猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第69話・王都防衛迎撃作戦【異変】

 

 

「──やべぇぞ!前線が抜かれた!」

 

「分かってる!だが、俺達もここを離れる訳にはいかねぇ!」

 

 

混乱するゼクス達を横目に、俺は駆けていた。

アイリス達後方組から離脱した俺を、激しい後悔の念が覆う。『あそこから離れるべきではなかった』と。

 

 

「銀槍竜ッ!アンタだけでも戻れないの?!」

 

「そうしたいのは山々だが、()()()()厄介すぎる!無理だ!」

 

 

声を荒らげるニナに、俺は【敵】を蹴散らしながら返答した。

既に1000体は倒している筈だが、全く勢いが衰えない【敵】を見て、俺は歯軋りをする。

 

 

発端は、俺が前線へ出てから、暫く経った時の事だった──⋯

 

 

 

〜30分程前〜

 

 

 

「やあッ!」

 

 

ニナの掛け声と共に、黒狼が爆散する。

頬についた返り血を拭う彼女を横目に、俺もまた吼えた。

 

 

「ガルオァッ!」

 

思い切り、俺は尻尾を振り抜く。

敢えて言葉を付けよう。『ブチ振り抜いた』と。

 

俺の尻尾は、身体の全長の3分の1近くを占めている。

そんな、長く大きく、強靭な筋肉を“思い切り”振り抜いた⋯。

となれば、その結果を予測するのは簡単だ。

 

 

──ずっ。

 

 

スラリと、()()()()()

尻尾の薙ぎ払いによって発生した風圧が、刃となって黒狼の群れを横一文字に切断した。

 

 

「「えっ」」

 

 

⋯前言撤回。

結果を予測するのは難しいな☆

 

⋯って、いやいや。

あ〜れあれあれ?あれえぇ??なんだぁこの威力は〜??

 

 

「ばっ、バカっ!あっちに味方がいたらどうするつもりよ!」

 

 

俺の角を掴み、ニナが詰め寄ってくる。

冷や汗を流す彼女に対し、俺も冷や汗を流しながら、超がつく程の小刻みで顔を左右に振った。

 

 

「違っ!俺もあんな威力出るだなんて思ってなくて⋯!!」

 

「はぁ!?自分の技でしょ!?」

 

「わ、悪かったって!もうしない!二度としない!」

 

「当っったり前でしょ!!バカなんじゃない!!?」

 

 

ニナ迫真のガチギレを受けつつ、俺は視線を横へ向ける。

そこには、とんでもない数の黒狼が、脚や顔面の下半分とお別れしている光景があった。

 

うん、絶ッ対におかしい。

最前列の連中を攻撃するつもりが、群れの先頭から10mくらい奥まで片が付いている。『全力で薙ぎ払った』とはいえ、ここまでの威力ってマジか?

 

いや、確かにな?

リーゼノールにいた頃の時点で、同じ事して岩の切断は可能だったぞ?⋯⋯でも、テュラングルに力を貰って以降、身体能力系のトレーニングしてないのに“この威力”ってヤバくね⋯?

 

 

〖やばいねぇー〗

 

 

俺が目を見開いていると、脳内から声が聞こえる。

目の前の有様を見て、久し振りに()()()()様だ。

 

 

(だろ?ゼッテー変だぜコレ⋯⋯)

 

〖んんー。でも、もうちょっと頑張れる気もするケド?〗

 

(うわ。ソレ、前にもバルドールに似た様なん言われたわ。今でも十分強くね?)

 

〖ま、君が満足ならそれでいいんじゃない?〗

 

 

んん、何かヤな言い回しだな。

同じ身体ではあるが、コイツと俺では動きの感じ方って違うモンなのか?⋯まぁ()()()()()()()って事で受け取っておくが⋯。

 

 

〖──それはそうと、ねぇ紅志(あかし)?〗

 

(なんだ?)

 

〖キミ、ちゃんと魔力感知を使った方がいいと思うよ?〗

 

(⋯どういう意味だ?)

 

〖じゃ、僕また寝るぅー〗

 

 

あっ、あぁ⋯⋯行っちまった。

魔力感知は常に使ってるんだが⋯はて?『ちゃんと』?言い回し的に、今の使い方は間違ってるとでも伝えてる様だが⋯

 

あっ、そういえば。

迎撃戦の開始直前に、アイリスが魔力感知に何か工夫を行っていた気がするぞ?本人曰く、『敢えて感知範囲を限定する事で、一定距離内の感知精度を上げれる』だとか⋯。

 

やれるだけ、やってみるか。

 

 

(──感知を広げる感覚か?⋯イヤ、もっとこう⋯)

 

 

目を瞑り、俺は魔力感知へ意識を集中する。

ゼクスの魔法使い筆頭、アイリスの一流の技術を一目見ただけで真似しようとしているワケだ。

 

流石に、おいそれとはいかないらしい。

 

 

「ん、おっ!?」

 

 

⋯⋯前言撤回、なんかイケる気がしてきた。

『感知の限定』は、感知の拡張より、寧ろ“凝縮”を意識するっぽいな。“ある一方向”に対して、感知を強く絞る感じか。

 

 

「俺って、才能あるかも⋯?」

 

「ちょっと!戦いに集中してよ!」

 

 

思わずニヤつく俺の背を、ニナの焦った声が突く。

見ると、無数の黒狼に囲まれつつ奮戦する彼女の姿があった。

感知情報が詳細になっていくのを感じながら、俺は素早く右手に銀槍を生成。ニナの背面の黒狼達に向け、ブン投げた。

 

 

「ったく⋯」

 

 

銀槍が黒狼数体を貫いた事で、他の黒狼達が飛び退く。

援護に気付いたニナは、すぐに正面の黒狼の群れへと構える。

俺は即座に、邪魔な連中が消えた空間へと跳ね上がった。

 

そして、着地を済ませた俺に、ニナは一言、

 

 

「遅いわよっ!」

 

 

と、背を預けた。

 

 

「──すまん、才能が目覚めてたトコなんだ」

 

「意味不明なコト言ってないで、敵に集中して!」

 

「仰せの通り⋯⋯にッ!!」

 

 

ドン!と互いの背中をぶつけ合い、俺達は突撃を開始する。

背を預けている=正面は俺の攻撃範囲⋯ということで、ニナを巻き込む心配無く暴れられるぜ。

 

 

「ガオアァッ!!」

 

 

短く吼え、俺は鉤爪を立てる。

手始めに、飛び掛ってきた2体の黒狼の隙間を通り抜け、すれ違いざまに首を掻っ切る。血飛沫の雨を背に浴びながら、俺は黒狼の群れへと突っ込んだ。

 

あっちもこっちも敵ばかり。

四面楚歌(しめんそか)とは、こういうシュチュエーションの事なのだろう。

⋯⋯ハハ、楽しいな。

 

 

「──オイオイ、()()()()!独り占めはよくねぇなぁ!?」

 

 

思わず笑みを浮かべていると、左サイドの黒狼達が吹き飛ぶ。

数体、辛うじてその場に留まったであろう奴らも、声の主に振り返るより早く、鋭い刺突によって貫かれた。

 

 

「絶好調だな、ファリド」

 

「ったりめぇだぜ!!銀ちゃん!」

 

 

槍を肩に担ぎ、ファリドは親指を突き立てる。

強者の登場に、逆の右サイドの黒狼達は激しく唸り始めた。

しかし、その時。

 

上空から、彼らに向けて無数の矢の雨が降り注ぐ。

 

 

「おーーい!!ニナちゃーーーん!!」

 

 

見上げると、そこには大きく手を振るサンクイラの姿が。

桜の花弁の様に軽やかな着地をして、彼女はニナの元へ走る。

途中で飛び掛ってきた黒狼は弓で殴り飛ばし、彼女は無傷でニナと合流した。

 

 

「他の連中も最前線(こっち)に向かってる。決着は、時間の問題だ」

 

 

サンクイラに続き、ハクアも俺達へと合流する。

この人数がいれば、残りの黒狼の群れの対処も大丈夫だろう。

問題は上空の魔物達だが、まぁアイリス達だけでもなんとかなってるっぽいな。

 

 

「よし。まずは、俺が銀槍で弾幕を──」

 

 

その、時だった。

俺の魔力感知に、異変が現れたのは。

 

例えるなら、そう。

巨大な“壁”が押し進んでくるかの様な、そんな感じだ。

 

魔力感知を埋め尽くす、その“壁”⋯。

それは地響きとなり、冒険者達にも異変を知らせた。

 

 

「⋯なんだ、こりゃあ?」

 

「──構えろ」

 

「はぁ?銀ちゃん、この揺れが何か分かっ──」

 

「いいから!全員構えろッッ!!」

 

 

──ドッ────────⋯⋯ンンッッ!!!

 

 

出 た。

迎撃戦開始時の魔物の軍勢など、比ではない程の【黒】が。

 

()()は【黒異種】なのだろう。

黒い皮膚と、赤く光る瞳。【黒異種】の条件は満たしている。

 

だが⋯なんだ、()()は?

二足歩行型で、脚と胴体の長さがほぼ同じ。

 

⋯いや、脚の方が少し長いか?

肩から肘、肘から腕まではそこそこ長く、尻尾は無いが、酷い猫背⋯⋯というより、前傾姿勢だ。

 

 

「──おい。なんだ、コレは?」

 

「わ、分かんないわよ!!一体コイツらは⋯ッ!?」

 

 

ハクアも、ニナも、同様に動揺の表情を浮かべる。

ファリドですら、片眉を釣り上げながら口を開けたままだ。

 

当然だろう。

その『姿』もそうだが、大地を覆い尽くす程の『数』もまた、此方の思考を停止させるには十分過ぎる情報なのだから。

 

 

(──王都へ戻って増援を⋯?いや、間に合わない。ここで何とかするしかない⋯!!)

 

 

俺は、可能な数だけ銀槍を生成を急いだ。

だが、500は下らない数の銀槍を生み出して尚、心許ない。

 

あの【黒異種】は、鉤爪は持っていない。

あの【黒異種】は、牙は生えていない。

 

しかし、あの【黒異種】は、恐ろしく多い。

そして、“その姿”は、俺や冒険者達からすれば、戦う相手ですらないのかもしれない。

 

敢えて。

敢えて、名前を付けるのだとしたら、誰もがこう言うだろう。

 

 

 

 

 

 

【人型黒異種】と。

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