「──よお、オーガ」
「貴様⋯⋯
俺を見て、オーガは驚いている様子だった。
この状況が飲み込めず、地に伏したまま此方を見上げているその姿は、いつかの俺とそっくり重なる。
俺とオーガが初めて出会い、この世界へ転生する
今思うと、あれが全ての始まりだったんだろう。
俺にとっても、アリアにとっても。──そして、オーガにとっても。
「転生は⋯⋯救いであった筈じゃ。貴様とて、死した後悔より今の生への幸福の方が大きいじゃろう?」
「なんだ、恩があるだろってか? で、見逃して欲しいと?」
「肉体も! 魔力も! 全て儂が与えてやったものじゃ!!
なぜ刃向かう!? なぜ人間とはそこまで欲深い!? なぜ神を受け入れず、言葉に従わぬのじゃ!!」
⋯⋯なんだ、コイツは。
なぜ刃向かうかって? 自分勝手な理由で人類を──多くの家族を、少年や少女やその両親を、俺の友人を殺したからだ。
ごちゃごちゃ言うな鬱陶しい。自己都合に人々を巻き込んでおいて、どうして被害者の様に振舞っている?
どうやったら、どんな風に自分を鑑みたらそんな悲劇的な表情ができるんだよ。
「数多の世界を救ってきた!! 神の救済によって不幸を脱した者達は数え切れぬじゃろう!!
だというのに!! なぜ儂だけが報われんのじゃ!!」
⋯⋯⋯⋯。⋯⋯オーガ。
魔王領域の草原で再会したあの日、ゼルの攻撃からセラフを庇ったお前の姿を見て、ずっと引っかかってた事があった。
何故だかな、あれを見ても許す気になれなかったんだよ。
意外性に目を見開かされたのはあるし、正直に言うなら多少は感動したと思う。
やった事がやった事だからか? ⋯⋯でも、自分でも不思議なくらいにお前を哀れに思えない。
「儂は⋯⋯儂はァ!! 全て世界の為に──」
「お前は黙れーーッ!!!」
頭突きを顔面に見舞い、言葉を
そして、鼻血を流して倒れたオーガが起き上がった瞬間に、追撃の右膝蹴りを鼻っ面へと打ち込んだ。
もういい、下らない。コイツは結局、自分の事ばっかりだ。
因縁はあるし、積もり積もった話もするつもりだった。
⋯⋯けど、もういい。そういうのは、最後に聞く事にした。
「ぐふッ、莫迦な!! なぜ儂に攻撃が当たる⋯⋯!?」
「ふ──ッ!!」
動揺気味のオーガへ向け、『
超加速にて
そのまま左拳の連打による追撃を入れ、〆の一本背負いを勢いよく放った。
「⋯⋯!!」
するりと、オーガが地面を透過する。
⋯⋯いや。オーガが地面を透過したというより、地面がオーガを透過したという表現の方が正しいか。
しまったな、地面に叩き付けるのは悪手だった。
オーガの転送能力を突破出来るのは、俺のこの肉体と魔力だけだ。
即ち、それ以外の全て──例えば大地であっても、転送能力は問題無く発動する。
アイツを倒すには、全ての攻撃を俺自身で行わなくては。
「放せい!!」
「チッ、」
拘束を振り解かれ、思わず舌打ちをする。
想定よりも力が強かった。こうも簡単に手を離させられるとはな⋯⋯。
さて、感情的なのはここまでにするぞ。怒りだけで勝てる相手じゃないからな。まずは静観、そして分析だ。
「いい気になるでないぞ、小童。アルノヴィアや魔王に随分と仕込まれた様じゃが、儂には到底及ばぬ現実を知るがよい」
──シャンッ!!
無数の鈴の様な音色が響き、オーガの背後が輝き出す。
現れた金色の
最も、その働き⋯⋯つまり能力が何かというのは未だ不明なのだが。
「かかってこいよ、クソジジイ。相手になってやる」
フットワークを刻み、全身の蒼炎を滾らせる。
煌々と光を放つオーガは、神を自称するだけあって曲りなりにも神聖な様相だ。
ある意味では底知れなさを感じさせる姿とも言えるが、今の俺にとってそれは恐怖を覚えるものではない。
「愚かな。儂に触れられる事と、儂に勝利する事は別の話じゃと分からぬのか?
如何なる手でアリアが儂を吹き飛ばしたのかは知らぬが、追撃が無い事から推し量るに儂に攻撃出来たのはあの刹那のみ。
つまりは、この世で儂に触れる事が可能なのは貴様一人だけじゃ。そして貴様が死ねば全ては元通りに──」
「それはないだろ。さっきテュラングルから聞いたが、フィリップを奪還された挙句 退路を全て塞がれたらしいな?」
「⋯⋯ふん、知れた事じゃ。策など、いくらでも考えればよい。──貴様を殺した後にな」
再び鈴音の音色が鳴り響く。
直後、オーガの背後に
10mを越える三本の槍は、その鋒を真っ直ぐ俺へと向けている。
あれは確か⋯⋯❨
「──死ぬがよい、
ふわりと空中へ浮き上がり、オーガは俺を見下ろす。
その背後にある金色の槍が、鋒を鋭く光らせた。