──黒異種による大襲撃では、多くの街や村が被害に遭い、現地では今もなお懸命な復興が続けられている。
明日になれば、大襲撃を含めた今日までの記憶が書き換えられる訳だが⋯⋯
それに際して、損壊・壊滅した街や村も元あったように復元される手筈となっている。
しかし、そうなると──例えば、人口100人の村があったとしてだ。
大襲撃によって村が被害を受け、人口が70人にまで減ってる状態で、以前と同じように復元すると⋯⋯?
なんとまぁビックリ。“何故だか30人分くらいの余分な空き家・空き部屋があるくないか?”と、なってしまった。
書き換えられた過去の記憶と、問題が無かったテイで進んだ現在の風景や情報⋯⋯。
そこに、大きな大きな違和感という“穴”が生まれてしまったワケだな。
──んで、そういった要素が発生しないよう、幼女や白厳が考えた策がある。
全ての街や村を纏めて復元させるのではなく、主要な場所に数を絞った上で、そこに人々を移動させようというものだ。
記憶の改変によって、本来そこに住んでいなかった人々が“元々この街が故郷である”と認識するようにする感じだな。
そうする事で、まぁひとまずは違和感が生じる事をなくし、8年後の時間の回帰によってあれこれ解決。の、予定だ。
それじゃあ、かくかくしかじかを含めておさらい。
時間の回帰=世界のやり直しは8年後。オーガ関連の死者もその際に復活。
ただし、冒険者やそれに関わる役職者については、既に順次生き返らせ中。理由は激動の時代が訪れるから。
街や村は全てが復元される訳ではなく、8年後に諸々纏めて元通りになる。
明日の記憶改変により、ここ半年程度の出来事は世界の大半の者達から忘れ去られる。整合性をとるため微調整アリ。
なお、これまでの死者は8年後に復活するものの、これから8年後までの死者は除外される。幼女曰く、甘えんな。
これらオーガ関連の一件は一般では秘匿⋯⋯というかどの道記憶は無くなるが、知人の何人かは記憶を保持するらしい。
知っている限りでは魔王軍のメンバーと、エスキラ、ギルバート、セシルガ、セイリスの冒険者ギルドの面子だな。
あとはドラゴン族とかか。まぁ今回の件が完全に忘れ去られる訳ではないって話だが──⋯
「⋯──あ、そうそう。話は変わるんだが、俺の個体名が【鬼竜ベニル】ってのに変更されらしい。イケてるよな」
「⋯⋯。⋯⋯⋯⋯。⋯⋯⋯⋯⋯少し、考える時間をくれ」
長話に一区切りをつけると、頭を抱えたヴィルジールが机に突っ伏した。
ギルバートやガバンにもこの話をしてきたところだが、同様のリアクションをしていたな。
彼らには色々詳細を話し終えたので、まずはヴィルジールの家に顔を出したんが⋯⋯
ふむふむ、流石に情報過多だったようだ。こりゃあしばらく考え込みそうだな。まぁじっくり思案してくれ。
いやあ、しっかし【鬼竜ベニル】ねえ⋯⋯。手違いでそんな名前に決まっちゃいましたって?
んん〜、ちょっとカッコいいかもなぁ〜っ?? ぐふふっ。
まぁまぁまぁ、あくまでね? 手違いですから。本来なら、イチャモンを付けるトコですよ。
ただ? まぁ? なんか響きが良い感じだし? 今回は特別に許してやるけどな??
「──ふう。それで、なんでそんな話を俺に?」
「ん? ああ、そりゃあな。ヴィルジールだって、魔大戦には随分と深く関わった冒険者だろ?」
「まぁ、な。お陰様で、王都クローネのギルマスが直々に冒険者ランク昇格の話を持ち込んで来たぜ」
「だろだろ。⋯⋯だからさ、個人的にアンタもいいんじゃないかって。今回の一件、その記憶を保持していても」
僅かに見開いた目で、ヴィルジールが顔を上げる。
少し喜びが感じられるのは、魔王城の積み上げた経験や実力が引き継げるからだろうな。
現に俺だって、幼女に記憶を保持するかどうかの話をされた際、その理由が大きかったから断った訳だし。
ここだけの話、魔大戦の記憶については、保持させる相手を俺が選べる事になっている。
俺が「魔大戦」という単語を発し、記憶保持をするかの質問した上で、相手が肯定か否定すればそれが適応される流れだ。
ガバンは面倒そうだからと断ったが、ギルバートは記憶を引き継ぐとの事だった。
どうやら、前もって記憶の保持うんぬんの話はエスキラから聞かされていたようで、初めからそのつもりであったらしい。
例のギオスの管理も委ねられているようで、諸々を覚えていた方が都合が良いと言っていた。
まぁ兎にも角にも、なにはともあれだ。
世界の記憶改変は明日っ。明日になれば色々大体元通りっ。
という訳で、今のうちにヴィルジールにはどうするか決めて欲しいのだっ。
「──勿論、経験は引き継ぐぜ。でなきゃ、あれだけティガに扱かれた意味が無くなる」
「ははっ、死ぬほど殺されかけてたもんな。それを忘れるのは流石に勿体ねえ」
壮絶な鍛錬の日々も、今となっては笑い話。
お互い、これからの目標やら取り組みやらについての談笑が弾んだ。
しばらく話し込んでいると、俺の魔力感知に此方へ接近するいくつかの魔力反応があった。
ヴィルジールも気が付いたようで、共に玄関へと様子を見に行く事に。──そして扉を開け、
「あっ!」
思わず、大きな声が出た。
少し呆れ顔のシルビアと、かなり気まずそうなサンクイラ、サンクイラに抱えられる虎徹──と、更に更に。
以前、ここベルトンで会った冒険者の面々が、神妙な表情と様子で集合していた。
冒険者ランク“ゼクス”。王都クローネを襲撃した魔物および黒異種の群れの迎撃に当たった者達である。