猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第192話・“蒼炎” VS “天神”①

 ──この世界の太古の時代。

 人生において重要なものを(つづ)ったとされる、“真大経典(しんだいきょうてん)”という書物があった。

 その内容は、全七章からなる架空の物語を通し、人々に人間としての在り方を(おし)えるのものである。

 神であるオーガが、人々の信仰を集める為にセラフに作成させたのが“真大経典(しんだいきょうてん)”だ。

 セラフが考えた、人の生に重要なものは七つ。

 

 思いやる「心」。

 事を成す「力」。

 共に育む「愛」。

 弱者への「慈」。

 分け合う「悲」。

 

 これら五つと、更にもう一つ。

 それぞれを各章の物語の中心に置き、最終章で全てを総合した「結論」に至るのが、“真大教典(しんだいきょうてん)”の全文である。

 

 ──そして、セラフはそれを元に自身の神器を創り上げた。

 

 胴体には、「心」を表す、金色のハート模様が彫られた純白の胸当てを。

 両手には、「力」を表す、金色の(やじり)の装飾が施されている純白の手甲を。

 脚部には、「愛」を表す、金色の翼を連想させる形状をした純白の鎧を。

 右手には、「慈」を表す、金色の涙を両側の刺突部で表現したランスを。

 左手には、「悲」を表す、金色の閉じられた瞳が刻印された丸い大盾を。

 

 真白に輝くセラフの姿は、(まさ)しく天使。

 その輝きに照らされた彼の暗黒の四翼は、(かつ)ての純白の翼が如き風貌へと変化していた。

 “天神”セラフ。その純白の腰当てに(なび)く真紅の三又ローブが荒波を立てる。

 直後、地面を砕く踏み込みと共にランスが突き出され──

 

「❨大地を砕く天槍(グランロゴス)❩!!」

 

 煌めく金色(こんじき)の大刺突。

 巨大な刺突形の魔力塊が、真正面に超高速で撃ち出される。

 全長にして3m強。射線上の全てを撃ち貫く一撃が、先に立つ銀色の竜を目掛けて突き進んだ。

 

「ガルオオアッ!!」

 

 対する銀竜。短く咆哮し、〘火威矛(ビーム)〙にて迎え撃つ。

 衝突する金色(こんじき)と紅色。だが拮抗は生まれず、衝突の直後から技の優劣が大きく決まった。

 神将の刺突技、銀竜の魔力砲──勝者は前者。神将の刺突技である。

 

──ギャリリリリリッ!!

 

 螺旋する魔力砲を、金色の刺突は掻き分けながら進む。

 猛烈な手応えに思わず後退(あとずさ)る銀竜。そしてそれを見逃さず、セラフが追撃に動いた。

 衝突する互い技の左サイドへ踏み出し、轟速で駆け抜ける。

 大盾とランスを構え、更に加速。魔力砲を放っている銀竜の隣まで走り──そのまま数歩分だけすれ違う。

 セラフの急接近に気付き、銀竜が目を見開いたその直後。

 ランスを地面に突き刺し、セラフはそれを軸に180°方向転換(ドリフト)する。

 ダッシュの加速を軸回転によって維持したまま、その勢いを丸盾へと乗せ、そして一撃。

 

「むんッ!!」

 

 ドゴン! という打撃音が響き、鈍い衝撃波が広がる。

 背中を強く叩き付けられ大きく吹き飛ぶ銀竜だが、ダメージ自体は極わずかである。

 しかし問題なのは、吹き飛ばされた方向だ。

 銀竜の正面からは、彼の〘火威矛(ビーム)〙を突き抜けてきた❨大地を砕く天槍(グランロゴス)❩が迫り来る。

 だが銀竜、これに動じず。鼻面を貫く勢いの金色の刺突へ、大きくアギトを開けた。

 そして、切っ先が喉の奥へと突き刺さる刹那、

 

「ン"ン"ッッ!!」

 

 アギトを思い切り閉じる銀竜。

 ガギンと激しい音を立て、セラフの技を受け止める事に成功した。

 そのまま噛み砕こうとした銀竜だが、想定以上の技の硬度にそれを断念。

 首から肩までの筋肉をフル稼働し、力を加えて刺突の軌道を変化させ、背後のセラフへと受け流した。

 そして、セラフが盾を素早く構えた次の瞬間。炸裂した己の技に、彼の姿は消えていった。

 

「ハハーっ!! どうだオラぁ!」

 

 技の残滓。立ち込める金色の煙に向かい、銀竜は叫ぶ。

 晴れてゆく煙から現れたセラフは、丸盾による防御の構えを解いてランスを大振りに薙ぎ払った。

 周囲の煙を吹き飛ばし、ランスをぐるりと回転させて地面に打ち付けるセラフ。

 その後に視線を向けてくる彼だが、不快感を含まないそれに銀竜は困惑する。

 

「──悪くない。俺の技を返すとは、中々やるな」

「⋯⋯ホント、調子狂うぜコイツ」

 

 困惑による冷や汗を流しつつ、両方の拳を固める銀竜。

 フットワークを刻みながら攻防に備える彼に対し、セラフは次なる一手を打ち出した。

 

「──❨災厄を打ち返す護盾(アグウス・リポトスカ)❩」

 

 ズン! と踏み込み、セラフは丸盾から魔力を放つ。

 巨大な金色の丸盾型結界を正面に創り出し、そして軽く笑ってみせるセラフ。

 まるで“打ってこい”と言わんばかりの彼に、銀竜もまた口角を上げて肉薄した。

 一撃、十撃、百撃⋯⋯。加速してゆく拳の連打に、セラフは後退を始める。──が、その表情に焦りは無い。

 この❨災厄を打ち返す護盾(アグウス・リポトスカ)❩の真価は、相手の攻撃を受けてこそ発揮されるからだ。

 盾が受けた衝撃は、結界内を循環しながら蓄積され、一定上に溜まったその瞬間。

 爆弾の様に、一息にエネルギーが解放されるのである。

 

──ボゴォンンッッ!!

 

「うおッ!?」

 

 正面から大きな衝撃を受け、銀竜が吹き飛ぶ。

 全身が浮き上がり、上手く身動きが取れない状態の銀竜に、セラフはランスを肩に担いだ。

 大袈裟なまでに上半身を逸らし、完成させた投擲(とうてき)の構え。

 それを見た銀竜は、右手の人差し指と中指を揃える。直後、セラフが大地に踏み込んだ。

 

「❨星を撃ち抜く(アル・ティナ)❩⋯⋯!!」

 

 投げ付けられたランスが、セラフの手を離れる──寸前に。

 彼の目の前に、小さな三本の炎の槍が飛来する。

 そして炸裂。眩い閃光と強烈な音を放ち、セラフの集中力を僅かに削いだ。

 

「あぶねっ!!」

 

 脇腹を掠めたランスに、銀竜は冷や汗を流す。

 それと同時に、〘紅閃光(スタングレネード)〙が間に合った事に安堵しつつ、地面に着地を済ませた。

 

「ううむ、目眩しか。良い選択をしたな」

 

 瞼を閉じたまま、セラフは言う。

 刹那。敵が主力武器を失った好機を見逃さず、銀竜が超速で肉薄する。

 素早く盾を構え、銀竜の右ストレートを防御するセラフ。

 鈍い衝撃音が鳴り響き、一瞬の膠着が生まれた。

 しかし次の瞬間。膠着を打ち破ったセラフに、銀竜は大いに目を見開く事となった。

 

「❨神器解放❩──“聖なる慈槍(リロラヌス)”」

 

 金色の煌めきが、セラフの右手の中に現れる。

 そこには、涙の形状をした──先程と全く同じ──ランスが握られていた。

 これが、彼の神器の()()。“聖なる慈槍(リロラヌス)”の能力である。

 

 ──慈しむとは、与える事──

 ──与えるには、生み出す事が必要──

 

 “真大教典(しんだいきょうてん)”・第四章における「慈」の解釈だ。

 セラフは、魔族を滅ぼす事を「死を与える」=「慈」として考えていた。

 そして「死を与える」には、それを達成する為の「道具」=「聖なる慈槍(リロラヌス)」が必要であった。

 だが、所詮は道具。永久的に使い続ける事は不可能である。

 だからこそ、セラフは聖なる慈槍(リロラヌス)を「再創造する(生み出す)」能力に特化させたのだ。

 それ故に、(かつ)ての時代において聖なる慈槍(リロラヌス)には、とある異名があった。──曰く、不死身の神器と。

 

「むぅんッッ!!」

「くッ⋯⋯!!」

 

 繰り出される刺突に、咄嗟に飛び退く銀竜。

 意表を突かれたのは、次の瞬間の出来事であった。

 セラフがランスと丸盾を地面に突き立て、両の手から離したのである。

 そして、その行為に銀竜が疑問を抱くよりも早く、セラフは純白の両手甲に金色の魔力を纏った。

 

「❨神器解放❩──」

 

 “真大経典(しんだいきょうてん)”・第二章における「力」の解釈。

 それは、「困難に立ち向かう為に必要な物」というものだ。

 そこから転じて、「手が届かぬ場所へ到達させる物」を「力」として、セラフは神器に能力を付けた。

 即ち、聖なる慈槍(リロラヌス)では届かぬ間合いの敵を、彼方から滅する為の「力」を──。

 

「“希望の力弓(ユグノマリス)”」

 

 弓を構える動作と共に、金色の魔力は形状を変える。

 セラフのやや上空にて巨大な弓の形になった魔力に、彼が弓を引く動作によって金色の矢が出現した。

 セラフが持つ二つ目の神器・“希望の力弓(ユグノマリス)”。その能力は──己の魔力の三分の一を使用して放つ、純粋な破壊の一撃である。

 

「❨明日へと向かう道(ギルディオン)❩!!」

 

 極 光。

 黄金の輝きが、一筋の閃光となって銀竜に迫る。

 

「⋯⋯くそッ」

 

 思わず眉を(ひそ)める銀竜。

 両腕をクロスさせた彼を、金色の光が包み込むのだった。

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