「──お゛ぁあ゛あ゛ッッ!!」
「チィ⋯。なんだ、お前は」
鬼気迫る形相のヴィルジールから、バルドールは距離を取る。
この時、攻撃を受けそうだった訳でもないバルドールが、ヴィルジールから離れた理由は1つ。
彼のその“狂気”が、あまりに不気味過ぎた為だ。
「ハァ゛─ッ!ハァ゛─ッ!」
顔面に血塗れにし、肩で呼吸をするヴィルジール。
彼は、全身の至る所に傷を負い、最早戦闘の続行は既に不可能に近い容態である。それでも尚、彼を立ち上がらせるのは、彼の中の“執念”だった。
──『ゼクス最強』と呼ばれる男がいる。
その男、ファリド・ギブソンは、明確に『その名』に恥じぬ実力の持ち主だ。そんな彼を打ち負かしたのは、生後1年にも満たない魔物。つまり、銀槍竜である。
そして、その銀槍竜が“圧倒的格上だ”と認識している相手が、バルドールという名の男。『ゼクス最強』ですらないヴィルジールが、『ゼクス最強を倒した魔物』よりも『更に格上』の相手を前に未だ立ち続けているのは、奇跡の様な話だった。
“この男を殺したい”
“銀槍竜を、自分だけの獲物としたい”
彼の中で、“それ”は焔が如く渦巻く。
激しい痛み、肉体の悲鳴、己の理性すらどうでもいいと、彼は立ち上がり続けていたのである。
「──もうやめろよッ!」
その時、ヴィルジールの背後から怒号が響いた。
自身が生み出した血溜まりの中で、彼はゆっくりと振り返る。
視線の先には、額に血管が浮き出た銀槍竜の姿があった。
「よく分かんねぇけど、アンタもう死んじまうぞ!!」
「⋯⋯⋯おぉ。銀槍竜、いつから此処にいたんだ?というか、迎撃戦は終わったのか?⋯⋯あれ。お前、身体燃えてるぞ?」
「は、はぁ⋯!?」
酷い出血が原因か、ヴィルジールは記憶が混濁していた。
独り言の様に言葉を発する彼は、無気力に首を動かす。正面に視線を戻した彼の先には、バルドールが立っていた。
「──テメェ、どこいってやがった」
「⋯⋯。⋯少し、煙草を吸いにな」
「舐めやがって⋯⋯ぶッ殺してやる⋯!!」
ヴィルジールは、構える。
先程から、ずっと戦っていたバルドールの事すらも忘れて。
「死ねえ゛ぇ゛え゛え゛──ッッ!!」
吐血しながら斬り掛かってくるヴィルジールに、バルドールは溜息を零す。半歩分だけ下がったバルドールは、静かに口を開き、そして。
ヴィルジールへ、銃を模倣した右手を向けた。
「──☾
「⋯ッ!?」
直後、銀槍竜は駆け出す。
その刹那に、彼らは蒼白い光に包まれたのであった。