猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第68話・王都防衛迎撃作戦【黒異種・狼形】

 

 

 

「⋯──あれっ?なんでここに?」

 

 

戦場東側。

ソールやシュレンが戦闘を行っている地点へ、俺は到着する。

初めに出会ったシュレンは、押し寄せる魔物達をものともせず、見事に薙刀を操っていた。

 

 

「アイリスが、『行っていいよ』ってさ。マジでありがたい」

 

「へぇ!じゃあ、一緒に戦えるね!」

 

 

少年の様な笑顔で、シュレンは薙刀を振るう。

よく見ると、薙刀の刀身が青と黄が混じった様な色で発光していた。緑色という訳ではなく、あくまで青は青、黄は黄という感じだ。

 

 

「ソレは?シュレン」

 

「ん?コレ?僕の武器!切り付けた相手の魔力を吸い取れるんだ!」

「マジか。すげぇな。何か効果とかもあるのか?」

 

「勿論!魔力の吸収量に応じて、鋭さが上がるんだ!」

 

 

フフン!と薙刀を掲げ、腰に片手を当てるシュレン。

どうやら、刀身と刃部分に溝があり、そこから魔力の吸収と放出を行っている様だ。

 

刀身の方の溝で魔力を吸収。

刃部分で魔力を放出し、溝を埋めるように形成されるらしい。

 

 

「⋯それなら、初めっから斬れ味の良い武器を使えばいいんじゃ?」

 

「チッチッチッ!甘いねぇ〜銀槍竜君!⋯見ててよ〜!」

 

 

俺の疑問に対し、シュレンは人差し指を揺らす。

地面ギリギリまで深く構えた彼は、薙刀を大きく振り被った。

 

 

「はぁッ!」

 

 

掛け声と共に、シュレンは突撃を開始する。

その直後、彼の薙刀に急激な変化が現れた。

 

まず、青と黄から、赤と紫へと発光の色が変化。

そして、刀身の峰(棟)部分から魔力の放出が始まった。

 

⋯成程、『ブースター』というワケらしい。

轟音を響かせる魔力の放出は、小柄なシュレンなら簡単に浮き上がる程の出力だ。ソレを活かし、加速することで、斬りつける勢いを増幅するのだろう。

 

 

「うりゃあァーっ!!」

 

 

シュレンは、迫真の表情で薙刀を振るう。

俺の予想通り、物凄い勢いで魔物達が斬り飛ばされていった。

 

 

(──吸収した魔力で鋭さを上げるのは、あくまでオマケか。

本来は、ああやって遠心力を武器に戦う代物なんだろう)

 

 

確かに、魔力の『吸収』と『放出』が可能なら、チマチマ使うより、溜めまくってから一気に開放した方が効果は出そうだ。

ホンっト、色々考えるねぇ、冒険者は。

 

 

「じゃ!僕!頑張っ!てるから!」

 

 

更にブーストの勢いを増し、高速回転するシュレン。

コッチに向く度に言葉を掛けてくる様子は、最早ギャグだ。

 

 

「皆!の!トコに!応援!行って!あげて!」

 

「はいよ。目ぇ回すなよ?」

 

「分かっ!たっ!」

 

 

コマのように回り、シュレンは魔物達を一掃していく。

そんな彼に手を振り、俺はその場から離れた。

 

 

(兎に角、今は魔物達を倒しながら、各戦場を回ろう。

特定の持ち場が無い俺だからこそ、できる事がある筈だ──⋯)

 

 

 

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その後、各ゼクスの──ぶっちゃけ、不必要だった──助太刀に入ると共に、俺は戦地を回った。その途中、何やら競い合ってるファリドとハクアや、合流してきたシルビアを見かけた。

 

特別、苦戦している様子も無かったので声は掛けなかったが、全体的に見て分かった事がある。

 

 

(この迎撃戦、楽勝だな⋯)

 

 

と。

 

各ゼクスの奮闘もあり、地上を進行する魔物の前線突破は、未だ許していない。加えて、1つの課題であった『飛行型魔物』に対しても、アイリスとツエン達の安定した火力提供によって、事無きを得ている。

 

はっきり言って、負ける要素ゼロな戦いだ。

 

 

「──あら?銀槍竜?」

 

 

俺が迎撃戦について考えていた、その時。

背後から女性の声がした。

 

 

「おぉ、ニナ。調子はどうだ?」

 

「ま、上々ってトコね。アナタはどうして此処に?」

 

「アイリスにオッケー貰ってな。楽しんでるよ」

 

「⋯あら、そう。後方を離れて大丈夫なの?」

 

 

少々怪訝そうな表情で、ニナは俺を見る。

この戦況でも予断を許さないのは、流石冒険者といった所だ。

シュレンは彼女を見習うべきだな、ウン。

 

 

「グルォアア──ッッ!!」

 

「おっと、アブねー」

 

 

突如、飛び掛ってきた魔物を躱す。

棒読みなセリフと、額を拭うジェスチャーをニナに見せると、呆れた表情で俺から目を逸らした。

 

そのまま、彼女は俺を襲った魔物へと斬り掛かる。

どうやら、相手はシャルフ・ガムナマールの様だ。懐かしい。

⋯⋯といっても、『あの時』の事は、あんまり思い出したくないが。

 

ホント、なんで俺は急にブチ切れたんだろうなぁ。

今でも覚えてるぜ。俺は手紙を読んでたんだ。『魔力の操作は気持ちが大事だよ♪』という幼女の一文を読んだ途端、理性が吹き飛んだんだ。

 

結果は酷いものだったが、それでも『竜の力の片鱗』を理解できた良い経験だったと思う。

 

 

「ふッ!」

 

 

グサリと、ニナはシャルフの背に刃を突き立てる。

しかし、相手は図体のデカいシャルフ。その鋒がヤツの心臓に到達する事はなかった。⋯寧ろ、酷く暴れ始めたな。

 

 

「⋯手ぇ貸そうか?」

 

「フン。いる訳ないでしょ」

 

 

シャルフに騎乗し、激しく揺られるニナ。

だが、その表情からは余裕と冷静さが見て取れる。自分の武器が致命傷にならない事は、計算済みというワケらしい。

 

 

「──前に、見せたわよね?私の武器」

 

「⋯あぁ、列車の中で」

 

 

ニナは、静かな声色で俺に話し始める。

その声は、相変わらず美しく耳に響く。だが、今の言葉には、何か悪い事を考えている様な、微かな笑い声も混じっていた。

 

 

「実はね、魔力の弾っていうのは、遠距離攻撃としては向いてないのよ」

 

「そうか?レッドドラゴン相手には、良い目くらましになってたぞ?」

 

「いや、『それだけ』なのよ。せいぜい出来るのが、『目くらまし』なの。それに、目に当てるのだって、相手が動き回ってたら難しいし」

 

 

ふむ、確かに。

⋯⋯って、そこまで理解してて、ニナはなんであの武器を使ってるんだ?余程の近距離じゃないと、威力も出ない様な⋯⋯

 

 

「──あっ」

 

「ふふ、気付いちゃった?」

 

 

あ、ああ!あの子、怖い!

()()()()()()()する気だ!

 

 

「お前、可愛くないな⋯⋯」

 

「いいえ。可愛い私だから許されるのよ」

 

 

そう言って、ニナは武器に魔力を込め始める。

シャルフの背に刺さっている刃と、その銃口。そして、今まさに発射されようとしている魔力弾。

 

つまり⋯⋯

 

 

「あはっ♡」

 

「グギャ──」

 

 

爆発四散。

シャルフ・ガムナマールの巨体が弾け飛んだ。なんだかもう、『色々』散らばって血の海だ。

 

 

「(うわぁ⋯⋯)」

 

「何よ、そのカオ?この私の服が透けちゃってんのよ?もっと感動しなさい」

 

「ぉぉよくそんな台詞が出てくんなぁオイ」

 

「つまんないオトコ⋯⋯。いや、つまんないオスねー」

 

 

血を払う為か、ニナは左右へ腰を回す。

白いワンピースの様だった防具は血で染まり、皮肉にも鮮やかに彼女を彩っていた。更に、彼女の動作と相まって、遠心力によって散る血は、ドレスを揺らしているかの様な錯覚を魅せる。

 

なんとも言葉にしがたい美しさが、そこにはあった。

 

 

「──あら、」

 

「ん、」

 

 

その時。

俺とニナは、同時に振り向いた。

 

俺達の視線の先にいたのは、全身が真っ黒な魔物。

⋯⋯いや、魔物である俺からすれば、【アレ】が魔物であるかも疑問視する所だ。

 

 

「【黒異種】⋯⋯いよいよお出ましってワケね⋯」

 

「あぁ、気を引き締めてこうぜ」

 

 

資料で読んだ通り、獣型の四足歩行タイプだ。

見た所、狼に近い姿だな。特段、牙が鋭い訳でも鉤爪が長い訳でもないが⋯。妙な威圧を感じるぜ。

 

 

「「「グルルルルル⋯⋯!!」」」

 

 

ぞろぞろと、黒異種の狼──黒狼とでも言おう──が現れる。

聞いている話では、元々の魔物の軍勢は1000体程度だったが、【黒異種】の発見によって、3000体にまで膨れ上がったとか。

 

即ち、【黒異種】は総数は約2000体。

魔物の軍勢の内、3分の1を片付けた事になる。

 

 

「ニナ、ちょっと耳塞いでてくれ」

 

「⋯?分かったわ」

 

 

あぁ⋯⋯久し振りだな、()()

魔物として生きてきて、つい、戦いの前にはやりたくなっちまうんだよな。

 

 

──ガルオォァアアァァァァアァァァ──ッッッ!!!

 

 

特大の咆哮を、俺は全力で放った。

大地を、天空を、星をも揺らしている様なこの感覚は、堪らなく心地良い。『総て』に自分の行動で影響を与えている様な、そんな感じだ。

 

 

「ッ⋯、凄いじゃない」

 

「もっと感動してくれてもいいんだぜ?」

 

 

軽口を言い、俺は黒異種と見合った。

影すら見えない漆黒の肉体と、瞳孔や結膜が見受けられず、ただ緋く光る目。それは最早、生物の様に動き、生物の様に唸るだけの、“別の存在”だった。

 

 

「遅れるなよ、ニナ」

 

「分かってる。あなたこそね」

 

 

俺とニナは構える。

睨み合う俺達と黒狼達。戦場は、嵐の直前が如く、静寂が支配しているのであった──⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯────ふむ」

 

 

誰の声か。

ただ、(しゃが)れた男の声が発せられる。

 

その男の⋯、いや、その老人の視線は、真下に注がれていた。

眼下で睨み合う、銀槍竜・黒異種と名付けられた者達へと。

 

 

「見極めるとしよう。()()()()()()足り得るかどうかを」

 

 

老人は、何も無い空間に手をかざす。

そこへ出現したのは『扉』だった。独りでに開いたソレに、老人は歩を進める。

 

 

世界は、変わろうとしていた。

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