仮面ライダーΑΓΗΤΩ(アギト)   作:赫牛

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転校生(1)

 私にはお父さんがいる。でもここ5年くらい会っていない。

 海外にいるとか、単身赴任してるとか、そう言うのも全く分からない。かと言って行方不明と言う訳でもない。私が小学生の頃に仕事の都合で出ていったっきり、帰って来なくなった。

 仕事と言っても警察官だったはずで、何も一生会えなくなる様な事情は無いと思うんだけど、お母さんはもう会えないかもって言ってた。でも死んだって事は無いみたい。やっぱり分からない。

 

「行ってきます」

 

 よっぽど急いでない時はこうやって3人で映った写真に挨拶する。その写真も5年以上前の物だし、お父さんだって老けてるだろうから会った時にちゃんと分かるか自信が無い。分かれば良いなとは思う。

 

 

 

 

 

 私は友達が多い訳ではない。何なら今のクラスには二人しかいないし、その二人は学校に来るのが遅いから朝の時間はほとんど一人で過ごしている。

やる事も無いからぼおっとしてると、少し離れた所からひそひそと話す声が聞こえてくる。

 

「ねえ、何で新しい机あるの?」

 

「なんか転校生来るらしいよ」

 

「この時期に?変なの」

 

「だよねー」

 

 転校生か。

 正直どうでもいい。ただ私の隣の席ってのだけが問題だ。授業中とか話さないといけないタイミングめっちゃありそう。

 めんどくさいなぁ。

 

 友達が来るのとほぼ同時に先生が教室に入ってきた。その後ろには知らない女の子。例の転校生だ。腰まで伸びる長い髪が特に目を引く。あれだけ長いと手入れが大変だろうし、うちの学校って長いとくくらないといけないって校則なかったっけ?初日だからその辺緩いんだろうか。

 勿論教室中は男女関係なく皆ざわざわし始める。誰なのかと言う疑問の声もあるし、綺麗と言う見た目の感想もぽつぽつ聞こえてくる。

 

「皆静かにー。今日はホームルームの前に、新しくこのクラスの一員となる人に挨拶してもらおうと思います……じゃあどうぞ」

 

 先生に促された女の子が一歩前に出る。気にしていなかったが顔も整っていて、男子が色めき立つのも納得がいった。

 

海月(うみつき)リュウです。柳って書いてリュウと読みます。今日からよろしくお願いします」

 

 名前に変って言っちゃいけないけど、流石に由来が気になる。後で聞いてみるくらいは良いかな?

 

「質問とかは休み時間に、あまり騒がしくしないように。海月さん、席あそこの空いてるやつね……はいじゃあよろしくと言う事で、ホームルーム始めまーす」

 

 先生が出席を取り始め、海月さんは机の間を通り抜け私の隣に座る。何気なしにそれを眺めていると海月さんとばっちり目が合ってしまった。

 

「よろしくね」

 

 小声でそう言いながら微笑む海月さんに、不思議と惹きつけられた。

 

「お名前、聞いても良い?」

 

 名前?あ、私か。

 

「葦原真由美、です」

 

 

 

 

 

 予想通り休み時間には海月さんの周りに人だかりが出来ていた。出身だとか何が好きだとかの質問が飛び交っている。それは良いのだけれど、何人も集まるせいで暑苦しいし私の机がぐいぐい押されるしでうざい。これが後10分、もしかしたらその後も続くと考えたら苦痛だ。

 席を立って教室を出る。だからと言って特にやる事がある訳ではない。廊下の人がいない辺りで壁にもたれかかって深くため息をつく。どうにも人の多い場所は好きじゃない。昔はそんな事なかったのに、いつからだろう。

 そう言えばお父さんもあんまり好きじゃなかったらしい。だけどいっぱい色んな所に連れていってもらった記憶がある。無理してたのかな。

 一番昔の記憶は海に行った時だ。5歳くらいだっただろうか。お父さんと一緒に波打ち際で水をかけあったり、寄せて返す波に触れたりしていた気がする。

 懐かしいな。

 

「真由美ちゃん」

 

「わっ」

 

 いつの間にか隣に海月さんがいた。近い。

 

「名前呼び嫌だった?ごめん私距離感とか苦手で」

 

「いや、別に」

 

「そっか」

 

 私は知り合ったばかりの人といきなり仲良くなる事なんて無いのだが、海月さんに名前呼びされても不快とは思わなかった。なんだろう、この子にはパーソナルスペースに踏み込まれても嫌じゃない気がした。

 

「海月さん、皆の所に行かなくて良いの?」

 

「なんで?」

 

「皆海月さんの事気になってるし」

 

「じゃあ私は真由美ちゃんの事が気になってるかな」

 

「え?」

 

 それはどう言う意味でなんだろう。私はそっちには興味無いから、自分が当事者になった時の事なんて考えた事も無い。おそらくそんな事はなくて普通に人間としてと言う事だと思うけど、いきなりそれっぽい事を言われるとどきっとしてしまう。

 

「まあ私も人があんなに集まってくると疲れるしさ。こっちの方が気楽で良いよ」

 

「そうだね」

 

「……でももうちょっとで授業始まっちゃうか」

 

「うん」

 

「戻ろっか」

 

「うん」

 

 喧騒の中に戻る足取りはいつもより少し軽い気がした。

 

 

 

 

 

 学習進度の違いもあるだろうから困っていたら教えてあげて欲しいと先生たちから言われていたが、それは杞憂だった。と言うか海月さんは私より勉強ができて、私の方が教えてもらった。元々勉強ができる方ではないけど、ちょっと悔しかった。

 退屈な授業は通り過ぎて帰る時間になる。今日は友達と図書館で勉強する予定があるから合流したいけど、その友達も海月さんに群がっている。まあ気になる気持ちも分かるから待っててあげよう。

 グラウンドでは運動部が部活動の準備をしている。改めて見ると野球サッカーテニスに陸上等々と色々ある。私は興味無かったから帰宅部だけど、海月さんは何かやったりするのかな。もう三年の春だし今更入ったりしないか。

 

「真由美ちゃん」

 

 海月さんの声でふわふわしていた思考が元に戻った。

 

「なに?」

 

「帰るからさ、挨拶。また明日ね」

 

「あー……うん、また明日」

 

 海月さんは何人か女子を引き連れて教室を出ていった。

 

「凄いねー海月さん」

 

「だよねー、真由美」

 

「私に振るそれ?」

 

「まあその内おさまるっしょ」

 

「まーそうだね」

 

 海月さんが人気だとかはどうでも良かった。

 ただわざわざ挨拶してくれたのが嬉しかった。

 

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