「☾
手で銃を模した形を作り、男は呪文を唱える。
その直後、彼の指先に小さな魔法陣が出現。三本の蒼白い閃光が、音速を超えて放たれた。
二つは、真上の空へ向けて。
一つは、防衛ライン突破を許してしまった翼竜型黒異種達へ。
瞬く間に着弾したその魔法の光は、急激な膨張を見せる。
全開時のアイリスによる☾
「──待ち遠しかったか?」
「いいや。最高のタイミングだぜ、バルドール」
蒼白く輝く空の下、俺は拳を前へ出す。
そして、バルドールも俺と同様に拳を出した。
拳を合わせた俺達は、軽く笑う。
共に空を見上げると、そこには半数は殲滅したと思われる黒ドラ達の群れがあった。
「⋯どうしてアンタがここに?」
「んん?ベルトンのギルドマスターから聞いてないか?」
「ガバンから?」
⋯あぁ、そういえば。
いつかだったか、ガバンが『俺がベルトンに入る手助けをした男』を、この迎撃戦へ参加させている、とか言ってたっけな。
⋯まぁバルドール以外に『そんな男』は居なかったし、当時は“心強いなー”的な事を考えてた様な気がする。
「──しっかし、リーゼノール以来か」
「だな。⋯あの時は、テュラングルを前に置き去りにされてどうなるかと思ったが⋯⋯。今じゃ、感謝してるぜ」
「あぁ。前とは“魔力の質”がまるで違うぜ。銀灰──。いや、今は『銀槍竜』か?」
「出来れば、紅志(あかし)で頼む」
「ハッ。そうだったな、悪い」
会話を弾ませつつ、俺とバルドールは手を掲げる。
一瞬だけ目を見開いた俺達は、その後すぐに笑みを浮かべた。
「じゃ、魔物ファーストだ」
「年長者ファーストでもいいんだぜ?」
手を下ろすバルドールに冗談を言いつつ、俺は魔力を練る。
“ちょっと試してみたい事”があるし、折角の見せ場を中年野郎に全部持ってかれるのはヤだしな。
⋯⋯さて、やってみようか。
「──☾
空に掲げた俺の手に、巨大な魔法陣が出現する。
アイリスの見様見真似だったが、どうやら上手くいった様だ。
流石に、熟達している彼女よりは魔法陣のサイズは劣っているが、残りの黒ドラ共の殲滅なら容易そうだな。
「ハハッ。まじで成長速度が異常だぜ、紅志」
拍手するバルドールを後ろに、俺は魔法を放つ。
か細い音と共に打ち上がる赤い閃光。
戦場の空が、朱色に染まった──⋯
NOW LOADING⋯
「──なんだったんですかね?」
「さぁ⋯なんだったのかしら?」
サンクイラの問いに、シルビアを首を傾げる。
戦場後方にて、迎撃魔法の射出が止まったかと思えば、三本の蒼白い光が空へと放たれて大爆発。それから少し経った後に、今度は赤い光に覆われる空⋯⋯。
当事者ではない彼女ら含め、前線のゼクス達は困惑していた。
しかし、翼竜型の黒異種が完全に殲滅された光景を目にした数名は、即座に戦闘態勢へと戻った。
「よく分かんねェが、後はコッチだけって事だろ!!」
「⋯ソールの言う通りだ。何が起きたかは、後で聞けばいい。今は目の前の敵に集中しろ!」
それを合図に、各ゼクス達は素早く攻撃の再開をした。
「⋯今、のは⋯⋯⋯⋯」
ただ、その中で1人だけ。
ヴィルジールは、未だに後方へと視線を向けていた。
(まさか、今の魔法は⋯?)
──『冒険者が接触した』──
──蒼白い三本の光⋯──
──生き残ったこの1人が⋯──
──
過去の記憶と、現在の思考。
それらは、彼の中で高速で回り、組み合わさっていった。
そして──
「
全てが、1本の線で繋がった。
あくまでそれは予想でしかなかったが、今のヴィルジールにとって、その“答え”は確信に近かった。
リーゼノールにて銀槍竜と接触して魔法を教えた、とあるフリーの冒険者。自身がそのグレイドラゴンに出会うよりも早く、接触していた人物⋯⋯。
ヴィルジールにとって、激しい嫉妬の対象となる者だった。
そして、正体が判明した暁には、どうするかも決めていた。
──この“邪魔者”を殺してやろう──
と。
「油断すんな!ヴィル──」
「うるせえな」
自身の肩を叩いたファリドを、ヴィルジールは睨んだ。
その迫力に、実力では上である筈のファリドは、思わず後退りする。その瞬間ヴィルジールの雰囲気は、あまりに異様だったのだ。
“『何か』が切れていた”。
後に、当時の状況を聞かれたファリドが、そう供述する程に。
「⋯ここ最近、お前に
「⋯⋯⋯⋯。」
ファリドは、冷静にヴィルジールを諭す。
しかし、ヴィルジール本人は無言のまま、心ここに在らずで戦場後方を見つめていた。
「──変な気ぃ起こすんじゃねえぞ?何かあったら、両脚もいででも連れて帰るからな」
「⋯⋯黙ってろ」
肩に添えられたファリドの手を叩き落し、ヴィルジールは武器を構える。次にファリドが言葉を発する間もなく、ヴィルジールは
「⋯⋯あんまり、シルちゃんを悲しませんなよ」
その台詞は、ヴィルジールに届かない。
彼の後ろ姿を、ファリドはただ静かに眺めていた。
迎撃戦の決着まで、残り僅か。
それぞれの冒険者達は、次々と黒異種を倒していく。
人々の希望と、自らの使命感を胸に。
だが、彼らは知らない。
この迎撃戦の終わりは、世界にとって、始まりに過ぎないという事を──⋯