猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第62話・焔、轟々。

 

王都クローネ・東側の通りにある酒場。

街一番と噂のその大きな酒場は“スティック様式”と呼ばれる建物で、個性的な外観が人気を呼んでいる。

 

そんな酒場の屋外席にて。

ある1人の男が、身体を大きく仰け反らせていた。

 

 

「ハアァ〜ッ!?後方支援んーッッ!?」

 

 

ファリドは、円卓に身を乗り出す。

その衝撃で卓上の樽ジョッキが倒れるが、本人にとってはそれどころでは無い。衝撃の事実を告げられた彼は、正面の相手へ眉を(ひそ)めながら詰め寄った。

 

 

「まぁさ、コレも王都の人達を確実に守る為らしいんだよ⋯」

 

 

銀槍竜は腕を組み、溜息をする様に言う。

操作(フーへ)☽にてジョッキの転倒を阻止しつつ、彼は静かに空を仰いだ。

 

 

「ちくしょー!あんのインテリ眼鏡野郎!」

 

「⋯まぁコレは仕方無いさ。アンタは、ソールとかと楽しんでてくれよ」

 

「銀ちゃん⋯!俺、お前の分まで暴れてくるからな⋯!!」

 

 

悲壮感タップリの表情で、ファリドは銀槍竜の手を握る。

銀槍竜は、内心で『銀ちゃん⋯?』と首を傾げつつ、ファリドの手を握り返した。漢の友情、極まれりである(?)

 

 

「──で。所でアンタ、身体はもう大丈夫なのか?」

 

「ん?あぁ、もうバッチリだ。王都医療班様々だぜ」

 

 

ガッツポーズをしてから、ファリドは上着を脱ぎ捨てる。

意外にも細身ではあるが、その上半身は見事なまでの筋肉で完成されている。まるで、熟練の職人が彫ったかの様な肉体に、道行くご婦人方が卒倒した。

 

 

「どうだ?イイだろう?」

 

「イイってなんだよ、イイって。まぁ怪我が治ってんなら良かったぜ。⋯⋯早く、服を着ろ」

 

「つれね〜な〜銀ちゃんは。抱いてやってもいいんだぜ〜?」

 

「じゃあな。当日にまた会おうぜ」

 

 

ファリド迫真のイケボをスルーし、銀槍竜は手を振る。

通りを歩いて行く彼を見送り、ファリドは再び席へと着いた。

上着を着た後、呑み直そうと木樽ジョッキを掴んだ彼は、ふと周囲を見渡す。

 

 

「誰だ?」

 

 

何か強い気配が、自分を見ている。

その事に気が付いたファリドは、木樽ジョッキを卓上へ戻す。

そして、足の裏に力を入れた彼は、僅かに重心を前へ傾けた。

 

その直後、行き交う人々の隙間から、()は現れた。

 

 

「──よぉ、ファリド」

 

「んん〜??ヴィルジールじゃねぇか!脅かすなよ〜」

 

「あぁ⋯⋯すまねぇな」

 

 

人混みをゆらりと躱し、ヴィルジールはファリドへ近寄る。

先程まで、銀槍竜が座っていた席へ腰を下ろしたヴィルジールは、卓上へ両肘をついた。

 

 

「なんだ、調子でも悪いのか〜?」

 

「⋯そんなところだ」

 

 

ヴィルジールは両指を組み、それに額を乗せる。

彼が、何かしらの悩みを抱えている事を理解したファリドは、相手から話を始めるのを待った。

 

 

「⋯ファリド」

 

「おう」

 

「アイツと戦ってみて、どうだった?」

 

「銀槍竜の事か?⋯まぁ、負けたのは悔しいが、結構楽しかったぜ?俺の技術に、真正面からぶつかってくるあの感覚⋯⋯。たまんねぇよ」

 

 

ヴィルジールは『そうか』と頷き、静かに指の組みを解く。

その瞬間、彼と目が合ったファリドは、こう思っていた。

 

“やっぱりな”と。

 

自身が、『ゼクス最強』と呼ばれている事は否定はしない。

それが自負出るだけの、相応の技量と長い経験があるからだ。

だが、それはあくまで『強さ』の話。

 

こと『闘争心』に関しては、ヴィルジールには決して叶わないと、ファリドは自覚していた。最早、執念に近いヴィルジールの『それ』に対して、ある種の恐怖を覚える程に。

 

 

「──悪く思うなって。俺は満足したし、もう銀槍竜にちょっかいかけようなんて思わねぇからよ」

 

「いや。気にしてないぜ、別に」

 

嘘、であった。

それも、素人ですら見抜ける程の。

 

だが、それをわざわざ指摘し、空気を悪くする必要は無い。

ファリドはそう考え、酒を1口飲んだ後、話題の転換をした。

 

 

「そう言えばなんだけどよ。銀ちゃん、今回の作戦では後方支援だって言ってたぜ」

 

「⋯!!そうか、よかった」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯。」

 

 

彼の発言に、ファリドは詮索を入れない。

ヴィルジール自身も己と戦っている事を、ファリドは知っていたからだ。『自分が暴走すれば、周囲に被害が出る』と本人が葛藤しているからこそ、敢えて口出しをしなかったのである。

 

 

「──じゃあ、邪魔したな」

 

「もう行くのか?1杯奢るぜ?」

 

「いや、ちょっと用事があってな。悪い」

 

 

人混みに消えていくヴィルジールを眺め、ファリドは。

ようやく、足の裏に入れていた力を解き、重心を元に戻した。

 

 

(⋯⋯やれやれ。いつにも増して()()()だねぇ)

 

 

酒を1口。

ファリドは、空を見上げたのであった──⋯

 

 

 

NOW LOADING⋯

 

 

 

「はぁ〜〜っ⋯」

 

 

大きな溜息1つ。

俺は、トボトボと王都の街を歩いていた。

 

だって、だってだって。

前線でファリド達がはしゃいでる間、俺は後ろからチクチクと攻撃だろ?流石に酷いよなぁ。切ないったらありゃしない。

 

 

「──毎度あり!」

 

「どうも⋯⋯」

 

 

通りのパン屋で焼き菓子を買い、裏路地へ入る。

金属生成で作ったウエストバックから、俺は缶コーヒーを取り出した。そして、同じく金属生成にてマグカップを製作。

 

それにコーヒーを注ぎ入れ、ガブりと下から咥える。

コーヒーが零れないよう、頭の角度は垂直にするのが大切だ。

そして、この状態で火力を調節した炎を吐けば⋯あら不思議。

ホットコーヒーの出来上がりでーい。

 

後は、この前買った砂糖とミルクを好きな様に入れるだけ。

優雅なブレイクタイムの始まり始まり〜⋯

 

⋯⋯⋯。

 

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 

 

 

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。

 

 

「はあああ〜〜!」

 

 

ああーっ!やっぱり嫌だなぁーっ!

好き放題ドンパチしたいなぁーっ!ファリドとかソールとか、一緒に暴れ回ったらメッチャ楽しいだろうなぁーっ!!

 

せめて、飛行型の敵がじゃんじゃん来てくれればなぁーっ!!

弾幕張りまくれて爽快なんだろうなぁーっ!!

 

 

「もう、抜け出そうかな⋯⋯」

 

 

ホットコーヒーを啜りながら、俺は1人呟く。

王都の住民を護る為という事は分かっているのだが、正直な話、俺と彼らは無関係だし。そりゃあ、心が痛まないかと聞かれれば、そんな事は無いが⋯⋯。むう。

 

 

「──あ、いたいた!」

 

 

俺が焼き菓子を頬張っていると、建物の隙間から此方を覗く人影が現れた。路地裏が暗いのか、隙間から差し込む光が強い。

影掛かって素顔こそ見えないが、その桜色の長髪と幼げのある声から、“彼女”である事が理解できた。

 

 

「サンクイラ。何かあったのか?⋯というか、よく俺の居場所が分かったな?」

 

「えへへ。こう見えて、()がいいからねー」

 

座り込む俺に、歩み寄るサンクイラ。

菓子の入った袋を差し出すと、彼女はクンクンと匂いを嗅ぐ。

『わーい』と目を輝かせた彼女は、袋に手を伸ばした。

 

全部持っていかれた。

 

 

「それで、何か用か?俺を探してたんだろ?」

 

「あ、ふぉうふぉう(そうそう)ふぉのははひはん(その話なん)はふぇほ(だけど)

 

「まず飲み込めってば、もう」

 

 

口元の食べクズを拭き、サンクイラはゴクンと喉を鳴らす。

なんとも子どもらしい⋯⋯というか、コイツもう子どもだろ?

ホントにタメか?

 

 

「ふうっ!ご馳走様!」

 

「⋯⋯満足したならよかったよ」

 

空っぽになった袋のゴミを預かり、それをバックへ片付ける。

満面の笑みを浮かべ、尻尾があればブンブンと振っていそうな彼女に、『全部あげるとは言ってない』とは言えなかった。

 

仕方が無いので、菓子の事は忘れる事にしよう。

 

 

「──それで、なんで俺を探してたんだ?」

 

「あぁ、その事なんだけど⋯⋯」

 

 

ふむふむ。

『ギルドマスター呼んでいる』だって?何か話でもあるのか?

 

なになに?

『“約束”の準備が出来た』⋯?はてさて、なんのこっちゃ?

 

うんうん。

『王都東通りにて待っている』⋯と。

 

 

「──兎に角、行ってみた方がいいんじゃない?」

 

「うーん、そうだなぁ。行ってみるかぁ」

 

 

サンクイラから話を聞き、俺は取り敢えず向かう事にした。

まぁ1度話はしているし、待ち伏せして襲撃⋯⋯なんてのはナイだろう。⋯無い事を祈る。

 

 

「じゃあ行くわ、サンクイラ。迎撃戦、頑張ろうぜ」

 

「あ、ちょっと待って!」

 

 

裏路地から出ようとする俺を、サンクイラが制止する。

振り返ると、彼女は何やらモジモジしながら此方を見ていた。

 

 

「あの⋯⋯その⋯⋯」

 

「??」

 

 

気まずそうな表情の彼女は、(しき)りに手を擦り合わせる。

話があるらしいが、どうやら言いにくい内容のようだ。

 

 

「1つ、聞きたいんだけど」

 

「なんだ?」

 

「その⋯⋯最近、ヴィルジールさんと何かあった?」

 

「いいや?特には。⋯⋯寧ろ、ファリドとの試合以降は姿を見てない気がするな」

 

「⋯そっか」

 

 

むむ、なんだなんだ?ヴィルジールに何かあったのか?

質問の内容からして、彼の様子が気になるって事なんだろうが⋯

何かしたっけな、俺。

 

 

「ヴィルジールに何かあったのか?」

 

「いやね?昨日、ヴィルジールさんが『銀槍竜、銀槍竜』って独り言を言っていたの。顔は見えなかったんだけど、凄く怖い様子で⋯⋯」

 

「⋯酒でも飲んでたんじゃないのか?多分」

 

「そう、なのかなぁ⋯⋯」

 

 

サンクイラは首を傾げる。

独り言で俺の名前を連呼してたとか、そりゃあ気味悪いが⋯。

⋯⋯っと、彼女の話も気になる所だが、今はギルバートの方が優先だな。また後でにさせてもらおう。

 

 

「──悪い、サンクイラ。俺、一旦ギルドマスターに会ってくる。話の続き、後でな」

 

「あ、うんうん!そっちの方が大事だよね!行ってらっしゃい!」

 

 

俺は、駆け足で東通りへ向かった。

その途中、サンクイラの話が妙に頭から離れなかったが、()()()()なのだろうか。

 

もしかして、ヴィルジールは──⋯

 

 

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