猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第27話・龍の力の片鱗。

 

 

 

ここはギフェルタ。

以前は『死の山』なんて呼ばれていた物騒な所だ。

 

まぁそれは過去の話。

今日も今日とてギフェルタに住む魔物達は平和に暮らし、ここで長をやっている俺自身も、のーんびりと過ごしていた。

 

昨日は冒険者達の襲撃があって、それの対処や後片付けなどで疲労が溜まった俺は、事が済むなりすぐに眠りについたのだった。

 

 

「貴様ァ⋯!」

 

「誠に申し訳ありませんでした⋯」

 

 

と、言う訳で。

俺は昨日の手合わせ中断後、ギフェルタに一時帰宅してから、テュラングルの元へ戻って手合わせ再開という流れを完全に忘れ、今日の昼までぐっすりとムサシと寝ていた所で痺れを切らしたテュラングルが襲来。

 

咆哮による爆音で叩き起され、今に至る。

因みにその影響でギフェルタの大半の魔物たちは気絶した。

 

 

「我の善意を踏み躙りおって⋯」

 

 

ぶっちゃけ、翌日まであの場で待機していたと思うとかなり天然な奴だが、これでも火龍の王という肩書きがあるヤバい奴だ。ギフェルタを火の海に沈めなかっただけありがたいと思っている。

 

 

「わ、悪かったって。今から再開でもいいぞ?⋯⋯ここ以外の場所で」

 

「言ったはずだ!我は多忙なのだ!無理に時間を空けて貴様を探し出したと言うのに⋯⋯」

 

 

あ、これアレだ。

怒ってるんじゃなくて、拗ねてるんだわ。暇を作って遊びに来たはいいけど、俺の用事をテュラングル自身が優先させたから、強く言う事ができなくなっててショボーンみたいな?

 

なんだよ、可愛いなオイ。

 

 

「⋯⋯まぁよい。貴様の力が短期間で大きく増したのは事実。再び相見えた時、どれ程の力をつけているか楽しみにしておるぞ。」

 

「どうも。⋯⋯本当に悪かったな」

 

 

どうやら、今日の所は見逃してくれるらしい。

テュラングルは溜息をつきつつも、不満げな顔を解いた。寝起きで壮絶なバトルが始まる覚悟をしていた俺は、肩の力を抜いて寝転んだ。まだ眠いのもあったし、テュラングルも離陸の準備を始めた事だしな。

 

⋯と言うか、よくあよ巨体でこの林の中に着地できたな。

ホント、器用な奴だぜテュラングル。

 

 

「⋯⋯時に、」

 

「?」

 

 

翼をはためかせていたテュラングルが、何か思い出した様に動きを止める。周囲をキョロキョロと見回した後に、とある物を鉤爪で指した。

 

それは、俺がギフェルタに来た時に適当に停めていた台車だった。リーゼノールで集めておいた調味素材が積んであるが、はて?テュラングルが気にする程の物って積んでたか⋯?

 

 

「そこから我の魔力を感じる⋯⋯どういう事だ」

 

「⋯⋯あー『アレ』のことか」

 

 

そういえば1つだけあった。

リーゼノールでの戦いの後、目を覚ました俺が拾ったアレ。

 

俺は台車から一つ箱を降ろし、テュラングルの前で開けて見せた。中身はそう、鱗だ。

 

 

「⋯⋯貴様、何の為にこんなモノを」

 

「いやぁ⋯まぁ素材としても優秀だし、俺ってば訳あって街に行くんだよね、人間の。そん時に─⋯」

 

 

俺はテュラングルに色々話した。

まず、武器として利用しようと考えていた事。これはまぁ結局ナシになったな。俺は殴り合いの方が好きって気付いたし。

 

もう1つは、人間の街に行くのなら当然必要となるであろう『金』。テュラングル程の魔物から取れた鱗なら、そこそこの値段は着くだろうと思い、取っておいたと事情を聞かせた。

 

 

「⋯⋯待て、人間の街に行くだと?」

 

 

⋯やっぱり、こーゆー反応になるよな。

どう説明するかな、俺のアレコレを。幼女に言われたから、その通りに行動してる⋯なんて、馬鹿にされる未来しか見えないんだが。

 

⋯うーん、しかしそれが事実。

ここは素直に言うしかないか。

 

 

「実は⋯とある幼女に」

 

「何ッ!?」

 

 

爆風。

テュラングルがその巨体で迫り、俺の目の前で急停止した事によって押し出された空気の塊が、強烈な風となって俺と周囲の木々を煽った。

 

血相を変えて迫ってきたテュラングルに、俺は数歩後退りしてから質問をした。

 

 

「し、知り合いかとかか?」

 

「⋯⋯貴様⋯いや、まさかな。⋯⋯だが、もしや」

 

 

独り言を、俺を見つめながら呟いているのだから恐怖だ。

しばらく1人で考え込んだ後、テュラングルは俺の持っていた鱗を手に取って俺の前に差し出した。

 

そして一言。

 

 

「食せ」

 

 

俺は、絶句した。

拾ってからかなりの時間が流れた物だったし、何よりテュラングルが真剣な眼差しで言ったので、冗談ではないと悟ったからだ。

 

 

「ッス〜⋯⋯⋯⋯⋯──なんで?」

 

 

俺は素で思い付いた言葉を、そのまま放った。

テュラングルは俺の返しが意外だったのか、僅かに目を見開いてから、数秒無言になった。その間、俺は気まずい空気をどうにかやり過ごそうと、テュラングルから目線を逸らして空を眺めた。

 

 

「話をしてやる」

 

「えっ?」

 

 

意識が空を舞っていた俺は、テュラングルがなんと言ったか聞き取れずに、反射的に出た声で応答した。間抜けな俺に構う事無く、テュラングルは話を始めた。

 

 

「敢えて、全てを話す事はしない。お前が()()()()()に、巻き込んでしまうからな──⋯」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⋯──仮に、貴様が『そう』だった場合の話をする。

 

貴様が言ったその幼女は、人間が『白龍』と呼ぶ者だ。

 

彼女はこの世界に迫る危機をどうにか食い止めるべく、今この瞬間も戦っている。

 

相手は⋯⋯⋯まだ言えん。

まあそこはいいとしてだ。

 

問題は、貴様が彼女と接触がある点だ。

それが示す事は1つ。

 

彼女が貴様を『仲間』として見ているという事。

貴様は恐らく、彼女から様々な支援を受けている筈だ。

 

それならば⋯⋯貴様が人間の街に行くという事に何か口出しをする気は無い。

 

だが、彼女が貴様を支援すると言うのなら、我も貴様を手助けをしない訳にはいかん。

 

我も、その白龍の仲間なのだ。

⋯⋯今はその情報だけでいい─⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯─分かったか?」

 

「え、いや⋯⋯全然」

 

 

長々と説明を受けた俺だったが、未だその内容を整理する事ができていなかった。だが、デュラングルの言う『彼女』と俺が知っている幼女は、同一人物である可能性が高いという訳だ。

 

そして⋯話の流れ的に、テュラングルは俺に支援をしてくれる⋯って事か?

 

それって強くね?

例えば、俺の旅に同行してくれるとか?

 

 

「理解できずともよい、今はな。⋯⋯しかし、あくまで確証がない以上、我にできる支援には限りがある。⋯⋯そこでだ」

 

 

そう言って、テュラングルは先程の鱗を俺の目の前に置いた。

 

 

「我の力の一部をくれてやる。その鱗を喰らえ。今後、貴様の力の一部となり、より強力な魔物として昇華できる筈だ」

 

「は、はぁ⋯」

 

 

困惑を隠せない俺を見て、テュラングルは溜息をついた。

そして、何を思ったのか自身の角に手をかけ、短い掛け声と同時にへし折ったのだ。

 

突然の奇行に俺は驚いたが、その心配は空振りする事になる。

瞬きする間に折れた角は再生し、何事も無かったかのようにテュラングルが振舞ったからだ。

 

 

「その鱗はカネにするなり好きにするがいい。⋯その代わり、コチラを喰らってもらう。」

 

 

聞けば、ドラゴンの角には魔力が集中しているとか。

古い鱗を口にするのを嫌がっていると思ったのか、新鮮な部位を提供してくれたようだ。

 

そういう問題ではないんだが⋯⋯

まぁ今まで色々食べてきたし、これくらいどうって事無いか。テュラングルも善意でくれるっぽいし。

 

それに⋯⋯テュラングルの話が真実なら、俺は大幅にパワーアップできる。以前、クラフト・ラオプで力を奪った時でさえ、あの能力の上昇度合い。

 

直でテュラングルの力を摂取したら⋯間違いなく、強くなれる。ここは、覚悟決めるか。

 

 

「⋯⋯いただきます」

 

 

俺はせめて一瞬に感じれる様に、目を閉じて勢いよく角を口に放り込んだ。異変は、噛み砕いだ直後から大きく起こった。

 

 

「⋯ウ⋯ッ!?!!?」

 

 

何だコレ!?

味はしないが、とてつもなく『重い』!いや、それ以外に表現のしようが無い!なんの重さだコレ!?

 

⋯あ、ヤバい。

意識、が⋯⋯⋯⋯⋯途切れ⋯⋯⋯る──⋯

 

 

 

 

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「⋯⋯!⋯サ⋯ノ!⋯長殿!」

 

「ハッ!?」

 

 

ムサシの呼び声によって、俺は飛び起きた。

日は落ち、既にギフェルタは緋色に包まれている。予想通りだったが、既にテュラングルの姿は消えていた。

 

ムサシがテュラングルから伝言を預かっていたらしく、詳しく聞かせてくれた。

 

 

「あの方⋯⋯テュラングル様が言うには、アカシ殿が気を失った理由は、強大な魔力を一度に摂取した事による、所謂『魔力中毒』という症状だとか⋯⋯」

 

「そうだったのか⋯⋯というか、テュラングル『様』?」

 

「ぁいえ⋯⋯アカシ殿が倒れた後、貴方に何かしようとしていたのを止めようとした所、キレられまして⋯⋯」

 

 

あー、成程。

どうせアイツの事だし『貴様なんぞに軽々しく呼ばれたくない』とか、『呼び方に気を付けろ』的な理由で、ムサシを脅したんだろう。ムサシも頑張ったと思うが、まぁ相手が相手。

 

コレは仕方ない。

 

 

「因みに、何をしていたか分かるか?」

 

「残念ながら、翼で隠されてしまって⋯」

 

 

うーむ、そうか。

テュラングルの事だから、俺に危害がある様な事はしないと思うが、気になるな。

 

だが、分からないなら仕方ない。

今は魔力の確認といくか。

 

 

「少し離れてろ、魔力を試してみたい」

 

 

即座に飛び退いたムサシが『想定安全圏』まで移動したのを確認してから、俺は目を瞑った。

 

 

 

──────⋯⋯⋯。

 

 

 

────⋯⋯。

 

 

 

──⋯うん。

 

 

まず第一に、魔力感知の精度が桁違いに上がっている。

今迄は、大まかな形と魔力の大きさを把握するのがせいぜいだったのが、今はサーモグラフィーの様に輪郭、魔力の濃さ、僅かな動きまで把握できる。

 

感知できる距離も、かなり広がっているな。

強いて言うなら、この精度で魔力感知の出力を保とうとするとかなり疲れるって事くらいか⋯⋯大した問題ではないな。

 

さて、次は金属の生成だな。

 

 

「⋯⋯魔力操作、金属生成、槍状に変形!」

 

 

ワンステップ毎に声を出してみるが、それは何となく何時もと違う感覚だったからだ。勿論、良い意味で。

 

全てが完璧だった。

操作のしやすさ、生成・変形速度、そして何より金属の強度。

今までの魔力使用が水中運動だったかの様な軽やかさだった。

 

俺はギフェルタを降り、適当なサンドバックを探した。

一刻も早く力を試したかった俺のターゲットとなったのは、数km先に見えた岩山だった。

 

標高がおよそ1000m程の山だったが、俺はそこに狙いを定めて槍を構えた。明確な理由は無かったが、今の俺ならイケるという自信が、心の底から湧き上がってきていた。

 

 

「──ッ⋯!」

 

 

投槍、一閃。

強大な魔力によって俺の身体能力すらも大きく上昇していた。ものの数秒で音速に達した槍は、圧倒的な強度によって崩壊する事は無く、岩山に向かっていった。

 

しかし、俺は直ぐに自身の過ちに気が付いて頭を叩いた。

 

 

(やからした。あんな勢いよく槍を投げても、この距離からじゃどれくらい威力あるか確認できないぞ)

 

 

かと言って、他に容易に試せる場所もナシ。

諦めて別の方法で魔力を試してみようと振り返ったその時、俺の背後から爆発音が聞こえてきた。かなり遠くだったが、気になった俺はもう一度振り返り、音が聞こえた方に目を凝らす。

 

そして、目の当たりにした光景に苦笑いをした。

 

 

「マジかよ⋯⋯w」

 

 

先程の岩山の中央に、円形の穴がポッカリと空いていたのだ。

間違いなく、俺が投げた槍が起こした現象なのだろうが、これは異次元過ぎる。

 

確かに、テュラングルやバルドールの戦いを見た俺からしたら、いつかはあの次元まで上り詰めてやる⋯!的な事は考えていたが、一気に近付き過ぎて逆に怖い。

 

もしや、何か代償があったり?

いや、それは無いか。既にこの魔力は俺の一部だ。使用用途によってデメリットがあるならわかるが、普通に魔力を使用してデメリットがあるのは変な話だ。

 

 

「ゴホッ⋯⋯」

 

 

さて、課題も生まれたな。

これ程の力、制御出来なきゃかなり不味い。あの岩山を見れば分かるが、威力が大きく分散している。

 

今後の課題は、制御だな。

 

 

「長殿ーっ!今しがた大きな音が聞こえたッスけど、何事ッスかーっ!」

 

「モチヅキ⋯⋯ゴホッ、なんでもない。それより傷の様子はどうだ?」

 

 

そりゃ大きな音が聞こえれば誰かしら駆け付けてくると思ってはいたがお前かい。昨日の戦いで大きな傷を負った筈なのに、元気そうで良かったぜ。

 

 

「ちょっとモチヅキー、長殿の事だしアンタが心配する事じゃないでしょー」

 

「うっさいぞジンパチ」

 

(やれやれ⋯結局、この2人がお似合いなんだからなぁ。)

 

 

俺はさりげなーくその場を後にした。

その後ムサシと合流し、日が暮れた頃に全員を頂上に集めてもらった。

 

今後のギフェルタについて、大切な話をする為に──⋯

 

 

 

 

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「ゴホッ⋯⋯⋯あー、お集まりの諸君、静粛に」

 

「皆の者静まれ!長殿から話がある!」

 

 

何故だか、先程から喉の調子が悪い俺の代わりにムサシが群衆を静めてくれた。ホントにいい秘書役だよお前は。

 

 

「俺がここに来て1か月と20日が経った。思えば短い日々だったが、予定通り、俺は後10日程でここを去る事にしている」

 

 

再び魔物達がざわめくが、そこに悲しみは無かった。

寧ろ、今後自分達の力で生きていくという活力を湛えた、良い目で仲間達と盛り上がっている。

 

俺はしばらくその様子を眺め、優しさに浸った。

⋯なんというか、正直な話、ギフェルタを心置き無く離れられる事が、俺は嬉しいんだよな。

 

なんかもう親の気分だ。

元気に親離れする子供達を、遠くから見てる様な⋯?

 

 

「まぁ、アレだ。残り10日⋯⋯どうせなら思い出を作っておきたい的な事を思いつてだな⋯⋯」

 

 

俺は、照れているのがバレない様にそっぽを向いた。

ただ、クスクスと笑い声が聞こえてくるのは、そんな俺の気持ちが見えてしまっているからだろうな。

 

人差し指で頬を掻きながら、俺は咳払いをして前に向き直した。改めていい所だな、ギフェルタは。

 

 

「何か、みんなでやりたい事とかあるか?良い思い出になる様な⋯⋯」

 

「はい!はい!僕、いい案あるーっ!」

 

「そこは長殿!私の案を聞いて下さい!」

 

 

俺が彼らに質問を投げかけた瞬間、一斉に詰め寄ってきて自分の提案を押してきた。もうかわいい、目がキラッキラになんだもん。

 

 

「分かった、分かった!全部やる!お前らと一緒に、やりたい事全部やるぞーっ!」

 

「「「「ワァアァアア────ッ!!」」」」

 

 

月光が照らすギフェルタ。

仲間達の歓声が響き渡り、名残惜しさと彼らの笑顔が、俺の心を揺らした──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──⋯それからの10日。

俺は、絶対に忘れる事がないように、全てを日記に記した。

 

 

 

『6月20日』

今日は、ギフェルタの皆がイチオチしてきた案。

俺の石像を造る作業に取り掛かった。最初は恥ずかしかったが、どうしてもという彼らに、渋々承諾した。

 

 

とは言え、始めてみるとかなり楽しい。

俺はポーズを取って、長時間停止するのが仕事だったが、途中で脚がシビれて、皆に怒られたのもいい思い出だ。

 

 

『6月21日』

ジンパチがやりたいと言っていたのは、皆でご飯を食べたい、という彼女らしい提案だった。この日は皆で狩り出掛け、食材集めからスタートした。

 

本当はグループ分けするつもりだったが、俺と別行動のメンバーで出てしまうので、どうせならと皆で狩りをした。凄かった。

 

みんなで焚き火を囲んで食べた肉は格別に美味かった。

 

 

『6月22日』

最近、咳が止まないと思ったら、唐突に口から炎が出た。

恐らく、テュラングルの角を食べた事が原因だろうが、意図的には炎を出せないので、使い所に困る。

 

それはそうとして、今日はムサシと共に色んな場所に出掛けた。ツーリング的な感じで、沢山走り回った。

 

何処かの河原で寛いた時にムサシはある告白をした。

この前の襲撃が決着した際に、あの男の『ギフェルタに人間を近寄らせない』という案にムサシとサイゾウが賛成した事についてだ。

 

ムサシはこれを機に、ギフェルタを出て旅に出たいと言う。

成程⋯『賛成』と言ったのはこういう意図があったのか。

 

俺は少し時間を貰って考えることにした。

ムサシのリーダーシップが無くなったギフェルタに心配があったからだ。長として、そこは仕事をしたい。

 

 

『6月23日』

ロクロウは相変わらず、修行の頼みだった。

ただし、マンツーマンでの綿密な内容を組んだ。

 

彼女は伸び代は素晴らしい、いずれ俺を超えるかも。

 

ムサシの話しをロクロウにした所、強い興味を示していた。

反応からして、彼女も羽を伸ばしたそうな様子だった。

 

この日、俺は11体の魔物を集めて会議を開いた。

他にも、ここギフェルタを出たいという者がいれば、俺は色々考えなければいけないからな。

 

この時点で、ムサシ、ロクロウ、コスケの3名が志願者となった。

 

 

『6月24日』

今日はサスケとサイゾウが欲しがっていた物を、こっそりとプレゼントしようと思う。

 

簡単に言えば、クナイだった。

流石、異世界忍者だ。

 

壊れない様にかなり強固にし、予備として3本づつ作った。

彼らが旅立ちに志願しなかったのは意外だったが、話を聞けばギフェルタで暮らして行きたいという。

 

確かに、彼らの性格上、旅をすると言うより縄張りを守っている方が性に合うっぽいか。

 

『ここを任せる』と言ってから、俺は完成したクナイを2人に渡した。クールを装っていたが、心底喜んでいる様子だった。

 

2人のいい所は、割と感情に素直な所か。

俺が去ったギフェルタの守護役として頑張ってもらおう。

 

 

『6月25日』

また炎が出た。

どうやらかなりの熱があるようで、近くにあった木にたまたま命中したが、一瞬で灰になった。鎮火が大変だった。

 

近くにいたジューゾーが鎮火を手助けしてくれたが、相変わらず何を考えているか分からない。

 

サスケ達と同様、何かプレゼントすればいいか。

沢山あったテュラングルの鱗の1つをあげてみたが、一口で飲み込んだ。

 

火球の威力が格段に上がって喜んでいた。

意外にも感情の起伏があったことに驚いたが、可愛げがあってよかった。

 

彼もここを離れる気は無さそうだ。

何気、彼にギフェルタを任せられる事は大きい。

 

思いやりと的確なサポートができるからな。

 

 

『6月26日』

今日はイサとセイカイの頼みで、最後の手合わせをする事になった。互いに打ち合う中で、俺は2人に話をした。

 

ムサシ達が離れる以上、2人がギフェルタを引っ張って欲しいという事。何かあったら、身体を張って皆を護って欲しいという事。

 

2人は返事はせず、ただ力強い突進と打撃、そして笑みで返してくれた。言われずとも、という良い顔だった。

 

 

『6月27日』

コスケに話を聞いてみた。

なぜギフェルタを出たいと思ったか尋ねると、見聞を広めたいと言う。若者らしい、そして頭脳に長けたコスケらしい意見だった。

 

あまりに真っ直ぐな目をしていたので、思わず頭を撫でてしまった。息子がいたらこんな感じなのだろうか?

 

夢はシャルフ・ガムナマールになる事だとか⋯⋯

兎に角、その意見が聞けてとても良かった。

 

 

『6月28日』

やはり、モチヅキとジンパチはお似合いだ。

特別イチャつく訳では無いが、何となくお互いに好き同士だという事に気付いている。

 

甘酸っぱいぜ、モチヅキ。

いつか帰ってきたら、2人の子供でも撫でてみたいものだ。

 

念の為、子供をあやす為の道具を制作しているのまだ言えないか。旅立ちの時に、さりげなく隠しておくか。

 

 

『6月29日』

いよいよ、出発を翌々日に控えてしまった。

人間、予定がある時ほど時間の進みが早く感じるものらしい。

 

今日はギフェルタの癒しキャラ、カマスケのひと仕事のお陰で、ついに石像が完成した。

 

カマスケと共生している微生物が、常に緑色に発光しているのを利用して、石像の上に立って演出役をしてくれたらしい。

 

中々、美しい出来栄えだった。

石像完成の立役者として、皆から歓声を浴びていた。照れて、足元をよく見ず降りようとしたカマスケが、滑って転ぶというアクシデントもあったが、それはそれで面白かった。

 

ムードメーカーとして、これからもギフェルタを盛り上げて欲しいと肩を叩くと、いい返事と共に、皆に胴上げされていた。

 

ここは本当にいい所だ。

 

 

『6月30日』

皆で一緒に寝た。

皆で一緒にご飯を食べた。

 

遊び、はしゃぎ、一休みしてから、また遊ぶ。

とても楽しかった。

 

子どもに戻った気分だ。

本人達の前では恥ずかしくて言えないが、皆凄く好きだ。

 

ぶっちゃけ、まだ居たい。

だが、俺にもやるべき事がある。

 

全て終わったら、また。

ここに帰ってくると、この日記に記す─⋯

 

 

「⋯⋯っと、よし」

 

 

はぁ、もう夜か。

明日の朝にはここを出発。次にコイツらと会えるのは何時になるやら⋯⋯。

 

だが、悲しくはない。

俺が居なくても、彼らは十二分にやっていけるという確信が、俺の中にあるからだ。

 

そう、全て信頼しているから。

俺も、俺の目標へと曇らずに突き進める。

 

ありがとう、ギフェルタ。

さらば、ギフェルタ。

 

 

俺は目を瞑った。

俺を囲うように眠りにつく仲間達を、少しでも感じられる様に尻尾を伸ばし、腕を広げた。

 

 

「おやすみ、ギフェルタ。」

 

 

1匹の竜が、静かに眠りについた──⋯

 

 

 

 

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「アカシ殿ーーっ!!お元気でーーっ!」

 

「アカシ殿ーーーっ!」

 

「おーーう!!お前達も元気でなーーっ!!」

 

 

7月1日、俺はついにギフェルタを出発した。

最後に俺の名前を全員に打ち明け、いずれまた会おうと誓ってから。

 

ロクロウはリーゼノールに、ムサシは草原を駆け抜け、コスケは険しい峠を。

 

それぞれが自分の目指す場所に向かって突き進んでいた。

俺も進もう。帰ってくる時に、情けない格好で会うのは忍びないからな。

 

俺は、遠ざかってゆく声が聞こえなくなるまで手を振った。

名残惜しさはもう払拭した。これからは、また前をみて進もう。

 

 

「さぁいこう、虎徹。ベルトンの街へ!」

 

「クェーッ!」

 

 

俺が引く台車の上で、虎徹も威勢よく鳴いた。

高鳴る鼓動を、歩幅に変えて俺は進んだ。

 

これから1月の間、前進ながらこの世界の人間について学習をする。⋯⋯まず覚えておきたい事は──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⋯──美味い食べ物、かな?

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