猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第206話・暗雲

 氷風。言うなればそんな所だろうか。氷波なんかもいい。

 オーガが鬼祓刀(キフツトウ)を振るうたび、その風圧が水溜まりや雨粒を瞬時に凍らせて波や風の様に迫ってくる。

 成程。さっきの亀野郎で時間を稼ぐ間に、青い神玉(しんぎょく)の方でフィールドを自分有利に整えた訳だ。

 自分の能力に合わせた場所を選ぶのではなく、場所を自分に合わせるとは⋯⋯。いやはや面白い。

 今の俺には到底無理な芸当だが、そういう考え方がある事は頭に入れておこう。

 ただ一つ欠点を挙げるとすれば──効果が発揮されなければ意義も有利も無いって事だな。

 

「おのれぇ⋯⋯逃げ足ばかり長けよってぇぇ⋯⋯!!」

 

 縦横無尽に刀を振り回し、オーガが氷攻撃を仕掛けてくる。

 精彩に欠けているな。ほいほい躱されるのが余っ程 堪えているらしい。

 だって仕方ないだろう、氷の形成速度より俺の移動速度のが上なんだから。

 まぁ確かに、斬撃の一振り一振りから巨大な氷塊が生み出されているのには驚かされたが⋯⋯。

 なんてったって、俺がオーガとの戦い方を学ぶのに相手にしていたのはリゼさんなんだから。

 氷月龍(ひょうげつりゅう)の名を持つ最強格のドラゴンの一体だぜ? 彼女に比べればこんな攻撃、脅威ですらねーよ。

 というか、あくまでリゼさんはオーガの能力を氷で真似していただけだからなぁ。

 実際に氷を使って攻撃してくるなんて想定外だったし、こうして冷静に対処出来ているのは嬉しい誤算だ。

 フフ、どうやら幸運もこっちに味方してくているようだな。

 

「小賢しく逃げ回るなァ!! 小童ーーッ!!」

「そうか? じゃあ逃げるのはやめてやるよ」

 

 笑いを含んでオーガに言い返し、脚の動き止める。

 途端に大小無数の氷塊が飛来してくるが、今の俺にとってはいずれも脅威となるものではない。むしろ好都合だ。

 飛来する氷塊の隙間を縫うように駆け、避け切れないものは殴って粉砕し、オーガへと距離を詰める。

 

「くっ、猪口才(ちょこざい)な⋯⋯!!」

 

 雑に刀を振り回していたオーガが、構えを直して斬り掛かってくる。

 触れたその箇所から凍らせてくる刀だ。弾くのも()なすのも流石に無理だな。

 まずは一太刀目の縦一閃を身を捻って躱し、追撃の振り上げ斬撃が来る前に⋯⋯!!

 

──ガチンッッ!!

 

 刀の柄を右足で踏み付け牽制。同時に左脚で顔面への蹴り。

 これが上手く決まった。バキリと砕ける様な音が、オーガの頬骨の破壊を知らせる。

 ここは追撃の回し蹴りを──っと、神玉が防御に飛び出してきたな。どっかいってろ!

 神玉を蹴り飛ばして改めてオーガへの追撃。といった瞬間、冷気を纏う鬼祓刀(キフツトウ)が首筋に迫り来る。

 

「ふぅんッ!!」

 

 素早く刀身を殴りつけ、斬撃の軌道を逸らす。

 触れた時間はごく僅かだったが、弾くのに使った右拳は既に手の甲まで凍結。内側から鳴り響く様な苦痛が走った。

 

「いっってぇな!!」

「がぁはぁ!!?」

 

 凍った右拳で、オーガの鳩尾(みぞおち)にボディーブローをかます。

 あああ、コンチクショー。めっちゃ痛い⋯⋯けど、一撃でもオーガに入れられるならヨシッ!!

 

「よぉこら、覚悟しろよジジイ」

「ぐう⋯⋯っ!?」

 

 左手で胸ぐらを引っ掴み、右拳でアッパーを打ち込む。

 吹き飛びかけるオーガを左手で引き戻し、続け様に膝蹴りを下顎へと三連撃。

 吐血するオーガを強引に起き上がらせ、締めは右のラリアットを──

 

「この⋯⋯ッ、舐めるでないわッ!!」 

「うおっ、」

 

 纏う炎を爆裂させるオーガに、思わず一歩下がる。

 問題無い、何度も殴って蹴っている。オーガの体力も大きく削れている筈だ。攻撃の手を少し緩めたところで⋯⋯

 

「そうして簡単に手を抜く。それが人間である貴様が儂に勝てぬ所以じゃ」

「なんだと⋯⋯?」

 

 直後、俺は二つの違和感に気付いた。

 一つがオーガの手から刀が消えていた事、もう一つが周囲の氷が全て溶けていた事だ。

 つい先程にオーガが自身の炎を爆裂させたので、それは当然の出来事だろう。

 気になるのは、氷が溶けた事で生まれた大量の水の動きだ。

 地面を満たす水に不自然な流れが生まれるその光景は、巨大な蛇が蠢いて様にも見える。

 ⋯⋯って、おいおいおい。蛇みたいって思った途端にマジで地面から水が起き上がってきたぞ。

 

「ぬんッ!!」

 

 オーガが手を振るうと、三体の水蛇が襲い掛かってきた。

 飛連拳(ひれんけん)飛穿拳(ひせんけん)。どちらも撃ってみたが、欠けた部分が即時再生して効果が見受けられない。

 〘火威矛(ビーム)〙で蒸発を狙ってみるか? それとも全無視してオーガ本体を叩きに行くか?

 くそっ。氷は出してこなくなったが、依然として降り続ける雨のせいで水蛇がどんどん巨大になっていく⋯⋯

 どうせジリ貧だろうし、ここはやはりオーガ本体を叩きにいくか。

 

「──❨天駆雲麒麟(てんくうきりん)❩!」

「⋯⋯!?」

 

 新たにオーガの神玉が、雲を突き抜け上空へと消える。

 直後に閃光。鹿か馬の様な白い光が暗雲から駆け抜けてくる姿が見える。

 その神々しさに思わず意識を奪われる──次の瞬間だった。

 巨大な稲妻が一直線に、俺を突き刺すかの如く迫ってきた。

 

「うおッ!?」

 

 反射的に飛び退く。が、実際には避ける必要など無かった。

 何故なら、そもそもその稲妻は俺を狙ってものではなかったからだ。

 オーガの本当の目的は、三体の水蛇への落雷。即ち、電気を通す水の性質を利用した──帯電水蛇の完成であった。

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