猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第205話・凌駕

 オーガの鬼赦刀(キフツトウ)が、俺目掛けて袈裟懸けに振り下ろされる。

 白い冷気を纏うその斬撃を、右膝を軽く曲げ上半身を傾けて回避。冷気がひやりと首筋を撫でる。

 直後、がら空きとなったオーガの脇腹へとリバーブローを打ち込んだ。

 

──ガチンッッ!!

 

 異様な打撃音と手応えに片眉が吊り上がる。

 攻撃した箇所を見てみると、俺の右拳が金色の神玉(しんぎょく)に受け止められている光景があった。

 

「むん!!」

 

 燕返し。鬼赦刀(キフツトウ)が高速で斬り上げられる。

 仕方なく大きくバックステップした俺は、右手をぷらぷらと揺らして舌打ちをした。

 どうやら、あの神玉は能力の発動だけではなく、先程のように防御への転用が可能なようだ。

 ⋯⋯って、つまりはオーガが能力として使用している二つを除くと、六つの神玉が防御に回ってくるのかよ。

 なんなら、高速で飛んできて攻撃としても機能される可能性だってあるのか。

 

「ふ──ッ!!」

 

 不知火(しらぬい)を使い、オーガとの間合いを詰める。

 すると、読み通り二つの神玉が迎撃として飛び出してきた。

 

「ふっ、ほっ、よっ⋯⋯と」

 

 躱せど躱せど、神玉は鋭くV字ターンをして戻ってくる。

 前後左右上下。次々と飛来する神玉を回避しつつ駆け抜け、ついにはオーガ目前まで辿り着いた。

 素早く刀を振りかぶるオーガに、俺は間合いを一歩縮める。

 ほぼ密着しているその状態に、顔を見ずともオーガの疑問が察せられる。“近すぎる”とでも言いたいのだろう。

 確かに鬼赦刀(キフツトツ)の間合いは潰せているが、こんな至近距離で大した攻撃が出来るのか、とかな。

 

「はあッ!!」

 

 ズン! と重い音が響き、オーガが遠くに吹っ飛ぶ。

 50メートル程度は飛んでいっただろうか。物は試しでやってみたが、意外と効果はあったようだな。

 オーガが使ったナントカあらてま(?)の炎を纏う能力は、あくまで火属性エンチャントだけらしい。

 俺の炎装と同じく防御力が上昇するとかなら厄介だったが、手応え的にそんな事は無かったな。

 

「ふん、てんで効かぬわ。下らぬ小技じゃな」

「おお、“技”として認識してもらえて嬉しいぜ。なんせ、前世にテレビで観たやつのモノマネだったからな」

「⋯⋯ふん。通りで筋が甘く大した威力も無かった訳じゃの」

「俺も素人だからなぁ。今のは発勁っていうだけどな? 達人レベルじゃないとロクにダメージが入んないらしいぜ。

 まぁ相手が油断したり不意を突かれたりで無防備な時なら、素人でもダメージは入るかもしれないが──っと!!」

 

 言葉を(さえぎ)るように、背後から二つの神玉が飛んでくる。

 一つは尻尾でホームランして、もう一つは鷲掴んで思い切り握り締めてみた。

 ううむ、殴った時に勘づいてはいたが⋯⋯やはり途轍も無く硬い。ビクともしないぞ。

 折角の新強化形態だというのに、亀裂の一つすら入ってくれないのは萎えるぜ。

 

「図に乗るでないぞ」

図星は突けたけどな

「⋯⋯。❨大草薙玄武(おおくさなぎげんぶ)❩、❨青八咫鏡龍(あおやたかがみのりゅう)❩──!!」

 

 またもやオーガが何かを唱えると、俺の手元にあった神玉が深緑色に発光を始める。

 直後、その神玉から爆発するように深緑の濃霧が放出され、大渦を巻いて空中に留まった。

 思わず神玉を手放してしまったが⋯⋯あの大渦が放っているこの感覚、今の対応は正しい気がする。

 

──ウゴゴオオオオオオーーーーッ!!!

 

 渦巻く濃霧の中心。深淵の様な暗闇から雄叫びが轟く。

 と、その瞬間。異変を察知した俺は、正面への警戒を維持しつつ後ろへ振り返った。

 見てみると、遠くの上空──さっき打ち返した神玉が飛んで行った辺り──で、青色の小さな光が点滅していた。

 驚いたのは、その点滅が激しさを増す毎にどこからともなく暗雲が引き寄せられていた事だ。

 晴天であった空は気付けば曇天となり、あまつさえ雷鳴轟く大荒れとなっていた。

 

──ズシンッ!!

 

 何かが叩き付けられるような音が正面から聴こえ、深緑の渦へと視線を戻す。

 そこには、その大渦から飛び出た巨大な前脚が大地を踏み付けている光景が。

 亀の様な、象の様な。或いは大槌の様な──。太く広く丈夫そうな右前脚と思われるモノが出現していた。

 そしてソレは深緑の大渦を押し広げ、続けて左前脚が現れたかと思うと、ついには頭部を覗かせた。

 

「ウゴゴオオオオ⋯⋯⋯⋯」

 

 此方を見下ろし低く唸るソイツは、背後の空に稲妻が走った事で全貌が明らかとなる。

 山の如く巨大で、全身が黒緑の鱗で覆われており、背中には見るからに堅牢そうな黒い甲羅が。

 曇天の暗がりの中で赤い瞳が尾を引き、亀にしては違和感のある鬼の様な二本の角が生えていた。

 

ふうぅぅんんがぁぁああーーッッ!!!

「ウゴオオオ!?」

 

 亀野郎の下顎を引っ掴み、全身ごと引き寄せ持ち上げる。

 掴む箇所を下顎から尻尾へと持ち変え、俺の筋力をありったけ使ってブン回した。

 知った事ではない。どれだけ強いのかも、特殊能力を持っているのかも、実は不死身で倒せないとしても。

 コッチの目的はオーガの撃破ただ一つだけなのだ。

 

「その図体が邪魔だーー!!」

「ウゴオッ⋯⋯」

「むう⋯⋯!?」

 

 俺の100倍はあるかもしれない巨躯を、オーガに向けて投げ飛ばす。

 その直後に飛穿拳(ひせんけん)を亀野郎の土手っ腹に撃ち込み、不知火で加速して肉薄。勢いそのままにドロップキックを繰り出した。

 抉る様に亀野郎の肉体へ飛び込み、最後の壁である甲羅すら粉砕して突き抜けた。

 

「どこまで野蛮な──」

「ぬおらぁあッッ!!」

 

 バキンと痛快な音が響き渡り、周囲の雨粒が吹き飛んだ。

 俺の蹴りがオーガの顔面にめり込んだその一瞬。辺り一面が全てスローに見えたような気がした。

 

「ぐぁはあ!! おのれよくも──」

 

 被弾後、即座に反撃に飛び込んでくるオーガ。

 だがしかし、その動きは想定済み。俺の間合いに自ら入ってくる事は察しがついていた。

 それ故に、もう攻撃の準備は済ませてある。

 

──ズズズンッッ!!

 

 三連の前蹴りが、オーガの正中線を駆け上る。

 鳩尾(みぞおち)、顎、眉間。全ての部位に俺のつま先がクリーンヒットした。

 

「かはッ──むおおおあァ!!」

 

 倒れる直前、オーガが立ち直して斬りかかってくる。

 しかし、それも察しが付いていたので大して焦る事は無い。

 ここは、大振りに斬り上げられた鬼赦刀(キフツトウ)を左手で弾いて──

 

「おおっ?」

 

 思わずピタリと動きが止まる。

 その隙にオーガに距離を取られたが、俺の意識はそれよりも自身の左手に向いていた。

 斬撃の軌道を逸らそうと、冷気を放つ鬼赦刀(キフツトウ)の刀身に触れた刹那の事だった。左手が一瞬で氷の彫像となったのである。

 まぁ氷属性エンチャントの刀っぽいし、直接触れたらヤバいってのはまぁ分かるが⋯⋯

 手で纏っていた炎ごと凍らせるのはどういう理屈なんだよ。

 炎を凍らせるっていうのは魔力でうんぬんかんぬん⋯⋯いやどういう理屈なんだよ。

 

「──成程の、おおよそは理解した。速度に重きを置いた形態のようじゃの」

 

 おお、惜しいな。

 まぁ律儀に“ちょっと違う”なんて言うワケないが⋯⋯思ったより早いニアピン回答だ。

 この形態は、脚力の大幅強化と各部位の更なる硬化で成り立っている。

 純粋な移動速度と攻撃力の上昇は勿論だが、特筆すべきはそれら二つを組み合わせた⋯⋯

 先程のような、不知火を使ったドロップキック等の攻撃技の威力が格段に上がっている点である。

 無論、炎を纏っていない部位の防御力は落ちるものの、その欠点を機動力という利点でカバーする──敢えていうなら【炎迅(えんじん)】形態といったところだ。

 

「おら、来いよジイさん。それとも歳で限界か?」

「莫迦め。己の危機が既に目の前にある事に気付けぬ愚か者に敗れる儂ではないわ」

「俺の危機? 一体なんの──」

 

 ⋯⋯おっと、オーガの発言の意図が分かった。

 これ以上の発言は、俺が事態に気が付けない馬鹿だと思われるからやめておこう。

 

「消してやろう、貴様の命の灯火を!!」

「やってみろジジイ⋯⋯!!」

 

 降りしきる雨が、大地に満ちて溜まってゆく。

 その最中で、俺はただ静かに構えてオーガの初動に備えた。

 はてさて。「環境」を味方につけたアイツは、どれ程の実力を発揮するのかね。

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