猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第60話・試合を終えて

 

 

「おあぁー!!ちきしょおぉー!!負けたあぁー!!」

 

 

鼻っ面を抑え、地面に寝転ぶファリドが叫んだ。

カウンターが上手く入ったので、当然ではあるが結構な量の血を鼻から流している。⋯殴った張本人である俺が言うのもなんだが、めっちゃ痛そうだ。

 

 

「お前、強すぎだろおぉー!!」

 

 

ファリドは、悔しそうに空を仰ぐ。

彼の表情からは台詞以上に悔しさが滲み出ているが、その反面清々しさと、どこか嬉しそうな感情も感じ取れた。

 

かく言う俺も、この試合には物凄く満足しているがな。

また1つ強くなれた気がするし、なにより楽しかったのがある。

久っっし振りに本気で戦えたのは、予期せぬ幸運だったぜ。

 

 

「お疲れ様、銀槍竜。⋯⋯アンタ、一体どこで戦闘方法を学んだの?」

 

 

ハンカチで顔を抑えるファリドを背景に、シルビアが此方へ歩いてくる。どうやら俺の戦い方に疑問を持っている様子だが、はて?何か変わった事なんてしただろうか?

 

 

「ったく、本当だぜ。あんな綺麗に()()()()()の、初めてだ」

 

 

シルビアに続き、俺に質問をするファリド。

『嵌められた』と言っている当たり、俺が何か仕掛けた時の話なのだろうが、もしや()()の事だろうか?

 

俺がバネを再生成し、ファリドを空中へ()()()()()()()時の。

 

 

「──初めの高速連撃で、警戒心を刷り込んでおく。

アンタらは冒険者だから、1度見た脅威となる技に対して、直ぐに対応策を練ってくる⋯⋯。それを利用しただけだ」

 

「信じらんねぇ。マジであの展開が計算のウチだってのかよ」

 

 

うーむ、何やらファリドに呆れられている。

俺がやったのは、『バネを利用した攻撃は脅威だ』と思わせ、その対応として『空中へ飛び出す』という判断をさせた事だ。結果として、『安全圏に入った』と油断させた所を狙い、鎖で動きを封じた、って話なんだが⋯⋯。

 

まぁ確かに、“普通の魔物”だったら、そんな戦い方はしない。

だが、今回の相手は俺だ。そこら辺の連中と一緒にされちゃ、困るってもんだぜ。

 

 

「⋯だぁあ!くそっ!ぜってえリベンジしてやるからな!?」

 

「はいよ。今度はガチだな」

 

「言ったな?⋯よォ〜し、もっと強くなってやるぜッ!」

 

 

地面に寝っ転がったまま、ファリドは拳を空へ掲げる。

試合後にも関わらず声量の落ちない彼を見て、俺は呆れながら溜息を零した。⋯正直言うと、アイツとはもう戦いたくない。

というのも、ファリドの戦闘スタイルと今回の試合ルールを考えた時に、実力の大半は発揮出来なかっただろうしな。

 

『肉切骨断戦法』⋯⋯とでもいうのかな。

アイツは被ダメ覚悟で相手に突っ込む戦い方が主流だし、今回の試合ルールでは、動きにかなり制限がかかっていただろう。

いざルール無用でやり合うとなれば、腕1本じゃ済まなそうだ。

 

やっぱ、冒険者って恐ろしい奴らだな。

 

 

「ほらよ。手、()()()()()

 

「⋯へッ!上等だぜ!」

 

 

俺が手を差し出すと、ファリドは固い握手で返す。

そのまま起き上がるのを補助しつつ、静かに立ち上がらせた。

そりゃあ、骨とか内蔵とか色んな箇所がイッているだろうし、流石のファリドもキツイもんはキツイか。

 

 

「肩も()()()()()()()?」

 

「オイオイ、銀槍竜ちゃん。いいのか?俺にそんな貸しちまってよぉ?」

 

「ハハ、高く付くに決まってんだろ。絶対に返せよ?」

 

「おうよ!任せとけ!」

 

 

ファリドに肩を貸しながら、俺は歩き始める。

途中からシルビアも肩を貸してくれたが、ファリドが『優しいシルちゃ〜ん』とか言いながら、彼女の肩に頭を乗せていた。

 

「ヤダちょっと!汗がついたじゃないのよ!」

 

 

普通に嫌がられていた。

 

 

「ひぇ〜ん。銀槍竜ちゃあ〜ん、このコ怖い〜」

 

「当ったり前でしょ?⋯ホント、男のそういう所がキライ⋯⋯って。銀槍竜、どうかした?」

 

 

ふと、シルビアが俺の肩を指で叩いた。

どうやら、周囲を気にしていたのがあからさまに動きに出ていたらしい。⋯⋯ンまぁ、そんな事も一旦置いときたいくらい、周囲の様子が気になるんだが。

 

 

「⋯⋯あら?」

 

「んん??いつの間に」

 

 

シルビア達も、俺の視線を追った事で気付いっぽいな。

⋯ただ、2人のリアクションを見るに、存在に気付いたのはたった今らしい。俺は試合途中からチラチラと気にしていたが。

 

 

「──良い闘いだったぜーッ!!」

 

「迎撃戦、期待してるよーっ!!」

 

「ファリドーっ!だらしねーぞッ!」

 

 

この、ギャラリーの数よ。

パッと見でも50人近くはいるな。ゼクス達と見られる連中や、王都の冒険者も何人かいるだろう。⋯⋯うおぉ。よく見れば、ギルバートまでいるぞ。

 

全く、人の戦いは見世物じゃないっての。

⋯まぁこの『戦いを終えた感』は、中々悪くないんだがな。

 

 

「やれやれ、物好きな人達なんだから」

 

「おぉ?そんな事言って、シルちゃんもノリノリで審判役買って出た気がするけど〜?」

 

「⋯⋯んもう、うるさいわね」

 

「「(せーのっ)シルちゃん、カワイーっ!!」」

 

 

呆れながら『アンタ達、ついさっきまで⋯⋯』と此方を見るシルビアに、俺とファリドは耳を塞いで聞こえないフリをする。

こういった馬鹿みたいなノリが、俺は好きだ。

 

 

「──さぁて、何はともあれ。コレで銀槍竜ちゃんが信頼できる相手だってのが分かった。迎撃戦、頑張るぜーッ!」

 

「はいはい、頑張りましょうね。⋯アンタも、正直言うと結構期待しているわ、銀槍竜」

 

「任せろって。サクッと終わらせるぜ」

 

 

ギャラリーの歓声が飛ぶ中、俺達は訓練場の出口へと向かう。

逆に、出口から此方へ向かってくる人達がいるが、恐らく医療班だろう。⋯あぁ、王都医療班だっけか?なんでも治してくれるとか言ってた。

 

といっても、俺は自分の傷は自分で治せるし、縁の無い話かもしれないが⋯⋯。まぁそんな事はどうでもいいや。

 

今日はもう⋯休む!

ただまぁ日も高いし、たまには酒でも飲みに行こうかね〜。

 

 

「⋯あら?まだ買い物の用事でもあるの?」

 

 

ファリドを医療班に預けた後、訓練場を出た所でシルビアが俺に尋ねた。ギルドとは違う方面へ歩き出した事に、疑問を持ったのだろう。

 

 

「──いいや。一汗かいたワケだし、酒が美味いかなって」

 

「へぇ、いいじゃない。アタシも付き合おうかしら」

 

「ははぁ、ナンパか?」

 

「⋯ふぅん。じゃあ1人で行ってらっしゃい」

 

「えっ、冗談です」

 

「ふふ、可愛いトコあるじゃない」

 

 

あ、この(ひと)、自分が美人だって理解してる!

⋯くぅ。ここで『本当に一緒に呑めるなら嬉しい』と思ってしまう辺り、俺も男だな。やれやれだぜ。

 

 

「じゃ、ご馳走になるわね」

 

「え、えぇ〜⋯」

 

「フフ、アンタお金持ちでしょ〜」

 

「いやいや。そこはオトナとしてシルビアが──⋯」

 

会話は、街の雑踏に消えていく。

突如として始まった試合を終え、俺は新たに“戦い方”を学習。

また1歩、迎撃戦へ向けて近付いたのであった。

 

 

NOW LOADING⋯

 

 

 

銀槍竜達が、訓練場を去った後。

ギャラリーもはけ、崩れた訓練場の補修にあたるギルド職員を眺めながら、とある老人は思案していた。

 

 

(銀槍竜⋯⋯。やはり、野放しは出来んな)

 

 

王都・ギルドマスター、ギルバート。

シガーを吹かしつつ、彼は昨日の銀槍竜との会話を思い返す。

 

 

──アンタが誰で、目的が何かは知らない。

  ⋯でも、まずは対話するってのが筋だと思うな──

 

 

確かに、人間に明確な敵意は無かった。

 

だが、同時に。

 

人間に対しての明確な好意があった訳では無い。

 

『対話を用い』、『無用な争いを避ける』という点では、そこらの魔物よりは圧倒的に安全ではある。それは間違いない。

 

しかし、100%安全かと聞かれれば、その回答には詰まる。

ギルドマスターという立場としては、マイナス要素を強調して物事を考えねばならないからだ。

 

(⋯もし。もし仮に、あの知能を持った魔物が、人類に対して明確な敵意を抱いた場合──)

 

シガーを持つ指に、力が入る。

自身の予測が、もしも当たってしまったら⋯⋯と。

 

 

「──いずれ、『君達』にも話が行くかもしれない。その時は、“仕事”を頼むぞ」

 

 

ギルバートは、静かに振り返る。

彼の視線の先には、真っピンクのパーカーと、同じく真っピンクのミニスカートを履いた女性がいた。

 

⋯いや。

女性、よりは、女子の表現の方が似つかわしいかもしれない。

だが、彼女の風貌は深く被られたフードによって隠されており、老若の明言ができるソレではなかった。

 

 

「⋯『ウチら』の“仕事”は、()()()()()が相手じゃないんですけど?」

「いや。『君達』こそが適任かもしれないのだ、ネイビス君。

人間並みの知能に、人間以上に知能を能力で活用できる魔物。

⋯⋯どうかね?」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯。」

 

 

ミディアムロングの金髪、そして褐色の肌。

付け加えるなら、右前髪の一房だけ綺麗な桃色である事。

それだけが一目で分かる、ネイビスと呼ばれた女子の特徴であった。

 

 

「⋯⋯まぁ、その時はその時って事で」

 

「うむ。頼んだぞ」

 

 

それぞれの思惑の中、迎撃戦が迫る王都。

運命の秒針が、音を立てた。

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