猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第37話・錬金術の街

 

 

「⋯⋯ガッ」

 

ふおっ!?なんだ敵か!なんの音だ⋯って、俺のイビキかよ。自分のイビキで目が覚めるなんて、俺も歳か。⋯いや、歳は関係無い?まぁどうでもいいか⋯っと。

 

あー、だいぶ久し振りにこんな寝たな。

何せ転生してからというもの、いつ襲われるかも分からん環境で生活していから、ロクに熟睡なんてしてなかったからなぁ。

 

 

──ゴキッ、ボキキッ⋯⋯

 

 

「ッあ"〜⋯」

 

 

寝起きは、首の骨がよく鳴るな。

コレが心地いいんだよな、身体に良いか悪いかは別として。

 

⋯⋯さぁて、今は何時くらいだろうか。

取り敢えず、身体を起こそ⋯⋯う⋯?

 

 

「⋯んぅ」

 

「!?!!!?」

 

 

まって、まてまてまって。

ベットから降りようと思ったが、少し待て俺。なんだ、今僅かに聞こえた声は。なんだ、俺の尻尾を包むようなこの感覚は⋯!?

 

この尻尾の感触、まるで誰かに抱きしめられている様な⋯⋯

ま、まずは確認が必要だな、ウン⋯

 

 

「⋯!」

 

 

⋯ふゥゥゥゥゥゥ──⋯⋯落ち着け、俺。

整理だ、まずは脳内を整理しよう。まず、振り返った。したら、サンクイラちゃんが俺の尻尾を抱き枕にして寝ていた。⋯んで、俺は今までその隣で寝ていた。

 

⋯あっ、これ、やばい。

他人が見たら絶対誤解するぞ、このシチュエーションは。⋯いや、そもそも誤解ってのが合っているのか?も、もしや⋯

 

 

「⋯⋯zzZ」

 

⋯一体、なんでここにいるんだ。

風呂を上がったあと、ヴィルジールに『好きに使え』って言われて入った部屋だったんだが。

 

⋯俺が部屋を間違えたとか?

ヴィルジールからは、1番奥の部屋だと言われていたが⋯

 

 

(チラ⋯⋯)

 

「⋯んーぅ」

 

 

う、ぐ⋯⋯ヤバいな。

彼女、しっかりと夢の中だ。初めて見たとは15歳くらいかと思っていたが、まさかタメだったとはな。

 

その見た目で成人しているなんて、思ってもみなかったぜ。

お陰で、そんな無防備な姿でいられるとさぁ⋯!大変なんだよ!尻尾を掴まれている感覚もやたら敏感に意識してしまうし、さっさと引き抜いて⋯

 

「⋯⋯ん!」

 

(ひぃいいいいいい!!)

 

 

そんな、幼い子どもがオモチャを取られまいと発する声みたいな!マジでやめろコイツマジで!!

 

ああぁあ!もう!

こちとら何ヶ月も人間の女なんて見てもいなかったのに!ここに来てこの超近距離で、その超無防備!

 

ざけんな、俺だって男なんだぞ⋯

というか、意思の疎通ができるとはいえ、魔物の真隣で寝ようなんて考え付かないだろ!

 

 

「⋯zzZ」

 

 

くっ、ダメだ。

このままでは間違いなく吸い込まれる。⋯だが部屋を出ようにも、尻尾が割としっかりと掴まれているせいで動けん。こうなったら、多少強引にでも離してもらおう。

 

 

(サンクイラちゃん、ちょっと失礼⋯⋯)

 

ふーむ⋯⋯両腕を尻尾に回して、後ろでクロスか。

ふーーーむ、いっその事起こしてしまった方が早いのでは、とは思うが、彼女の熟睡っぷりをみると気が引けるな⋯

 

男、燗筒 紅志、ここは気合いでいくぞ。

 

 

──ド ド ド ド ド ド⋯

 

自分の心音すら喧しいと感じる程の集中。

今まで経験した、どんなヤバい瞬間よりも心臓の動き激しくなってるぞコレ⋯⋯

 

 

「うぅ⋯ん⋯⋯」

 

 

俺が物音を立てまいと神経を尖らせていたその時、寝返りをうったサンクイラの腕が僅かに緩む。その瞬間、俺は意識を尻尾に集中、事態の収集に全神経を尖らせた。

 

 

(⋯っし、後は静かに引き抜けば)

 

「入るぞ銀槍竜ー!!」

 

「ヒュえッ!?!!?!??!?」

 

 

⚠主人公が乱れております、しばらくお待ちください⚠

 

 

⚠主人公が乱れております、しばらくお待ちください⚠

 

 

⚠主人公が乱れております、しばらくお待ちください⚠

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって銀槍竜アナタ、さっきは魘されてたでしょ?私が見守っておこうかなって⋯」

 

「ははww⋯⋯お前、何してたんだよww」

 

 

くっっっそが!

ヴィルジールこの野郎、ゲラゲラ笑いやがって。アンタがデカい声で入ってきたせいで、声が裏返って変な声出たし、サンクイラちゃんは起きたし!俺の努力が一瞬で水の泡だわ!

 

何が酷いって、サンクイラちゃん覚えてない事だよ⋯⋯

まぁ寝てる時の事を覚えている方が変だが、それでもやるせないぜ。

 

⋯あーもう、んあぁ!もう!!

 

 

「⋯外に出てくる」

 

「外?構わねぇが、ちゃんと帰って来いよ。出発は明日なんだ、夜更かしは」

 

「わぁ─ってるよ!」

 

 

⋯もう、外の空気吸って来よう。

こんな人をバカにする野郎の顔なんて見たくないね。あー、今回の戦いが終わったら、とっとと米貰ってどっか行こ。またしばらく山とか森に籠ってやるぜ。

 

今後、絶対に人間に味方してやーらね。

 

 

「どうしたの銀槍竜、何か怒ってる?」

 

「⋯別に」

 

「そう⋯?」

 

 

大股で部屋を出た俺は、不貞腐れながら階段を下った。

後ろからヴィルジールが声を掛けてきたが、野郎の笑いを我慢した表情を見たくないので完全にスルー。勢いよく玄関のドアを開け、夜のベルトンへと飛び出した──⋯

 

 

 

NOW LOADING⋯

 

 

 

「「「ガヤ ガヤ ガヤ⋯⋯」」」

 

(威勢よく家を出てきたはいいが⋯⋯参ったな)

 

 

気晴らしという名目で外出した俺は、これといった行く先も無く、昼間に来た商店街っぽい所をアテもなくグルグルと同じ場所を行き来していた。

 

そもそも、初めて来た街だというのに地図を貰わなかったのは、我ながらどうなんだと思う。道に迷うとかではなく、名所とか観光目的の話で。

 

一応金は持ってきてあり、一通り遊べるくらいの余裕はある。だが、ぶっちゃけ腹はそこまで減っていないし、使う予定もない。

 

─やる事ないが、やりたい事もない─

 

俺が⋯⋯というより、誰しも思う事だろう。

特に、予定のない休日、ベットの上で。

 

 

(おーい、起きてるかー?)

 

 

と、頭の中で喋ってみるのは、アイツのリアクションが欲しいからだ。そう、脳内ショタゴンに。

 

話し相手にはもってこいだし、基本的には野次馬的なガヤを飛ばしてくるヤツだが、たまには俺から話してみるのも悪くないか⋯⋯的な考えで話し掛けたが、反応がない。

 

つまりは、睡眠中ってことだな。

アイツ、不定期的に無反応になるから気になって聞いてみたが、精神体のくせに寝たいらしい。全く、こーゆー時に限って⋯⋯

 

⋯ん?

 

 

「「「ザワ ザワ⋯⋯」」」

 

 

あぁ、やけに人の気配がするなと思ったら、原因は俺か。

家を出てくる時、外套を着てくるの忘れてたし、また面倒な方向にいったりしないよな?⋯⋯気になるし、少し聞き耳をたててみよう。

 

 

「やだ、魔物じゃないの。コワイわ〜⋯」

 

「大丈夫よ。なんたって、あのヴィルジールさんトコのコだから!」

 

 

⋯ふむ、内容に不満要素はあるが、大丈夫そうだな。

まぁSNSの無いこの世界、人々の噂の伝達速度は早いか。昼間の一件は俺にとって好都合だったな、コレは。

 

兎も角、人目を気にする必要は無くなった。

⋯って、俺は元から気にするタイプではなかったが。

 

 

(暇だな⋯⋯)

 

 

しっかし、マジでやる事ないな。

異世界の街⋯⋯もっと楽しめるかと思っていたが、歩いている感じ、海外の街を歩いている感覚だ。

 

なんて言うのかな⋯⋯異世界感ってのが無い。

身の回りで1番異世界っぽいの俺だろコレ。なんかこう、要素が欲しいわ。ザ、異世界!ってぇ感じのさ。

 

 

──カィン─⋯カィン─⋯

 

 

(⋯?なんの音だ?どっから⋯⋯)

 

 

ふと耳に入ってきた音に、俺は足を止めた。

金属と金属をぶつけている様な高音が、遠くから聞こえてくるが⋯⋯音の発生源はどこだろうか?物凄く気になる。

 

こんな音はアレだ、武器を作ってる時のアレ。

あー、簡単に思い浮かべられるわ。ガバンみたいな顔のオッサンが、鉄の棒を叩いている様子。

 

⋯それだよソレ!まさに異世界っぽいじゃあないか!

音の発生源は、この商店街とは逆側らしいな⋯⋯。よし、善は急げだ、早速向かうとしようか──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯──おぉ、オメェがヴィルジールさんトコの!」

 

「街中に魔物が現れたなんて騒ぎがあったが、まさか喋れるたぁな!面白ェヤツだ!ガハハ!」

 

「はは⋯⋯どうも、人気者のようで」

 

おぉう、視界の髭率がすごい。

彼らがドワーフって呼ばれる人種なのは分かるが、初めて会ったのがガバンだった手前、鍛冶場に立っているドワーフがイメージ通り過ぎて感動する。

 

立派な髭に、小柄だがガッシリした身体。

大きいトンカチを肩に担ぎながら豪快に笑っている様子は、自分がゲームの世界に入り込んだと錯覚するまであるな。

 

 

「オォイ!皆来てみろ!」

 

 

ドワーフAは、なかまをよんだ!なんって⋯⋯って、おぉおぉ。

多いな。ざっと5人は奥から出てきたぞ、これ。もうアレだ、合体してキングドワーフになれるわ。

 

 

「ホォ!こいつァたまげた、グレイドラゴンか!」

 

「しかもまだガキだ。素材としては、あと2年くれぇでイ〜イ頃合だな、ダハハハ!」

 

「えぇ⋯⋯」

 

 

そーゆー話、本人の前でするかね普通?

⋯まぁ俺が元人間だなんて彼らは知らないし、魔物相手に気を使う者の方が珍しいか。それに、周囲を気にしてない感じもドワーフっぽくてイイ。

 

⋯さり気なく有益な情報でもあったしな。

あと2年でグレイドラゴンが素材としてベストだというのなら、素材目当てで狙われる⋯なんて事も有り得るかもだし。

 

ゴルザの一件がある以上、悪い冒険者も少なく無さそうだしな。自己強化へのモチベーションが増えたし、聞けてよかったぜ。

 

 

「アンタ、名前とかは?付けられてんのか?」

 

「⋯⋯ンまぁ、な」

 

 

親に、だが。

このオッサン⋯⋯じゃなくて、このドワーフの言い方的に、ヴィルジールに付けられた名前があるのかってニュアンスの質問なんだろうが⋯別にいいか。

 

『元からある』なんて言ったら『なんで?』ってなって『それはだな⋯』なんて展開になる。面倒だし、そもそも転生してきたんだぜーなんて言って信じるかって話よ。

 

 

「ほう、教えてくれ」

 

「アカシだ。まぁよろしく頼む」

 

 

そう言って俺は、ドワーフの1人に右手を差し伸べる。

他のドワーフと違い、豊かに茂った髭は所々白い。恐らく、このドワーフがこの場の長なのだろう。

 

彼は一瞬だけ目を見開いたが、直ぐに俺の手を取って握手を行った。確かにガタイだけなら小さいが、その手は間違いなく大の漢のソレ。

 

先程まで仕事をしていたのか、(すす)が付着している手は、指の1本1本に筋肉が付いているかのように太く、大小様々かつ至る所にある古傷が、職人と呼ぶに相応しい手を完成させていた。

 

「驚いた、握手なんて知ってるたぁな⋯」

 

「⋯あ、あぁ」

 

 

握手⋯⋯やはりとてもいい文化だと、改めて思う。

今、彼が驚いている様に、実は俺も驚いていた。理由は、一見すると薄汚れた老人の手に対し、美しいという感想が口から出てしまいそうだったからだ。

 

⋯いいな、1つの道を突き進み続けたのが、目に見えて分かるその感じ。俺も、そうなりたいな。

 

 

「俺はボルド、この街で鍛治職をやっとる。コイツらは⋯⋯ま、後で紹介する」

 

「⋯後?」

 

「おうよ、鍛冶場の片付けがあと少しで終わるとこだ。悪いが、待っててくれ」

 

 

⋯通りで、ここの鍛冶屋の明かりが消えている訳だ。

本物の鍛治現場を鑑賞したかった手前、ちょっぴり残念だな。俺の都合でやってもらうなんて図々しいし、今日の所は諦めよう。

 

他の店はまだやってるっぽいが、見に行くにしてもな〜⋯

大体100mおきに鍛冶屋がある感じだし、そっちを見に行くにしても時間が掛かる。それに片付けがもう終わるって言ってんだから、ここは待つしかないか。⋯しょぼん。

 

 

「片付け終わったら、どっかの店で1杯やろうや。話を聞かせてれよ」

 

「あ〜⋯ね?」

 

 

これはデジャヴの予感、だな。

まぁ昼間は寝落ちしちまったワケだし、飲み直しってのも悪くないんだが、懸念があるんだよなぁ。最初の幼女の手紙には、『8月11日の6時までにナントカカントカ』と書いてあった。

 

この、6時が午後なのか午前なのかって所が重要だ。

午後だったとしたら、ボルドの言う通りじっくりと酒を飲みたいんだが⋯⋯

 

 

「よォしオメェら!片付けは終わったな?いくぞォ!」

 

「「「おぉお!!」」」

 

「あ⋯⋯ちょ、ちょっと待っ──⋯」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯──だぁーハッハッ!だからよ!あのヴィルジールとかいう野郎は最低なんだって!」

 

「なぁに!アイツら冒険者なんぞそんなもんじゃあ!酒飲んで忘れちまえ!」

 

 

酒のチカラって凄いんだなって、この俺は思うワケですわ。

えぇ、酔ってますよ随分と。周囲に流されやすいのは日本人っぽいが、最早俺は流れに乗ってサーフィンしてますよ。えぇ。

 

 

「酔っ払いのグレイドラゴンなんて、サーカスにでも出りゃあ盛大にウケるぜ!ダハハハ!」

 

「それは違ぇねぇ!ガハハハ!」

 

「ひっでぇー!オッサンの血は何色だぁー!?」

 

 

──割愛♡──

 

 

えんもたけなわ。

酔いも回って心地良く、弾んだ話も一段落したところで、解散の流れとなった。大体、2時間程呑み続けたが、ぶっちゃけるとまだまだイケる。⋯イケるが、明日の事もあるので今日はここら辺にしておこう。

 

 

「うぃ〜⋯ヒック!」

 

(やれやれ⋯⋯)

 

 

真っ赤な顔の酔っ払い共を、魔法で浮かせて退店。

まぁ色々な話を聞けたし、ここは奢らせてもらった。いーい思い出になったぜ、今日は。

 

異世界の文化・技術、食事に人々⋯⋯

いやぁ、価値観が広がる機会になったな。色々片付いたら、また来ようかね、ベルトン。なんか酒飲んで愚痴ったら、ヴィルジールとかどうでもよくなったし。

 

 

「おら⋯⋯しっかりしろよ」

 

「おゥッ⋯!!」

 

「バカ!吐くな吐くな吐く⋯⋯あぁ、やりやがった」

 

 

裏道だったのは幸運、といったら清掃員さんに申し訳ないか。

まぁこの世界にそんな職業があるかは分からないが。⋯そう言った点で考えると、やっぱり日本っていいトコだな。

 

トイレなんて街中にいくらでもあるし、ゴミ箱だって珍しいもんじゃない。⋯⋯まぁそれでも、やらかす奴はやらかすがな。

 

(うー⋯ん、これでいいか)

 

 

取り敢えず掃除はしたし、いい加減帰ろうかね。

もう日付は変わっているだろうし、これで寝坊でもしたらガバンにブチ切れらる。米が食えなくなるのは、流石に泣いちまうな。

 

 

「フンゴッ!⋯⋯ンガッ⋯⋯」

 

 

うお、びっくりしたなコイツ。

特殊なイビキしやがって、ガリドめ。⋯アレ?ガリドだっけか?⋯ドワーフって、似た顔だし見分けにくいんだよなぁ。俺は髭の量と色、髪型で判別しているが、見分け方でもあるだろうか。

 

 

ボルドは、白毛混じりの茶髪の茶髭。

 

ガリドは、黒髪坊主の焦げ茶髭。

 

ザルバンは、比較的身長高めの黒髭。

 

ギレルは⋯⋯って、わざわざ思い出すと、逆に混乱するな。

そこそこは覚えたつもりだし、今はいいや。⋯それに、覚えたところで、この街に長居するつもりも無いし。

 

⋯⋯何処に行こうか、次。

以前までは、幼女の指示があったからこそ行動していたが、それも今日というこの日まで。日記のページももう無いし、そもそも旅を続ける必要があるのかも分からん。

 

個人的に旅はしていたいが、人間と行動も共にしろって話なら、しばらくは街生活になりそうだな。今は来たばっかりだからいいが、その内飽きると思うんだよなぁ、俺の性格上。

 

 

「⋯ン、」

 

 

どこら辺でボルド達を降ろすか周囲を見渡していると、反対側の暗闇に人影が目に止まった。通行人かと、俺は道の端に寄って歩いたが、その人影はゆっくりと此方へと進行方向を変える。

 

俺、つまりグレイドラゴンは転生当初の予想通り、夜行性だ。

暗闇とはいえ、人影が子ども程度の身長だという事は認識できている。⋯逆にそれしか分からない理由は、その人影が外套を身にまとっているのが原因だ。

 

しかし、ここの道端には定間隔で街灯が設置してある。

あの人影の正体を理解するのに、わざわざ目を凝らす必要もないだろうと、俺は歩き続けた。

 

「⋯やはり」

 

 

チラチラと人影を確認しつつ俺が歩いていると、向こうが明かりに入ったタイミングで呟いた。少々ドキッとしたが、よく考えてみれば聞き覚えのある声だ。

 

3m程先で外套のフードを取った人物は、早足で此方へと来ると、食い気味に口を開いた。

 

 

「君、こんな所で何をしているのかね?」

 

 

そのセリフ、そのままお返しするぜギルドマスター。

こんな時間に1人で何してんだよ。⋯格好からして、誰かにバレたくない様子っぽいが⋯⋯暗闇だと気味が悪いぞ。俺、幽霊とか苦手だし(そこ、笑うな)、勝手に警戒してたわ。

 

 

「俺は少し、観光をな。アンタこそ何してたんだ?」

 

「ふむ⋯⋯私は先程まで仕事でな、全く大変だったよ」

 

「仕事?こんな時間までだなんて、ご苦労様だ」

 

「ハハ⋯⋯主な原因は君なのだがね」

 

 

え、俺ってば何かやからしたっけか?

日付が変わるまで仕事だなんて、ブラックもいいとこな話だが⋯。俺、なんかやっちゃいました?

 

 

「いや、勘違いしないでくれ。悪い意味ではないのだ⋯⋯」

 

「はん?」

 

 

聞けば昼間の件、俺との初対面のタイミングだったそうな。

俺がこの街に向かって来ていると知ったガバンは、その時点で今回の迎撃戦への投入は決めていたらしい。

 

問題だったのは、魔物である俺に相手にどう交渉するか。

高い知性の確認が取れているとはいえ、魔物は魔物。できるだけ手荒い手段を取りたくなかったガバンは、対話可能ならそれでヨシと考えていた。

 

⋯が、もちろんそれは万が一の話。

『冗談』のつもりで、平和的な交渉を侍衛達に伝えていた。そして、その時から今後に向けて仕事を進めていたらしい。

 

 

「まあ、言ってしまえば、私の予測不足が原因なのだ」

 

「予測?」

 

 

と、彼が言うのも、聞けば納得せざるを得ない内容だった。

初期案として、俺を捕獲する段階から始まり、王都への移送計画と保管方法。それぞれのプランを一纏めにし、予め王都側へ伝えていたそうだ。

 

が、まさかまさかの平和的な交渉に成功。

新プランの制作と、旧プランの撤廃。それにおける事情の詳細な説明⋯⋯大量の書類と格闘し続け、今に至るんだとか。

 

 

「なぁる程⋯⋯いや、スマン」

 

「いやいや。結果としては、極めて上々だ。⋯⋯予算も掛からずに済みそうだしな」

 

「そうか⋯⋯」

 

 

やっぱ、長ってのは大変なんだな。

同じ長だった身ではあるが、人間と魔物じゃあなぁ。社会性が違い過ぎるというか、複雑なんだよな。

 

本人は気にするなと言っているが、これじゃあ俺の気が済まないな。⋯迎撃戦、活躍しなきゃな。

 

 

「⋯ところで、後ろの彼らは一体⋯?」

 

「ん?あぁ、コイツらはだな⋯⋯」

 

 

◀カクカク◀▶シカジカ▶

 

 

「ハハハ⋯⋯ドワーフとは、そういう人間だ。彼らに気に入られるとは、君もやるな」

 

 

しばらく談笑していた時、俺は気になっていた事を思い出した。ガバンなら当然知っているだろうと思い聞いてみたのだが、コレが中々面白い。

 

 

─『錬金術の街』について─

 

 

その異名がついた由縁は、この街の職人に武具の鍛錬を任せると、まるで別物の様な仕上がりで返ってくる事から来ているんだとか。

 

武器の場合は斬れ味の上昇や、重量の軽減。

 

防具の場合は強度アップや、可動域や防御性の向上⋯⋯

 

粗悪な素材でも、優秀な装備に大変身!

⋯と、いうのは流石に盛りすぎだと思うが、ガバンの話す様子からして、余程自信があるようだ。

 

それに『錬金術の街』と最初に言い出したのは、冒険者の方だったらしい。この街の謳い文句的なのではなく、その技術力を称えて付けられたんだとか。

 

成程、期待外れだと思っていた自分を殴りたい。

 

 

「⋯こんなに談笑するのは久し振りかもしれん。立場上、対等に話し合える者も少ないのでな」

 

「⋯疲れないか?ギルドマスターって」

 

「それを聞かれると痛いが⋯私はこの街が好きだ、辞めんよ」

 

ははーん、ガバンが長になれた訳だ。

頭の良さとか、人をまとめる能力とか、勿論必要とされるんだろうが、それ以上にガバンには誇りがある。

 

この街のギルドマスターである誇りがな。

全く、良い目で語るもんだから、嫉妬しそうだぜ。

 

「それでは、私はこの辺で失礼させてもらう。この先に宿屋がある、後ろの彼はそこで休ませてやるといい」

「分かった。⋯アンタは?帰るのか?」

 

「⋯ま、疲れを取る為に1杯やってから、な」

「そうか、分かった。⋯お疲れ様な、ガバン」

 

 

再びフードを被り、暗闇に消えていくガバン見送る。

彼が見えなくなったタイミングで、俺もボルド達を宿屋へと運ぶ為に歩き始める。

 

⋯なぁんか、良い気分になったな。

基本的にオッサンの長話は好きでは無いんだが、今のは別案件だ。⋯まぁ過去の自身の自慢話と、自分の街への愛情の話とでは、ワケが違うが。

 

 

「〜♪」

 

 

宙に浮く複数の酔っ払い、それを運ぶ1匹の魔物。

カウンターに1万ゼルを叩き付け、困惑する受付を華麗にスルーしながら、俺は宿屋を出た。

 

上機嫌に口笛を吹きながら、ヴィルジールの家へと向かっていると、ある事に気がついた。それは、ボルド達の鍛冶場方面と、ヴィルジール宅方面で明るさが違うという事だ。

 

⋯そういえば、ガリドが言っていたな。

『アッチは観光施設』だとか。俺が入ってきた街の門は、言わば玄関。観光客や、旅人など潜るんだとか。

 

向こうにも一応鍛冶場っぽいのはあるらしいが、ドワーフの若い衆に一任していると言っていた。装備目的の冒険者は、街の反対側⋯⋯裏口から入るのが暗黙のルールらしい。

 

いやはや、面白い文化だと思う。

俺も今度来る時はツウぶって反対側から入ろう。

 

 

「あっ!やっと帰ってきた!」

 

 

ヴィルジール宅に到着すると、サンクイラちゃんが玄関からお出迎え。酒の匂いが残っていたのか、ボルド達と呑んだのがバレて説教を食らう羽目になった。

 

やれやれ、密度の濃い1日になったもんだな。

今日はさっさと寝て、明日の朝は出発に向けて準備するかね。しばらくは王都に向けて移動するだけだろうし、暇を潰せるように本屋にでも行ってみるか。

 

 

「じゃあ、おやすみなさい」

 

「はいよ。⋯⋯もう見守ったりするなよな?」

 

「フフ、貴方が魘されてたりしなければね♪」

 

「ははん、努力する」

 

 

サンクイラが部屋に戻ったのを見届け、俺も自室へと入った。

布団にダイブして毛布に包まると、思っていたより強めの睡魔が俺の意識を奪う。

 

人間時代は酒は好きじゃ無かったが、魔物になってそれも変わった。味覚が変わったという事なんだろうが、こうしてほろ酔い気分で就寝するのも悪く無いな。

 

 

(待ってろよ、戦場)

 

 

そう、心に浮かべつつ、俺は瞳を閉じた。

自身の予感に、僅かに身体を震わせながら。

 

まもなく始まる『祭り』。

 

心身を解放する歓喜が、脈打って留まらない。

来たる、素晴らしい事の予感に震える身体を何とか抑え、俺は睡魔を招き入れたのだった──⋯

 

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