──とある宇宙空間にて。
魔王ゼルから逃げ回っていた暗黒神オーガが、大きな異変に気が付いた。
「むっ⋯⋯!?」
「あ? どうした、ジジイ」
背後のゼルを無視し、オーガは転移ゲートを展開する。
自らが「魂の間」と名付けた空間へと入り、オーガは可及的速やかに“
そして気が付く。真なる神、フィリップの存在が認識出来ない事に。
「ば、莫迦な⋯⋯あやつは何処じゃ⋯⋯!?」
何度も周囲を見渡し、オーガは大いに焦燥する。
神ではない己が、神としての力を振る舞えていた理由であるフィリップの存在が消えた──。
それは即ち、アリア側の陣営に彼が奪還された事実を示唆していた。
「お、おのれ⋯⋯!! 一体、いつの間に⋯⋯!?」
「おー、やっと気付いたのか? アイツらも、
「まッ、魔王!? なぜ貴様が“魂の間”に入って──」
ハッとした様子で、オーガは黙り込む。
これまでの出来事を整理し、思考を高速で巡らせるオーガ。
この魔大戦が始まったと同時に魔王ゼルに捕捉され、以降は追跡を巻こうと逃げ回っていた。
宇宙から宇宙へ、世界から世界へと、「魂の間」を利用する事で。
そもそも「魂の間」とは、各宇宙・各世界へと瞬時に移動する為に創り出した空間だ。
稀に、転生者へ力を与える、転生先の選択をさせる等の遣り取りを行う事もある場所だが、基本的にはオーガ専用の移動ルートである。
故にそこへ逃げ込み、更にランダムな場所へ転移する事で、魔王ゼルの追走を振り切ろうした。
ここで肝心なのは、追走が始まってから今まで、魔王ゼルは「魂の間」までは入って来なかった事だ。
「貴様、初めからこの場所へ入って来れたのか⋯⋯!!」
「入れねぇ理由がねぇからな。──もしや、自分で素早くゲートを閉じてるから入って来れねぇとでも思ってたのか?」
「く⋯⋯ッ、若造が、謀りおったな⋯⋯!!」
吐き捨て、オーガはとある宇宙へと転移する。
そこは、魔大戦の主戦場。地球がある宇宙である。
そしてオーガは目撃し、ようやく一連の出来事についての把握をしたのだった。
「やぁ、久しぶり。──オーガ♪」
「アル、ノヴィア⋯⋯」
白い幼女に出迎えられ、オーガは顔を覆う。
彼女の隣に、青白い大きな結晶を見たからだ。
フィリップを封じ込め、彼の神力を思うがままに操れるよう機能する、その結晶が。
「全て⋯⋯お前の計画の通りだったか⋯⋯!!」
激しく憤慨するオーガ。
だが、その額には大量の冷や汗が流れ、彼の中の焦燥を存分に物語っていた。
──世界と世界、宇宙と宇宙の狭間にある『虚無空間』。
いや正確には、寧ろ世界や宇宙の方が『虚無空間』の狭間にある存在である。
その広さは途方も無く、魔王ゼルはおろかアリアであっても全域の探索はほぼ不可能だ。
しかし、その『虚無空間』に存在する「魂の間」であれば、発見はそう難しくない。
そして、オーガは「魂の間」に逃げ込んだ場合、魔王ゼルがそこまで追ってくる可能性も視野に入れていた。
それ故に、一度「魂の間」に入ったとしても、素早く別の世界や宇宙に転移していたのだ。
「魂の間」にいる瞬間に自身の力を感知されたとすれば、その時点で空間がある場所の特定をされてしまう。
だからこそ、オーガは「魂の間」に長く留まらず、転移ゲートの
⋯⋯つもりであった。
誤算は、魔王ゼルだけを警戒していた点だったのだ。
「魂の間」の広さ自体も未知数であり、その中からフィリップを探し出すのは面倒である。
⋯⋯と、そう考えた魔王ゼルは、フィリップの捜索と奪還を予め転生者達に任せていたのだ。
その代わりオーガを追い掛け回す事で、地球側の情勢の把握を遅らせたのである。
そしてその間に、一部の転生者達が黒異種が流れ込んでくる転移ゲートを逆流し、「魂の間」へと侵入。
オーガが地球側に戻ってくる頃には、フィリップの捜索と奪還を完了していたのである。
「──そろそろ観念して、おじいちゃん」
黒瞳の少女が、オーガに話し掛ける。
【転生者】・
白いシャツと赤いリボンの関西襟のセーラー服を身に着け、美しく艶のある黒髪が腰の上辺りまで伸びている。
前世年齢で成人済みだが、容姿は転生当時のままである事に加え、その時の“事件”により服装が変えられない事が悩み。
現在は白厳が所属する『転生者組合』の一員であり、今回のフィリップ奪還作戦の立役者の一人である。
「──もう、充分悪さしただろ。いい加減、罰を受けろ」
響の隣に、薄緑の瞳と髪を持つ青年が立つ。
【転生者】・
白の柄シャツと黒のワイドレッグパンツ。⋯⋯が普段着だが、本日は黒のデニムとレザージャケットに身を包んでいる。
腕輪やチェーンネックレス、十字架の耳飾り(イヤリング)など、本人なりの
『転生者組合』に所属し、響らと共にフィリップの奪還を成し遂げた。
「チィ、転生者共めが、下らん策を⋯⋯!!」
憎悪と憤怒を宿し、オーガはアリア達を睨み付ける。
響や仙牙を初めとする複数の転生者に取り囲まれる中、彼らの作戦に完璧に嵌められた事実にオーガは歯軋りをした。