猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

73 / 218
第72話・王都防衛迎撃作戦【終戦】

 

「☾邪悪な矢(ベゼ・ファル)☽」

 

手で銃を模した形を作り、男は呪文を唱える。

その直後、彼の指先に小さな魔法陣が出現。三本の蒼白い閃光が、音速を超えて放たれた。

 

二つは、真上の空へ向けて。

一つは、防衛ライン突破を許してしまった翼竜型黒異種達へ。

 

瞬く間に着弾したその魔法の光は、急激な膨張を見せる。

全開時のアイリスによる☾炎槍の雨(フランツェ・レーゲン)☽が、まるで比べ物にならない程の大爆発が巻き起こった。

 

 

「──待ち遠しかったか?」

 

「いいや。最高のタイミングだぜ、バルドール」

 

 

蒼白く輝く空の下、俺は拳を前へ出す。

そして、バルドールも俺と同様に拳を出した。

 

拳を合わせた俺達は、軽く笑う。

共に空を見上げると、そこには半数は殲滅したと思われる黒ドラ達の群れがあった。

 

 

「⋯どうしてアンタがここに?」

 

「んん?ベルトンのギルドマスターから聞いてないか?」

 

「ガバンから?」

 

 

⋯あぁ、そういえば。

いつかだったか、ガバンが『俺がベルトンに入る手助けをした男』を、この迎撃戦へ参加させている、とか言ってたっけな。

 

⋯まぁバルドール以外に『そんな男』は居なかったし、当時は“心強いなー”的な事を考えてた様な気がする。

 

 

「──しっかし、リーゼノール以来か」

 

「だな。⋯あの時は、テュラングルを前に置き去りにされてどうなるかと思ったが⋯⋯。今じゃ、感謝してるぜ」

 

「あぁ。前とは“魔力の質”がまるで違うぜ。銀灰──。いや、今は『銀槍竜』か?」

 

「出来れば、紅志(あかし)で頼む」

 

「ハッ。そうだったな、悪い」

 

 

会話を弾ませつつ、俺とバルドールは手を掲げる。

一瞬だけ目を見開いた俺達は、その後すぐに笑みを浮かべた。

 

 

「じゃ、魔物ファーストだ」

 

「年長者ファーストでもいいんだぜ?」

 

 

手を下ろすバルドールに冗談を言いつつ、俺は魔力を練る。

“ちょっと試してみたい事”があるし、折角の見せ場を中年野郎に全部持ってかれるのはヤだしな。

⋯⋯さて、やってみようか。

 

 

「──☾炎槍の雨(フランツェ・レーゲン)☽」

 

 

空に掲げた俺の手に、巨大な魔法陣が出現する。

アイリスの見様見真似だったが、どうやら上手くいった様だ。

流石に、熟達している彼女よりは魔法陣のサイズは劣っているが、残りの黒ドラ共の殲滅なら容易そうだな。

 

 

「ハハッ。まじで成長速度が異常だぜ、紅志」

 

 

拍手するバルドールを後ろに、俺は魔法を放つ。

か細い音と共に打ち上がる赤い閃光。

 

戦場の空が、朱色に染まった──⋯

 

 

 

NOW LOADING⋯

 

 

 

「──なんだったんですかね?」

 

「さぁ⋯なんだったのかしら?」

 

 

サンクイラの問いに、シルビアを首を傾げる。

戦場後方にて、迎撃魔法の射出が止まったかと思えば、三本の蒼白い光が空へと放たれて大爆発。それから少し経った後に、今度は赤い光に覆われる空⋯⋯。

 

当事者ではない彼女ら含め、前線のゼクス達は困惑していた。

しかし、翼竜型の黒異種が完全に殲滅された光景を目にした数名は、即座に戦闘態勢へと戻った。

 

 

「よく分かんねェが、後はコッチだけって事だろ!!」

 

「⋯ソールの言う通りだ。何が起きたかは、後で聞けばいい。今は目の前の敵に集中しろ!」

 

 

黒異人(コクト)達に斬り掛かりながら、ハクアは全体へ指示を出す。

それを合図に、各ゼクス達は素早く攻撃の再開をした。

 

 

「⋯今、のは⋯⋯⋯⋯」

 

 

ただ、その中で1人だけ。

ヴィルジールは、未だに後方へと視線を向けていた。

 

 

(まさか、今の魔法は⋯?)

 

 

──『冒険者が接触した』──

 

                ──蒼白い三本の光⋯──

 

──生き残ったこの1人が⋯──

 

            ──()()()に確認された光と同じだ──

 

 

過去の記憶と、現在の思考。

それらは、彼の中で高速で回り、組み合わさっていった。

 

そして──

 

 

()()()だ⋯!」

 

 

全てが、1本の線で繋がった。

あくまでそれは予想でしかなかったが、今のヴィルジールにとって、その“答え”は確信に近かった。

 

リーゼノールにて銀槍竜と接触して魔法を教えた、とあるフリーの冒険者。自身がそのグレイドラゴンに出会うよりも早く、接触していた人物⋯⋯。

 

ヴィルジールにとって、激しい嫉妬の対象となる者だった。

そして、正体が判明した暁には、どうするかも決めていた。

 

──この“邪魔者”を殺してやろう──

 

と。

 

 

「油断すんな!ヴィル──」

 

「うるせえな」

 

 

自身の肩を叩いたファリドを、ヴィルジールは睨んだ。

その迫力に、実力では上である筈のファリドは、思わず後退りする。その瞬間ヴィルジールの雰囲気は、あまりに異様だったのだ。

 

“『何か』が切れていた”。

 

後に、当時の状況を聞かれたファリドが、そう供述する程に。

 

 

「⋯ここ最近、お前に()()()()()()()()()があった事には気付いていた。だが、それをブチ撒けるのは『今』じゃねえハズだ」

 

「⋯⋯⋯⋯。」

 

 

ファリドは、冷静にヴィルジールを諭す。

しかし、ヴィルジール本人は無言のまま、心ここに在らずで戦場後方を見つめていた。

 

 

「──変な気ぃ起こすんじゃねえぞ?何かあったら、両脚もいででも連れて帰るからな」

 

「⋯⋯黙ってろ」

 

 

肩に添えられたファリドの手を叩き落し、ヴィルジールは武器を構える。次にファリドが言葉を発する間もなく、ヴィルジールは黒異人(コクト)の群れへと飛び込んで行った。

 

 

「⋯⋯あんまり、シルちゃんを悲しませんなよ」

 

 

その台詞は、ヴィルジールに届かない。

彼の後ろ姿を、ファリドはただ静かに眺めていた。

 

迎撃戦の決着まで、残り僅か。

それぞれの冒険者達は、次々と黒異種を倒していく。

人々の希望と、自らの使命感を胸に。

 

だが、彼らは知らない。

この迎撃戦の終わりは、世界にとって、始まりに過ぎないという事を──⋯

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。