猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第50話・【黒異種】

 

 

(なんか騒がし⋯)

 

 

ギルバートとの対話を終え、俺はヴィルジール達のいる会議室へ戻った。予想に反し、入った瞬間に注目を浴びる事は無かったが、代わりに奇妙な現象が発生していた。

 

冒険者達が、揃いも揃って紙切れに釘付けになっていたのだ。

ギルバートが言うには、この後に予定している重大発表に関して、詳細が書かれた資料らしい。

 

 

「あ、ねぇ!銀槍竜!ちょっと来なさいよ!」

 

 

俺に気付いたシルビアが、此方に向かって手を仰ぐ。

それにより、他の冒険者が俺に気が付いた。かなり派手な事をしてしまった手前、冷静になった今では視線が痛い。⋯⋯兎に角、シルビアの所へ逃げよう。

 

 

「なんか騒ぎが?」

 

「えぇ、そうなの。⋯これを見てよ」

 

「⋯⋯?」

 

 

視線を誘導するように、シルビアが俺の前に資料を広げる。

何事かと、俺は資料へと首を向けた。⋯⋯が、視界に『黒』という1文字が入り込んだその瞬間、俺の意識は大きく向きを変更する事となる。

 

 

「どう、コレ?一大事でしょ⋯⋯ってどこ見てんのよ」

 

「なんだ、アレ⋯?」

 

ゴ ス ロ リ。

某海賊漫画よろしく、『ドン!!』という効果音を錯覚してしまう程、主張の激しい人物がそこにいた。仁王立ち姿で腕を組んでいる事もあり、その迫力たるや⋯⋯あ、目が合った。

 

 

「⋯⋯⋯(チラ)」

 

「⋯⋯⋯(コクン)」

 

 

ゴスロリ姿の彼女に対して、俺は僅かに会釈した。

化粧こそ濃く無いが、服装に負けないくらいの美少女で黒紫のストレートヘアが美しい。在り来りな表現をするなら、人形の様な可愛さ⋯って感じだ。

 

 

「アイリスを知っているの?」

 

「いや⋯初めて見るけど、見た目がさ。こう、個性的だし⋯」

 

 

女の子をボーッと眺めていた俺の隣に、シルビアが立つ。

アイリスって名前らしいあの子とは、知り合いなのだろうか?

 

 

「呼ぶ?」

 

「⋯⋯えっ?」

 

唐突なシルビアの台詞に、俺は固まった。

動揺を拭えぬまま彼女へ振り向くと、何やらニヤけた表情を浮かべたシルビアの姿があった。⋯⋯そう、まぁなんというか、ゲッスい顔をしている。

 

 

「アイリス、ちょっとコッチ来てよ」

 

「えっ?!」

 

 

目を丸くしている俺を尻目に、彼女はアイリスに声をかけた。

呼ばれた当人のリアクションが気になる所だが⋯⋯はて、何事だろうか。眉を顰めた辺り、何か嫌な要素があるっぽいが⋯。

 

 

「あ、そう言えばアンタ、ドラゴン系苦手だったかしら?」

 

「⋯⋯別に、平気よ」

 

 

コッチ歩いてくるアイリスは、かなり重い足取り。

会話の内容からして、アイリスは竜種(おれ)が得意では無い様だが⋯。もしや、シルビアはそれを知ってて彼女を呼んだのでは⋯?

 

 

「やっぱり戻ってもいいわよ」

 

 

両手を軽く押し出す動作をするシルビアに対して、

 

 

「は、はぁァ!?別に、全然ヨユーなんですけどぉ?」

 

 

という台詞と共に、アイリスは歩幅を大きくする。

虚勢を張っている様だが、その額には一筋の汗が流れていた。

⋯シルビアとアイリスの関係が気になる所だが、今の俺がすべき事は─⋯

 

 

「⋯⋯なんの用よ?」

 

「このコがね、アンタに聞きたい事があるみたい」

 

「はぁ⋯?」

 

「⋯─こんちには☆」

 

 

気さくな挨拶と、ステキな笑顔☆

第一印象は完璧だな。こりゃ間違いない。

 

⋯さて。

それはそうとして、シルビアからの無茶振りをどう捌こうか。まぁぶっちゃけ、誰に言われずとも質問の内容なんて尽きなさそうだが。

 

 

「な、なに?聞きたい事って⋯」

 

「そのカッコ⋯⋯素敵ですね☆」

 

「え、あ、あぁ⋯⋯アリガト」

 

 

動揺気味のアイリスは、それを誤魔化すように髪を()く。

そんな姿にすら上品さを感じさせる彼女は、目を泳がせつつ両腕を広げてみせた。

 

 

「まぁ、私って可愛いじゃない?だから、戦闘の最中でも可憐に戦える様にって作ったのよ」

 

「ほお、成程⋯⋯」

 

 

確かに、見た目ばかりの装備ではなさそうだ。

肩を露出させる事で関節が最大限稼働できるようにし、黒いレースグローブを着ける事によって肘の関節を覆わず、それでいて見た目も損なわない⋯⋯と。

 

加えて、自称『ゼクス1の美少女』のニナと並んでも、遜色ない美貌。自画自賛するのも納得させられるな。

 

 

「⋯⋯⋯」

 

「ん⋯?」

 

 

俺がアイリスの分析に(いそ)しんでいると、ふと彼女の視線が気になった。コチラと目が合うなり、素早く顔を逸らしたのだ。そして、それを誤魔化す様に両人差し指をくっつけ、押し引きを繰り返す⋯⋯。

 

たまに俺へ視線を戻すが、目が合うとまた逸らす⋯⋯と。

妙に落ち着きが無いのが気になる所だが、考えても仕方無い。ここは、直接聞く事にしよう。

 

 

「⋯どうかした?」

 

「いや、その⋯⋯私が素敵なのは分かってるんだけど、あんまりコッチ見ないで欲しいの。だって⋯──」

 

 

言葉を区切り、アイリスは一瞬だけシルビアを睨んだ。

知らんぷり、といった様子のシルビアは、やはりニヤけヅラ。それに対して呆れた様に溜息を零したアイリスは、俺へと近寄って⋯⋯って、うぉ!?近い近い!!

 

 

「ドラゴン特有のさ⋯⋯その細い目が苦手なのよ、私」

 

「あ、あぁ、それはゴメン。⋯近くない?」

 

「そんなコトいいでしょ。いいから、あんまり目を合わせないで欲しいわ」

 

 

あー、ああー!耳に、耳に吐息が当たっている!

目なんてどうでもよく⋯⋯いや、よくないな。サラッと嫌われてるじゃねーか、俺。

 

 

「えぇっと、目が?この目がヤって事?」

 

「イヤっ!だからコッチ見ないでって言ってるでしょ!」

 

 

ひぃ、凄い拒絶のしようだな。

そこまで苦手な理由って一体なんだ?⋯というか、わざわざ耳打ちしたのも気になる所だな⋯。

 

 

「⋯んもう」

 

「悪かったって。⋯なんで、そこまで──」

 

 

──パンッッ!!

 

 

俺が疑問を言葉にするより早く、会議室に甲高い音が響く。

音がした方へ向くと、両手を合わせて壇上に立つギルバートの姿があった。どうやら、そろそろ会議を再開するぞと、手を叩いて注目させらしい。

 

 

「⋯では、会議の続きを始めさせてもらう」

 

 

咳払いをしたギルバートは、なにやら重い口調で言った。

重要な話がありそうだが、そういえば俺、この会議の目的を知っていないかもしれない。

 

迎撃戦についての会議なのは予想がつくが、わざわざギルドマスターが進行を務めるのは何故だ?重大発表とやらは、そこまでの大事なのだろうか⋯⋯。

 

 

「各々、()()()()()()()ようだな。──単刀直入に聞こう、質問は?」

 

 

なんの事やらと、俺は頭を捻らせた。

何に対して目を通したのか謎だし、俺が来るまでの間に話が何処まで進んでいたのかも分からん。静観、といきたい所だが、ギルバートの問い掛けに手を挙げる奴が誰1人いないし⋯。

 

参ったな、コレは。

 

 

「──あの、シルビア」

「ん、何?」

 

 

もう、仕方無い。

ここは人を頼っての状況把握がベストだな。

 

 

「この会議って、どんな議題が中心なんだ?」

 

「⋯さっき見せなかった?」

 

 

俺の質問に、シルビアは溜息を零した。

いや『さっき』っていつの話だよ、全く。何か見せられた記憶なんて無いし、人違いも⋯⋯

 

 

 

 

 

 

 

⋯⋯あ。

 

『黒』!くろくろ!

そぉだよ、俺のバカ。会議室に戻った時、シルビアは俺に何か見せてくれてたじゃないか。アイリスのビジュアルに驚き過ぎて忘れてたぜ、もう。

 

 

「⋯もっかい見せて下さい」

 

「はぁ、もう。⋯ハイこれ」

 

 

呆れるシルビアは、俺に1枚の資料を手渡した。

 

 

「⋯そうか」

 

 

ギルバートがそう呟くのと、俺が資料の全容を把握したのは、ほぼ同時だった。それ共に、俺はどうして冒険者達が誰1人手を挙げなかったのかを理解する。

 

疑問が無かったのでは無い。

寧ろ、疑問が多すぎて“何を聞けばいいのか分からなかった”のが真実だったんだ。そりゃあ、困惑しない方が難しいだろう。『こんな物』見せられて⋯⋯。

 

 

「改めて、言わせてもらう。我々が直面している事態は、想定より遥かに重大なのだ。心して、対処に当たって欲しい」

 

 

静寂が包む会議室で、ギルバートは真剣な眼差しで言う。

俺は、暗い表情の彼から今一度資料へと目をやった。

 

 

 

 

 

 

 

──『黒い魔物』。

王都に進行する魔物の軍勢に出現した、未知の種族。

魔軍の発生時には確認されておらず、また出現時期も不明。

体躯・能力ともに解明を急いでいるが、全容は未だ謎である。

現在判明している『黒い魔物』は、大きく2種類。

 

『竜型』と『獣型』である。

両種とも姿は違っているが、全身が黒く赤い瞳を有している。

特徴の一致が多い為、研究が進むまでの期間は同種族の扱いとする。

 

まず『竜型』は、飛行能力が確認済み。

サイズはワイバーンと同等か一回りほど大きいと見られ、尻尾の先端が刃上になっているのが見受けられた。

 

対空魔法、及び遠距離武器の使用により、接近される前に撃破するのが好ましい。

 

次に『獣型』。

四足歩行型で、サイズはガムナマールと同等。

だが俊敏性においては、上記の魔物より数段上とされている。

 

戦場の撹乱を防ぐ為、足止めした後に一網打尽にしてしまうのが得策だろう。

 

 

以上の魔物は、全くの『新種』という扱いになる。

両種の戦闘能力の高さについても不明だが、ゼクス及びツエンの働きに期待する──⋯

 

 

 

 

 

「⋯──コレ、まじ?」

 

「どうやら、まじらしいわ⋯」

 

 

馬鹿げている、俺はそう思った。

『新種』ってなんだよ、『新種』って。流石に唐突過ぎるし、こんなヤバい事態だってのに、ギルドは戦力の増強をしなかったって本気か?⋯いや、俺以外にって話でさ。

 

あと、2種類いてこれだけ見た目が違うのに『同種族』?

⋯⋯いや、まぁ実物を見なければ何とも言えないが⋯。兎に角、マジで重大な一件だという事は理解できたか。

 

 

「ギルドは、これら新種を【黒異種(こくいしゅ)】と命名。混乱を回避する為、此方が通達するまでは他言無用で頼む」

 

 

言い終えたギルバートの背後に、『黒異種』という文字が大きく映し出された。『黒』色で、通常とは『異』なる『種』族という意味らしいが⋯⋯まぁ文字通りって名前だ。

 

考えたのが何処の誰かは知らないが、もう少しヒネりがあっても良かったんじゃないか?

 

 

「この黒異種を含め、魔軍の総数は3470体。対する此方側は、参戦可能なツエンが約50名。君達ゼクスが23名。そして⋯⋯1体。圧倒的な戦力差に変わりは無いが、君達であれば覆せると信じている。──頼むぞ」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

 

冒険者達の力強い返事に、空気が揺れた。

ギルバートは真正面からソレを受け取り、満足気に頷く。そして僅かに口角を上げた彼は、直後に俺と視線を合わせた。

 

──期待しているぞ──

 

そう言っているかの様な眼差しを送るギルバート。

彼のその様子に、俺は無意識に彼と同じ表情を浮かべていた。

 

──任せとけ──

 

と、表情で返答した俺から、ギルバートは視線を外した。

 

 

「黒異種の新情報を入手した際には、即座に君達に通達が行く事になっている。出来る限りの情報収集の努力を約束しよう。

⋯⋯では、続いて。作戦当日における、各員の配置場所についてだが──」

 

 

そこからの会議は、トントン拍子だった。

最も重要な話を済ませたのだから、当然っちゃあ当然だが。

 

殆どが『改めて』って感じの内容らしく、今回の作戦の会議に初参加だった俺は、少々肩身が狭かったな。必要備品の確認や一人一人の役割といった議題が上がったが、どれも初耳の話ばっかりだったし。

 

ただ、一つだけ。

大真面目な雰囲気が和らいだ議題があった。言ってしまえば『報酬』についての話しなのだが、冒険者達はかなり沸いている様子だった。

 

⋯⋯いやはや、しかし。

この戦力差、この新情報を前にして勝利を確信している辺り、やはり実力は相当高い連中らしい。先程のアイリスもそうだったが、物凄い量の魔力の持ち主ばかりだ。

 

ンまぁ、パッと見で1番若くて頼りなさそうなサンクイラちゃんですら、ギフェルタの時のゴルザより魔力は多かったしなぁ。『ゼクス』って階級の冒険者の実力が窺えるな。⋯こんな奴らが上から6番目ってヤベーな、ホント。

 

 

「──これにて会議を終了とする。では、解散」

 

(まぁなんやかんやで終わったし、王都の散策ついでに夕飯でも行こうかね)

 

 

ギルバートが退出し、再び騒がしくなった会議室で、俺はこの後の予定を考えていた。そりゃあ、王都に到着してからの俺の動きと言えば、睡眠、起床からの戦闘、からの会議だし。

 

美味い飯でも食いながら、夜の王都でも眺めてたいもんだぜ。

 

 

「あーあ、疲れた。シルビア、夕飯でも行くか?」

 

「あらやだ、ナンパ?」

 

「違うわ。王都の店とか色々教えて欲しいんだよ、買い物もしたいし。今日、サンクイラちゃんと結構歩き回っただろ?」

 

「そんな、アタシを案内人みたいに⋯⋯まぁいいけど。でも、その前に。貴方を『ナンパ』したい人は多いみたいだから、先に相手してあげたら?」

 

「⋯⋯えっ?」

 

 

妙な事を言ったシルビアは、その視線を俺の背後へと向ける。

つられるように、俺も彼女が見ている先へと首を動かした。

 

 

「⋯わぁ」

 

「「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」」

 

 

ん、ガン見。

も、すんごい。微動だにしないで、冒険者達が俺を見ている。なんかもう、このまま斬りかかってくるんじゃないかと思うくらい、集まる視線が鋭い。

 

 

「それじゃ、アタシは行くわね。上手く切り上げられたら、その時は付き合ってあげるわ」

 

「え、ちょっと⋯」

 

 

蒼髪をふわりとなびかせ、手を振って退出するシルビア。

ハッと俺は素早く室内を見渡したが、ヴィルジールやサンクイラといったベルトンで俺と合った事がある冒険者達の姿が見当たらない。⋯⋯どうやら、退避済みってワケらしい。

 

 

「あ、あはは。どーも皆さん。⋯それじゃ、俺はこれで──」

 

 

──シュバババッ!!

 

 

「⋯⋯⋯⋯わぁ」

 

 

すごい、目にも止まらぬ速さで出入り口を塞がれた。

あー、もう。デジャヴの予感しかしない。

 

 

「色々⋯⋯いや、全部聞かせなさいよ」

 

 

1歩前に出てきたアイリスは、にこやかに言う。

いやまぁ⋯⋯絶対に逃がさないという意思が滲み出ているが。ここで逃げたら、もしかして殺られちゃう感じ⋯?

 

 

「よーよー、お前が銀槍竜とかいうヤツなんだってー?俺と戦ってみる気はなぁーい?」

 

「お、おぉ⋯⋯」

 

 

なんか、変な入れ墨の奴まで来たぞ。

⋯あ、他の奴らに阻まれてる。

 

 

「まぁ、ファリドの事は無視していいわ。──で、」

 

「は、はい⋯」

 

 

この後、冒険者達から俺が質問攻めにあった事は言うまでも無いだろう。1時間近く拘束されたのも、言うまでも無いだろう。

 

そう、俺は彼らにとってイレギュラーなのだ。

喋る魔物自体はいるらしいが、どうやら喋るグレイドラゴンというのは前例が無く、それだけでも興味が尽きないんだとか。

 

あとはまぁ⋯⋯魔法とか、戦い方とか?

兎に角、気になる事だらけなのが俺っていう魔物らしい。

 

 

「なー、なー。俺と戦ってみようぜってー!」

 

「ファリド、アンタはちょっと静かにしててくれ⋯⋯」

 

 

くそう、シルビア達め。

俺がこうなる事を見越して先に出て行ったな?俺を連れて会議室を出るには、時間がかかり過ぎるってよお。

 

ゆるさん、いつかアイツらのクエスト中に邪魔入れてやる。

 

 

「で?」

 

「それから?」

 

「この時の話は?」

 

 

⋯⋯⋯あああ!!もう!

こうなったら全部の質問に受け答えしてやる!

とっとと美味い夕飯を食う為だ!ばっちこいやー!

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