『⋯恐らく、迎撃戦に参加する関係者が揃う筈だ。
そうなれば、何かしらの重要事項を伝えられる可能性も高い。各々気を抜くなよ──⋯』
クローネギルド、集会所の3階。
特別会議室と呼ばれる部屋で、サンクイラはハクアの言葉を思い出していた。室内には数多くの冒険者達がおり、そのどれもがかなりの手練である事が理解出来たからだ。
(うぅ、緊張するなぁ⋯)
強ばる表情を、何とか元に戻そうと奮戦するサンクイラ。
しかし、彼女の緊張は次の瞬間、突如として驚愕によって塗り潰される事となる。
「よぉよぉ!ヴィルジール!」
とある人物が、大声で自身の隣りにいる男を呼んだ為だ。
「おう。久し振りだな、ファリド」
「お前もな〜ヴィルジール。元気にやってたか〜?」
親しげにヴィルジールの背を叩いたのは、薄緑髪の男だった。
右サイドを刈り上げており、そこにはドラゴンのタトゥーが。後ろの髪を丁寧な三つ編みにし、散瞳気味の緑眼を持つ男の名は、ファリド・ギブソンだ。
「ンお?キミがサンクイラちゃんか〜、よろしくね〜」
「え、ちょっ⋯⋯どうも」
チラリと、サンクイラはヴィルジールに視線を送った。
自身の顔面のギリギリまで顔を近づけてくる、このやべぇ男は一体何者なのか、と。
この男がファリド・ギブソンという冒険者という事は、サンクイラも知っていた。だがしかし、聞いた話では、優しい雰囲気の頼れる男だと思っていたのだ。
「ヴィルジールから話は聞いてるよ〜」
「あ、あはは⋯⋯」
明らかに、どう見ても、変人。
ソールの様なタイプとも違う、サンクイラには少々苦手な相手だった。
「アナタがファリドなのね?よろしく、シルビアよ」
「お〜!シルビアちゃ〜ん、よろしくね〜」
シルビアが出した助け舟に、素早く乗じるサンクイラ。
ヴィルジールを挟んでファリドの対角線上に移動した彼女は、ヴィルジールの袖口を摘んだ。さながら、迷子になるまいとする娘の様な光景に、シルビアは微笑む。
しかし、シルビアは単に割って入っただけでは無かった。
このファリドという男に、強い興味があったのだ。
「キミの事も聞いてるよ〜。5ヶ月足らずで『ここ』まで来たんだって〜?」
「あら、光栄ね。あの【
【
正確には、ファリドが使用する大槍の名なのだが、彼の戦闘スタイルと相まって今では異名扱いなのだ。
その戦闘スタイルとは、至ってシンプル。
大槍を構え、敵に、まっしぐらに!⋯突っ込むだけである。
脳筋な手段と取れるが、その通り。
火炎も、氷塊も、雷撃も⋯⋯。あまつさえ毒霧や、触れれば即麻痺の棘ですら、強靭な脚力と豪快な腕力にものを言わせて突っ切る。文字通り、一点突破の戦法なのだ。
故に狂突、故に『最強の男』なのである。
「ハン、異名だなんて。そんなものは飾りさ。⋯俺は、俺のやり方で勝ってきただけさ。そして生き延びてきた」
「⋯⋯流石、ね」
変人的な雰囲気から一転、ファリドは真剣な声色で話す。
その様子に、シルビアは思わず胸を震わせていた。
「⋯あン?ヴィルジール、俺の親友はどこなんだ〜?」
と、唐突にファリドは首を回した。
彼が言う親友とはソールの事で、被弾を恐れず魔物に突っ込むという点で、互いに気があっているらしいのだ。
「アイツなら下で寝かせてるぜ。ひでぇ酔いだったんでな」
「ぬぁにぃ!!?あんの野郎、この俺をボッチにするなんて許せん!引き摺ってでも連れて来てやるッ!」
そう言うと、ファリドは勢いよく会議室の扉へ向かった。
『どうせ起きないと思うぜ?』という、ヴィルジールの言葉をスルーし、力強く扉のハンドルに手を掛けるファリド。
⋯が、次の瞬間。
──バタァァァアンッッ!!
会議室の扉が、うねりながら開いた。
扉の目の前にいたファリドは顔面モロに直撃で、派手によろめく。といっても、ダメージなど受けてはいないが。
「ンググ⋯⋯誰だ、俺のハンサムな顔に酷いコトしやがったのは?」
「あらあら。扉の向こうに気色の悪い魔力を感じたものだから、つい蹴っ飛ばしてしまったわ。ごめんあそばせ〜」
自慢である黒紫の長髪を、片手で大袈裟に
「俺の魔力が気色悪いだ〜?言ってくれるじゃねぇ──」
「アンタの事じゃないわよ、ハゲ」
「コレはハゲじゃねえ!」
小学生の様なやり取りをする2人だが、少女の方はファリドに関心は無い様子。部屋を見渡す彼女は、ある相手を探していた。そしてどうやら、見つけたようだ。
「いいか?このイカす髪型はなぁ、俺の生き様を表す──」
「ソールを呼びに行くんでしょ?会議が始まる前の方がいいんじゃない、ファリド?」
「あぁそうだった、いっけねぇ」
荒ぶるファリドを諭したのはシルビアだった。
ファリドが部屋を出て行き、少女との間に生まれた静寂の中、シルビアはゆっくりと歩を進める。
「あらあら。また乳房が邪魔そうに育っていること」
「うふふ。アナタはこの邪魔な物が無いものね、羨ましいわ」
距離が縮まる2名、散る火花(幻覚)。
「あらあら。王子様を別の娘に取られているようだけど、捨てられちゃったのかしら?」
「うふふ。心配してくれてありがとう。それより、アナタの王子様はいつ現れるのかしらね。アタシ心配だわ」
立ち止まる足、衝突する視線、漂うドス黒いオーラ(幻覚)。
「⋯⋯ねぇ、聞こえなかったの?捨てられちゃったみたいね、オバサン♪」
「⋯⋯粋がるのも程々にしなさいね、このクソガキ♪」
本性表した女達は、今や暴発寸前。
彼女達の周囲にいた他ゼクスメンバーは既に距離をとり、巻き込まれないように退避していた。
それは、魔物との戦闘時、強力な攻撃の予備動作を察知して予め退避しておく、冒険者ならではの危機回避能力である。
「あ、あの人って⋯⋯」
「お、知ってるのか?サンクイラ」
「アイリス⋯⋯アイリス・セレンスティナさんですよね?魔法の扱いなら、ゼクスの中でトップクラスの⋯⋯」
「そうだ。歳はお前と1つしか変わらねぇし、色々手本にさせてもらえ」
手四つ状態のシルビア達を遠目に、尊敬の眼差しでアイリスを見つめるサンクイラ。そんな彼女の頭を、ヴィルジールは父性溢れる気持ちで撫でる。
「それじゃ、俺は色々会っておきたい奴がいるし、お前も適当に挨拶しとけ」
「あっ、はい!分かりました」
サンクイラと別れ、ヴィルジールは会議室内を回る。
友人なのか、見知らぬ冒険者と楽しげに談笑するシュレン。女性冒険者達の中心で、何やら自慢げに話しているニナ。別の眼鏡の冒険者と、難しい表情で話し込むハクア。
久しく会っていなかった仲間との再開を楽しむ彼らを見ながら、ヴィルジールは一頻り歩いた。そして最後に、ボロボロになっているシルビア達の元へ来た彼は、静かに口を開いた。
「総員集結、だな」
「「⋯⋯は?」」
ヴィルジールの視線の先には、会議室の扉があった。
そして扉の向こうには、ソールの片足を右手に掴んだファリドの姿が。
冒険者改め、全ゼクスメンバー23名が集結した瞬間である。
かくして、迎撃戦への体勢が整い始めた王都は、数々の思惑の中で激動するのであった。
そして、銀槍竜もまた──