猛焔滅斬の碧刃龍   作:Nidhogg

91 / 218
第90話・覚悟。

 

 

「⋯凄い」

 

無意識に出たのは、そんな言葉だった。

たった今、俺を操作した幼女は、即座に金属の生成を行った。

突然の“攻撃”に対して、それを“防御”をする為だ。

 

だが、本来であれば、“それ”は不可能な筈だった。

先程の“攻撃”が、どんな範囲や威力だったのかは分からない。

 

──ただ。

 

少なくとも、()1()()()()()()()()()()()()()を防ぐなんて、本来の俺であれば絶対に無理なのだ。

 

 

(──ん、おっけい。全員無事だね)

 

「一体何が──。⋯いや、何をしたんだ?アリア」

 

(君の能力を、私が使わせてもらった⋯。と言っても、魔力の『出力』や『変換速度』については、私の技術だけどね)

 

「⋯ははっ。何言ってるか分かんねー⋯」

 

空を見上げ、俺は溜息をつく。

天井があった筈のそこには巨大な風穴が空いており、その中心には一柱の金属が(そび)え立っていた。村の上空まで伸びたその柱が、傘の様に村を覆う事で先の攻撃を防いだのである。

 

擬人化状態で生み出したというのに、普段の竜の姿より金属の生成量が多いとは。何がどうなってんだか⋯⋯。

 

 

(──考え事は後。まずは、この家を出よう)

 

「⋯スマン。俺が道草したばっかりに⋯」

 

(いや、見つかったのは私のミスだ。君に入るにあたって、私は自身を『最小化』した。その時に、村の周囲へ貼っていた結界の能力も弱まっちゃってね)

 

「⋯⋯⋯。⋯本当に悪かった」

 

 

罪悪感に押し潰されながら、俺は家を出る。

アレン一家を含めて、村の人々は全員が無事な様子であった。

⋯⋯だが、突然の出来事に、混乱が広がっていくのを感じる。

 

村の空を覆う謎の金属を指差し、目を見開く村の住民。

ただ事では無い現象に、武器を持って飛び出してくる冒険者。

それぞれが、動揺に突き動かされながら走り回っている。

 

 

「⋯くそ。全部俺のせいだ⋯」

 

(今は嘆かないで。全員ちゃんと無事だから、これからはやるべき事をやるよ⋯!!)

 

「⋯そうだよな。そうするしか無いに決まってる⋯ッ!!」

 

(うん、よく言ったっ)

 

 

──今は、やれる事をやれ、燗筒(かんとう) 紅志(あかし)

兎にも角にも、状況の把握をしない事には解決には至れない。

今後の対応については、現状の確認を済ませてからだ。

 

 

「敵は、やっぱりオーガの手下か?」

 

(⋯いや。それにしては、攻撃を受ける際に感じたエネルギーが強大過ぎた。⋯⋯あまり考えたくないけど、もしかすると──)

 

「おいッ!!」

 

 

その時、背後から此方へ叫ぶ声が響く。

振り返ってみると、そこには俺を手招く冒険者の姿があった。

他の村人達の避難誘導をしているのを見るに、『お前も早く逃げろ』と言いたいのだろう。

 

 

「やっぱり、冒険者って覚悟決まってんなぁ⋯」

 

(ね。この状況で、よく冷静な判断ができるものだよ)

 

「⋯でも、どうする?このままだと、無理にでも連れてかれそうだぞ?」

 

(うーん、そうだねぇ⋯。ここは1つ、私に任せて)

 

 

幼女がそう言うと、俺の身体が動き始める。

なにやら、考え方があって俺を操作しているらしいが⋯はて?

まぁ幼女の事だし、俺が疑問を浮かべた所で無意味なのだろうが⋯っと。人差し指に魔力が集中していくのを感じるな。

 

まさかとは思うが、あの冒険者を気絶させる気なのか?

俺の身体でそんな事されたら、悪評が⋯⋯

 

 

「──きゃあッッ!!」

 

その時、突如として甲高い悲鳴が響く。

アレンの家から聞こえた声は、恐らく彼の母親のものだろう。

一体、何事だろうか⋯?ついさっき攻撃を防いだ時には、一家全員無事だった筈だが⋯。

 

 

──バタンッッ!!

 

 

扉を蹴飛ばして現れたのは、アレンの両親。

そして、父親の腕の中で大量に血を流しているアレンだった。

 

 

(そんな⋯ッ!?確実に守れた筈だった!!)

 

「あぁ、俺も見ていた。一体、何が⋯」

 

 

アレンに駆け寄り、俺は回復魔法を施す。

どういう訳か、腹部に刺し傷が生まれていたが⋯。

 

取り敢えず、傷を塞ぐ事には成功した。

 

 

「──あ、アレン君。君は魔法が使えるのかい⋯?」

 

「あ⋯。⋯えぇ、少しだけ。傷は塞いだので、あとは──」

 

 

刹那、極大の魔力が上空に現れる。

⋯⋯いや。正確には、『魔力の様な“何か”』が正しいだろう。

明確に、魔力とは異なる力を感じるが⋯他の呼称を考える暇も無い。今は、この魔力の主を確認しておくべきだな。

 

 

(──そうだね。良い判断だ)

「一応質問なんだが、この魔力の主に心当たりは?」

 

(⋯⋯⋯⋯あるよ)

 

 

⋯そうだろうな。

考えたく無かったが⋯まさか、いきなり()()()()とはな。

 

 

「──出てくるのじゃ、アルノヴィア。無辜(むこ)の民が死ぬ事になるぞ」

 

 

天空から、老人の声が響き渡る。

今思えば、なんかムカつく声をしている野郎だぜ。

 

 

「あなた達は早く避難を。奴の用事があるのは、俺達なんで」

「俺“達”⋯?」

 

「アレン君、何を──」

 

「早く行ってくれッ!!」

 

 

アレンの両親を怒鳴りつけ、俺は2人に両手を向ける。

浮遊魔法を使い、投げる様に近くの冒険者に受け渡してから、俺は再び空を見上げた。

 

 

「──よぉ、オーガ。このクソジジイ」

 

「⋯!?お前は!!」

 

 

俺と目が合ったオーガは、大きく目を開いた。

⋯ハハ、マヌケな顔してやがるぜ。

 

なぁ、幼女?

 

 

(──ふふ、そうだね)

 

「⋯⋯アルノヴィア。貴様、そやつの中にいるな?最近、その男の居場所が認識できなくなっていたが⋯成程な」

 

 

徐々に降下してくるオーガは、此方を見下ろす。

雲の隙間から差す光が当たって、神々しく見えるな⋯⋯って、アイツはそもそも神だったか。

 

⋯まぁいい。

今すぐにでも、あのツラをブン殴ってやるぜ⋯!!

 

 

「──ワシの転生者を、どうやって(そそのか)したのかは知らぬが⋯無駄な足掻きじゃぞ」

 

(⋯ハッ。好き勝手言っちゃって⋯)

 

 

グン、と。

俺の身体から、圧迫感が抜けていく。どうやら、元の幼女の姿に戻る気らしい。

 

 

「──アナタ、また老けたわね」

 

「⋯⋯アリア⋯ッ!!」

 

 

元の姿に戻った幼女に対し、オーガは露骨に顔を顰(しか)める。

数多くの皺が刻まれた顔が、更に揉みくちゃになった表情だ。

笑える事この上ナシだぜ。

 

 

「⋯フン、まぁよいわ。──時に、紅志よ」

 

「なんだ」

 

「オヌシ⋯失望させてくれるなよ。何を騙されているのじゃ?

どんな言葉を掛けられ、どんな台詞に惑わされて、その女についているのかは知らぬが⋯⋯」

 

「うっせ!!いきなり平和な村に攻撃する爺さんよりは、マシに決まってんだろ!!ボケジジイ!」

 

 

オーガを指差す俺の隣で、幼女はシシシと笑う。

自分でいうのもなんだが、よくもまぁ会って2回目の老人に対してここまで暴言が吐けるもんだ。マジで、反射的というか、本能的な嫌悪感があるぜ。

 

 

「──そうか。では、与えてやった“力”は返してもらおう」

 

 

オーガは、俺に向けて手を伸ばす。

何をしようとしているのかは直ぐに察したが、ここは敢えて静観しておこう。⋯⋯いや。一言だけ、言っておこうか。

 

「「やってみろ」な♪」

 

「なんだと⋯?」

 

 

俺と幼女の言葉に、オーガは片眉を吊り上げる。

その直後、金色に発光を始めたオーガの右手から、俺に向けて眩い光が照射された。

 

──そして。

 

スポットライトの様な光に照らされる俺を見て、オーガは更に額へ皺を寄せる。どうやら、気付いたようだ。

 

 

「力の回収が出来ぬ⋯。精神の支配も⋯⋯!?アルノヴィア!

貴様、何をしたッッ!!」

 

「──覚悟、だよ」

 

「何だと⋯?!」

 

「もう、貴方とは相容れない。それを理解した。⋯⋯だから、

“貴方を殺す覚悟”をしたんだ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。