「おあぁー!!ちきしょおぉー!!負けたあぁー!!」
鼻っ面を抑え、地面に寝転ぶファリドが叫んだ。
カウンターが上手く入ったので、当然ではあるが結構な量の血を鼻から流している。⋯殴った張本人である俺が言うのもなんだが、めっちゃ痛そうだ。
「お前、強すぎだろおぉー!!」
ファリドは、悔しそうに空を仰ぐ。
彼の表情からは台詞以上に悔しさが滲み出ているが、その反面清々しさと、どこか嬉しそうな感情も感じ取れた。
かく言う俺も、この試合には物凄く満足しているがな。
また1つ強くなれた気がするし、なにより楽しかったのがある。
久っっし振りに本気で戦えたのは、予期せぬ幸運だったぜ。
「お疲れ様、銀槍竜。⋯⋯アンタ、一体どこで戦闘方法を学んだの?」
ハンカチで顔を抑えるファリドを背景に、シルビアが此方へ歩いてくる。どうやら俺の戦い方に疑問を持っている様子だが、はて?何か変わった事なんてしただろうか?
「ったく、本当だぜ。あんな綺麗に
シルビアに続き、俺に質問をするファリド。
『嵌められた』と言っている当たり、俺が何か仕掛けた時の話なのだろうが、もしや
俺がバネを再生成し、ファリドを空中へ
「──初めの高速連撃で、警戒心を刷り込んでおく。
アンタらは冒険者だから、1度見た脅威となる技に対して、直ぐに対応策を練ってくる⋯⋯。それを利用しただけだ」
「信じらんねぇ。マジであの展開が計算のウチだってのかよ」
うーむ、何やらファリドに呆れられている。
俺がやったのは、『バネを利用した攻撃は脅威だ』と思わせ、その対応として『空中へ飛び出す』という判断をさせた事だ。結果として、『安全圏に入った』と油断させた所を狙い、鎖で動きを封じた、って話なんだが⋯⋯。
まぁ確かに、“普通の魔物”だったら、そんな戦い方はしない。
だが、今回の相手は俺だ。そこら辺の連中と一緒にされちゃ、困るってもんだぜ。
「⋯だぁあ!くそっ!ぜってえリベンジしてやるからな!?」
「はいよ。今度はガチだな」
「言ったな?⋯よォ〜し、もっと強くなってやるぜッ!」
地面に寝っ転がったまま、ファリドは拳を空へ掲げる。
試合後にも関わらず声量の落ちない彼を見て、俺は呆れながら溜息を零した。⋯正直言うと、アイツとはもう戦いたくない。
というのも、ファリドの戦闘スタイルと今回の試合ルールを考えた時に、実力の大半は発揮出来なかっただろうしな。
『肉切骨断戦法』⋯⋯とでもいうのかな。
アイツは被ダメ覚悟で相手に突っ込む戦い方が主流だし、今回の試合ルールでは、動きにかなり制限がかかっていただろう。
いざルール無用でやり合うとなれば、腕1本じゃ済まなそうだ。
やっぱ、冒険者って恐ろしい奴らだな。
「ほらよ。手、
「⋯へッ!上等だぜ!」
俺が手を差し出すと、ファリドは固い握手で返す。
そのまま起き上がるのを補助しつつ、静かに立ち上がらせた。
そりゃあ、骨とか内蔵とか色んな箇所がイッているだろうし、流石のファリドもキツイもんはキツイか。
「肩も
「オイオイ、銀槍竜ちゃん。いいのか?俺にそんな貸しちまってよぉ?」
「ハハ、高く付くに決まってんだろ。絶対に返せよ?」
「おうよ!任せとけ!」
ファリドに肩を貸しながら、俺は歩き始める。
途中からシルビアも肩を貸してくれたが、ファリドが『優しいシルちゃ〜ん』とか言いながら、彼女の肩に頭を乗せていた。
「ヤダちょっと!汗がついたじゃないのよ!」
普通に嫌がられていた。
「ひぇ〜ん。銀槍竜ちゃあ〜ん、このコ怖い〜」
「当ったり前でしょ?⋯ホント、男のそういう所がキライ⋯⋯って。銀槍竜、どうかした?」
ふと、シルビアが俺の肩を指で叩いた。
どうやら、周囲を気にしていたのがあからさまに動きに出ていたらしい。⋯⋯ンまぁ、そんな事も一旦置いときたいくらい、周囲の様子が気になるんだが。
「⋯⋯あら?」
「んん??いつの間に」
シルビア達も、俺の視線を追った事で気付いっぽいな。
⋯ただ、2人のリアクションを見るに、存在に気付いたのはたった今らしい。俺は試合途中からチラチラと気にしていたが。
「──良い闘いだったぜーッ!!」
「迎撃戦、期待してるよーっ!!」
「ファリドーっ!だらしねーぞッ!」
この、ギャラリーの数よ。
パッと見でも50人近くはいるな。ゼクス達と見られる連中や、王都の冒険者も何人かいるだろう。⋯⋯うおぉ。よく見れば、ギルバートまでいるぞ。
全く、人の戦いは見世物じゃないっての。
⋯まぁこの『戦いを終えた感』は、中々悪くないんだがな。
「やれやれ、物好きな人達なんだから」
「おぉ?そんな事言って、シルちゃんもノリノリで審判役買って出た気がするけど〜?」
「⋯⋯んもう、うるさいわね」
「「(せーのっ)シルちゃん、カワイーっ!!」」
呆れながら『アンタ達、ついさっきまで⋯⋯』と此方を見るシルビアに、俺とファリドは耳を塞いで聞こえないフリをする。
こういった馬鹿みたいなノリが、俺は好きだ。
「──さぁて、何はともあれ。コレで銀槍竜ちゃんが信頼できる相手だってのが分かった。迎撃戦、頑張るぜーッ!」
「はいはい、頑張りましょうね。⋯アンタも、正直言うと結構期待しているわ、銀槍竜」
「任せろって。サクッと終わらせるぜ」
ギャラリーの歓声が飛ぶ中、俺達は訓練場の出口へと向かう。
逆に、出口から此方へ向かってくる人達がいるが、恐らく医療班だろう。⋯あぁ、王都医療班だっけか?なんでも治してくれるとか言ってた。
といっても、俺は自分の傷は自分で治せるし、縁の無い話かもしれないが⋯⋯。まぁそんな事はどうでもいいや。
今日はもう⋯休む!
ただまぁ日も高いし、たまには酒でも飲みに行こうかね〜。
「⋯あら?まだ買い物の用事でもあるの?」
ファリドを医療班に預けた後、訓練場を出た所でシルビアが俺に尋ねた。ギルドとは違う方面へ歩き出した事に、疑問を持ったのだろう。
「──いいや。一汗かいたワケだし、酒が美味いかなって」
「へぇ、いいじゃない。アタシも付き合おうかしら」
「ははぁ、ナンパか?」
「⋯ふぅん。じゃあ1人で行ってらっしゃい」
「えっ、冗談です」
「ふふ、可愛いトコあるじゃない」
あ、この
⋯くぅ。ここで『本当に一緒に呑めるなら嬉しい』と思ってしまう辺り、俺も男だな。やれやれだぜ。
「じゃ、ご馳走になるわね」
「え、えぇ〜⋯」
「フフ、アンタお金持ちでしょ〜」
「いやいや。そこはオトナとしてシルビアが──⋯」
会話は、街の雑踏に消えていく。
突如として始まった試合を終え、俺は新たに“戦い方”を学習。
また1歩、迎撃戦へ向けて近付いたのであった。
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銀槍竜達が、訓練場を去った後。
ギャラリーもはけ、崩れた訓練場の補修にあたるギルド職員を眺めながら、とある老人は思案していた。
(銀槍竜⋯⋯。やはり、野放しは出来んな)
王都・ギルドマスター、ギルバート。
シガーを吹かしつつ、彼は昨日の銀槍竜との会話を思い返す。
──アンタが誰で、目的が何かは知らない。
⋯でも、まずは対話するってのが筋だと思うな──
確かに、人間に明確な敵意は無かった。
だが、同時に。
人間に対しての明確な好意があった訳では無い。
『対話を用い』、『無用な争いを避ける』という点では、そこらの魔物よりは圧倒的に安全ではある。それは間違いない。
しかし、100%安全かと聞かれれば、その回答には詰まる。
ギルドマスターという立場としては、マイナス要素を強調して物事を考えねばならないからだ。
(⋯もし。もし仮に、あの知能を持った魔物が、人類に対して明確な敵意を抱いた場合──)
シガーを持つ指に、力が入る。
自身の予測が、もしも当たってしまったら⋯⋯と。
「──いずれ、『君達』にも話が行くかもしれない。その時は、“仕事”を頼むぞ」
ギルバートは、静かに振り返る。
彼の視線の先には、真っピンクのパーカーと、同じく真っピンクのミニスカートを履いた女性がいた。
⋯いや。
女性、よりは、女子の表現の方が似つかわしいかもしれない。
だが、彼女の風貌は深く被られたフードによって隠されており、老若の明言ができるソレではなかった。
「⋯『ウチら』の“仕事”は、
「いや。『君達』こそが適任かもしれないのだ、ネイビス君。
人間並みの知能に、人間以上に知能を能力で活用できる魔物。
⋯⋯どうかね?」
「⋯⋯⋯⋯⋯。」
ミディアムロングの金髪、そして褐色の肌。
付け加えるなら、右前髪の一房だけ綺麗な桃色である事。
それだけが一目で分かる、ネイビスと呼ばれた女子の特徴であった。
「⋯⋯まぁ、その時はその時って事で」
「うむ。頼んだぞ」
それぞれの思惑の中、迎撃戦が迫る王都。
運命の秒針が、音を立てた。