす。

 ヴィルジールと同じく☾治療回復(ハイルング)☽を施してやると、黒異人(コクト)が血の混じった大きな咳をした。

 取り敢えず傷は治したしたので、死ぬ事は無くなった筈だ。

 

「⋯⋯今の、どうやったんだ?」

「ん? 今の⋯⋯?」

「回復だよ。神将ってのは、転送能力に守られているんだろ?

 受けたのが回復魔法であれば、転送能力は発動しないって事か⋯⋯??」

 

 ・ ・ ・ ・ ・ 。

 

 ⋯⋯ん? 転送能力?? 転送能力だって??

 えっ?? まさかっ、この黒異人(コクト)、神将だったのか!?

 見た事が無い神将だし、以前に魔王領域で邂逅した時のアルマの台詞から「ギオス」って事になるが⋯⋯

 って、そんな事はどうでもいい!!

 たッ、倒したのか!? ヴィルジールが!? 黒竜達と協力したとはいえ!??!

 嘘だろ⋯⋯?? そんな馬鹿な事があるかよ⋯⋯!!

 いや、魔王城でヴィルジールが励んでいた鍛錬の厳しさは、遠目に見てたから理解しているが!!

 というか待って!! さっき、サラッと聞き流してたけど、『二回攻撃を〜』って言ってた無かったか!?

 当てたのか!? 神将に!! 攻撃を!?

 

「ど、どういう事だ!!?」

「うおっ、」

 

 ヴィルジールに掴み掛かり、勢い良く尋ねる。

 彼の動揺しながらの説明によると、“転送能力の「隙間」を発見した”との事。

 転送能力は常時発動しているのではなく、攻撃を受けた時に自動で展開する所まではテュラングルから聞いていたが⋯⋯

 テュラングルは、能力が展開するより早く攻撃を当てるのに加え、能力の転送速度を上回る出力での魔力攻撃によって神将の撃破を達成した。

 だがそれは⋯⋯彼の圧倒的な魔力があってこそ成し遂げられた成果だ。

 それに対してヴィルジールは、魔力ではなく技量で追い付いたという。本当になんてヤツだ⋯⋯。

 

「す、すげぇな、アンタ⋯⋯。俺は、幼女のお陰であの転送能力を無力化できる能力があるから、神将やオーガにも色々出来るが⋯⋯」

「あぁ、そういう事か。──じゃあ、さっきコイツを狙撃したのも?」

「コイツ⋯⋯? さっき遠目に見えた黒い獣は、コイツだったのか?」

 

 あ、アカン、アタマイタクナッテキタ。

 兎にも角にも、神将撃破って事でいいんだよな?

 テュラングルから聞いた話だと、本人がアルマを、セシルガがゼトを、グレンデルがラートを倒したって話だから⋯⋯

 えっ。って事は、残り一体だけじゃん、神将。

 

「楽勝⋯⋯。前に幼女もそう言っていたが、まさかここまでとはなぁ」

「ハッ、違わねえな。まぁ、俺はここらでリタイアだが⋯⋯。

 ──勝ってこいよ、紅志」

「ヴィルジール。⋯⋯あぁ、任せとけ!」

 

 力強く握手をして、ヴィルジールの元を後にする。

 あの神将については⋯⋯。まぁ後で幼女とかに相談すればいいだろう。多分、なんとかしてくれる。

 俺は、そろそろ決着を付けに行くとするかね。

 

 親を失った子の。子を失った親の。

 兄姉を失った弟妹の。弟妹を失った兄姉の。

 帰るべき場所を失った者の──。

 

 全てのツケを払わせてやる。

 待ってろよ、オーガ。

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