猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

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第88話・千日紅。

「⋯どうして、子どもの頃の俺が出てくるんだよ?」

 

(そりゃあねぇ。擬人化時の肉体は、魔物の肉体年齢に引っ張られるからねぇ)

 

「マジかよ⋯早く言えよ⋯」

 

 

改めて、俺は金属の表面に映る自分を眺める。

そこには、やや大きめなグレーのロングTシャツと、同じく大きめな、ワイドパンツにも見える黒いズボンを身に付けた少年の姿があった。

 

銀色の髪を靡かせ、鮮やかな碧色の瞳でコチラを覗く少年は、ボーイッシュな女の子の様な⋯⋯6歳頃の俺そのものだった。

 

 

(──なんで、そんなにイヤそうな顔してるのさ?)

 

「いやぁ⋯別にイヤってワケじゃあ⋯。⋯ただ、」

 

(〖ただ?)〗

 

「ホラ⋯あれだよ。この顔付きが原因で、色々あったんだよ」

 

 

まぁ色々って言っても、本当に色々なんだが。

幼い頃は、親戚達に女物の服を着せられたり、小・中学生の頃だったら、同級生に性別を間違われたり。

 

高校に上がって、まぁ男らしさが出てきたなかな?って時期ですら、1回だけだけど野郎にナンパされたこともあったし⋯。

 

成人して以来、気にしないようにしてたんだけどなぁ。

まじかぁ⋯そうかぁ⋯子どもになっちまうのかぁ⋯マジかぁ⋯

 

 

(おっけ!そんなにイヤなら、あの村に行くのやめよう!)

 

「いんや、行く」

 

(⋯ちぇ)

 

「それとこれとは別なんだよ」

 

 

まぁ何はともあれ、だ。

この姿になった事で、騒ぎが起こる可能性も無くなったワケだし、今は割り切るしかないな。

 

 

「──そんじゃ、行ってみようかね」

 

(はいはい。⋯くどいようだけど、ホントに少ししか居れないからね?)

 

「分かってるって。アレだろ?1箇所に留まってたら、オーガに捕捉される的なのが問題なんだろ?」

 

(惜しい。性格には、オーガの手下⋯。つまり、転生者が厄介なんだよ)

 

 

そう言って、頭の中の幼女は説明を始める。

彼女曰く、『今の君はオーガの監視を完全に外れている』らしい。オーガは、いつでも転生者を監視・干渉できる能力を有しているらしいが、俺のソレに関しては既に幼女が解除済み。

 

という事で、『オーガは、私が紅志に接触していると気付いている』のだと言う。

 

 

(──つまり、だ。オーガからすれば、君はもう『敵』という認識である可能性がある。⋯となると、転生者っていう手下を使って探し出そうとする筈だ)

 

「だから、あまり留まりたくないと⋯?」

 

(面倒なのは、『現地の人間と転生者は、見分けがつかない』って事だよ。誰が転生者かも分からないのに、人が大勢いる場所にいるのはマズいって話だ)

 

「⋯成程。俺を擬人化させたのは、それが理由か」

 

(正確には、『それも』だけどね。どちらにせよ、村人達を怖がらせて騒ぎが起きちゃうのはアレだし)

 

 

ふむ、まぁそうか。

魔物による騒ぎが起きれば、冒険者やらギルドの職員やらが出てくる。⋯で、そうなると、仮に無害だと分かったとしても、話を聞かされるやら調べられるやらで時間を食われるワケか。

 

本当、中身が人間で肉体が魔物ってのは面倒が多いぜ⋯っと。

そんなこんなで、村の入口が見えてきたな。門番らしき人物が立っているが⋯⋯まぁ問題ないだろう。

 

 

「うっし、じゃあ早速──」

 

(待って待って)

 

「⋯今度はなんだ」

 

(魔物じゃなければトラブルにはならない⋯とは限らないよ?

保護者、荷物、共にナシって状態なら、流石に引き止められるでしょ。オマケに1文ナシだし⋯⋯)

 

 

ぐぬぬ、確かに。

今の俺は、なんにも持ってないしなぁ。警戒こそされないが、話を聞かれて時間を取られそうだ。⋯が、このまま静観していた所で何も変わらない、か⋯。

 

⋯あぁもう!こうなったら、当たって砕けろだぜ。

行ける所まで行ってみて、騒ぎになったら─⋯

 

 

(⋯─ゴリ押し、なんてやめてよね?)

 

「⋯いやホント、少しだけ、チラッと見たいだけだから」

 

(ふぅん⋯)

 

 

俺の考えを見透かし──本当に見られてるのだろうが──幼女は訝しげに鼻を鳴らす。⋯見えてはいないが、恐らく目を細めながら腕組みをしている事だろうな。

 

 

(⋯もし強行な手段に移ろうとしたら、無理矢理に身体を動かしてでも離脱だからね!もう!)

 

「くそぉ。もう俺から出てけよ。用は済んでるだろ?」

 

(──ノー。私が君に入ったのは、姿を隠す意味もあるんだ。

私は転生者から敵視されてる存在するだし。それに、私が今出ていったら、擬人化も解けちゃうんだよねぇ。つ・ま・り〜?)

 

「はいはい。主導権はソッチってワケだ」

 

 

『正解!』と、幼女は拍手をする。

そんな彼女を無視し、俺は村の入口へと目をやった。

 

門番らしき人が立ってはいるが、よく見れば男の老人だ。

村の警護というよりは、ただ単に寛いでいるだけにも見える。

まぁあくまで、そう見えるってだけだが⋯。

 

兎に角、行ってみよう。

 

 

 

 

「──ンン?」

 

 

村の入口まで、残り50m程の所まで歩いたその時。

老人は、遠くの俺の姿が目に入ったのか、不思議そうな表情を浮かべる。幼女の言った通り、流石にこのナリではあんな顔をされて当然か。

 

まぁここまでは予想通り。

問題は、次にどんな行動を取ってくるかだな。

 

 

「どうも、こんにちわ」

 

「⋯⋯。坊や、どうしたのかね?1人かい?」

 

 

やはり飛んできた、この手の質問。

⋯だがな、どうやって往なすかは、既に考え済みだ。

 

遠くから見ていて分かったが、老人は恐らく80歳半ば程。

そして、俺が村まで50mほど近付いてようやく気付いた点と、挨拶した時、一瞬だけ耳を傾けた点⋯。これらを加味して考えられる解決策は⋯1つ!

 

 

「──おじいさん!僕だよ!僕僕!」

 

「んん?⋯あぁ!アレン君か!スマンスマン」

「そうそう!アレンだよ!」

 

「この歳になると、物忘れが酷くてイカンな。ハッハッ」

 

 

老人は、しゃがれた声で笑う。

騙してしまって心が痛むが⋯⋯許してくれ、爺さん。

 

 

〖あーあ。紅志ウソツキだー、ドロボーだー〗

 

(年寄りを狙って詐欺行為なんて⋯人の心は何処に置いてきたの?)

 

「前世じゃね?今は魔物だし⋯」

 

(〖うわぁ⋯)〗

 

 

鋭い蔑みの視線を感じつつ、俺は入口の門をくぐる。

村に入ってしまえば、もうコッチのもんだろう。そこそこ大きな村だし、村人が全員認知しあっているって程でもなさそうだ。

 

(──やれやれ⋯。何はともあれ、一件落着ってワケだ。ここからは、好きに行動しなよ)

 

「本当、ありがたい。急な用事に付き合わせて悪いな」

 

(⋯まぁ、そもそもの話、用事に付き合わせてるのは私だしね。

少しくらい、君の都合に合わせてもいいかなって)

 

 

溜息をつき、幼女はそう言う。

なんやかんやで優しい⋯というか、ちょっと甘い性格な奴だ。

まぁきっと、そんなところが彼女の長所でもあるんだろうが。

 

 

(さて。この村に留まるにあたって、制限時間を設けるワケだけど⋯。そうだね、何か“目安”が欲しい所だ⋯)

 

 

幼女の言葉に釣られる様に、俺は周囲を見渡す。

出来れば、感覚でタイムリミットが分かる物があれば最適なんだが⋯っと。⋯⋯おや?

 

 

「──あー、悪いねぇ奥さん。ウチの開店は昼んなったらだ。

あと30分くらいだけ、待っててくれよ」

 

「あら、仕方無いわね。それじゃあ、また来るわね」

 

((⋯⋯決まりだな)ね)

 

 

目に入ったのは、パン屋だった。

村の女性と店主との会話から察するに、あと30分で昼らしい。

それなら、焼きたてのパンの良い香りがしてきたら、時間切れって事でいいだろう。

 

もう仕込んでいるのか、既に良い香りはしているが⋯⋯

店先にパンが並べば、もっと香りも強くなるだろう。

 

 

(それじゃ、お好きにどうぞ♪)

 

「⋯⋯と、言ってもな。今は1文無しだしなぁ」

 

「──じゃあ、僕が何か買ってあげようか?」

 

その時。

突然、横から少年が話し掛けきた。あまりに自然に会話に入ってきたんで、一瞬だけ反応が遅れたが⋯⋯誰だ?この子。

 

 

「お金に困ってるんでしょ?今、『1文無しだし』って言ってたじん。独り言で⋯」

 

「あ、あ〜!そうなんだよね〜!困ったなぁ、アハハ⋯」

 

「うんうん。今、お金に余裕があるから、好きなの買ってあげるよ!⋯⋯え〜っと?」

 

「あぁ⋯僕は、アレンって名前で⋯⋯」

 

「──え⋯?」

 

 

俺が仮の名乗りをした瞬間、少年の表情が固まる。

その直後に、俺の中で“とある予感”が高速で渦巻いた。

 

 

「一緒!一緒一緒!僕もアレンって名前なんだ!」

 

「あ、アハハ⋯。ぐ、偶然だねぇ〜!!」

 

 

予感は的中。

まさかの本人だった。




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