一方、その頃。
各ゼクスが戦闘を開始した前線より、1km手前の地点にて。
「──☾
ゼクス・魔法使い筆頭、アイリス・セレンスティナ。
上空に掲げられた彼女の両手の先に、赤く巨大な魔法陣が形成される。3mは下らないソレから、どんな魔法が放たれるのか。
後方で見守るツエン達から注目が集まった。
──ヒュウ──⋯ッ
しかし。
間が抜けた音と共に打ち出されたのは、弱々しく光る一筋の赤い閃光だった。速度こそあるものの、極めて小さなその光は、空を覆う魔物達の隙間を通り抜けてしまう。
「全員!一旦、魔法を止めて!」
呆気に取られるツエン達に、更なる衝撃が走る。
後方側の最高戦力と認識している人物が、貧弱そうな魔法を放った挙句、攻撃の中断命令を出したのだ。ツエン達からすれば、驚愕の表情を浮かべるのは当然の反応であった。
──だが、その時、
「全員、アイリスの言う通りにした方がいいぜ」
既に攻撃を中止していた銀槍竜が、アイリスの隣に立つ。
咄嗟の判断、という形で、ツエン達は攻撃を中止する。その直後、『魔物が喋った』という事実に、彼らは目を見開いた。
そして、そんな彼らに。
アイリスの魔法、攻撃の中断命令、喋る魔物の登場で情報過多になっている彼らに、更に追撃が加わった。
一瞬にして、空が赤く染まったのである。
──ゴオォオオォオオォ──⋯⋯ンッッ!!!
“それ”は、まるで鐘の音だった。
重く響き渡るその爆音は、戦場全体に到達する。それぞれの戦地にて赤い空を見上げる冒険者達は、思わず苦笑いした。
「──どう?願い事でもしとく?」
ゴスロリ風のドレスを揺らし、アイリスは振り返る。
艶やかな黒紫の髪を靡かせながら、彼女は静かに微笑んだ。
まるで流星群の様な、巨大な火柱の雨を背景に。
「「「「えぇえええーーっっ!!?」」」」
目玉が飛び出る勢いで、ツエン達は驚愕する。
彼らは、『精鋭』としてこの場に集められたメンバー。自身の魔法の技術にも、それなりの自信があった者達だ。
だが、この日、この瞬間⋯⋯彼らは思い知ってしまった。
自分達が目標としている人物が、どれ程のレベルに立っているのかを。
「すげぇな、お前。殲滅力ならファリドより高いだろ、コレ」
「ふんっ。当たり前じゃない。私こそゼクス最強よ〜♪」
鼻を鳴らし、アイリスは機嫌良さげに腕を組む。
何十本もの巨大な火柱が、一瞬にして上空の魔物を消し炭にする光景。それを、彼女はただ眺めていた。
「──で、どうすんだ?」
アイリスの隣で、銀槍竜は問い掛ける。
胡座をかきながら空を見上げる彼には、とある疑問が浮かんでいた。
「このままじゃ、お前の魔法が地上まで来るぞ。ファリド達に巻き添え食らわせる気か?」
「あらあら。この私が、その点を考えられない様に見える?」
落下する巨大な火柱、数十本。
既に上空の魔物の群れの中心部まで到達しているソレを見て、銀槍竜は腕を組む。彼に対し、魔法の発動者であるアイリスは、大きく髪を
数歩前へ歩いた彼女は、僅かに口角を上げる。
遥か上空で眩く光る自身の魔法。それに向け、アイリスは手の平を大きく広げる。銀槍竜含め、後ろのツエン達が首を傾げる中、彼女は邪悪な笑みを浮かべた。
「──フッ⋯」
固く、手が握られる。
それを合図としたかの様に、上空の全ての火柱が爆裂した。
球状に膨れ上がる爆発波は、それぞれが全長50mまで肥大化。
飲み込んだ全ての魔物達を消し飛ばし、収束した。
「はっ!余裕過ぎるわ、ホント」
腰に片手を当て、髪を大袈裟に梳くアイリス。
開いた口が塞がらない様子のツエン達を他所に、彼女は銀槍竜へと向きを変える。どこからともなく取り出した派手な扇子を扇ぎながら、アイリスは銀槍竜の肩を叩いた。
「銀槍竜。貴方、前線に行きたがってたわよね?」
「⋯いいのか?」
「ええ。私の力を見たでしょ?
「そうか?じゃあ、」
言い終えるより早く、その場から掻き消える銀槍竜。
少々遅れて、『遠慮なく』という台詞がアイリスに届いた。
「余っ程、嬉しかったみたいね⋯」
呆れ気味に、彼女は溜息をつく。
持ち場に戻ったアイリスは、改めて上空を見上げた。
立ち込める黒煙と、未だ半数以上残る魔物達。
そして、その中には【奴ら】の姿があるのであった。