仮面ライダーΑΓΗΤΩ(アギト)   作:赫牛

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 初めましての方は初めまして。赫牛(あかうし)です。

 このサイトでよく見かける、リメイクを自分でもやってみたいと思い、私が一番好きな仮面ライダーアギトでやってみることにしました。

 現在執筆中である『仮面ライダーラセン』よりかは一つ一つは短めにするつもりですので、読みやすいとは思います。

 それではどうぞお楽しみください。



津上翔一(1)

 闇の中、何かがこちらを見つめている。

 それがまるで光の様にも見えて。

 

 手を伸ばす。

 何故かそれを掴まないといけない気がして、地べたを這う。

 

 求めるものが何なのか、それさえ分からないまま前へ進む。

 

 しかしその光は、最初から幻であったかのように消えてしまった。

 

 

 

「……ち……翔一(しょういち)……翔一!」

 

 体を揺さぶられて目を覚ました。

 ぼやけた視界が段々クリアになっていく。

 

「大丈夫?うなされてたけど」

 

 綺麗な黒の瞳が俺の顔を覗いている。

 

可奈(かな)さん……」

 

 心配そうな顔が、呆れた笑いを浮かべる。

 

「もう、可奈で良いっていつも言ってるのに、頑固なんだから」

 

「すみません……」

 

「敬語もなし!ほら起きて。朝ご飯出来てるよ」

 

 カーテンの隙間から見える空は、すっかり明るくなっていた。

 キッチンから漂う味噌汁の匂いが腹を刺激する。

 俺は可奈さんの味噌汁が好きだ。俺が作るのとは違って、優しい味がする。

 勿論味噌汁以外も美味しいのだが、一番のお気に入りは味噌汁なのだ。

 

 俺が顔を洗っている間に、可奈さんが配膳してくれていた。

 玉子焼きに味噌汁、白米、作り置きしている筑前煮。

 同時にいただきますを言って手を付ける。

 

「美味い」

 

 思わず言葉が出てしまう。

 

「良かった。口に合って」

 

「はい!やっぱり可奈さんの……可奈の作る料理は最高で……だよ」

 

 可奈さんが苦笑いする。

 

「さっきはああ言ったけど、無理しなくていいよ。翔一が言いやすいように呼んで」

 

「すみません。なんだかまだわからなくて……」

 

「私と付き合ってるって事が?」

 

「それも、です」

 

「他には?」

 

「ここに住んでた事とか……本当に警察だったのかとか……俺の名前は本当に津上翔一なのかとか……」

 

 

 

 俺……津上(つがみ)翔一には、昔の記憶がほとんどない。

 自分の居場所も、やりたい事も、名前すらも、何もかも覚えていなかった。

 ただ一つだけ、覚えていたのは女性の顔。

 可奈さんではない。誰かさえも分からない女性の顔だけは、鮮明に思い出せる。

 

 

 

 考え込む俺の頬に、可奈さんの手が添えられた。

 

「全部本当だよ。大丈夫。心配しなくてもその内思い出すよ」

 

「可奈さん……」

 

 安心させるような笑みを浮かべた顔が近づいて来て、可奈さんの唇と俺の唇が触れ合った。

 思考が止まった。

 

「私思うんだ。今の翔一が私の事好きじゃなくても、翔一の居場所になれればそれでいいって。だから無理に考える必要ない」

 

「はい……」

 

 可奈さんを見ていると本当にそれで良いと思えてくる。寧ろ思い出さなくても良いような気さえする。

 

「食べよっか。冷めちゃうよ」

 

「あ、はい!」

 

 邪魔な考えを取っ払って、白米をかき込み味噌汁をすする。

 胸の辺りが暖かくて安心する。

 

「おかわりありますか?」

 

「はっや!いつも味噌汁飲むの速いよね翔一」

 

「えへへ、可奈さんの味噌汁が美味し過ぎるもんで」

 

「そりゃどうも」

 

 そう言いながら俺の手からお椀を取り、味噌汁をよそってくれた。

 もし何も思い出せなかったとしても。

 この味噌汁は、前から好きだったに違いない。そんな確信がある。

 

 

 

 

 

 土曜日の昼前、厨房が忙しくなり始める時間に、俺はレストランに到着した。

 チェーン店の一つであるここは、この時間になるとそれなりの人が食事に来る。

 俺はここでバイトをしている。

 控室で荷物をロッカーに入れ、制服に着替えて厨房に向かう。

 

「おはようございます!」

 

 挨拶をすると、何人かのバイト仲間が挨拶を返してくる。

 

「津上、こっち手伝ってくれないか?」

 

 早速先輩に声をかけられた。

 

「分かりました!」

 

 これは今日も忙しくなるぞ。

 

 思っていた通り、今日は普段と同じかそれ以上に客が来ていた。

 客足は3時頃になって落ち着いた。

 4時間ぶっ続けで料理を作り、ようやく休憩を取れる事になった。

 

「そういや津上さん、なんか思い出したりしたんですか?」

 

 一緒に休憩を取っていた美杉(みすぎ)くんが聞いてくる。

 

「んー、料理の方法とか……ですかね?」

 

 美杉くんは年下ではあるが、バイトでは先輩に当たる。

 

「あー、津上さん上手いっすもんねぇ。料理の専門学校に通ってたとか?」

 

「いやぁ、警察官だったらしいですけどね……」

 

 料理をする時の感覚だけは、体に染みついていた。

 

「思い出したら教えてくださいね。楽しみにしてますから」

 

「あはは……」

 

 他人事だな。

 簡単そうに言うけど、そんなすんなり思い出せる訳ない。

 

「お疲れさまでしたー」

 

 午後7時前。既に月が遠くの方で輝いている。

 このバイトを始めた時と比べて、すっかり冷え込むようになった。

 店の裏に停めてあるバイクに乗ろうとする。

 その時だった。

 

「うっ……」

 

 耳障りな音が鳴り響く。

 しかしそれはおそらく、俺以外には聞こえていない。

 まただ。

 悪寒が全身に広がる。

 ひどく頭が痛い。

 いつもの光景が見えてくる。

 

 闇の中から光る眼が俺を見ている。

 光が大きくなる。こちらに近づいてくる。

 

『あ、ああ……』

 

 声が漏れる。だがそれは、自分の声とは似ても似つかない。

 そして腕が伸ばされる。それは人のものとは到底思えないような、不気味な形をしている。

 腕が俺の首を掴み、息が苦しくなる。

 そのまま力が込められていき、視界が白んでいく。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 気が付くとバイクにもたれかかっていた。

 体の不調は嘘の様に消えている。

 だが額を伝う汗は本物だ。

 早く帰りたい。

 早く可奈さんの顔を見て、安心したい。

 バイクに跨り、エンジンをかけ走らせる。

 

 

 

 

 

 家までの景色はほとんど覚えていない。

 兎に角早く、あの人の顔が見たかった。

 俺たちが住んでいるアパートは古いが、大きさはそれなりにある。

 ポストを素通りし、階段を昇っていく。

 俺たちの部屋は4階。一段一段が途方もなく長く感じる。

 

 3階の踊り場に差し掛かった所で、上の方から足音が聞こえてきた。

 つられて見ると見かけない女性が降りて来ていた。長い黒髪が目を引く。

 普段だったら挨拶するのだが、何故だかそんな気になれなかった。

 そのまますれ違う。柔らかい匂いが漂ってくる。

 やけに足音が大きく響く。

 でもその音だけははっきり聞こえた。

 

 

 

 久しぶり、翔一くん。

 

 

 

「っ!」

 

 この声。

 知らないけど、知っているような気がする。

 振り返る。

 しかし女性の姿はもうなかった。

 

 

 

 

 

 久しぶり、翔一くん。

 久しぶり……。

 

「翔一……翔一!」

 

「え?」

 

 ぐつぐつ煮える鍋が視界に映る。

 

「どうしたのぼおっとして」

 

「え……あ、いや、なんでも……」

 

 夕飯を食べている手を止め、先程の事を考えてしまっていたようだ。

 

「もしかして風邪ひいた?」

 

 そう言って可奈さんが俺の額に手を当てる。急なアクションに心臓が跳ねる。

 

「やっぱり少し熱っぽいなぁ。今日は早く寝た方が良いよ」

 

「そ、そうですか?」

 

 この熱の原因はあなたのような気がしなくもないのだが。

 

「食欲ないならお皿片づけるね」

 

「い、いやそんなの!もったいないですよ!食べます。食べさせていただきます!」

 

 鍋から豚肉を取り、ごまだれに通して口に運ぶ。濃厚かつさっぱりとした味が口の中に広がる。

 呆気にとられていた可奈さんが、今度はおかしいと言った様子で笑い出す。

 

「それだけ元気だったら、私の勘違いだったかもね」

 

「そうですよ!さ、可奈さんも食べましょ!いやぁ美味いなぁ!」

 

 普段通りの、二人の食卓。楽しくて暖かな、二人の時間。

 それでもさっきの非日常が、頭にこびりついて離れなかった。

 

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