ある雨の日。
飛行機の轟音が響くビル群を抜け、電車の通過する高架下を通り、右へ。急な坂を上ったその先には、広大な霊園があった。階段状に広がる霊園の奥側、下から3段目に位置する墓石の前には、喪服を着た多くの人々の姿が。
粛々と進められる葬儀だが、彼らの表情は極めて暗い。
時折聞こえる啜り泣きの声と、拳を握り締める音。それらを無情に掻き消す雨音が止むことは無く、時が経つに連れ黒傘が1つまた1つと離れて行くのだった。
最後までの残ったのは2つの黒傘のみで、それを差している男女は無言で墓石を見つめていた。
「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」
男の、普段は逞しいであろう背は小さく丸まっており、肩は小刻みに震えている。
女は、そんな男の肩に手を添えて深く俯いているが、その瞳からは止めどなく涙が零れていた。
男が女の肩へ手を回して静かにさすると、女は傘を手放し、何かが決壊に様に男へと抱き着いた。今まで我慢していた感情を顕にし、咽び泣く女。男はただ力強く抱き締め、そして涙を零した。
「馬鹿息子が、先に逝っちまいやがって⋯⋯」
雨に濡れる墓を前に、父と母はいつまでも抱き合っているのであった──⋯
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「はぁ─⋯」
揺れる列車の中、俺は小さく溜息を零した。
窓に反射していた自分から目を離し、ごろんと寝転んで尻尾をくねらせると、膝の上にいた虎徹がそれを追い掛け始める。
自分の尻尾と虎徹のやり取りをボーッと眺めていると、右隣に座っていたサンクイラが話し掛けてきた。
「どうしたの?すっかり脱力しちゃって⋯⋯」
「いや、ちょっと⋯な」
魔導列車の旅も5日目の今日。
レッドドラゴンの襲撃によって生じた遅れは、ヴィルジールの魔力供給のお陰でなんとか巻き返せたらしい。列車の速度も以前より早くなった気がするし、間違いなく順調だ。
⋯だが、やはり問題は付き物。
退屈とはどこまでもしつこく、レッドドラゴンの素材の観察にも飽きてしまった俺は、忘れていた退屈についに追いつかれていた。そこで、俺は前世について色々考えていたんだが⋯⋯
「なぁに、考え事?」
「サンクイラ、俺にもプライベートってもんがな⋯⋯」
えへへと笑うサンクイラから、俺は視線を逸らした。
というのも、少々シリアスな考え事をしていた手前、彼女の笑顔を見ているとそれを忘れてしまうと思ったからだ。
暗い考え事など中断したいと、普通なら誰もが思う事だろうが⋯⋯今の俺に限ってはちょっと、な。
「ま、事情があるなら聞かないケド。⋯何かあったら、ね?」
「あぁ、分かったよ。⋯ありがとう」
俺が礼を言うと、サンクイラは『ん、』と軽い返事をしてからニナ側の車両へと移動した。彼女の後を小走りで追い掛ける虎徹から、俺は天井へと頭の向きを変えた。
「親父達⋯⋯元気かな」
無意識の内に口から出たのは、その言葉だった。
今、俺が思い浮かべているのは、前世に遺してしまった人達の事。恥ずかしい話だが、俺は普通以上に両親に愛されていたんだと思う。
若い内は、口煩い親だな程度の認識だった。
早くこんな家を出て、誰にも縛られずに生きてゆきたいと。
⋯だが、社会に出てから同僚や友人に話を聞いてみると、自分の家庭との違いに多くの疑問を持ったものだ。
まぁ余っ程特別⋯という話でもないのだが、それでも心の内で自慢できる程ではあった。
─紅志!こんな夜遅くまで何してたの!─
─全くお前という奴は⋯⋯こっちに来い!説教だ!─
「⋯ハハ。⋯⋯⋯はぁ」
体調⋯崩してないと良いな、なんつって。
〖ねぇ紅志〜〗
(ん⋯⋯。⋯どうした?)
〖ヒマだし、なんか面白い話してよぅ〜〗
(⋯⋯⋯⋯そうだな。じゃあちょっと、話してやるか。とあるお節介な両親と、その息子の話を──⋯)
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