猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第58話・激闘、最熱

 

「ぐッ⋯オオオッ!!」

 

 

ファリドは、思わず声を上げる。

防御の構えを取る彼の周囲には、ある現象が発生していた。

 

 

──ドンッッ!

 

 

小規模な爆発音と、それに伴う砂煙。

そして、前述の現象と同時に、ファリドの槍に火花が散る。爆発の発生から、槍に火花が散るまでの時間、0.09秒⋯。この刹那のやり取りは、試合再開時から既に100回以上繰り返されていた。

 

 

(考えやがったな、コイツ⋯⋯)

 

 

ファリドの額に、新たな冷や汗が生まれる。

常人では理解すら及ばぬ状況だが、彼の目はハッキリと認識していた。

自身の周りを超高速で跳ね回る、銀槍竜の姿を。

 

 

(やべェ、加速してやがる⋯ッ!)

 

 

一連の動作音が重なって聞こえる程の速度で、攻撃を繰り出す銀槍竜。

ただでさえ、『ゼクス最強の男』を防御に徹させる攻撃速度にも関わらず、更にその勢いは増していく。最早、ファリドの周囲に謎の爆発が生まれているとしか見えぬ程に。

 

 

(──意外と持ちこたえるな⋯)

 

 

銀槍竜こと紅志(あかし)は、考えていた。

自身の最大に近い速度での攻撃を、辛うじてではあるが、今も防ぎきられている事について。

 

確かに、最大に近い速度といっても、それは“擬似的”なもの。

金属生成で後脚に強靭なバネを作り出し、それが弾けるエネルギーを速度に変換している状態だ。

 

利点として、『攻撃後、着地時のエネルギーの何割かを反転できる』というのが上げられる。攻撃を途切れさせたくない現状として、銀槍竜の中では理想的な答えであった。

 

だが、相対するファリドの様子から、彼は理解する。

このままではジリ貧だ、と。

 

 

(⋯⋯接近戦に持ち込むか)

 

 

銀槍竜の考え通り、有効な一手はそれしかなかった。

攻撃を途切れさせる事無く、尚且つ手数を維持するには、接近して戦うのが最良の選択だったのだ。

 

──しかし。

 

ここで銀槍竜に、今まで行った接近戦の記憶が蘇る。

『決定的な被弾』は、毎回接近戦で食らっているのだ。

 

即ち、接近戦においては、ファリドに分があるという事実があった。

 

 

(⋯堪んねぇ)

 

 

それでも尚、銀槍竜は後脚のバネを解除した。

 

 

「オイッ!お前マジかッ!!」

 

 

銀槍竜のまさかの行動に、ファリドは思わず笑みを零す。

それは、彼からすれば当然であった。銀槍竜が能力の制限を解除したとはいえ、接近戦での戦績は圧倒的に彼が上回っていからだ。

 

だが⋯⋯、いや、だかこそ。

銀槍竜は接近戦に持ち込むという選択を取った。自身の技術が何処まで通用するのか、それを知りたかったからだ。

 

「ンッ!?」

 

 

風を切り、銀槍竜がファリドへと迫る。

それも、顎先が地面と触れそうな程に深い位置からの突進であった。

 

 

「ふッ!」

 

 

僅かな呼吸を挟み、銀槍竜は鉤爪を振り抜く。

ファリドは即座に1歩下がる事でそれを回避したが、その目は大きく見開かれていた。理由は、銀槍竜が行った攻撃手段にある。

 

「お前ッ、マジッ、アブねッ!」

 

「足の1本、俺にくれてもいいんだぜ?」

 

「やるかッ、馬鹿ッ!」

 

 

足元を狙った怒涛の鉤爪の連撃に、ファリドはギリギリで対応する。

先程まで、接近時は打撃しか使わなかった銀槍竜によるその攻撃は、ファリドの判断力を1歩遅らせた。

 

彼にとって厄介だったのは、鉤爪攻撃が繰り出される『位置』だった。

足元から攻撃が飛んでくるなど、普段自身より大きな魔物が相手の冒険者とって、滅多に無い事だ。ましてや、明確に足を狙われるなど、初めての経験でもある。

 

つまり、対処法を知らないのだ。

 

 

「くッ⋯」

 

 

堪らず、といった様子で、ファリドは地に向け刺突を放つ。

だが、一撃一撃の隙間を縫う様な回避をみせ、銀槍竜はファリドへの距離を更に縮めた。苦しげな表情をみせるファリドだったが、彼もまた【狂突(アクセル)】の異名を持つ漢。

 

眼前に迫る銀槍竜から数歩退き、必殺の連続刺突を繰り出した。

 

 

「フッ──!」

 

 

刺、刺、刺。

魔力の全解放によって膂力が上がった全身で、ファリドは突きを放つ。

最早、試合開始時点のソレとは比べ物にならぬ程、その速度は凄まじいものとなっていた。

 

──だが。

 

 

 

 

 

「────。」

 

 

捌、捌、捌、捌、捌。

ファリド全身全霊の攻撃の、その全てを銀槍竜は捌いていく。それも、残っている片腕のみで。利き手では無い、左腕のみで。

 

そして遂に、

 

 

「う⋯おッ!?」

 

 

銀槍竜が、反撃に動いた。

ファリドの刺突を捌く合間に、攻撃を打ち始めたのである。

 

 

(流石に、グーにしとくか)

 

 

紅志は考える。

このままでは、試合と言えど致命傷を与えかねない。それを避ける為、打撃での攻撃を選択するべきだと。

 

 

(でも、片手では厳しいよな⋯⋯)

 

 

銀槍竜は考える。

ここまで応酬でも、ファリドへの決定打は当てられていない。ならば、片手のみという不利は取り除かねばならい、と。

 

 

「⋯⋯⋯⋯よし」

 

 

その一声と共に、銀槍竜は大きく息を吸う。

直後、右腕の傷口が赤色に発光。その光は右腕の形状へと変化を遂げ、即座に腕の再生を始める。目の前のファリドが呆れさえ覚えるその回復劇は、僅か1秒程度で完結していた。

 

 

(よしよし。こんなモンだな)

 

 

右手の指を動かし、銀槍竜は動作確認をする。

彼は未だ左腕のみでの攻防を行っている為、ここからの反撃に対して、ファリドの警戒が高まった。

 

そして、()()()を見逃す銀槍竜ではない。

 

 

「ふんッ!」

 

 

──『前掃腿(ぜんそうたい)』。

自身が行った技が、そう呼ばれている事について、銀槍竜は知らない。

だが、低姿勢からドリフトする様に脚を振り抜き、相手の足を取るこの技⋯⋯。現状のファリドに対しては、かなりの有効度を誇っていた。

 

彼の意識は、銀槍竜の再生した右腕に向いていからだ。

『どんな攻撃が出るか』と注視していた為、銀槍竜の右腕に視野が狭まっていたのである。

 

⋯⋯しかし、

 

 

「おオッ!?」

 

そこは冒険者足る者、ギリギリで跳ねて前掃腿を回避する。

空間把握と危機管理については、優秀さを極めているのが彼らなのだ。前掃腿を行う際の、屈む→脚を伸ばす→振る、という『振る』に至るまでの予備動作。ソレを把握出来ぬ程、ファリドも冷静さを欠いていなかった。

 

 

(──()()()()()⋯ッ!)

 

 

だが。

既に銀槍竜の狙い通りに自身が動いていたという事は、ファリドも気付いていなかった。

 

 

──バチイィ───ンンッッッ!

 

 

「ぐあァッ!!?」

 

 

甲高い打叩音(だこうおん)と同時に、ファリドが悶える。

即座に攻撃の正体に目をやった彼は、ハッと目を見開いた。

 

 

(野郎、マジで頭使えやがるな⋯!)

 

 

さしずめ、『前掃尾(ぜんそうび)』といった所だろうか。

銀槍竜は尻尾を使って、ファリドの脹脛(ふくらはぎ)へ攻撃を命中させていたのだ。

つまり、前掃腿の動き自体が全て予備動作。

 

いや正確には、フェイントという扱いだろう。

脚払いを避ける為に空中へ跳ねさせ、着地してきた所を尻尾で叩く⋯。

これにより、流石のファリドも大きくバランスを崩した。

 

 

「⋯⋯チッ」

 

 

『これは当たる』と、ファリドは舌打ちをする。

単に、脚への攻撃でバランスを崩しなのなら、打開策は幾らでもある。

だが、この時。銀槍竜は、ファリドに命中させた尻尾を彼の脚に引っ掛け、体勢を崩したのである。

 

 

「俺も、借りは返してやるぜ」

 

 

仰向けに傾くファリドに対し、銀槍竜は素早く側面に移動。

──そして、拳を固めた。

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