猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

64 / 218
第63話・護るべきもの

 

 

そんなこんなで、俺は目的の場所へ到着した。

東通りに繋がる広場を魔力感知で探ると、ギルバートらしき反応を発見する。近付いてみると、『お忍び』というワケなのか、彼は黒色の外套を身に付けていた。

 

 

「──うむ、早いな。流石はサンクイラ君だ。()がいい」

 

 

シガーの吸殻を懐へ片付け、ギルバートは後ろで手を組む。

マナーなのか、喫煙中は自身の周囲に結界を張っていた様だ。

随分と器用な事が出来るなと思ったが、よくよく考えれば彼はギルドマスター。ある程度の実力はあって当然か。

 

 

「それで?ギルさん。“約束”っていうのは?」

 

「む?君が忘れてどうするのだ」

 

「へ?」

 

 

あれ?予想と違うリアクションだ。

てっきり、“約束がある”と適当な理由を付け、サンクイラに俺を呼びに行かせたって思ってたんだが⋯⋯。

 

 

「す、スンマセン。約束ってなんでしたっけ?」

 

「⋯⋯ふむ。まぁ、そうだな──」

 

 

言葉を区切り、ギルバートは空を見上げる。

何か考えている様な表情を浮かべた彼は、数秒後、静かに視線を此方へ向ける。

 

そして、僅かに口角を上げ、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

「──腹は、減っているかね?」

 

 

 

NOW LOADING⋯

 

 

 

と、言う訳で。

ギルバートと初めて会った時に交わした、『美味いもん食わせてくれ』という要望を、彼は叶えてくれた。

 

いやはや、マジですっかり忘れていたな。

お陰で、なんかちょっと得した気分だ。突然、呼び出されたかと思えば、()()()()()食べれるなんてなぁ。

 

 

「──ヘイ、お待ち!」

 

 

大将に出されたソレを、俺は素早く口へ運ぶ。

甘くとろける油と、程よく酸味が効いた米。そして、なんといっても、全てを香ばしい風味で包んでくれる⋯⋯醤油!

 

 

「まさか、()()()で寿司が食えるだなんてな⋯」

 

 

サーモンの握りを平らげ、俺は感傷に浸る。

ぶっちゃけた話、この店の寿司に特別性は無い。ネタの鮮度もシャリの甘みも、何か意識させれる様な物は無い。

 

⋯⋯だが、半年以上は口にしていなかった寿司だ。

流石に、流石に効きすぎる。思い出による補正が強すぎるぜ。

特に、醤油に関しては、これオンリーでも泣かされそうだ。

 

 

「⋯⋯なぁ、大将?突然なんだが、米と醤油って買わせてくれたりしないか?」

「難しいな。ウチの食材は『特殊なルート』でしか手に入れられないんだ。⋯だがまぁ、気に入ってくれたんなら嬉しいぜ。

いつでも来てくれよな!」

 

 

ぐくぬ⋯⋯。

ダメ元で聞いてみたが、やっぱり厳しいかー。そうだよなー。

『特殊なルート』とやらも聞いてみたいが、流石にしつこいと怒られるよなあ。寿司握ってくれなくなっちまう。

 

 

「──気に入ったか?」

 

 

ガラリと、店の扉が開く。

外で一服してきたギルバートが、俺の隣へと座った。

 

 

「よく、こんな店を見つけられたッスね?」

 

「まぁ、年寄りの勘というヤツだな」

 

「⋯生魚とか、抵抗無かったんスか?」

 

「ふむ、最初はな。⋯だが、“良さ”を理解できれば、これほど素晴らしい食物はそうそう無いだろう」

 

 

そう言いつつ、ギルバートは〆鯖を注文する。

見かけ通りチョイスが渋い。あれば、ガリも気に入りそうだ。

 

 

「まぁ、戦の前の景気付けだ。堪能してくれ」

 

「任せろ」

 

 

茶を啜るギルバートを横目に、俺は寿司を楽しむ。

ただ、その最中。ある大きな疑問について、俺は考えていた。

 

 

(──一体、誰がコッチの世界に寿司を⋯?)

 

 

チラと、俺は店の大将に視線を向ける。

見たところ、日本人の様な顔付きはしていない。丸坊主なので髪色などは分からないが⋯。恐らくは転生者ではないだろう。

 

⋯いや、若しくは、俺と同様に“肉体が変わっている”というケースも考えられるか?うーむ⋯⋯。

 

 

「大将、スマホって知ってるか?」

 

「すまほ⋯?なんだい、そりゃあ?」

 

「⋯⋯いや、間違えた。サーモン、握ってくれ」

 

「あいよッ!」

 

 

ふーむ、成程。

大将は転生者では無い、と。そうなると、大将に“寿司”という食べ物を教えた人物が居るのか?⋯まさか、コッチの世界で、たまたま寿司が生まれていたとかか?

 

⋯いや、その可能性は少ないな。

魚の生食自体なら納得できるが、やはり“醤油”は無理がある。

誰かしらが、どうにか作り出したに違いない。

 

⋯っと、ここまで話が来ると、疑問が増えてくるな。

今は寿司に集中したいし、気になる事は後で考えるとしよう。

 

 

「大将、酒を頼む」

 

「あいよッ!ギルドマスター様からの注文だ、とっておきを用意するぜ!」

 

「ハハ。今は、単なるジジイだよ。お手柔らかにな」

 

 

日本酒──の様な酒──を、ギルバートは嗜む。

老年の男が中心となるその光景は、見事な絵画だと錯覚してしまう程に見惚れるものがあった。

 

 

「──どうかね、君も」

 

 

俺の視線に気付いたのか、彼は酒の瓶を此方へ傾ける。

 

 

「⋯はっ。単なるジジイが、一升瓶を片手で持てるかよ」

 

 

大将から盃を受け取り、俺はお酌を受ける。

静かに酒をあおると、甘く上品な香りがふわりと鼻を抜ける。

俺は目を瞑り、喉の奥から温かい感覚がゆっくりと登ってくるのを感じ取った。

 

 

「⋯美味い」

 

「あぁ、美味い。良い酒だな」

 

 

盃を掲げ、ギルバートは溜息を零す。

互いに酒を飲み干し、顔を合わせる彼と俺は、ごく自然に2杯目を盃に注ぐのだった。

 

 

「これは、長酒になりそうだな」

 

「フッ、その通りだ。悪いが、この老耄(おいぼれ)に付き合ってもらうぞ?」

 

「ハハ⋯望む所さ」

 

 

頬を緩め、俺は盃を掲げる。

王都の夜に、俺はギルバートと肩を並べ、酒をあおるのであった──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯──そうか。君は後方支援になったか」

 

 

そして、2時間ほどが経過した頃。

程良く酒が入った俺は、今日の出来事を語り出していた。

 

 

「そぉーなんだよぉ。コーホー支援!全く冗談じゃねぇぜ!」

 

 

⋯あくまで、『程良く』だ。

全然、酔ってなどいない。少し呂律が回らなくて、机に突っ伏しているだけだ。いやホント、酔ってないから。

 

 

「そこまで言うのならば、君が前線に出れるよう、ハクア君に私が伝えておこう。仮に後方側が突破されたとしても、王都防壁の防衛機能で迎撃が可能だ、とでもな」

 

「それはそれでイヤだっ!!」

 

「⋯ふむ。それはどうしてかね?」

 

「ぼーえーきのーってのにも、人員がいるだろぉ?それに、そこも抜かれちまったら、マジで終わりだし!!」

 

 

机を拳で連打し、俺は頭を振る。

つまるところ、ギルバートは『コッチが仕事を頑張るから、好きに遊んで来いよ』って言ってる様なもんだし。後方側が抜かれないにしろ、アイリスやツエン達の仕事が増えるのは確実。

 

そこまでして前線出たいなんて、俺は望んでねー!

 

 

「──『対魔王』についての政策は聞いているかね?」

 

「んん⋯?ギルドランカー達に、受けれるクエストの制限をかける事で、戦力を温存しようってヤツぅ?」

 

「その通りだ。今回の迎撃戦も、『大規模クエスト』という扱いなのは知っているだろう?つまり、ゼクス・ツエン以外の冒険者達は手出しが出来ない状態だ」

 

「なんで急にその話を⋯??」

 

「まぁ、ザックリと言おう。この『大規模クエスト』と『王都への魔物の侵入』が別問題、という事は分かるだろう?そこでだ、万が一防壁すら抜かれてしまった場合は、どうなるのか。

考えた事があるかね?」

 

 

う、うぅん?なんだこのジイさん?

いきなり難しそうな話を初めて、何言いたいか分かんねーぞ。

 

 

「結論のみ教えよう。『王都への魔物の侵入』は、クエストではなく、単なる『襲撃』だ。『襲撃』があれば、王都内の冒険者が出張るのは当然だろう?」

 

「そりゃあ、そうだろうな」

 

「──つまり、『クエスト』という扱いから除外された状況であれば、王都のギルドランカーも実質的に戦力になる、という事だ」

 

「⋯えっ」

 

 

ピタリと、俺の時間が停止する。

『そんな手があったが』と思う反面、『アンタがそれを言うのかよ』と言いたい所だ。

 

 

「フフ。まぁ、ギルドマスターの言葉ではないだろう。笑ってくれて構わん」

 

「いや、その⋯⋯」

 

「──正直、私は規則などどうでもいい。⋯だが、この街だけは、何としても護りたいのだ。君が最良の形で迎撃戦に望めるなら、私はどんな案であろうと聞いてやるぞ」

 

 

成程、随分と期待されているらしい。

やる気のない俺を後方に置くより、やる気満々の俺を前線に置いた方が被害を抑えられると⋯、そういう事だろう。

 

万が一、後方が抜かれても大丈夫だと。

だから、お前は前線で好きな様に暴れて来いと。

 

ギルバートは、俺にそう言っているのだろう。

 

 

「──50年ほど前の話だ。

この街が、とある巨大な魔物に襲われた事がある──⋯」

 

 

 

 

⋯──当時は、防衛機能がまともではなかった。

それどころか、名も知られていない様な、小さな街だったな。

()()()が魔物を打ち倒し、彼の功績と共に街の名が広まった事で、凄まじい速度で発展。当代の王が、城を築いて王都となった。

まぁ、その話はどうでもいい。

 

その、魔物を倒した男。

彼は元々、この街で冒険者をやっていた。

名も知られず、優秀な力も無く、他人に勝る勇気も無かった。

 

俗に言う、凡才というやつだ。

⋯⋯いや。そう言えば聞こえはいいが、実際はただの無能だ。

だが、そんな男が平凡に過ごしていたある日。魔物の襲来があった。

 

街で戦える物はごく僅か。

否が応でも、戦うしかなかった。

 

⋯⋯本当はな、逃げ出そうとも考えたよ。

しかし、見てしまったのだ。戦う事すら、逃げ惑う事しかできぬ者達の姿を。

 

私は思った。

『俺が護らねば、誰が彼らを』とな──⋯

 

 

 

 

 

「⋯──結果的に、魔物を倒す事には成功した。その後は、先の説明の通りだ」

 

「⋯何故、その話を俺に?」

 

「分かるだろう?私も、もう年寄りだ。若い者に全てを託して、後は傍観するしか無い。ならば、せめて本心から彼らを、君を信じてみたいのだ」

 

「ギルバート⋯⋯」

 

 

真っ直ぐな眼差しで、ギルバートは俺を見る。

体勢を此方へ向け直した彼は、両膝に手を当て、そして軽く息を吸い込んだ。

 

「戦うすべを知らぬ人々の為に、どうか全力で戦って欲しい。

こんな老耄の願いを、どうか聞き届けて欲しい。そして、どうか──」

 

「分かった」

 

 

頭を下げる勢いの彼の肩を、俺は静かに叩いた。

ギルバードが伝えたい事は分かったし、これ以上の事をするのは、ギルドマスターとして野暮ってモンだろう。

 

 

「嫌とは言ったけど、断るとは言ってないし。1匹もソッチに行かないよう、後方でしっかりと護るさ」

 

「銀槍竜⋯」

 

 

俺の台詞に、どこか安堵した様子のギルバート。

本当に頼りにされているらしく、少し恥ずかしくなった俺は、照れを隠す様に別の話題を持ち出した。

 

 

「──紅志(あかし)だ」

 

「⋯君の、名前かね?」

 

「そうだ。⋯兎に角、俺に任せろ、ギルバート」

 

 

そう言って、俺は右手を差し出す。

意図を理解したのか、ギルバートは同じく右手を伸ばした。

 

 

「では、頼んだぞ。紅志」

 

「あぁ⋯!!」

 

 

握手。

固く、強く、互いの思いが詰まったそれは、王都の夜にしっかりと握られるのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。