猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第201話・叫び

「──よお、オーガ」

「貴様⋯⋯燗筒(かんとう) 紅志(あかし)⋯⋯!!」

 

 俺を見て、オーガは驚いている様子だった。

 この状況が飲み込めず、地に伏したまま此方を見上げているその姿は、いつかの俺とそっくり重なる。

 俺とオーガが初めて出会い、この世界へ転生する()り取りをしたあの時の様な⋯⋯。

 今思うと、あれが全ての始まりだったんだろう。

 俺にとっても、アリアにとっても。──そして、オーガにとっても。

 

「転生は⋯⋯救いであった筈じゃ。貴様とて、死した後悔より今の生への幸福の方が大きいじゃろう?」

「なんだ、恩があるだろってか? で、見逃して欲しいと?」

「肉体も! 魔力も! 全て儂が与えてやったものじゃ!!

 なぜ刃向かう!? なぜ人間とはそこまで欲深い!? なぜ神を受け入れず、言葉に従わぬのじゃ!!」

 

 ⋯⋯なんだ、コイツは。

 なぜ刃向かうかって? 自分勝手な理由で人類を──多くの家族を、少年や少女やその両親を、俺の友人を殺したからだ。

 ごちゃごちゃ言うな鬱陶しい。自己都合に人々を巻き込んでおいて、どうして被害者の様に振舞っている?

 どうやったら、どんな風に自分を鑑みたらそんな悲劇的な表情ができるんだよ。

 

「数多の世界を救ってきた!! 神の救済によって不幸を脱した者達は数え切れぬじゃろう!!

 だというのに!! なぜ儂だけが報われんのじゃ!!」

 

 ⋯⋯⋯⋯。⋯⋯オーガ。

 魔王領域の草原で再会したあの日、ゼルの攻撃からセラフを庇ったお前の姿を見て、ずっと引っかかってた事があった。

 何故だかな、あれを見ても許す気になれなかったんだよ。

 意外性に目を見開かされたのはあるし、正直に言うなら多少は感動したと思う。

 やった事がやった事だからか? ⋯⋯でも、自分でも不思議なくらいにお前を哀れに思えない。

 

「儂は⋯⋯儂はァ!! 全て世界の為に──」

「お前は黙れーーッ!!!」

 

 頭突きを顔面に見舞い、言葉を(さえぎ)る。

 後退(あとずさ)るオーガの胸ぐらを掴み、追加で頭突きを食らわせる。

 そして、鼻血を流して倒れたオーガが起き上がった瞬間に、追撃の右膝蹴りを鼻っ面へと打ち込んだ。

 もういい、下らない。コイツは結局、自分の事ばっかりだ。

 因縁はあるし、積もり積もった話もするつもりだった。

 ⋯⋯けど、もういい。そういうのは、最後に聞く事にした。

 

「ぐふッ、莫迦な!! なぜ儂に攻撃が当たる⋯⋯!?」

「ふ──ッ!!」

 

 動揺気味のオーガへ向け、『不知火(しらぬい)』で肉薄する。

 超加速にて鳩尾(みぞおち)を左肘で打ち抜き、威力が逃げぬ様に腕を掴んで拘束した。

 そのまま左拳の連打による追撃を入れ、〆の一本背負いを勢いよく放った。

 

「⋯⋯!!」

 

 するりと、オーガが地面を透過する。

 ⋯⋯いや。オーガが地面を透過したというより、地面がオーガを透過したという表現の方が正しいか。

 しまったな、地面に叩き付けるのは悪手だった。

 オーガの転送能力を突破出来るのは、俺のこの肉体と魔力だけだ。

 即ち、それ以外の全て──例えば大地であっても、転送能力は問題無く発動する。

 アイツを倒すには、全ての攻撃を俺自身で行わなくては。

 

「放せい!!」

「チッ、」

 

 拘束を振り解かれ、思わず舌打ちをする。

 想定よりも力が強かった。こうも簡単に手を離させられるとはな⋯⋯。

 さて、感情的なのはここまでにするぞ。怒りだけで勝てる相手じゃないからな。まずは静観、そして分析だ。

 ()()はもう入念にしてある。俺は焦らず、好機を見逃さなければいい⋯⋯!!

 

「いい気になるでないぞ、小童。アルノヴィアや魔王に随分と仕込まれた様じゃが、儂には到底及ばぬ現実を知るがよい」

 

──シャンッ!!

 

 無数の鈴の様な音色が響き、オーガの背後が輝き出す。

 現れた金色の円形(光背)には極めて細やかな紋様が刻まれており、魔法陣と同質の働きがあるようだ。

 最も、その働き⋯⋯つまり能力が何かというのは未だ不明なのだが。

 

「かかってこいよ、クソジジイ。相手になってやる」

 

 フットワークを刻み、全身の蒼炎を滾らせる。

 煌々と光を放つオーガは、神を自称するだけあって曲りなりにも神聖な様相だ。

 ある意味では底知れなさを感じさせる姿とも言えるが、今の俺にとってそれは恐怖を覚えるものではない。

 

「愚かな。儂に触れられる事と、儂に勝利する事は別の話じゃと分からぬのか?

 如何なる手でアリアが儂を吹き飛ばしたのかは知らぬが、追撃が無い事から推し量るに儂に攻撃出来たのはあの刹那のみ。

 つまりは、この世で儂に触れる事が可能なのは貴様一人だけじゃ。そして貴様が死ねば全ては元通りに──」

「それはないだろ。さっきテュラングルから聞いたが、フィリップを奪還された挙句 退路を全て塞がれたらしいな?」

「⋯⋯ふん、知れた事じゃ。策など、いくらでも考えればよい。──貴様を殺した後にな」

 

 再び鈴音の音色が鳴り響く。

 直後、オーガの背後に両刃槍(パルチザン)三叉槍(トライデント)戦斧槍(ハルバード)が出現した。

 10mを越える三本の槍は、その鋒を真っ直ぐ俺へと向けている。

 あれは確か⋯⋯❨神の裁き(アルフリンド)❩といった技だったか? 武器の鋭利さ、追尾性、共に恐ろしいものだ。

 

「──死ぬがよい、燗筒(かんとう) 紅志(あかし)よ」

 

 ふわりと空中へ浮き上がり、オーガは俺を見下ろす。

 その背後にある金色の槍が、鋒を鋭く光らせた。

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