──数時間前。
テュラングルとアルマの戦闘に加わった後、ギオスと戦っているヴィルジールの所へ応援に行こうとした時だった。
「しばし待て、紅志」
テュラングルに呼ばれ、俺は足を止めた。
何事かと振り返ってみると、そこには紅と黒の着物を着崩した見知らぬオッサンの姿が。
その人物がテュラングルであると気付けたのは、魔力感知の結果ではなく、男の瞳が龍王のものと全く同じだったからだ。
俺は驚愕した。擬人化したテュラングルは本来の姿よりも遥かに小さく、しかし依然として強大な存在感を放っていた。
「テュ、テュラングル⋯⋯。驚いたな、擬人化するとそんなカンジに──」
「むんッ!!」
ドン、と。衝撃で全身が揺れる。
唐突なテュラングルの掛け声に驚いた俺だったが、次の瞬間には更なる驚きで目を見開く事となった。
テュラングルの筋肉質な腕が、俺の心臓付近に突き刺さっていたのである。
だが、不思議な事に痛みは無く、それどころかテュラングルの表情からは俺への負の感情を感じ無かった。
「──紅志よ、覚えているか。あれは⋯⋯フフ、お前が魔物達に『長殿』と呼ばれていた頃だったな。
我とお前、二度目の邂逅を果たした翌日だ。お前に我の角を喰らわせただろう?」
「えっ、この状態で思い出話かよ。痛くは無いけど、呼吸がしずらいから抜いてくんね⋯⋯?」
「マァ、聞け。──あの時、我の魔力に当時のお前は耐え切れず、魔力中毒で一時的に意識を失ったろう。脆弱だったなぁ、お前は。
⋯⋯しかし、我の見込みは間違っていなかった。お前ならば必ず我の力を制御し、そして己がものとするとな」
懐かしげに話すテュラングルは、どうやら俺の体内をいじっている様子だった。
前に幼女にやられたように、恐らくは俺の魔力変換器官への何かしらの干渉をしているのだろうが⋯⋯
「『炎装』。お前がそう呼ぶ能力の発現は、我も想定していた。
だが、肉体に凝縮して纏うという魔力の使用法である以上、出力を見誤ればお前は全身が内側から破壊されてしまう。
故に、我はお前の体内で生まれたばかりの炎装──もとい、『炎系の魔力式』を意図的に切断していたのだ」
⋯⋯!! 思い出したぞ。
そういえば当時、俺がムサシと名付けた魔物が気絶している俺にテュラングルが何かしていたと言っていたな。
あの時の真実は、テュラングルが言うところの魔力式──魔力式ってなんだ?──の切断をしていたというワケか。
「⋯⋯それで? アンタが今、こんな太い
「うむ。我が隠していたお前の力⋯⋯返すにはここらが頃合いかと思ってな」
あっ、ジョーク通じなかった⋯⋯。かなしい⋯⋯。
“誤解を生むだろうバカモノ!”みたいなノリを期待してたのに。さてはテュラングル、童貞だな? 童貞龍王だな?
「さて、あまり動くなよ。これより繊細な作業を行う」
そう言ってテュラングルは、腕を通して俺の魔力変換器官への干渉を始めた。
具体的に何をされているかは分からないものの、枷が外れていくような、力が湧いてくる感覚がある。
言うなれば、“魔力の出力上限”の天井がドンドンと更新されていっている──そんな感じだ。
「⋯⋯前にも言ったが、相性に恵まれなかった故に別れてはいるものの我はリゼを愛している。情夫など欲してはおらん」
「⋯⋯えっ? あっ、イヤ、違うって! さっきのはただの冗談で⋯⋯」
「誤魔化さんでいい。ドラゴン族では見た事ないが、お前は元々人間だ。彼らの多様性については我も学びが──」
「おまっ、だから違うって! 誤解を生むだろバカぁ!!」
突然なテュラングルのマジトーンに、俺は叫んだ。
リゼさんが複雑そうな顔でコッチを見る中、動くに動けない俺は
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「──なんじゃ、その姿は?」
「カッコつけて“真の姿”と言っておくぜ。まぁ
完治した左拳、右拳、両脚、尻尾、二本角の先端──。
全身に纏っていた蒼炎が、各部位に凝縮する。
全体的に炎は縮小したものの魔力出力は以前のそれを遥かに凌駕し、あまつさえ輝きすら放っていた。
蒼炎の
加えて、背後の炎輪は二回りほど大きくなり、更には内側にもう一つの炎の輪が生成可能に。
仁王襷は炎で形成されていながらも、俺が放つ魔力によって本物の布であるかのように揺らめいていた。
「⋯⋯無駄な事を。そこまでして足掻くか」
「『そこまでして』。お前からみたこの姿は、『そこまでして手に入れた強力な能力』って事だよな?」
「ふん、貴様の都合の良いように解釈すればよいわ。いずれにせよ、これより先にあるただ一つの結果に変わりは無い」
「“儂が勝つ・貴様は死ぬ”だろ。もう飽きたよ」
刀を構えるオーガと対峙し、俺もまた構えを取る。
刹那、顔面真横に“
横一閃、純白の斬撃。それを地面へ尻尾を叩き付ける勢いで上半身を逸らせて回避する。
同時に反撃。オーガの正中線を三連続で狙う前蹴りを打ち出した。
だが、敵もさる者。俺の脚が攻撃の為に伸び切るより早く、一息に間合いを潰してきた。
未だ「蹴り」として完成していなかった脚は“
そして、片脚立ちで不安定であった俺の身体は後ろの地面に倒れ込んだ。
直後、オーガの追撃。純白の刺突が閃光の如く迫る。
俺は倒れた勢いをそのまま利用し、後転から逆立ちに繋げて体勢を立て直して攻撃を躱した。
続け様にブレイクダンスのように回転し、尻尾を振り回してオーガの追撃を牽制。距離を取らさせた。
「⋯⋯なるほど。大口を叩けるだけの事はあるようじゃのう」
「その台詞、そのまま返してやるよ」
オーガと再び対峙するその最中、砂利がばらりと落下する。
それは、俺が三連前蹴りを打とうした際、尻尾を地面に叩き付けた事で浮き上がったものである。
「──❨
オーガが何か唱えると、その背後にあった八つの球体の一つが業火の爆発を起こす。
空へと舞い上がった真紅の火炎は形を巨大な鷹へと変えて、その翼でオーガを包み込んだ。
そして現れたのは、白い頭髪と着物の端々が轟々と燃え盛るオーガであった。
「はっ、偽の神が元人間で魔物の俺の物真似かよ?」
「思い上がるでない。炎を纏う程度の芸当、誰でも出来るわ。
儂の力を真似事と
仁王立ちをして、オーガは“
例えるなら、地面に突き刺す寸前のような独特な構え方だ。
「❨
オーガの背面にある球体の一つ──
そして神玉自ら突き刺さり、真白な冷気が一頭の小さな虎となって刀の周囲を駆け、刀身に飛び込むように一体化した。
なるほど、オーガがあの神玉で行っているのは装備や自身への属性付与か。
防具を
なんかゲームみたいだな。⋯⋯まぁ今のオーガのビジュアルはソシャゲの重課金キャラみたいなモンだが。
──こきんっ
首の骨を鳴らし、オーガを見据える。
あの神玉⋯⋯。一つにつき一つの能力があると仮定すると、少なくともあと六つ何かあると考えるべきだろう。
今後の攻防で使ってこないよう、可能なら神玉の破壊を試みてみるか。
取り敢えず、現状は武器の破壊を目標に立ち回るとしよう。