猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第40話・再走

 

 

王都行き魔導列車が魔物の襲撃を受けてから、およそ3分。

高速で動く列車の急停止により、激しく巻き上げられた砂煙が未だ立ち込めるこの状況⋯⋯。本来であれば、同行している冒険者等が、即座に対処するべき所だが─⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯─バッカじゃないのアンタ達ッ!?」

 

 

列車全体が揺れたと錯覚する程の怒号が、先頭車両で轟いた。

声の主はシルビア⋯⋯と、説明されなければ分からないレベルのドスをきかせ、外の状況など知るかと言った調子で彼女が説教しているのには、とある事情があった。

 

 

「いやっ⋯⋯ちがっ⋯⋯き、聞けってシルビア!」

 

「やかましい!」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯ケッ、なんで俺まで」

 

「あぁ?!」

 

 

彼女の前で正座させられているのは、野郎2人組。

言い分がありそうなヴィルジールをバッサリと切り捨てたシルビアは、彼の隣で愚痴を零すソールをえげつない睨みで黙らせると、両手を腰に当てながら静かに俯いた。

 

そのまま右へ向いた彼女の視界には、恐らく窓ガラスに顔面から突っ込んだあろうハクアの姿が。上半身が外へ突き出ているハクアのケツから目を離したシルビアは、今度は左へと頭を動かす。

 

 

「いっ⋯⋯たぁ⋯」

 

 

見れば、ニナが片手を支えに立ち上がろうと苦戦している所だった。後頭部を擦りながら、苦悶の声を漏らす彼女の後ろにある窓には、何か大きな衝撃が加わったのが容易に伺える、大きな亀裂が入っていた。

 

⋯⋯そう、例えるならば、人体などが衝突した場合に生まれる様な、大きな亀裂。

 

 

「ホラ⋯⋯大丈夫?」

 

「え、えぇ⋯⋯」

 

 

ニナに手を貸したシルビアは、彼女を起き上がらせると視線をヴィルジール達へと戻した。何を言う訳でも無く、静か真っ直ぐに2人を睨みながら、大きくゆっくりと息って天井を見上げる。

 

そして再び俯き、やや口を尖らせながら息を吐き出す様子は、下手な言い訳を許さないオーラを醸し出していた。

 

 

「⋯何故、殴り合いを始めようとしていたか⋯⋯原因は、どうでもいいの。⋯分かるわよね?」

 

「あぁ⋯⋯分かってッけど⋯」

 

「分かる、わよね?」

 

「⋯⋯⋯」

 

 

まぁ先程のニナと銀槍竜のやり取りと同様である。

ゼクスのリーダー格であるヴィルジール、ただでさえ血の気の多いソール⋯⋯『プロであるなら自制しろ』と、言うなればソレである。

 

⋯ソレではあるが、相手が相手。

ニナの様に若く、まだプロとしての自覚も薄いであろう相手なら、説教⋯⋯もとい、指導も進んで行う。

 

 

「あ〜あ、いいトコだったってェのによォ?」

 

「アンタは黙ってなさい⋯⋯」

 

 

だが、()()()()となれば話は別だ。

ソールに関してはぶっちゃけ諦めているので、問題はヴィルジールの方へ限定される。

 

まずシルビアには、ソールにもヴィルジールにもパワーでは勝てないという認識がある。⋯となれば、この2人の殴り合いをどう止めるのかと言われれば、方法は大きく2つだ。

 

この2人を同時に相手ができ、尚且つ、言葉で解決できる人物の介入。勿論、そんな猛者がこの世に存在するのか怪しいので、事実上の空論である。

 

では、もう1つの方法とは何か?

それは、どちらか片方が殴り合いに参加しない、という案だ。殴り合いに発展さえしなければ、なんら問題無い⋯⋯という話でも無いが、少なくともヴィルジールであれば、ソールとはパワーで互角。

 

押さえ付ける程度は可能だろう。

だが正直いって、殴り合い自体は別にどうでもいいというのがシルビアの考え。肝心なのは、タイミング。

 

 

「アタシ達は、今!王都へ向かっているの!大勢の命を救う為にね!ツエン達は既に王都に先行し、着々と準備を進めているのよ!?」

 

「⋯⋯それが?」

 

「アタシ達は、彼らにとっての『理想』だとか『目標』なわワケ!そんなアタシ達が、いざ王都へと到着した時!予定より遅かった?車内で殴り合いをしていた?笑い者よ、そんなの!」

 

 

2人に詰め寄りながら反省を促すシルビアに対し、ヴィルジールはやや不満気味。だが、それでもシルビアの意見に納得させられ、小さく謝罪を行った。

 

下らない、そう言わんばかりの態度だったソールも場の空気に冷めたのか、謝罪こそしなかったものの、座席に寝転んでこれ以上に騒がないと態度を改めた。

 

 

「はぁ⋯⋯ホント、男って⋯」

 

 

なんとか丸く収まった問題に、座席へ崩れる様に腰を下ろすシルビア。そんな彼女の横に、なにやら影が2つ。窓に刺さったハクアを前に、ゴソゴソと動いているのであった──⋯

 

 

 

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「こ、こうかな?」

 

「いやいや、それだとガラスの破片が刺さるから⋯」

 

「⋯いっその事、無理矢理でもいいんじゃないかな?」

 

「いやお前、人の心とか無いのか」

 

 

ハクアのケツを前にする俺とシュレンは、どうやって窓から引き抜いてやろうか頭を捻らせていた。何があったのか大体の予想は着くが、それにしても原因が謎だ。

 

俺とシルビアが部屋に入った時、ソールとヴィルジールは取っ組み合いの真っ最中だった。そして、恐らくそれを止めようとして、吹き飛ばされたのであろうニナとハクアの姿が⋯。

 

幸い、殴り合いを始める直前だったので、シルビアの一喝で事無きを得たが⋯⋯

 

 

「えいっ!」

 

「うッ⋯⋯」

 

 

ハクアを強引に引き抜いたシュレンを背後に、俺はシルビアへと近寄った。横目でヴィルジールの様子を確認してみるが、イライラしている⋯⋯というよりは、悲しそうな表情で、手に持った何かを見つめている⋯が、はて?ありゃなんだ?

 

酷く折れ曲がった紙に見えるが、大事な物なのだろうか。

何か書いてるっぽいが、ガタイのいい野郎がメソメソしてるのは、なんか情けなくて笑える。古い考えかもしれないが、男にそーゆーのは似合わないぜ。

 

 

「お疲れシルビア。⋯コーヒーいるか?」

 

「いや⋯⋯。あぁ、やっぱり貰おうかしら」

 

 

一瞬断りかけたシルビアだが、少し考えた後に訂正を入れた。

さっきの俺とニナの件があっての()()だ。『ゼクス』という立場は『模範となるべき者』というのが、彼女なりの考えなのだろうし、彼女がしつこく説教するのも分かる。

 

ヴィルジールもソールも反論しなかったのを見ると、全体的な認識がソレなんだろうか。⋯まぁどちらにせよ、反省も兼ねて労わせてもらおう。少しでも気休めしたいって所だろうしな。

 

 

「コレ、何?」

 

「ん?あー、それはこうやって⋯⋯」

 

「⋯変わった技術ね」

 

 

初めて見る容器と、その開け方に若干の動揺を見せながらも、シルビアは缶コーヒーを受け取って口にする。予想外に旨かったのか、少し目を見開いて此方を向いた。

 

俺が肩を1回上下させて軽く笑顔を見せると、小さく乾杯をする様な動作をしてから、もう一口飲んだ。異世界で前世のモノが良いリアクションを受けるのは、なんか心地が良いな。俺が発明したワケじゃないけど。

 

 

「全く⋯⋯度し難いぞ、お前達」

 

 

肩のガラス片を手で払いつつ愚痴を零すハクアを、シュレンが『まぁまぁ』と宥めると、不機嫌そうに鼻を鳴らして座席に座った。

 

何はともあれ、怪我が無くて何よりだな。

感じは悪いヤツだが、さっきシルビアが言った通り、問題を起こすのはマズい。それは俺にとってもで、冒険者と魔物が同じ列車に乗って怪我をしたとなれば⋯⋯な。

 

当人が状況を説明しようが、信じない人は多いだろう。

魔物であるからには、魔物の立ち回りというものを考えなくてはならないし。⋯⋯なんか俺、人間だった頃より世間体を気にしているな、ハハハ。

 

 

「ま、話が終わったのなら夕食にでもしません?僕、お腹減っちゃって」

 

「そう、もうそんな時間かしらね。⋯⋯一応聞くけど、アンタらは?どうするの?」

 

「「いい」」

 

 

な〜いす、シュレン。

いい加減、ギスギスした空気に嫌気が差してた所だぜ。ソールとヴィルジール反応は予想通りだが、まぁいいさ。昨日は全員別々で食事を取ってたし、少しでも楽しい夕食の方が良い。

 

 

「⋯⋯それにしても、何か忘れている気がしません?」

 

「気の所為だろ?さっさと飯にしよう。一応、調味料とか持ってきてあるん─⋯」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⋯─あ。

 

 

 

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「グオァアアアアアアアアアア──ッッ!!!」

 

 

と言う訳で。

問題が解決し、全員お疲れ様でしたムードのお陰で完全に忘れ去られていたレッドドラゴン君は、元気よく暴れていた。

 

 

「いや⋯⋯いいんですよ。何か、問題があっての事でしょう?」

 

「いいえ⋯この、バカ、共の所為だから。悪かったわ」

 

 

車掌の前で正座させられ、シルビアに頭を引っぱたかれたヴィルジールは小さく謝罪をする。黙っていたソールも、もう一度頭を引っぱたかれ、舌打ちの後に頭だけちょこっと下げた。

 

なんか、反抗期の息子と母親を見ている様だ。

先程から思っていたんだか、シルビアってまとめ役っぽいな。

 

 

「グォアアアッッ!!」

 

「ひっ!」

 

っと、そんな事考えてる場合じゃなさそうだな。

武器を携えた人間を認識したのか、レッドドラゴンもやる気満々になってるっぽい。⋯まぁこの人数のゼクスがいるんだし、支障はなさそうだが⋯⋯

 

 

「まっ、魔力シールドが限界です!どなたか対応をお願いします!」

 

「えぇ分かったわ。銀槍竜、まずは対話から初めてちょうだい。ダメだったら、合図して」

 

 

そぉなるよなぁ、面倒だぁ⋯⋯って、ちょい待ち。

なぁに、その魔力シールドとかいうロマンある名前のヤツ。俺にだって厨二病と呼ばれる時期はあったし、漆黒の○○とか、俺の右腕封印されてる○○がー、みたいなのは流石に無かったが、好きな物はあった。

 

○式、○型、○機体⋯⋯みたいな、なんというか機械的な言葉だ。⋯個人的な意見として、いくつになっても好きな物は好き、というのが人間だと思う。

 

 

「な、なぁ車掌さん?その⋯⋯魔力シールドっていうのは、どんな感じのモノなんで?」

 

「え、えぇ⋯。魔導列車は安全上、厳選された道を走っている乗り物ですが、それでも確実に魔物に出くわさないとは限りません」

 

「成程、万一の防衛手段⋯⋯という訳か」

 

「その通りです。⋯ですが、シールドのエネルギー源は、本来走行に充てられる分の魔力石から来ているので⋯⋯」

 

 

え⋯それ、かなりマズいのでは?

もし仮に魔力石が底を尽きたら、走って王都に行く事になるかも知れない。⋯ヨシ、早く対応に向かおう。

 

後で色々、列車の機能について聞きたいしな。

取り敢えず、気さくに挨拶でもしてみるかね─⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯─なんだテメェ。人間に尻尾振りやがって、恥知らずが」

 

 

いや、知ってたよ?平和的な解決は厳しいだろうなーって。

5tトラック並にデカい図体、荒く鋭そうな牙と鉤爪に、そこそこな魔力量⋯。オマケにチンピラみたいな口調ときた。粋がるには十分な素材だな、こりゃ。

 

ニコニコして機嫌取れる相手でもないだろうし、選択肢は他に無いか。⋯だが、合図を出すのは少し後にしよう。初めて見る魔物だ、もうしばらく観察したい。

 

 

「⋯あん?テメェ、その角はなんだ?」

 

「角?⋯あぁコレか。そう言えば、原種にはないんだっけか」

 

 

言われてみれば、幼女もそんな事を言っていた気がする。

自分の姿に見慣れていたから、それが基本的な姿だと思い込んでいたぜ。よく見れば体表も違いがハッキリしているし、恐らくイレギュラーは俺の方だろうな。

 

俺の身体、鱗とかないし。

⋯そう考えると、かなり変わって肉体を持っているな、俺。

 

 

「⋯テメェ、ナニモンだ」

 

「アンタと同じだよ。人間には、銀槍竜とか呼ばれてるが」

 

「違う、そうじゃねえ。()()()()はなんだって聞いてんだ」

 

「教えたら、大人しく引いてくれるか?」

 

「ほざけッ!」

 

 

ほいきた、強襲。

自慢であろう鉤爪の振り下ろしは、防ごうと思えば防げるが⋯⋯面倒だし避けよう。せめて、もう少し強い相手だったら俺も乗り気になったんだがなー。

 

俺が魔力を使う相手でもないし、ここはシルビア達に任せようかね。⋯あー、もう少しだけじっくり観察していたかったが⋯まぁいいか、動かなくなってからでも。

 

 

「じゃあ、後は頼ん⋯」

 

「オ"ラ"ア"ァッ!」

 

「ゐッ!?」

 

 

俺が合図しようと振り向いた瞬間、凄まじい声を上げながら、銀色の大槌を振りかざしたソールが俺の真横を通過した。その時の表情といったら、もうニッコニコ。不完全燃焼だったのは知っているが、もう少し落ち着けよこのバカ。普通に危ねぇし、死ぬかと思ったぜ。

 

レッドドラゴンが攻撃を仕掛けた時点で、交渉決裂と察したんだろうが、もう少し様子見るだろ。

 

 

「ハッハー!!悪ぃがコイツは俺が殺るぜェ!」

 

「はいはい好きにしてちょうだい。アタシ達は夕食の準備でもしましょ」

 

「あっ、僕手伝いますー」

 

 

勢い良くレッドドラゴンの額を地面に叩きつけ、上機嫌なソールを尻目に、他のゼクスメンバーは列車内へと戻って行った。ソールの実力を知っていての判断なのだろうが、それにしても素っ気が無いと感じるの俺だけか?

 

だーれもコッチ見てないし、なんかシュールな光景だな。

 

 

「グ、グォオア⋯ッ!!」

 

 

⋯おっ、レッドドラゴンが頭でソールを押し返したか。

ギャラリーのいないバトルも寂しいだろうし、俺は最後まで見届けるか、なんて。本当はソールの実力が気になるだけだが。

 

 

「寝てろ雑魚ッ!」

 

なんとか押し返したレッドドラゴンに、追撃を加えるソール。方法は至ってシンプルで、もう一度頭部に大槌を振り下ろすというもの。だが、強烈な一撃目によって脳震盪を越しているレッドドラゴンに、追撃を躱す判断が出来るはずもなく⋯

 

 

──ガツンン─⋯ッッ!!

 

 

「ガア⋯⋯ッ」

 

 

2度目の強打によって、完全に白目を剥いた。

すかさずトドメを刺そうと振りかぶったソールだが、タダでは殺られないのが俺達魔物というものだ。

 

視界がぼやけている、相手の位置が分からない⋯⋯

それならば、全方位に攻撃を行えば問題は無い。俺ならそうするだろうし、あのレッドドラゴンも同じみたいだな。

 

 

「グッ⋯⋯オオオォオォオアアアッッッ!!!」

 

「あ"⋯?」

 

 

轟音と共に振り下ろされた大槌が、レッドドラゴンの頚椎に到達する直前に、火炎がソールを飲み飲んだ。たった2回の攻撃でも、レッドドラゴンが食らったダメージは甚大。

 

頭部への強打による脳震盪、及び、自身より圧倒的に小さな生物に追い詰められているというストレス。判断能力が著しく低下したレッドドラゴンは、手当たり次第に火炎をブチ撒けるという選択肢を取った⋯って所か。

 

ソールは反応が遅れていたが、アレで死ぬ奴ではないのは知っているぞ。火炎に飲み込まれる寸前、アイツ嗤ってたし。

 

 

「ハハハハッ!!もっと生にしがみついてみろォ!!」

 

(ほら、な)

 

 

火炎の放射を止め、ふらつくレッドドラゴンに対し、黒煙の中からソールが飛び出した。装備の布地部分は燃え、露出した肌は焼け焦げているが、それでも躊躇無く突撃する姿はゾンビ映画を彷彿とさせる。もう、気味が悪いって次元だな。

 

 

「オォォオアア───ッッ!!!」

 

「ハハハ!!!」

 

 

レッドドラゴンも、最後の力を振り絞って迎撃の準備に入ったか。ってか、なんでこの状況で嗤ってられるんだよ、あの男は。やべークスリでもやってんのか?アレが素とか怖すぎだろ。

 

フラフラのレッドドラゴンでも、流石に直線で向かってきている相手に攻撃は当てられるぞ。今のを耐えたソールの事だし、死ぬなんてのは無いと思うが、軽くは無いダメージを負う事になるのは確実。

 

冒険者といっても、肉体は人間だ。

ソールは筋肉隆々な身体だし、一応防具は着けているが、それでも炎というのは脅威だ。本来、人体は70℃程度のお湯でですら火傷を負うもの。魔力で身体を防御する訳でもないソールが、大丈夫なハズがない。

 

回復魔法があるからとか、そういった話ではないと思う。

アイツの痛覚が他人より鈍いのは確かだが、それを抜きにしても、ソールの頭はどこかおかしいんだろう。痛くないからといって、自分が傷付いても気にしない人間はいない。

 

本能という概念がある以上、生物はダメージ負う事を避ける。

それは魔物ですら同じだが、戦いに生存を見出す俺達と違ってアイツは人間だ。

 

 

「いくぜェェッ!!」

 

「⋯⋯⋯ハァ」

 

 

⋯⋯手伝って、やるか。

取り敢えず、ソールは突っ込む事しか考えていないだろうし、レッドドラゴンの攻撃を中断させるのがベストだな。

 

⋯と、なれば有効なのは目潰しか。

ピンポイントで攻撃するの苦手なんだよなー、もう。

 

 

「フゥ──⋯」

 

 

⋯⋯集中、集中だ俺。

細かい事はいい、今は銀槍の収縮に専念しろ。下手に大きな槍で攻撃すれば、命中時の痛みでレッドドラゴンの火炎が暴発する場合がある。少し、ほんの少しだけ意識を逸らせられば、それでいい。

 

俺が集中さえすれば、全部スローに見えるんだ。

時間はたっぷりとある、狙いが定まれば直ぐにでも発射を⋯⋯

 

 

「ったくもう!」

 

「!?」

 

 

銀槍の収縮終え、狙いを定めようとしたその瞬間、背後から発せられた高い声が俺の耳へ入った。集中していた手前、反応が遅れた俺が振り返った瞬間、俺の真横を『何か』が高速で通過した。

 

その『何か』を追うようにソールの方へ頭を動かすと、ソレはレッドドラゴンの眼球へ命中。口内の炎の生成が中断した隙に、ソールは大槌をレッドドラゴンの頸を横から殴打し、粉砕した。

 

 

「⋯余計なマネをしてくれる」

 

 

ドスンと地面に着地し、大槌を肩に担いだソールは此方側へ睨みを効かせる。俺も再度振り返ると、武器を両手に妙な構えを取っているニナの姿があった。

 

右腕を正面に突き出し、左腕の上に添えている⋯⋯と。

なんというか、ウ〇トラマンの光線の構えを少し崩したみたいな格好をしているな。

 

 

「そんな雑魚に傷を負わされたんじゃ、ゼクスの名にも傷が付くでしょ?それを阻止してあげたのよ」

 

「ハッ、どいつもこいつも⋯」

 

 

構えを解いたニナは、髪を靡かせながら列車内へ戻った。

念の為、サポート出来るようにスタンバっていた感じだろうな。俺がやろうとした事を先にやられたのは、若干悔しいが⋯まぁ問題解決したんならOKか。

 

ソールも愚痴ってはいるが、ストレスの発散は出来た様子だ。

表情から固さが消えてるし、口振りもすこし明るくなっている。単純っちゃあ単純だが、あの切り替えの速さは逆に武器にもなり得るか。⋯⋯って、いやいやいや。アイツみたいなのとは戦いたく無いぜ、変に考察するのは止めよう。

 

 

「ヨォ、俺の実力は分析できたか?」

 

「全っ然、だ。アンタには叶いそうにないなあ」

 

「フッ、よく言うぜ銀槍竜」

 

 

あーあ、普通に笑っていればガタイの良いイケメンなんだけどなーコイツ。勿っっ体無い、全く持って。⋯⋯いや俺にソッチのケは無いがな。

 

あー、腹減った腹減った。

このレッドドラゴン、食ったら美味かったりするのかね。腕くらいは戻っておくか。後はレールの上から退かして、自然の成り行きに任せるさ。

 

 

「何してんだ、お前⋯?」

 

「んー?意外と、美味いかもしれないだろって」

 

「⋯気色悪ぃな」

 

「ハハ⋯⋯」

 

 

レッドドラゴンの腕を担ぐ俺に対し、ソールは僅かに眉をひそめたが、気にしないぜ〜っと。気色悪いのはお互い様だしな。だってコイツ、戦闘狂みたいなタイプかと思ってたら、ちゃんと頚椎を狙って攻撃してたし。

 

あんだけはしゃいでおいて、意外と理性的に戦ってたなんて気味悪いの一言につきるし。まぁソールみたいなタイプって案外、反射的にそういう思考が出てくるのかもしれないが⋯⋯考えても仕方ないし、どーでもいいか。

 

 

「⋯ところで、ホントに飯はいいのかソール?」

 

「フン、シルビアの説教聞きながら食う飯なんてマズいに決まってんだろ?後でシュレンに持ってこさせるぜ。お前でもいいが」

 

 

いや何処のガキ大将だよコイツめ。

もしや、シュレンって普段からそんな不憫な扱いを受けているのか?⋯なんか可哀想に思えてきたし、後で缶コーヒーあげよう。まだ2本余ってた気がするし。

 

実を言うと、最近飽きてきたんだよな、コーヒー。

ミルクとガムシロがあればなー⋯なんてのは、今は我儘が過ぎるか。王都に着いたら市場にでも行ってみるかね。

 

 

「銀槍竜ー、ちょっと調味料借りたわよー」

 

「あいよー」

 

 

俺が列車へ戻っていると、窓からシルビアが頭を出した。

片手に調味料の入った容器を持っているが、アレはニンジャー(第4話参照)だな。

 

⋯⋯そういえば、アレは俺が勝手に命名した素材だが、実名はなんなんだろうか。もうすぐ無くなりそうだし、気に入っている調味素材だから買い足したいんだが⋯⋯

 

 

──グゥ〜⋯

 

 

「⋯⋯⋯」

 

 

⋯まぁそれに関しては夕飯の時に聞けばいいかな。

さぁ戻ろう。レッドドラゴンの肉の調理もしたいし、さっきニナが何をしたのかも聞きたいし。⋯あ、そうだそうだ、魔導列車の機能についても詳しく教えてもらおう。

 

 

「おつかれー、もうすぐに出来るよ!」

 

「銀槍竜、アンタの魔法でテーブル用意してくれない?あと、出来ればスプーンとかの食器も」

 

「はいはい仰せのままに⋯っと」

 

 

うーん、良い匂いだ。

食材の保管方法について、色々教えておいて良かったな。お陰で充実したラインナップに仕上がっているし、文句無しの夕食だ。王都決戦まで、残り1週間⋯出来るだけ英気を養っておこう。

 

「わ、銀槍竜!ナニソレ!」

「あぁこれか。レッドドラゴンの腕肉だ、シュレンも食うか?」

 

「美味しいの⋯?」

 

「あー⋯どうだろうな?」

 

「えぇー⋯」

 

 

⋯ンまぁ俺は魔物だし、食えない物の方が珍しいしなあ。

ちゃんと調理するし、マズいなんてのは無いだろう。シルビア達の引いた視線が、凄いが⋯⋯好奇心には勝てんよな。

 

 

「俺はコレを調理してみるから、皆は先に食べててくれ」

 

「分かったよ。じゃあ皆、早速食べましょー!」

 

 

シュレンの声と共に、食事の音が聞こえてくる。

俺も夕食へ逸る気持ちを堪え、レッドドラゴンの腕肉の調理を開始した。

 

熱した鉄板に肉が乗ると、油が弾け、香ばしい香りと湯気が立ち込める。魔導列車の夜に、僅かな火花が散った──⋯

 

 

 

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☆オマケという名の付け足し☆

 

 

「⋯アンタ、夕食はいいんじゃなかったの?」

 

「いや、すげー良い匂いがしたもんだからつい⋯⋯」

 

「ま、確かにレッドドラゴンのステーキがここまで美味しいとはアタシも思ってなかったけど⋯」

 

 

結局、匂いに釣られたヴィルジールは夕食の席へ着いていた。

そりゃ、昼食抜きでずーっと書類の処理をしていたこの男。一時の見栄張り如きで、食欲に抗えるハズも無く⋯

 

「あ、あの⋯おかわり貰ってもいいか⋯?」

 

「⋯ですって、銀槍竜」

 

「焼いてやるから、自分で肉取ってこい」

 

「分かった行ってくる」

 

 

ヴィルジールの返事に銀槍竜が振り返る頃には、風切り音だけを残した空間が。呆れながら溜息を零す銀槍竜の横には、既に積み重なったレッドドラゴンの鱗と骨があった。

 

彼ら冒険者に好評だったのは、銀槍竜の焼き加減と味付け。

特に、彼が唐辛塩と名付けた調味素材との相性が抜群によく、程良い肉と硬さと相まって、冒険者の胃袋をガッチリと掴んだのであった。

 

 

「⋯あの、宜しければ私の分はいいので、彼に⋯⋯」

 

「いいや、それは迷惑掛けた詫びだ。気にせず食べてくれ車掌さん」

 

 

控え目に言葉を発した車掌に対し、銀槍竜は笑顔で言った。

というのも、先程この魔導列車についての説明をしてもらい、詫びの気持ちに加えて、感謝もしていたからだ。

 

銀槍竜が受けた、魔導列車の大まかな説明はこう。

 

『緊急時の防衛機能について』

 

・【魔力シールド】

魔導列車に内蔵された機能の一つ。

中型の魔物の魔力攻撃なら、数分は耐久できる性能がある。

物理攻撃への耐久に関して課題点アリ。

 

・【魔力砲】

列車の先端に装備された大砲。

レール上の障害物の撤去が本来の役割だが、魔物にも有効。

魔力の消費が激しい為、3発が限界。チャージ可能。

 

 

「ンフン⋯♪フンフン♪」

 

 

異世界ならではの搭載機能、戦闘可能な列車という乗り物は銀槍竜の男心を大いに擽っていた。⋯⋯ちょっとステーキを焦がしてしまうくらいに。

 

 

「ぁ⋯そうだ。ニナ、聞きいことがあったんだが、いいか?」

 

ふぁいお(なによ)

 

「あぁ⋯⋯飲み込んでからでいいよ」

 

「んグっ⋯⋯ふぅ、おかわり。⋯⋯それで?」

 

 

頬張っていたステーキを強引に飲み飲んだニナに、『ちゃんと噛めよ⋯』と言いそうになった銀槍竜だが、彼女が受け答えしてくれるなら別にいいかと、質問を続けた。

 

 

「さっき⋯⋯あのソールがトドメを刺そうとした時、お前がやってたアレって?」

 

「魔物のアンタに、私が不利になる情報を教えると思うの?」

 

「いいじゃないのニナ、彼は敵意がある相手じゃないわよ?

⋯まさか、アンタ自信ないの?もし銀槍竜と戦ったら負けるって」

 

「⋯教えてあげようじゃないの」

 

 

チョロい⋯⋯と思ったのはこの場の全員だが、黙っているのも優しさ。無言になった食卓の席を立ったニナは、車両端に立て掛けてあった自身の武器を手に取って銀槍竜へと向けた。

 

彼女の武器は2対の刃で、テニスラケット程の大きさ。

鍔にはレンズの様な部品が付き、刀身の上部は筒状と、随分と変わった見た目をしている。だが、最も銀槍竜の目を引いたのは、筒の根元に装着されている結晶だった。

 

 

「⋯⋯ソレは」

 

「コレは魔力石。柄に私の魔力を流し込むと、この魔力石で増幅させて発射できるってワケ。⋯これ以上は教えないわ」

 

 

成程と頷く銀槍竜は、ここである事を思い出した。

先程ニナが行っていた、妙な構えについてだ。ニナがあの武器を正面に突き出した時、レンズの位置は彼女の視線の高さになっていた。つまり、左腕はブレが生じないよう、支えにしていたのだろう。

 

銀槍竜は冒険者の技術に関心しつつ、ニナに向けられている刃の峰に人差し指を置き、ゆっくりと下へ押した。

 

 

「オーケー、よく分かった。⋯ところで、その殺気やめてくれないか?」

 

「⋯ふんっ、さっさとおかわり寄越しなさいよ」

 

 

ぷいっと顔を動かすニナから銀槍竜が隣のシルビアへと視線を移すと、苦笑しながら『やれやれ』とジェスチャーをした。若さ故の怖いもの知らず⋯⋯というより、生意気にはシルビアも思う事がある様で、銀槍竜に同情しているようだ。

 

 

「取ってきた!銀槍竜、頼む!」

 

「はいはい⋯⋯」

 

 

銀槍竜がニナにしかめっ面をしていると、レッドドラゴンの肉を担いだヴィルジールが勢いよく帰還した。焼くまでの手間が省けるよう、骨と鱗の処理を済ませておく周到さに、銀槍竜は呆れ気味に肉を焼き始める。

 

 

「そういえば、喧嘩の原因って結局なんだったんですか?ヴィルジールさん」

 

焼き上がるまでの時間、ふと退屈を感じたシュレンはヴィルジールへ質問をした。当人は、思い詰めた様子で数秒黙り、鉄板の上で焼かれるステーキの油がパチンと弾けた音を皮切りに、口を開いた。

 

 

「実はな─⋯」

 

この後、事情を知ったシルビアが再びブチ切れたのは言うまでもないだろう。そして、レッドドラゴンの襲撃によって消耗した魔力石に代わり、魔導列車への魔力供給を命じられたのは、ここだけの秘密となるのであった──⋯

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