このサイトでよく見かける、リメイクを自分でもやってみたいと思い、私が一番好きな仮面ライダーアギトでやってみることにしました。
現在執筆中である『仮面ライダーラセン』よりかは一つ一つは短めにするつもりですので、読みやすいとは思います。
それではどうぞお楽しみください。
闇の中、何かがこちらを見つめている。
それがまるで光の様にも見えて。
手を伸ばす。
何故かそれを掴まないといけない気がして、地べたを這う。
求めるものが何なのか、それさえ分からないまま前へ進む。
しかしその光は、最初から幻であったかのように消えてしまった。
「……ち……
体を揺さぶられて目を覚ました。
ぼやけた視界が段々クリアになっていく。
「大丈夫?うなされてたけど」
綺麗な黒の瞳が俺の顔を覗いている。
「
心配そうな顔が、呆れた笑いを浮かべる。
「もう、可奈で良いっていつも言ってるのに、頑固なんだから」
「すみません……」
「敬語もなし!ほら起きて。朝ご飯出来てるよ」
カーテンの隙間から見える空は、すっかり明るくなっていた。
キッチンから漂う味噌汁の匂いが腹を刺激する。
俺は可奈さんの味噌汁が好きだ。俺が作るのとは違って、優しい味がする。
勿論味噌汁以外も美味しいのだが、一番のお気に入りは味噌汁なのだ。
俺が顔を洗っている間に、可奈さんが配膳してくれていた。
玉子焼きに味噌汁、白米、作り置きしている筑前煮。
同時にいただきますを言って手を付ける。
「美味い」
思わず言葉が出てしまう。
「良かった。口に合って」
「はい!やっぱり可奈さんの……可奈の作る料理は最高で……だよ」
可奈さんが苦笑いする。
「さっきはああ言ったけど、無理しなくていいよ。翔一が言いやすいように呼んで」
「すみません。なんだかまだわからなくて……」
「私と付き合ってるって事が?」
「それも、です」
「他には?」
「ここに住んでた事とか……本当に警察だったのかとか……俺の名前は本当に津上翔一なのかとか……」
俺……
自分の居場所も、やりたい事も、名前すらも、何もかも覚えていなかった。
ただ一つだけ、覚えていたのは女性の顔。
可奈さんではない。誰かさえも分からない女性の顔だけは、鮮明に思い出せる。
考え込む俺の頬に、可奈さんの手が添えられた。
「全部本当だよ。大丈夫。心配しなくてもその内思い出すよ」
「可奈さん……」
安心させるような笑みを浮かべた顔が近づいて来て、可奈さんの唇と俺の唇が触れ合った。
思考が止まった。
「私思うんだ。今の翔一が私の事好きじゃなくても、翔一の居場所になれればそれでいいって。だから無理に考える必要ない」
「はい……」
可奈さんを見ていると本当にそれで良いと思えてくる。寧ろ思い出さなくても良いような気さえする。
「食べよっか。冷めちゃうよ」
「あ、はい!」
邪魔な考えを取っ払って、白米をかき込み味噌汁をすする。
胸の辺りが暖かくて安心する。
「おかわりありますか?」
「はっや!いつも味噌汁飲むの速いよね翔一」
「えへへ、可奈さんの味噌汁が美味し過ぎるもんで」
「そりゃどうも」
そう言いながら俺の手からお椀を取り、味噌汁をよそってくれた。
もし何も思い出せなかったとしても。
この味噌汁は、前から好きだったに違いない。そんな確信がある。
土曜日の昼前、厨房が忙しくなり始める時間に、俺はレストランに到着した。
チェーン店の一つであるここは、この時間になるとそれなりの人が食事に来る。
俺はここでバイトをしている。
控室で荷物をロッカーに入れ、制服に着替えて厨房に向かう。
「おはようございます!」
挨拶をすると、何人かのバイト仲間が挨拶を返してくる。
「津上、こっち手伝ってくれないか?」
早速先輩に声をかけられた。
「分かりました!」
これは今日も忙しくなるぞ。
思っていた通り、今日は普段と同じかそれ以上に客が来ていた。
客足は3時頃になって落ち着いた。
4時間ぶっ続けで料理を作り、ようやく休憩を取れる事になった。
「そういや津上さん、なんか思い出したりしたんですか?」
一緒に休憩を取っていた
「んー、料理の方法とか……ですかね?」
美杉くんは年下ではあるが、バイトでは先輩に当たる。
「あー、津上さん上手いっすもんねぇ。料理の専門学校に通ってたとか?」
「いやぁ、警察官だったらしいですけどね……」
料理をする時の感覚だけは、体に染みついていた。
「思い出したら教えてくださいね。楽しみにしてますから」
「あはは……」
他人事だな。
簡単そうに言うけど、そんなすんなり思い出せる訳ない。
「お疲れさまでしたー」
午後7時前。既に月が遠くの方で輝いている。
このバイトを始めた時と比べて、すっかり冷え込むようになった。
店の裏に停めてあるバイクに乗ろうとする。
その時だった。
「うっ……」
耳障りな音が鳴り響く。
しかしそれはおそらく、俺以外には聞こえていない。
まただ。
悪寒が全身に広がる。
ひどく頭が痛い。
いつもの光景が見えてくる。
闇の中から光る眼が俺を見ている。
光が大きくなる。こちらに近づいてくる。
『あ、ああ……』
声が漏れる。だがそれは、自分の声とは似ても似つかない。
そして腕が伸ばされる。それは人のものとは到底思えないような、不気味な形をしている。
腕が俺の首を掴み、息が苦しくなる。
そのまま力が込められていき、視界が白んでいく。
「はぁ……はぁ……」
気が付くとバイクにもたれかかっていた。
体の不調は嘘の様に消えている。
だが額を伝う汗は本物だ。
早く帰りたい。
早く可奈さんの顔を見て、安心したい。
バイクに跨り、エンジンをかけ走らせる。
家までの景色はほとんど覚えていない。
兎に角早く、あの人の顔が見たかった。
俺たちが住んでいるアパートは古いが、大きさはそれなりにある。
ポストを素通りし、階段を昇っていく。
俺たちの部屋は4階。一段一段が途方もなく長く感じる。
3階の踊り場に差し掛かった所で、上の方から足音が聞こえてきた。
つられて見ると見かけない女性が降りて来ていた。長い黒髪が目を引く。
普段だったら挨拶するのだが、何故だかそんな気になれなかった。
そのまますれ違う。柔らかい匂いが漂ってくる。
やけに足音が大きく響く。
でもその音だけははっきり聞こえた。
久しぶり、翔一くん。
「っ!」
この声。
知らないけど、知っているような気がする。
振り返る。
しかし女性の姿はもうなかった。
久しぶり、翔一くん。
久しぶり……。
「翔一……翔一!」
「え?」
ぐつぐつ煮える鍋が視界に映る。
「どうしたのぼおっとして」
「え……あ、いや、なんでも……」
夕飯を食べている手を止め、先程の事を考えてしまっていたようだ。
「もしかして風邪ひいた?」
そう言って可奈さんが俺の額に手を当てる。急なアクションに心臓が跳ねる。
「やっぱり少し熱っぽいなぁ。今日は早く寝た方が良いよ」
「そ、そうですか?」
この熱の原因はあなたのような気がしなくもないのだが。
「食欲ないならお皿片づけるね」
「い、いやそんなの!もったいないですよ!食べます。食べさせていただきます!」
鍋から豚肉を取り、ごまだれに通して口に運ぶ。濃厚かつさっぱりとした味が口の中に広がる。
呆気にとられていた可奈さんが、今度はおかしいと言った様子で笑い出す。
「それだけ元気だったら、私の勘違いだったかもね」
「そうですよ!さ、可奈さんも食べましょ!いやぁ美味いなぁ!」
普段通りの、二人の食卓。楽しくて暖かな、二人の時間。
それでもさっきの非日常が、頭にこびりついて離れなかった。