猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第208話・揺らぐ心

「この世界を滅ぼさんとする儂、それを阻止するべく立ち向かったオヌシ⋯⋯。一方から見れば悪者と英雄じゃろうな。

 じゃが、哀れなるかな。この世界そのものが悪である事をオヌシは知らぬ。

 気に病むことなど無い。全ての元凶はかの星廻龍アルノヴィアなのじゃ。

 オヌシは愚かではあったが、己を丹念に練り上げこの儂に挑んで来た。賞賛に値する、実に見事じゃ。

 次なる生、次なる世界での幸福を願う。消えるがよい、命の灯火よ」

「──ぐあがあああああ!!」

 

 ⋯⋯視界が真っ白だ。

 意識的な話じゃない。現実として、目の前が眩い閃光で覆われている。

 結局、オーガが溜めていた麒麟の一斉特攻をまともに食らってしまった。

 ダメージは無い。全身が激しく痙攣して、出そうとする言葉が悲鳴の様に変わってしまう被害を除けば。

 

「──嘗ての世界は美しかった⋯⋯。人は神への信仰によく励み、そして共に戦ったのじゃ。

 病に伏していた老人も、我が子のいる母親も、幼子でさえ、救世神の導きの元に命を掛けて戦った」

「ぐあぐぐぐ⋯⋯!!」

 

 降り注ぎ続ける雷撃の中、オーガの言葉だけは不思議と鮮明に聞こえる。

 極めて苛立つ。だがしかし、言葉が上手く発せられない。

 

「──信仰とは素晴らしいものじゃ。

 共通した目的の達成の為、これまで一つの繋がりも無かった者達が一丸となって臨む⋯⋯。人間は美しい生き物じゃった。

 しかし、今の世の人間はどうじゃ? 嘗て争った悪鬼羅刹と手を組み、共に暮らし、信仰など忘れ去った。

 果ては、救世神すら忘却の遥か彼方じゃ。人間を導き続け、世界を救うべく全てを犠牲にしたこの儂が!」

「んん⋯⋯がああ⋯⋯⋯!!」

「世界は腐敗してしまった。⋯⋯恐らく、儂があの忌まわしい魔族共に封印された事が原因なのじゃろう。

 封印される事がなければ、儂は人間を正しく導き、理想の世界を創造していた筈じゃ。

 フィリップが神の代わりとなっていたのも、空白を埋める為やむを得なかったと考えられる。

 世界は⋯⋯嘗ての美しさを取り戻すべきなのじゃ。そうでなくては、誰もが報われ──」

「うる⋯⋯がああ⋯⋯せえ⋯⋯なあ!!」

 

 やっと喋れた。世界を破壊する御託をグダグダ並べていたようだが、耳障りったらありゃしねーよ。

 何様の目線で話をしている? 黙って聞いてれば、「儂は被害者、儂は可哀想、儂は報われない」ばっかじゃーねか。

 どうでもいいんだよ、そんな事は。

 

「失態を犯した自分のケツをアリアに拭かせておいて、その結果が気に食わないからと謎にキレて、なのにそんな相手の力を奪って好き勝手⋯⋯。今まで恥を感じた事はねーのか?」

「全ては世界を救う為。人間の尺度では理解など到底出来ぬ」

「ぐあッ、この⋯⋯。図星みたいだな? あからさまに電撃の勢い上げやがって⋯⋯!! この際だから、俺が教えてやる」

 

 オーガの顔色が変わった──ような気がする。

 どんどん強くなっていく雷撃は、アイツの感情を丸写ししているようもに感じられた。

 

「──お前は魔族との戦争で敗北して!  アリアはお前が出来なかった事を成し遂げて! 新しい神にはフィリップがなって! 今のお前はみっともない老人で! 小童相手に論破されそうだからヤケになっている!!」

 

 言い終えた直後、特大の落雷一閃が俺へと落ちた。

 訪れる静寂と暗闇。鼓膜が破れたと同時に失明したらしい。

 だが、それも一瞬の事だ。アリアに貰った超速再生の能力は未だ健在なのだから。

 鼓膜は既に再生して──視力の回復はまだか、遅いな。

 これは、失明が治るのを待つより今の目を潰して新しく目を作り直した方が時短になりそうだ。

 じゃあ、ぐしゃっとな。うほー、いってー。

 

「貴様に⋯⋯貴様に神の何が分かる」

「あ? 理解なんてトーテー出来ねぇようだから適当に言ってみただけだが? 真に受けんなよ」

「儂に出来なかった事をアリアが成し遂げたじゃと⋯⋯!? 違う!! 完遂直前であった神の仕事をあやつが引き継いだだけの事じゃ!!」

「そうかよ。んじゃあ、そういう事でいいんじゃね?」

 

 治った両目で、オーガを見やる。

 目を血走らせて歯軋りをしている老人は、怒りが邪魔して言葉が出ないらしく、見ていて滑稽だった。

 しかし、年の功というやつだろうか。深呼吸したオーガは表情を元に戻してみせる。

 そして更に電撃を強めた上で、俺を見下ろしながら静かに口を開いた。

 

「──自分が特別である、と。貴様は考えているのじゃろう。

 疑問は浮かばなかったのかの? 貴様のその力が、本当に貴様自身のものであったのか。

 その力の根源は、儂が与えてやった。その肉体には、儂が転生させてやった。

 ⋯⋯あぁ、しかしそれを磨き上げたのは己の努力であると、こう考えたじゃろう? では、こうも考えられぬか?

 その努力すら、他人に与えられた道筋を辿っていただけであった、と」

「なに⋯⋯?」

「勘違いするでない。その道筋を描いたのはこの儂ではない。

 貴様もよく知る者⋯⋯。そう、星廻龍アルノヴィアじゃ。

 貴様はただ、あやつが描いた「努力」という名を騙った成長の近道を、何も知らずに通ってきただけの事。

 出会いは、出来事は、あらゆる事象は、全て仕組まれていたのじゃ。

 アリアも魔王ゼルもこの世界も、貴様という人間を求めていたのではない。誰でも良かったのじゃ。

 貴様は、あやつらが求めていた所に偶然転生しただけ。その存在価値はただ一つ、儂を殺すのに利用できるのみじゃ」

 

 ⋯⋯? こいつは⋯⋯長々と何を言っているんだ??

 馬鹿なヤツだとは常々思っていたが、そこまで馬鹿だとは想定外だったぞ。

 俺がお前と戦っているのは、誰かに指示されているからだと思っているのか?

 「昔は神だった」という存在価値を自分に付けてるやつが、他人から他人への存在価値がどうとか言えるのか?

 そして──そもそもだが、転生してから歩んできた道筋が用意されていたものだった事を、俺が知らなかったとでも?

 その道筋を俺が楽しんでいた事は?

 出会いを仕組めても、関係の構築は自由意志であった事は?

 今日ここに俺が居るのは、お前を倒して真に自分の道を歩む為であるという事は?

 何も知らないくせに、俺の全てを知っているかのような口ぶりはやめてもらおう。

 ⋯⋯オーガ。人に揺さぶりをかけるという事は、自身にそれが返ってくるのも覚悟の上なんだろうな?

 

「──オーガ。俺の存在価値がどうたら、とか言ったな?

 じゃあ聞くが、お前にとって存在価値がある者とはどんなヤツの事だ?」

「下らん延命じゃな。しかし答えてやろう。存在価値とは、有能で勇敢で知性のある強き者の事じゃ。

 他人に求められて動くのではなく、ある道を己が突き進んだ果てに他人に求められるような──」

「例えば、お前の奴隷である天使とかがそれか?」

「奴隷じゃと⋯⋯? 違う。あやつらは儂の忠実な部下であると同時に仲間であり同胞じゃ。

 存在価値のある者としては無論当てはまる。あのセラフについては友と言ってもよい」

 

 ⋯⋯だろうな。

 あのセラフが、最期まで主の為だと言って戦い散っていったんだ。それほどの関係があっても驚かないさ。

 はあ⋯⋯本当はこんな事したくないな⋯⋯。

 オーガは数え切れない人間を──父親や母親を、兄や姉を、弟や妹を、もしくはその全てを殺した外道だ。

 けど⋯⋯それでも、友の友であった相手にこの手の揺さぶりをかけるのは善性が止めてくる。

 恨むぜ、オーガ。あんな良い奴を自分の思惑に巻き込みやがって。

 

「──セラフは死んだぞ。俺が殺したから」

 

 オーガが、セラフの死を知らない確信があった。

 オーガとセラフの信頼関係。それは互いにとって列記とした真実のなのだろう。

 だからこそ、俺との戦闘が始まってからオーガはずっと俺を殺す事に集中していた。

 

 ──セラフならばどこかで戦闘中なのだろう──

 

 そう信じていたからこそ、不安や心配など無かった。

 目の前の敵、俺との戦闘にも専念が出来た。

 ⋯⋯オーガがそんな風に考えていたと推測すると、違和感の無いストーリーが展開できる。

 故に、オーガはセラフの死を知らなかった筈なのだ。

 そしてそれは⋯⋯

 

 

 

「──────セラフが⋯⋯?」

「⋯⋯⋯⋯。」

 

 確信から事実へと変化した。

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