猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第84話・【猛】

 

「──ほらほら、ご飯だよ〜?」

 

 

サンクイラは、パンの欠片を振る。

王都クローネ・ギルドの1階。困り眉を作る彼女の正面には、ある白い綿が鎮座していた。

 

 

「⋯⋯⋯⋯。」

 

「虎徹君⋯⋯」

 

 

目の前の食事に見向きもせず、虎徹は(うずくま)る。

飼い主⋯もとい、『飯をくれるヤツ』である銀槍竜が失踪して以来、この綿あめはずっとこんな調子が続いていた。

 

勿論、空腹に耐え兼ね、差し出された物を食べる事もあるが、それもごく稀。丸1日、何も口にしない日すらある程だった。

 

 

「──やっぱり、銀槍竜じゃないとダメみたいね」

 

困り果てているサンクイラに、シルビアが話し掛ける。

ひと仕事終えてきた、といった様子の彼女は、防具に付着した返り血を拭いながらサンクイラの隣へ座った。

 

 

「このコ、今日は朝しか食べなくて⋯⋯」

 

「やだ、ホント?もうすぐ日付も変わるっていうのに」

 

「朝も朝で、パン1斤の半分しか食べなかったんですよ⋯」

 

「⋯⋯それは⋯。まぁ、そうね。そのコにしては、随分と少ない食事量だわね」

 

 

『しっかりと食べてるじゃない』という台詞を引っ込め、シルビアはサンクイラの肩を叩く。シルビアからすれば、虎徹の食欲不振を見て落ち込むサンクイラも介抱すべき相手であった。

 

「多分なんですが、虎徹君が半分だけ食べたっていうのは、『彼の分として残している』って意味だと思うんですよ」

 

「⋯そうね。このコ、銀槍竜に随分と懐いていたみたいだし。帰ってくるのを待ってるのでしょうね」

 

「帰って⋯⋯来ますかね⋯?」

 

「まぁ、彼の事なら、きっとね。魔物だけど、悪くないヤツだし」

 

 

サンクイラの頭を撫でながら、シルビアは微笑む。

胸を顔を埋めてきたサンクイラを抱く様に、シルビアは彼女を優しくなだめるのであった。

 

 

「──ところで、シルビアさん?」

 

「なに?」

 

「実は今日、その『彼』に関して、新たに発表があったって話は聞いてますか?」

 

「銀槍竜に?」

 

 

サンクイラは頷き、とある紙を取り出す。

冒頭から、該当の魔物の情報提供と捜索依頼を求める内容から始まった文章は、最後の1文にてシルビアの目を大きく開かせる事となった。

 

 

 

 

【S2個体・銀槍竜について】

 

『現在、上記の魔物の消息が不明となっている。

王都クローネにおける『王都防衛迎撃作戦』の後の出来事である事から、戦死・逃亡・捕獲の観点で調査中だ。

 

・戦死に関して。

銀槍竜の力量に加えて、該当の魔物の亡骸が発見されていない事から、『可能性は無し』と結論付けられている。

 

・逃亡に関して。

迎撃戦中に冒険者達の目を掻い潜り、戦場を離脱。そのまま、近隣の山や森に逃げ込んだのだと予測が立っている。

 

・捕獲に関して。

違法的なギルドが作戦の騒ぎに乗じ、銀槍竜を攫った可能性があるとみている。

 

いずれの場合であっても、早急な事実の解明を目指すべく調査に当たっているが、現状ではこれ以上の予測は難しい。

 

当該の魔物の目撃情報がある場合は、ギルド受付や職員への連絡を心掛けるように。

 

 

『当該の魔物の調査への協力依頼』

 

・当面の間、銀槍竜捜索の為の調査団の結成を行う。

それに際し、冒険者の中から調査団の護衛を目的として同行を依頼したい。より多くの依頼受注を求める。

 

 

『個体名称変更の通達』

 

【銀槍竜】→【猛紅竜(もうこうりゅう)

 

変更理由・上記の魔物が行方をくらます直前、ある冒険者の『紅い炎を纏っていた』という証言。加えて、ゼクスでランク昇級を控えるファリド・ギブソンの撃破と迎撃戦内での実績。

そして、発見当初から今日までの異常な成長具合から、命名に至った。

 

今後、上記の魔物と戦闘が発生した場合、ゼクス2名を“最低数”として、対処に当たるように。

 

以上。』

 

 

 

 

「──最低でも、ゼクス2人が必要、ね。⋯どうかしら、それでも足りないと思うけど」

 

「私達って、結構スゴい魔物と過ごしてたのかもですね⋯」

 

 

書類に目を通し、彼女達は思い浮かべる。

『銀槍竜』改め、『猛紅竜』と名付けられた魔物が、今までどんなん風に自分達と触れ合っていたのかを。

 

──その気になれば、いつでもこちらの首を取れた──

 

そう考える程、これまでの猛紅竜との会話や行動が、不気味に感じるのだった。

 

 

「⋯とはいえ、人との会話ができる彼が、クエストの対象になる事も無さそうですけどね」

 

「まぁ、余程の被害を出さない限りはそうかしらね。⋯でも、それでも、彼の事なら『何か事情があった』ってアタシは考えるかしら」

 

「私もです。銀──。じゃなくて猛紅竜は、ただ喋れるってだけじゃなくて、ちゃんと考えているだろうなって。⋯まるで、中に人間が入っているみたいに」

 

「有り得ない⋯って言いたいけど、彼を考えるとそんなコトも考えちゃうわよね」

 

 

彼女達は、冗談っぽく笑い合う。

猛紅竜という魔物の、核心を突いている事も知らずに。

 

 

「──全く、今頃どこにいるんだか」

 

「ホントですよね。こんな可愛い虎徹くんを置いてけぼりなんて⋯。ハクアさんとかソールさんは、『野生に帰ったんだろ』って言ってましたけど」

 

「それは、絶対に無いわね」

 

「⋯どうしてです?」

 

 

断言するシルビアに、サンクイラは首を傾げる。

『決まりきっている』とでも言わんばかりの表情を浮かべ、シルビアは天井を見上げる。

 

猛紅竜を思い浮かべる彼女は、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

「彼、人間の食べ物が好きだから」

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