王都クローネ・東側の通りにある酒場。
街一番と噂のその大きな酒場は“スティック様式”と呼ばれる建物で、個性的な外観が人気を呼んでいる。
そんな酒場の屋外席にて。
ある1人の男が、身体を大きく仰け反らせていた。
「ハアァ〜ッ!?後方支援んーッッ!?」
ファリドは、円卓に身を乗り出す。
その衝撃で卓上の樽ジョッキが倒れるが、本人にとってはそれどころでは無い。衝撃の事実を告げられた彼は、正面の相手へ眉を
「まぁさ、コレも王都の人達を確実に守る為らしいんだよ⋯」
銀槍竜は腕を組み、溜息をする様に言う。
☾
「ちくしょー!あんのインテリ眼鏡野郎!」
「⋯まぁコレは仕方無いさ。アンタは、ソールとかと楽しんでてくれよ」
「銀ちゃん⋯!俺、お前の分まで暴れてくるからな⋯!!」
悲壮感タップリの表情で、ファリドは銀槍竜の手を握る。
銀槍竜は、内心で『銀ちゃん⋯?』と首を傾げつつ、ファリドの手を握り返した。漢の友情、極まれりである(?)
「──で。所でアンタ、身体はもう大丈夫なのか?」
「ん?あぁ、もうバッチリだ。王都医療班様々だぜ」
ガッツポーズをしてから、ファリドは上着を脱ぎ捨てる。
意外にも細身ではあるが、その上半身は見事なまでの筋肉で完成されている。まるで、熟練の職人が彫ったかの様な肉体に、道行くご婦人方が卒倒した。
「どうだ?イイだろう?」
「イイってなんだよ、イイって。まぁ怪我が治ってんなら良かったぜ。⋯⋯早く、服を着ろ」
「つれね〜な〜銀ちゃんは。抱いてやってもいいんだぜ〜?」
「じゃあな。当日にまた会おうぜ」
ファリド迫真のイケボをスルーし、銀槍竜は手を振る。
通りを歩いて行く彼を見送り、ファリドは再び席へと着いた。
上着を着た後、呑み直そうと木樽ジョッキを掴んだ彼は、ふと周囲を見渡す。
「誰だ?」
何か強い気配が、自分を見ている。
その事に気が付いたファリドは、木樽ジョッキを卓上へ戻す。
そして、足の裏に力を入れた彼は、僅かに重心を前へ傾けた。
その直後、行き交う人々の隙間から、
「──よぉ、ファリド」
「んん〜??ヴィルジールじゃねぇか!脅かすなよ〜」
「あぁ⋯⋯すまねぇな」
人混みをゆらりと躱し、ヴィルジールはファリドへ近寄る。
先程まで、銀槍竜が座っていた席へ腰を下ろしたヴィルジールは、卓上へ両肘をついた。
「なんだ、調子でも悪いのか〜?」
「⋯そんなところだ」
ヴィルジールは両指を組み、それに額を乗せる。
彼が、何かしらの悩みを抱えている事を理解したファリドは、相手から話を始めるのを待った。
「⋯ファリド」
「おう」
「アイツと戦ってみて、どうだった?」
「銀槍竜の事か?⋯まぁ、負けたのは悔しいが、結構楽しかったぜ?俺の技術に、真正面からぶつかってくるあの感覚⋯⋯。たまんねぇよ」
ヴィルジールは『そうか』と頷き、静かに指の組みを解く。
その瞬間、彼と目が合ったファリドは、こう思っていた。
“やっぱりな”と。
自身が、『ゼクス最強』と呼ばれている事は否定はしない。
それが自負出るだけの、相応の技量と長い経験があるからだ。
だが、それはあくまで『強さ』の話。
こと『闘争心』に関しては、ヴィルジールには決して叶わないと、ファリドは自覚していた。最早、執念に近いヴィルジールの『それ』に対して、ある種の恐怖を覚える程に。
「──悪く思うなって。俺は満足したし、もう銀槍竜にちょっかいかけようなんて思わねぇからよ」
「いや。気にしてないぜ、別に」
嘘、であった。
それも、素人ですら見抜ける程の。
だが、それをわざわざ指摘し、空気を悪くする必要は無い。
ファリドはそう考え、酒を1口飲んだ後、話題の転換をした。
「そう言えばなんだけどよ。銀ちゃん、今回の作戦では後方支援だって言ってたぜ」
「⋯!!そうか、よかった」
「⋯⋯⋯⋯⋯。」
彼の発言に、ファリドは詮索を入れない。
ヴィルジール自身も己と戦っている事を、ファリドは知っていたからだ。『自分が暴走すれば、周囲に被害が出る』と本人が葛藤しているからこそ、敢えて口出しをしなかったのである。
「──じゃあ、邪魔したな」
「もう行くのか?1杯奢るぜ?」
「いや、ちょっと用事があってな。悪い」
人混みに消えていくヴィルジールを眺め、ファリドは。
ようやく、足の裏に入れていた力を解き、重心を元に戻した。
(⋯⋯やれやれ。いつにも増して
酒を1口。
ファリドは、空を見上げたのであった──⋯
NOW LOADING⋯
「はぁ〜〜っ⋯」
大きな溜息1つ。
俺は、トボトボと王都の街を歩いていた。
だって、だってだって。
前線でファリド達がはしゃいでる間、俺は後ろからチクチクと攻撃だろ?流石に酷いよなぁ。切ないったらありゃしない。
「──毎度あり!」
「どうも⋯⋯」
通りのパン屋で焼き菓子を買い、裏路地へ入る。
金属生成で作ったウエストバックから、俺は缶コーヒーを取り出した。そして、同じく金属生成にてマグカップを製作。
それにコーヒーを注ぎ入れ、ガブりと下から咥える。
コーヒーが零れないよう、頭の角度は垂直にするのが大切だ。
そして、この状態で火力を調節した炎を吐けば⋯あら不思議。
ホットコーヒーの出来上がりでーい。
後は、この前買った砂糖とミルクを好きな様に入れるだけ。
優雅なブレイクタイムの始まり始まり〜⋯
⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
「はあああ〜〜!」
ああーっ!やっぱり嫌だなぁーっ!
好き放題ドンパチしたいなぁーっ!ファリドとかソールとか、一緒に暴れ回ったらメッチャ楽しいだろうなぁーっ!!
せめて、飛行型の敵がじゃんじゃん来てくれればなぁーっ!!
弾幕張りまくれて爽快なんだろうなぁーっ!!
「もう、抜け出そうかな⋯⋯」
ホットコーヒーを啜りながら、俺は1人呟く。
王都の住民を護る為という事は分かっているのだが、正直な話、俺と彼らは無関係だし。そりゃあ、心が痛まないかと聞かれれば、そんな事は無いが⋯⋯。むう。
「──あ、いたいた!」
俺が焼き菓子を頬張っていると、建物の隙間から此方を覗く人影が現れた。路地裏が暗いのか、隙間から差し込む光が強い。
影掛かって素顔こそ見えないが、その桜色の長髪と幼げのある声から、“彼女”である事が理解できた。
「サンクイラ。何かあったのか?⋯というか、よく俺の居場所が分かったな?」
「えへへ。こう見えて、
座り込む俺に、歩み寄るサンクイラ。
菓子の入った袋を差し出すと、彼女はクンクンと匂いを嗅ぐ。
『わーい』と目を輝かせた彼女は、袋に手を伸ばした。
全部持っていかれた。
「それで、何か用か?俺を探してたんだろ?」
「あ、
「まず飲み込めってば、もう」
口元の食べクズを拭き、サンクイラはゴクンと喉を鳴らす。
なんとも子どもらしい⋯⋯というか、コイツもう子どもだろ?
ホントにタメか?
「ふうっ!ご馳走様!」
「⋯⋯満足したならよかったよ」
空っぽになった袋のゴミを預かり、それをバックへ片付ける。
満面の笑みを浮かべ、尻尾があればブンブンと振っていそうな彼女に、『全部あげるとは言ってない』とは言えなかった。
仕方が無いので、菓子の事は忘れる事にしよう。
「──それで、なんで俺を探してたんだ?」
「あぁ、その事なんだけど⋯⋯」
ふむふむ。
『ギルドマスター呼んでいる』だって?何か話でもあるのか?
なになに?
『“約束”の準備が出来た』⋯?はてさて、なんのこっちゃ?
うんうん。
『王都東通りにて待っている』⋯と。
「──兎に角、行ってみた方がいいんじゃない?」
「うーん、そうだなぁ。行ってみるかぁ」
サンクイラから話を聞き、俺は取り敢えず向かう事にした。
まぁ1度話はしているし、待ち伏せして襲撃⋯⋯なんてのはナイだろう。⋯無い事を祈る。
「じゃあ行くわ、サンクイラ。迎撃戦、頑張ろうぜ」
「あ、ちょっと待って!」
裏路地から出ようとする俺を、サンクイラが制止する。
振り返ると、彼女は何やらモジモジしながら此方を見ていた。
「あの⋯⋯その⋯⋯」
「??」
気まずそうな表情の彼女は、
話があるらしいが、どうやら言いにくい内容のようだ。
「1つ、聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「その⋯⋯最近、ヴィルジールさんと何かあった?」
「いいや?特には。⋯⋯寧ろ、ファリドとの試合以降は姿を見てない気がするな」
「⋯そっか」
むむ、なんだなんだ?ヴィルジールに何かあったのか?
質問の内容からして、彼の様子が気になるって事なんだろうが⋯
何かしたっけな、俺。
「ヴィルジールに何かあったのか?」
「いやね?昨日、ヴィルジールさんが『銀槍竜、銀槍竜』って独り言を言っていたの。顔は見えなかったんだけど、凄く怖い様子で⋯⋯」
「⋯酒でも飲んでたんじゃないのか?多分」
「そう、なのかなぁ⋯⋯」
サンクイラは首を傾げる。
独り言で俺の名前を連呼してたとか、そりゃあ気味悪いが⋯。
⋯⋯っと、彼女の話も気になる所だが、今はギルバートの方が優先だな。また後でにさせてもらおう。
「──悪い、サンクイラ。俺、一旦ギルドマスターに会ってくる。話の続き、後でな」
「あ、うんうん!そっちの方が大事だよね!行ってらっしゃい!」
俺は、駆け足で東通りへ向かった。
その途中、サンクイラの話が妙に頭から離れなかったが、
もしかして、ヴィルジールは──⋯