仮面ライダーΑΓΗΤΩ(アギト)   作:赫牛

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アギト討伐作戦(3)

 バイクが風を切る。法定速度なんて余裕でオーバーしているはずなのに目指す場所は果てしなく遠く、景色はゆっくりと流れて行く。

 速く、速く、速く。

 こんなに焦ったのはいつぶりだろう。里沙が産気づいた時だろうか。真由美が初めて熱を出した時だろうか。

 機械の様に生きていても、この感情があるから自分はまだ人間なのだと思える。

 だからこそ速く、速く、速く。俺は絶対に守らなければならない。もしなくなってしまったら俺はどうなるのか、どうするのか、簡単に予想できてしまうが故に。

 

 ヴィジョンが見えた。

 高速で走るライダー。その姿が迫ってくるのを待ちかまえ、そして跳躍する。

 そのライダーは、俺。

 

「っ!」

 

 視界の端から赤い影が降ってくる。ハンドルを切って躱し、ミラーを見る。怪物は追ってきている。先にスタートを切ったのはこっちなのに、距離は縮まっていく。

 思わず舌打ちする。

 やめろ、今はお前に構っている暇は無い。

 そう言ってやりたいが、それが通じる相手ではない。だからさっさと終わらせる。

 ブレーキをかけながらUターンし、アンノウンを真正面に見据える。

 アンノウン……見た所ジャガータイプのそれは立ち止まり、油断無く構えた。

 

「変身!」

 

 予め装着していたベルトが反応し、緑の鎧が体を覆っていく。飛び掛かって来たアンノウンをハイキックで撃墜し、呼吸を整える。

 今から始めるのは戦闘ではない。

 どれだけ速く殺せるかという、タイムアタックだ。

 

 

 

 

 

 近い。

 もうすぐ倉庫街に差し掛かる辺りで予感がした。

 こう言うのも、最近になって分かるようになってきた。

 

「変身!」

 

 予め着けていたベルトから光が溢れ、身体とバイクが黄金に染まる。

 角を曲がった所で怪物と、今にも襲われそうな女の子が見えた。

 スピードを上げ、怪物が振り向くと同時にバイクで体当たりをする。吹き飛んだ怪物は、すぐに体勢を立て直す。

 視界の端で女の子の体から力が抜けるのが見えた。間に合わなかったのか、それとも気絶しただけなのか。

 今は兎に角目の前の敵を倒す。それが俺のやるべき事だ。

 

 

 

 

 

 振り回される剣を躱し、時折拳をアンノウンの胴に打ち込む。右腕の装甲から触手を引き摺り出し、振るって斬撃を弾く。

 この触手は自立して動くプログラムも組み込まれているが、この様に腕の延長として扱う方が好みではある。剣をアンノウンの手から弾き飛ばし、鞭の様に振るって何発か叩き、それから切り離す。分離した触手はアンノウンに絡みつき、その動きを封じる。

 意識を集中させて踵の爪を鋭く伸ばし、すかさず跳躍。右脚を抱え込んで振り下ろし、踵の爪をアンノウンに突き刺す。

 アンノウンの胸を蹴って後ろに跳び、着地と同時に爆発が起こる。アンノウンは、血の一滴も遺さず消滅した。

 それを確認して即座にバイクに跨る。バイクが形を変えながら、唸りを上げて走り出す。衆目を集めてしまうのは分かっている。だがそんな事よりも、大事なものがある。

 

「真由美」

 

 愛し子の名を呟いて、バイクのハンドルを強く握った。

 

 

 

 

 

 突き出される杖を受け流し、柄を受け止め、身体ごと押し返す。反転してまた突きが来るのを今度は受け止め、引き寄せて怪物の胴を蹴る。

 少しのけぞった怪物は、しかしすぐに杖を振るって、杖の先に取り付けられた刃が迫ってくる。躱し、受け流し、蹴り、拳で打ち、チャンスを窺う。

 顔を狙った甘い突きを掴み、膝で柄の中ほどから折る。動揺した所に連続して拳を打ち込み、怪物に隙が出来た。

 今だ。

 角が展開し、地に紋章が現れる。それを感じながら構え、ゆっくりと腰を落とす。

 

「はっ!」

 

 エネルギーが集まった所で大きく跳び、右脚を突き出す。往生際悪く突き出された折れた杖を手刀で弾く。

 

「たあっ!」

 

 蹴りが怪物を突き刺し、大きく吹き飛んだ怪物はそのまま爆発した。

 

 怪物がいる時の感覚が消えた。つまりもう安全だと言う事。

 そうだ。

 倒れている少女に駆け寄り抱き起す。

 

「大丈夫ですか?しっかり!」

 

 少し揺さぶると、微かに少女が呻いた。

 パッと見て分かる怪我も無いし、おそらく大丈夫だ。

 良かった。助ける事ができて。

 確かな喜びと共に胸を撫で下ろし、そっと少女を横たえた。

 

 

 

 

 

 アンノウンの気配が消えた。

 それはつまり、誰かに倒されたか、目的を果たしたか。

 G3では速すぎる。ならばアギトか。都合良くアギトが現れる可能性は低いと思うが、そうであって欲しいと願うしかない。

 

 バイクが停めてあるのが見えた。この前確認したアギトのものだ。

 そしてその先に、アギトがいる。誰かを抱きかかえている。

 アギトが抱きかかえていた少女を、ゆっくりと横たえる。眠りについた者の安らぎを祈る様な、そんな動作。それはまるで、死者との別れにも見えた。

 それを見た瞬間、血が沸騰した。

 間に合わなかった?死んだ?生きている?分からない。誰のせい?俺?それともあいつ?

 ただ確かなのは、真由美が倒れている事。

 頭の片隅では分かっている。決してアギトのせいではない。責めるべきはアンノウンと間に合わなかった自分。恨むべきなのも同じ。

 それは分かっているのだけど、身体中から吹き出すこの感情は鎮まる気配が無い。思考がどんどん薄れていって、衝動が身体を支配する。

 だから、これは八つ当たりなのだ。

 討伐命令が出ていると言う大義名分で、この感情を吐き出す先にあつらえただけ。でもそうでもしないと。

 俺はどうすれば良いのか、分からなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 少女を横たえた時、獣の咆哮が聞こえた。

 飛び掛かって来たそれに投げ飛ばされ、立ち上がると同時に胴に鋭い蹴りが刺さる。

 相手の姿を見て驚く。この前に俺を襲った、緑の怪物だ。

 再び蹴り。それを腕で防ぐと、今度は拳が振るわれ胸を撃つ。衝撃を逃がす事で大きなダメージにはなっていないが、反撃する余裕が無い。

 組み合った腕が弾かれ、俺の拳より速く怪物の拳が刺さる。怪物は雄叫びを上げながら跳び、胴を両脚で蹴られる。

 

「うあっ……」

 

 呻いていると腰から抱えられ、後ろに投げ飛ばされる。立ち上がった時にまた飛び掛かられ、簡素なブロックの壁を突き破る。

 怪物の攻撃は止まない。胸と胴に集中した攻撃は防ぎきれない程の速さで繰り出される。

 今は防御に専念するべきなのに、先程から感じていた違和感の正体に気付いてしまった。

 前はまるで機械の様な戦い方だったのが、今はその動きの全てに感情が見える。押しつぶされてしまいそうな強い怒りが、俺に降り注いでいる。

 

「ぐうっ……」

 

 胴に膝がめり込み、勢いのまま後退る。

 怪物が一段と高く咆哮し、その踵から鋭い爪が生えたのが見えた。

 何となくで分かる。あれをまともに受けるのは不味い。

 互いに間合いを計り、動きが止まった瞬間、怪物が跳躍した。脚が振り下ろされ、凶器が迫ってくる。

 それを横薙ぎのハイキックで打ち消す。着地した怪物に蹴りを放つが、その脚を掴まれ地面を転がる。覆い被さろうとする怪物に今度こそ蹴りを打ち込み、拳を胴に食い込ませる。

 そうしている間にも伝わってくるのは激しい怒り。それはまるで人間の様な、当たり前の感情。

 こいつは、一体何なんだ?

 

「うあっ!」

 

 投げ飛ばされ、俺を受け止めた倉庫のシャッターが破れる。立ち上がろうとするが、上手く力が入らない。それでも立った所に蹴りを入れられ、腕で引きずり回され、投げ飛ばされる。

 停めてあった車のボンネットに背中を打ち、悶える間も無く怪物の脚が俺を踏み潰そうとするのを避け、しかし首を掴まれ身体が宙に浮く。

 万力の如き力で締め上げられ、意識が薄れていく。

 駄目だ。こんな所で終わる訳には。

 そう考えた時、銃声が聞こえ、怪物の背から火花が散る。

 解放され、無様に地面を転がった俺に見えたのは、青と銀の装甲を身に着けた何者かだった。

 

「アギト!」

 

 その何者かは俺を見てそう言うと、緑の怪物に銃口を向けた。

 牽制し、俺を庇う様に立つ。どうやら味方と考えて良さそうだ。

 怪物が戦士に飛び掛かり、羽交い絞めにするのを引き剥がすが鋭い蹴りがまた胸に突き刺さる。戦士が身に着けた剣の様なものが空を裂き、僅かに怪物をかすめる寸前に爪に弾かれ、そのまま投げ飛ばされる。戦士への追撃を制するが、拳と蹴りが俺の意識を刈り取ろうとする。戦士の鎧が爪で切り裂かれ、大きく蹴り飛ばされる。

 圧倒的だ。二人がかりでも歯が立たない、暴力の嵐。

 再び戦士に襲い掛かろうとする怪物の背を掴み、振り向いた顔に向かって拳を振り抜く。

 どうにか一撃を与えて距離が出来、互いに構えて跳躍、蹴りと蹴りがぶつかってよろめく。

 戦士はその隙を見逃さず怪物に掴みかかるが逆に投げ飛ばされ、怪物の踵が戦士の頭に直撃した。

 それでもなお上を向いたその顔。

 

「氷川さん……」

 

 居酒屋で出会った、あの男のものだった。

 頭部を守る装甲を失っても、戦士は果敢に戦う。怪物に組み付き、押し倒し、反撃の爪を防いでパンチを放つ。

 だが体勢が入れ替わり、何度も彼の胸が踏みつけられる。

 いけない。このままでは、彼が死んでしまう。

 

「うおおおおっ!」

 

 引き剥がし、拳を振るう。一拍も置かずに続けざまに、一切緩める事無く叩き込む。そして渾身の一撃が、怪物を吹き飛ばした。

 それでもまた怪物は立ち上がり、爪をこちらに向ける。こちらはもう限界だ。氷川さんも、俺も。

 そして怪物が走り出した時、ベルトが強く輝き、周囲を黄金に染めた。

 

 

 

 

 

 視覚が正常に戻った時には、アギトもG3も姿を消していた。

 特に攻撃を受けた感じは無い。咄嗟の目くらましと言う事か。

 だがそれ故に、ふつふつと怒りが沸き起こる。

 逃げるな。最後まで戦え。この感情をぶつけさせろ。

 

「ウアアアアアアアアッ!」

 

 獣の様な咆哮を上げると、幾分か怒りが薄まり重要な事に気付く。

 真由美。

 先程見たそのままの体勢で真由美は横たわっていた。

 駆け寄って呼吸を確認する。

 息を、している。

 全身を見る。外傷は無い。

 生きている。

 ああ。

 

「良かった、真由美……」

 

 そっと抱きかかえる。父親が傍にいるとも知らず、真由美は穏やかに眠り続ける。

 病院は遠くない。この距離なら、このままでもすぐに着く。

 真由美の体温を感じながら、真っ直ぐに道を進む。

 

 

 

 

 

 全身が痛い。だるい。眠たい。

 それでも生きている。

 顔を上げると見慣れた表札。今日も戻って来た。

 

「ただいまー!」

 

 玄関を開けてできる限りの大声で言う。可奈さんが心配しないように。

 可奈さんはすぐに出て来た。そして泣きそうな顔になる。

 

「翔一っ!」

 

 胸に飛び込んできた可奈さんに押されて少しよろめく。その重さは、俺を心配してくれた気持ちの大きさだと思った。

 

「帰ってきました、可奈さん」

 

 顔を上げた可奈さんの目には涙が溜まっていたけど、笑っていた。

 

「うん、おかえり、翔一」

 

 あ、そうだ。言わないといけない事がある。

 

「あの可奈さん、キスまた後で良いですか?」

 

「え?」

 

「俺、めちゃめちゃ眠くて……だから……すみません」

 

 最後まで言えたかも怪しい。膝から崩れ落ちる様に倒れる。床の冷たさが心地良い。

 可奈さんが驚いた様に俺を見て、でも俺が瞼を閉じた後に、優しい声が聞こえて来た。

 

「おやすみ、翔一」

 

 おやすみなさい、可奈さん。

 

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