「⋯凄い」
無意識に出たのは、そんな言葉だった。
たった今、俺を操作した幼女は、即座に金属の生成を行った。
突然の“攻撃”に対して、それを“防御”をする為だ。
だが、本来であれば、“それ”は不可能な筈だった。
先程の“攻撃”が、どんな範囲や威力だったのかは分からない。
──ただ。
少なくとも、
(──ん、おっけい。全員無事だね)
「一体何が──。⋯いや、何をしたんだ?アリア」
(君の能力を、私が使わせてもらった⋯。と言っても、魔力の『出力』や『変換速度』については、私の技術だけどね)
「⋯ははっ。何言ってるか分かんねー⋯」
空を見上げ、俺は溜息をつく。
天井があった筈のそこには巨大な風穴が空いており、その中心には一柱の金属が
擬人化状態で生み出したというのに、普段の竜の姿より金属の生成量が多いとは。何がどうなってんだか⋯⋯。
(──考え事は後。まずは、この家を出よう)
「⋯スマン。俺が道草したばっかりに⋯」
(いや、見つかったのは私のミスだ。君に入るにあたって、私は自身を『最小化』した。その時に、村の周囲へ貼っていた結界の能力も弱まっちゃってね)
「⋯⋯⋯。⋯本当に悪かった」
罪悪感に押し潰されながら、俺は家を出る。
アレン一家を含めて、村の人々は全員が無事な様子であった。
⋯⋯だが、突然の出来事に、混乱が広がっていくのを感じる。
村の空を覆う謎の金属を指差し、目を見開く村の住民。
ただ事では無い現象に、武器を持って飛び出してくる冒険者。
それぞれが、動揺に突き動かされながら走り回っている。
「⋯くそ。全部俺のせいだ⋯」
(今は嘆かないで。全員ちゃんと無事だから、これからはやるべき事をやるよ⋯!!)
「⋯そうだよな。そうするしか無いに決まってる⋯ッ!!」
(うん、よく言ったっ)
──今は、やれる事をやれ、
兎にも角にも、状況の把握をしない事には解決には至れない。
今後の対応については、現状の確認を済ませてからだ。
「敵は、やっぱりオーガの手下か?」
(⋯いや。それにしては、攻撃を受ける際に感じたエネルギーが強大過ぎた。⋯⋯あまり考えたくないけど、もしかすると──)
「おいッ!!」
その時、背後から此方へ叫ぶ声が響く。
振り返ってみると、そこには俺を手招く冒険者の姿があった。
他の村人達の避難誘導をしているのを見るに、『お前も早く逃げろ』と言いたいのだろう。
「やっぱり、冒険者って覚悟決まってんなぁ⋯」
(ね。この状況で、よく冷静な判断ができるものだよ)
「⋯でも、どうする?このままだと、無理にでも連れてかれそうだぞ?」
(うーん、そうだねぇ⋯。ここは1つ、私に任せて)
幼女がそう言うと、俺の身体が動き始める。
なにやら、考え方があって俺を操作しているらしいが⋯はて?
まぁ幼女の事だし、俺が疑問を浮かべた所で無意味なのだろうが⋯っと。人差し指に魔力が集中していくのを感じるな。
まさかとは思うが、あの冒険者を気絶させる気なのか?
俺の身体でそんな事されたら、悪評が⋯⋯
「──きゃあッッ!!」
その時、突如として甲高い悲鳴が響く。
アレンの家から聞こえた声は、恐らく彼の母親のものだろう。
一体、何事だろうか⋯?ついさっき攻撃を防いだ時には、一家全員無事だった筈だが⋯。
──バタンッッ!!
扉を蹴飛ばして現れたのは、アレンの両親。
そして、父親の腕の中で大量に血を流しているアレンだった。
(そんな⋯ッ!?確実に守れた筈だった!!)
「あぁ、俺も見ていた。一体、何が⋯」
アレンに駆け寄り、俺は回復魔法を施す。
どういう訳か、腹部に刺し傷が生まれていたが⋯。
取り敢えず、傷を塞ぐ事には成功した。
「──あ、アレン君。君は魔法が使えるのかい⋯?」
「あ⋯。⋯えぇ、少しだけ。傷は塞いだので、あとは──」
刹那、極大の魔力が上空に現れる。
⋯⋯いや。正確には、『魔力の様な“何か”』が正しいだろう。
明確に、魔力とは異なる力を感じるが⋯他の呼称を考える暇も無い。今は、この魔力の主を確認しておくべきだな。
(──そうだね。良い判断だ)
「一応質問なんだが、この魔力の主に心当たりは?」
(⋯⋯⋯⋯あるよ)
⋯そうだろうな。
考えたく無かったが⋯まさか、いきなり
「──出てくるのじゃ、アルノヴィア。
天空から、老人の声が響き渡る。
今思えば、なんかムカつく声をしている野郎だぜ。
「あなた達は早く避難を。奴の用事があるのは、俺達なんで」
「俺“達”⋯?」
「アレン君、何を──」
「早く行ってくれッ!!」
アレンの両親を怒鳴りつけ、俺は2人に両手を向ける。
浮遊魔法を使い、投げる様に近くの冒険者に受け渡してから、俺は再び空を見上げた。
「──よぉ、オーガ。このクソジジイ」
「⋯!?お前は!!」
俺と目が合ったオーガは、大きく目を開いた。
⋯ハハ、マヌケな顔してやがるぜ。
なぁ、幼女?
(──ふふ、そうだね)
「⋯⋯アルノヴィア。貴様、そやつの中にいるな?最近、その男の居場所が認識できなくなっていたが⋯成程な」
徐々に降下してくるオーガは、此方を見下ろす。
雲の隙間から差す光が当たって、神々しく見えるな⋯⋯って、アイツはそもそも神だったか。
⋯まぁいい。
今すぐにでも、あのツラをブン殴ってやるぜ⋯!!
「──ワシの転生者を、どうやって
(⋯ハッ。好き勝手言っちゃって⋯)
グン、と。
俺の身体から、圧迫感が抜けていく。どうやら、元の幼女の姿に戻る気らしい。
「──アナタ、また老けたわね」
「⋯⋯アリア⋯ッ!!」
元の姿に戻った幼女に対し、オーガは露骨に顔を顰(しか)める。
数多くの皺が刻まれた顔が、更に揉みくちゃになった表情だ。
笑える事この上ナシだぜ。
「⋯フン、まぁよいわ。──時に、紅志よ」
「なんだ」
「オヌシ⋯失望させてくれるなよ。何を騙されているのじゃ?
どんな言葉を掛けられ、どんな台詞に惑わされて、その女についているのかは知らぬが⋯⋯」
「うっせ!!いきなり平和な村に攻撃する爺さんよりは、マシに決まってんだろ!!ボケジジイ!」
オーガを指差す俺の隣で、幼女はシシシと笑う。
自分でいうのもなんだが、よくもまぁ会って2回目の老人に対してここまで暴言が吐けるもんだ。マジで、反射的というか、本能的な嫌悪感があるぜ。
「──そうか。では、与えてやった“力”は返してもらおう」
オーガは、俺に向けて手を伸ばす。
何をしようとしているのかは直ぐに察したが、ここは敢えて静観しておこう。⋯⋯いや。一言だけ、言っておこうか。
「「やってみろ」な♪」
「なんだと⋯?」
俺と幼女の言葉に、オーガは片眉を吊り上げる。
その直後、金色に発光を始めたオーガの右手から、俺に向けて眩い光が照射された。
──そして。
スポットライトの様な光に照らされる俺を見て、オーガは更に額へ皺を寄せる。どうやら、気付いたようだ。
「力の回収が出来ぬ⋯。精神の支配も⋯⋯!?アルノヴィア!
貴様、何をしたッッ!!」
「──覚悟、だよ」
「何だと⋯?!」
「もう、貴方とは相容れない。それを理解した。⋯⋯だから、
“貴方を殺す覚悟”をしたんだ」