「──全く!この数ヶ月間、何をしておったのだ!」
「救助が遅すぎるぞ!これだから冒険者は使えん!」
王都北側・都外研究施設(跡地)にて。
白衣姿の老人たちは、唾を飛ばしながら怒鳴り散らしていた。
自らに施される回復魔法すら鬱陶しそうに、彼らは救助に当たる者たちを睨む。
「は?黙りなさいよ。自業自得でしょう?」
ギロリと、シルビアは睨み返す。
まぁ、睨み返すといっても、殺気満々で放ったソレなのだが。
「ひっ⋯!」
(⋯⋯はぁ、全く)
『自分らのせいで、王都が危機なのも知らずに』と、籠る怒りを鎮め、彼女はさっさと全員の回復を済ませた。
「さ、行くわよ。──アンタ達、ご苦労さま」
ギルド職員への引渡しへ向かう直前、シルビアはある者達へと振り返る。彼らは、研究員達が実験に向かう際、護衛として付き添っていたツエンの冒険者達だ。
「「「は、はい⋯!!」」」
ツエンの青年達は、表情を明るくして返事をする。
シルビア達の後からついて行く彼らは、尊敬している先輩に認知された事で、密かに盛り上がりをみせるのであった。
(──さて。『向こう』はどうなっているかしら⋯)
遠くを見据え、シルビアは一人思案する。
今はまだ、任務を優先すべき状況だ。そう自分に言い聞かせる彼女は、刻一刻と迫る開戦に胸をざわつかせる。
彼女は、『戦場』へ向け、静かに視線を送るのであった──⋯
NOW LOADING⋯
⋯──王都東側、約3km地点。
『絶対防衛ライン』と決定されたその場所にて、ツエンの精鋭50名は、炎・氷・雷・風、といった様々な魔法を発射寸前の状態で待機していた。
遠くの空には、既に黒い斑点の様な姿が見受けられる。
空を覆う飛行型の魔物達に、ツエン達は冷や汗を流し、固唾を呑んだ。
そして、彼らの先頭。
そこには、黒紫の長髪を風に靡かせ、静かに瞼を閉じるアイリスの姿があった。視覚を含めて、全ての感覚を遮断する事で、『魔力感知』に意識を絞っている状態である。
加えて、彼女は感知の範囲を前方に限定。
その感知可能距離を大幅に拡張していた。
(──そろそろ、
ツエン達は、未だ魔物の群れを目視すら出来ていない。
しかし、この場でアイリスだけは違った。ゼクス内における『感知範囲』の平均が50m〜100mに対して、現状の彼女のソレは約1000m。実に、1kmもの感知範囲を有していた。
つまり、いち早く前線の様子を察知できるのである。
「全員、用意をして!私の合図があり次第、一斉発射よ!」
アイリスは、素早くツエン達に号令をかける。
『まるで津波じゃないのよ!』という心の声を押し止め、彼女も迎撃魔法の生成へ入った。
そして、その直後。
──ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ⋯⋯
遠くから、砂煙を巻き上げて、軍勢が出現した。
「────撃ってッッ!!」
アイリスの合図に、一斉に魔法が放たれる。
炎の柱、氷の槍、雷の棘、風の刃⋯⋯。それらが埋めつくす空は、これが開戦の証とは思わせぬ程に美しく、軌跡を描いた。
そして。
一際速く、そして眩く煌く銀色の雨があった。
その内の、一閃。ファーストキルを取ったソレを皮切りに、魔物の軍勢に強力な魔法が降り注ぐ。
軍勢の動きが、完全に停止した。
「──撃て、サンクイラ」
「はい」
桜色の髪を持つ少女から、1本の矢が放たれる。
上空へ向け放たれた矢が、落下に切り替わるその瞬間。
花火の様に、それは爆ぜた。
挟撃部隊、出撃の合図である。
「しゃアッ!お仕事の時間だぜッッ!!」
──愛槍をブン回す男。
「ハハァッ!!楽しませやがれよッ!!」
──大槌を担ぎ上げる男。
「全く。手間が掛かりそうだ」
──武器を片手に、眼鏡の位置を直す男。
「⋯⋯やるか」
──そして、緋黒の両剣を構える男。
王都防衛迎撃作戦。
その序章が、開幕した。