猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第70話・王都防衛迎撃作戦【黒異種・翼竜型】

 

 

「ちょっと、どうなってんのよ⋯⋯」

 

 

アイリスは、狼狽していた。

自身の魔力感知内に、とんでもない反応が現れたからである。

()()は、戦場最前線に出現した【人型黒異種】によるもの──

 

ではなく、別の地点から発せられていた。

 

 

「──冗談でしょ?」

 

 

彼女が見上げる、遥か上空。

雲に覆われた空に、黒い影が揺れる。

 

影は、次第に数を増し、1つの塊、一つの生物の様に蠢いた。

 

 

「⋯全員、魔法の準備をして。最大魔力で」

 

「「「「⋯⋯!!」」」」

 

 

アイリスの指示に、ツエン達は硬直する。

空を埋め尽くす【黒異種】の群れは、自分達では対処しきれる筈がない、そう判断したからだ。

 

 

「お、王都に戻って、他の冒険者を⋯⋯」

 

「間に合わない、ここで食い止めるしかないわ。

──出来るわよ、貴方達なら」

 

 

髪を靡かせ、アイリスは先頭に立つ。

ツエン達は、絶望的な状況にも関わらず、任務を全うしようとする彼女の後ろ姿に感嘆する。

 

──自分達が、自分達だけが、逃げ出していい筈がない──

 

ツエン達は、そう、意を決する。

それぞれが魔法陣を形成し始め、戦闘態勢へと移行した。

 

 

「フッ⋯。さぁ、やるわよ!」

 

「「「「はいッッッ!!!」」」」

 

 

炎、氷、雷⋯⋯、様々な形状で発射される魔法。

それは、開戦時より一層の鮮やかと眩さを放ち、空へと向かっていった。

 

 

(──さっきまで、こんな数は居なかった筈⋯。一体、何故急に増えた⋯?いや、そもそも何処から現れたの⋯?)

 

 

両手から、近接防御火器システム(C I W S)の様に魔法を放ちつつ、アイリスは思案する。現状においての疑問は、大きく2つだった。

 

まず1つが、突如増加した黒異種の出現地点。

アイリスは魔力感知の範囲を絞っているが、その分を差し引いたとしても、感知可能な範囲は他のゼクスを上回っている。

 

そんな彼女ですら、黒異種が増加したタイミングに気付けなかったのだ。本人からすれば、疑問に思うのは必然であった。

 

そして、2つ目。

 

 

(──ツエン(この子)達の魔力も、限界が近いわね⋯)

 

 

アイリスは、視線を後ろへ向ける。

必死に魔法を撃ち続けるツエン達は、その額を大粒の汗で濡らしていた。既に、魔物の軍勢との戦いで魔力補充用の魔力石も使い果たしており、正直な所、かなりピンチなのだ。

 

幸いな事に、空を覆う黒異種は、現状でも対処が出来ている。

ツエン達が気張っているお陰で、魔法攻撃が常時炸裂して壁となり、防衛ラインの突破をさせていないのだ。

 

ここままであれば、殲滅の可能性も見えている⋯

⋯が、懸念すべきは地上での出来事だ。

 

もし仮に、数体でも前線から後方への魔物・黒異種の侵入があった場合、そちらの対処に人員が割かれてしまう。弾幕が弱まった瞬間に突破を許してしまえば、後は『雪崩』。再度弾幕を張る間もなく、防衛ラインを越えられてしまうだろう。

 

 

(──他の皆を信じるしかないわね⋯)

 

 

後方の現状維持の鍵となるのは、前線でのゼクスの奮闘。

アイリスは、ただ真っ直ぐと前線を見つめていた──⋯

 

 

 

NOW LOADING⋯

 

 

 

 

「──やべぇぞ!前線が抜かれた!」

 

「分かってる!だが、俺達もここを離れる訳にはいかねぇ!」

 

 

混乱するゼクス達を横目に、俺は駆けていた。

アイリス達後方組から離脱した俺を、激しい後悔の念が覆う。『あそこから離れるべきではなかった』と。

 

 

「銀槍竜ッ!アンタだけでも戻れないの?!」

 

「そうしたいのは山々だが、こいつら厄介すぎる!無理だ!」

 

 

声を荒らげるニナに、俺は【人型黒異種】を蹴散らしながら返答する。既に1000体は倒している筈だが、全く勢いが衰えない【人型黒異種】を見て、俺は歯軋りをした。

 

更に最悪な事に、後方組がいる地点でも異変があったらしい。

上空へ向かって魔法が放たれ始めた。それも、ほぼ垂直に。

恐らくだが、黒異種の突然増加はコッチだけでは無い様だ。

 

 

「オオォア!!」

 

 

雄叫びを上げ、黒異種が飛び掛ってくる。

かかと落とし──の様な動作の攻撃──を、俺は僅かに下がる事で避け、顔面へ拳を打ち込んだ。

 

そのまま地面へ叩き落とし、俺はすぐさま踵を返す。

現場の独断で前線へ出てきた挙句、王都への侵入を許しましたなんて話にならないからな。さっさと後方へ戻らなければ。

 

俺は兎も角、OKを出したアイリスに責任が行ってしまう。

 

 

「⋯待ってろよ、今から向か──」

 

「オオォ──ォアア!!」

 

 

俺がダッシュの為に踏み込もうした、その時。

地面へめり込んでいた筈の黒異種が、俺の後ろ脚を掴んだ。

 

 

(クソ、反射的に加減しちまったか⋯!!)

 

 

その黒異種の額には亀裂の様な傷が出来ていたが、それ以外のダメージば見受けられない。人と同じ姿の相手に対して、どうやら力を抑えてしまったらしい。

 

 

「「「「オオォオォオオ!!」」」

 

 

その瞬間、無数の人型黒異種が覆い被さってくる。

ズシンと背中に重量が乗ったが、何とか動く事は可能だ。

 

⋯⋯が、コイツら、執拗に俺を掴んできやがる。

腕や脚は勿論、角や尻尾にまで引っ付いてくるんだから気持ちが悪い。たまに殴られるが、ソレは大して痛くないな。

 

上手く反撃が出来なくて、めっっちゃムカつくが。

 

 

「く⋯ッ、こんの、邪魔だテメーら!」

 

「「「「オオォオアア⋯⋯」」」」

 

 

くっそぉ、中々動けん。

辺り一面に銀槍ぶちまけるって手あるが、周囲で戦ってるゼクス達を巻き込んじまう可能があるしな⋯⋯。

 

仕方ない。

ホントは、もっと重要な時の方が良かったが、背に腹はかえられないしな。()()を返してもらうおう。

 

 

「おーーいっ!!手ぇ貸してくれーーっ!!」

 

 

俺が叫んだ直後、あっという間に視界が晴れる。

目の前に現れた影は、槍を肩に担ぎながら俺に手を伸ばした。

 

 

「──よォ、銀ちゃん。コレでチャラだな」

 

「いいや、まだまだ」

 

「ンン〜?欲張りだなぁ。いいぜ、注文は?」

 

「アイリス達までの『道』を頼む。コレでチャラだ、ファリド」

 

 

グルリと槍をブン回し、獰猛に嗤うファリド。

俺に背を向けながら、彼は『おうよ!』と言って低く構える。

直後、ファリドの姿は、その場から掻き消えた。

 

 

「邪魔だァーーッッ!!」

 

(⋯やっぱ、二度とアイツとは戦いたくねぇな)

 

 

一瞬にして、ファリドは人型黒異種の群れへ突っ込んでいた。

そして、それを俺が把握し、歩を進めるまでの僅かな間に、彼は周囲にいた人型黒異種を打ち倒していた。

 

 

「数はいるが、一体一体は大したコトねぇ!突っ切るぞッ!」

 

「おうッ!!」

 

 

ファリドは、見事な槍捌きで眼前の敵を排除してゆく。

俺がサポートに入るまでもなく、分厚い群れを突破した。

 

だが、しかし──

 

 

「銀ちゃん避けろッ!」

 

「──ッ!!」

 

 

黒異種の群れを抜けた瞬間、空から無数の火球が飛来する。

一瞬にして朱色になった空を見て、俺は回避より防御を選択。

即座に金属を生成し、自身とファリドの周囲を覆った。

 

 

「⋯おう。助かったぜ、銀ちゃん」

 

「何を。アンタなら、避けるなり弾くなり簡単に出来ただろ?」

 

「はッ!よく分かってるじゃねえか!」

 

 

継続して爆撃されてるのか、外からの爆音が止まない。

俺が生み出す金属は相当頑丈なので、この防御壁が壊れる心配は無いが、今は時間が惜しい。一刻も早く、外に出たい所だ。

 

 

「⋯連中、見たところ、“ワイバーンもどき”ってトコだったな」

 

「ワイバーン。見た事はないが、聞いた事あるな」

 

 

俗に、『翼竜』と呼ばれている魔物だ。

ドラゴン種・竜科・有翼型と、まぁ魔物の中ではフツーな奴ららしい。上空からの急降下で獲物を仕留めるスタイルだが、火球も撃てるんだとか。

 

うむ、“ワイバーンもどき”とはよく言ったもんだ。

 

 

「黒異種の翼竜型か⋯⋯『黒竜』は、ちょっと似合わないな。

『ブラック竜』?⋯『黒ドラゴン』?⋯」

 

「『黒ドラ』でいいんじゃね?」

 

 

ズズンと、外から爆音が響く。

その直後の静寂は、俺とファリドの間に微妙な空気を生んだ。

 

 

「⋯ダサくね?」

 

「そうか?『黒ドラ』、言いやすいだろ?」

 

「他に考えようぜ。例えば──」

 

 

ズズズンと、更に爆音が鳴り響く。

もっと丁寧に、しっかりと考えたい所だか⋯⋯今は仕方ない。

『黒ドラ』でいこう。

 

 

「銀ちゃん。あの『黒ドラ』は、俺の間合いじゃねえ。かと言って、ここにお前が残るワケにもいかねぇよな?」

 

「あぁ。広範囲の対空迎撃が可能なのは俺だけだからな。今の後方部隊にとって、俺の必要性は大きいだろうし」

 

「だろ?それで、だ。この俺に、チョー最高な作戦が浮かんでるんだが⋯どうだ?」

 

「聞かせてくれ」

 

 

ふむふむ。

カクカクシカジカの?ごにょごにょの?にょごにょごか⋯。

 

 

「──成程、いいね!」

 

「しゃアーッ!かますぜ、銀ちゃん!」

 

「ふぉお!!⤴⤴」

 

 

 

 

〜【黒異種・翼竜型】改め、『黒ドラ』side〜

 

 

 

──敵が、隠れて、出てこない──

 

 

黒ドラ達は、地上を見下ろしながら火球を撃ち続けていた。

しかし、一向に破壊できない銀槍竜の防御壁を見て、彼らはファリド達の対処を後回しにする事を選択。翼を(ひるがえ)して、その場から飛び去ろうと動いた。

 

だが、しかし。

遠くで鮮やかな発光を繰り返す空に向け、翼を羽ばたかそうとした、その時だった。

 

 

「──ヒイィィハァァァァ!!!イエェェェェェッッ!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

ファリドが、奇声を発しながら現れる。

それも、黒ドラ達が飛んでいる高度と同じ高さに。

 

彼は、1体の黒ドラを引っ掴んで背に乗り、槍を突き立てる。

そして、絶命した黒ドラが落下する前に、別の黒ドラへと飛び移り、同じく槍を突き立てた。

 

 

「ほい次ィ!はい次ィ!」

 

 

黒ドラ達を殲滅してゆくファリドは、チラと地上を見る。

そこには、鎖を片手に手を振る銀槍竜の姿があった──⋯

 

 

 

 

 

「⋯──うし、上手くいったな」

 

 

うーむ、成功成功、大成功。

ファリドが鎖を掴み、俺がハンマー投げの要領でブン投げる。

あの高さまで飛んでいくか心配だったが⋯遠心力は偉大だな。

 

撃破が1体1体なのも気になっていたが、あの調子なら大丈夫そうだ。めっちゃハイペースで黒ドラ達が撃墜されているし。

 

 

「⋯さて、」

 

 

俺は、上空から地上へと視線を戻す。

少し距離が空いてしまったが、前線の突破を許してしまった人型黒異種の姿はまだ捉えられる。⋯逃がす訳にはいかねぇ。

 

低く、低く構える。

人間でいえば、“クラウチングスタート”の構えに似ているか。

後は、金属生成にて背後に壁を作り、左足の裏を合わせる。

 

地面を両手で掴み、右脚は胸下まで伸ばす。

両手で上半身を前へと引き寄せ、右脚で下半身を軽く浮かせ、そして、左脚を“起爆”させる⋯ッ!!

 

 

──ドンッッッ!!

 

 

スタートダッシュによる衝撃音。

それが、僅かに遅れてくる程の速度で俺は駆けた。

 

鼻先に、白い空気の塊が発生するのが見える。

そのうち、音速まで出せちゃったり?なんて、考えてる間に、

 

 

「──追い付いたぜ」

 

「「「オォォオオアッッ!!!」」」

 

 

前線を突破し、アイリス達の所へと向かっていた人型黒異種達の前へ立つ。両サイドから、俺の事をスルーして通り抜けようとしやがった連中を銀槍で撃ち抜いた。

 

『通さないぞ』と睨む俺に対し、人型黒異種──黒異人(コクト)とでもいうか──は雄叫びを上げる。改めて聞くと、エコーの様に響く、奇妙な声をしているな。

 

 

「──よぉハゲども。大人しく帰るなら、見逃してやるぜ?」

 

「「「「ヴォオオオォオオアァア──ッッ!!!」」」」

 

 

オッケー、引く気はナシだな?上等上等。

いっちょド派手にやってやるぜ。

 

 

「──ガルォアァァアァアアアァァァッッッ!!!!」

 

 

大気を揺らす咆哮。

第2ラウンド開始のゴングが鳴らされた。

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