猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第193話・「嘘」

 ──全くセラフめ、滅茶苦茶強いじゃねーか。

 ハッキリ言って、俺の予想の遙か上をいってやがったぜ。

 ⋯⋯これは、温存とか言って勿体ぶる余裕は無さそうだな。

 

「ふ──ッ!!」

 

 蒼炎を爆裂させ、周囲を包む金色の魔力を吹き飛ばす。

 炎装形態の出力を大きく上げた俺は、クロスさせた両腕での防御を解き、地面に着地した。

 

「ふむ⋯⋯。今の一撃を無傷で耐え切るか」

「無傷ではねーよ。ちょっと皮膚がヒリヒリしてるわ」

 

 軽いストレッチをしつつ、両脚を肩幅に広げる。

 目を閉じて息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。

 

──ドンッッ!!

 

 全身に纏う蒼炎。その姿が変わる。

 肩甲骨辺りから二本の火柱が立ち上がり、先端の炎の(うね)りはぐるりと廻って腰の辺りへ帰還。

 背中に二つの蒼炎の輪が完成すると同時に、俺の背後に蒼炎の輪が浮遊した。

 揺らめく影から目測するに、サイズはおよそ1m程だろう。

 仁王襷(におうだすき)の様な二つの炎輪に加え、背後に浮かぶ大きな炎輪。

 計三つの炎の輪からなるこの形態こそ、今の俺の最高到達点である。

 

「──成程。素晴らしい力だな」

「⋯⋯⋯⋯。」

 

 動じない、か。

 先程の、❨ギルディオン❩とか言った一撃⋯⋯。随分と魔力を消費した筈だが、あの余裕は一体どこから⋯⋯?

 能力を強化した俺と対峙してすら、殺気の無い態度と声色を維持している理由は⋯⋯

 

「──問う、燗筒(かんとう) 紅志(あかし)。お前が求める世界とはなんだ?」

「⋯⋯はあ、求める世界だって?」

 

 なんだ、急に。攻撃の為の時間稼ぎか?

 ⋯⋯いや、魔力を溜めている様な気配は無い。少なくとも、派手な攻撃を準備しているとかでは無さそうだ。

 もしや、戦いの最中に本気で相手の理想を尋ねているのか?

 だとしたら、本当にコイツの思考が読めなくなってくるんだが⋯⋯。

 あぁ、もう面倒だ。取り敢えず答えるだけ答えて、仕掛けてきたらそん時に対応すればいいや。

 

「俺が求める世界は⋯⋯。──色んな風景があって、色んな出会いがあって、旅がしたいと思える世界だな」

「ふむ、実に素晴らしい。お前が求めるのは美しい世界、という訳だな?」

「美しいかどうかは気にしないけど⋯⋯。まぁそんなトコかな」

 

 ⋯⋯マジでなんだ、コイツ?

 ついさっきまで戦っていた奴とは思えない程、微塵の闘気も感じられ無いぞ。

 なんなら、このまま友達にでもなれそうな雰囲気だが⋯⋯

 

「紅志よ。オーガ様は創世神だ。お前の望む風景、お前の望む出会い、お前の望む世界を創造出来る御方である」

「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯はあ、」

「この戦いから降りろ。そうすれば、決して手出しはせん。我らと共に、新たな世界を──」

 

──ギュオオオオオンンッ!!!

 

 あぁ、そう。分かった。〘火威矛(ビーム)〙撃つわ。

 御託はいい。頼むから俺の前から消えてくれ。何もかも気に食わないからさ。

 与えれば着いてくると、お前らは本気で思っているのかよ。

 ⋯⋯あぁ。いや、実際にそうなんだろうな。

 

「──お前らが太古の魔大戦で負けた理由、分かったよ」

「なに⋯⋯?」

 

 紅い魔力の残滓の向こうから、影が浮かび上がる。

 丸盾を正面に構えたセラフが姿を現し、不快感を顕にした表情を此方に向けた。

 

「人間が⋯⋯我らを理解するなど⋯⋯笑止。あの戦争を知らぬ貴様が語るな⋯⋯」

「いいや、理解出来るぜ。お前らは、人間に与えるだけ与えた。⋯⋯それだけしかしなかった」

「なんだと⋯⋯? 貴様⋯⋯」

「与えられるだけの人間は堕落する。当然だ。何もせずとも、誰かが何とかしてくれると考える様になるからな。

 創世神? ほぉ! そりゃあ大した名前だな。ソイツなら何とかしてくれると、誰だって思うだろうぜ」

 

 俺を睨むセラフの視線が鋭くなる。

 やはり図星か。殺すぞとでも言わんばかりの眼力だ。

 

「甘えに甘えさせ、縋りに縋らせた。お前らの元には人々が押し寄せた事だろうなぁ。

 だが、だから人間に化けた“悪魔”とやらに かぁんたんに隙を見せ、そんで結局負けた」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯!!」

「“彼らなら何とかしてくれる”と、お前らが人間に与え続け、縋り寄らせたんだぞ?」

 

 だが⋯⋯与えるだけでは、人間は成長しない。

 自らの意志で進まず、自らの足で歩まず、自らの目的地へと辿り着く事は無いだろう。

 

「──人間は弱い生き物だ。故に集団で生活し、それぞれの欠点をそれぞれが補って生きている。

 誰かが発想し、誰かが型を作り、誰かが素材を集め、誰かが作成する。そうやって、それぞれが自分の能力を発揮し合って物事を達成し、人間は進歩してきた。

 全てを与えられて歩みを止めた人間は、進歩なんてしないんだよ。ただ、英雄だの神だのに縋り付くだけだ」

 

 俺の台詞に、セラフは俯く。

 何かを考えている様な表情だが、俺の言葉に心が揺らいでいるとかであって欲しいな。

 

「莫迦な⋯⋯。神が創造し、与えたものより、人間が進化の過程で生み出すものの方が有益だと? そんな筈が無い。オーガ様は──」

「あぁっ、オーガの話を聞き飽きたからいい。ただ、一つだけ訊きたい事があるなら──寧ろお前がコッチに来ないか?」

「こ⋯⋯!! この⋯⋯ッ!!」

 

 豹変ってやつだな。おー、こえー。

 だが⋯⋯本性が知れたお陰で、俺も戦いやすくなったぜ。

 

「ふう⋯⋯。人間、一つ教えておいてやろう。この戦いを始める前から、俺は貴様に称賛の言葉を掛けていたな?」

「ん? あぁ、それがなんだよ?」

「あれは、全て嘘だ」

 

 ⋯⋯だろうな。気付いていたさ。

 主を殺そうとしている奴を、お前みたいなのが許す筈が無かったんだよ。

 今になって事実を言われた所で⋯⋯別に⋯⋯なんとも⋯⋯

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。⋯⋯セラフ」

「なんだ。泣くか、人間」

「⋯⋯お前は、可哀想な奴だな」

「なんだと? 何が言いた──」

 

──ズンッッ!!

 

 一歩踏み込み、俺は構えた。

 セラフの疑問には、答えてやる必要は無いだろう。

 ⋯⋯いや。俺は答えたくない。きっと傷つけてしまうから。

 アイツは、卑怯な手段で自分達を殺した連中と、同じ手段で俺を揺さぶろうとした。⋯⋯確信があったんだろう。

 “自分を殺した手段なら、人間相手には必ず通用する”と。

 セラフ自身が、嘘によって揺さぶられ、嘘によって殺された過去があるからこそ、俺にもそれを⋯⋯。

 本当に、なんて哀れな奴なんだ。

 

「──かかって来いよ、セラフ。真正面からぶっ潰してやる」

「⋯⋯!! ⋯⋯ほざくな」

 

 ランスと丸盾を構え、セラフが呟く。

 決着の時は、そう遠くなさそうだ。

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