仮面ライダーΑΓΗΤΩ(アギト)   作:赫牛

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見える過去(3)

 ここに来て半月が経った……はずだ。休みの無い同じ日々の繰り返し。もう今が何日なのか怪しくなってきた。

 この地獄の日々は後半分で終わる……終わると信じたい。こんな事をする奴らが本当に帰してくれるか分からないが、そう信じないと耐えられない。

 それにマナちゃんとの約束も……。

 

「翔一くん?聞いてる?」

 

「あ、ごめん。ちょっとぼおっとしてた。あはは」

 

「大丈夫?疲れてる?」

 

「大丈夫大丈夫……それで何の話だっけ?」

 

「今日はね、検査があったの」

 

「検査って、何の?」

 

「分かんないけど、血を採ったり、脈拍を計ったり、後は……」

 

「後は?」

 

「内緒!」

 

「えー?教えてよ」

 

「駄目、乙女の秘密ってやつ」

 

「そっかぁ」

 

 あの夜からこんな風にマナちゃんと話すのが日課になっていた。それでなんとか精神の安定を保っていると言っても過言ではない。

 他の装着員は差はあれど、皆精神的に不安定になっていた。そして異常をきたしたものは何処かヘ連れていかれた。そうやって装着員の数は目に見えて減っていき、気付けば最初の半分程しかいなくなっていた。

 

「ねえ翔一くん」

 

「なに?」

 

「翔一くんは家族はいる?」

 

「家族か……」

 

 確かにその話はした事無かった。

 

「姉さんがいるよ」

 

「お姉さんだけ?お父さんとお母さんは?」

 

「どっちも亡くなったよ」

 

「……ごめんね」

 

「気にしないで……マナちゃんにはいるの?」

 

「お母さんはいないけど、お父さんはいる」

 

「そっか。仲良くしてる?」

 

「うーん、分かんない。話した事無い」

 

「そうなの?」

 

 ここが家と言うあたり事情があると思っていたが、父親と話した事が無いとは。

 

「でも大好きだよ、お父さん」

 

「……良いじゃん」

 

 話した事も無いのに好きと言ってくれる人がいるのが、なんだか少し羨ましかった。それと同時に、出しゃばりかもしれないがマナちゃんをお父さんに会わせてあげたいと思った。

 

「良いなぁ、家族って憧れるなぁ……翔一くん」

 

「なに?」

 

「私翔一くんと家族になりたい」

 

「え、ええっ!?」

 

 それってどう言う事だ?まさかプロポーズされたのか?

 

「そ、そう言うのは、まだ早いと思うなあ……」

 

「え、一緒に暮らすのって駄目なの?そっか……」

 

「あ、いや、駄目じゃないけど。えっと……」

 

 家族になるって言うのは何も結婚する事だけじゃない。心で繋がっていれば家族と言える間柄にだってなれるはず。

 

「じゃあ俺と可奈とマナちゃんの三人で一緒に暮らそう!」

 

「三人?可奈って?」

 

「俺の……もう一人の家族みたいな人。その人と三人で一緒の家に暮らすんだ」

 

「……良いの?」

 

「大丈夫、可奈も許してくれるよ」

 

「約束?」

 

「うん、約束」

 

 マナちゃんが差し出した小指に、俺の小指を絡める。指の暖かさを交換して、家族になるための一歩を踏み出した様な気がした。

 

 

 

 

 

 その帰り道だった。

 微かに警報の様な音が聞こえた。音は下から聞こえてくる気がする。しかし妙だ。ここには地下室は無いはず。

 

「っ……!」

 

 どんっ、と俺の目の前の壁が歪んだ。向こう側から何かが壁を突き破ろうとしている。何度か壁が変形し、そして遂に何かが壁を突き破って現れた。

 

 

 

 それは人の形をして、しかし人ではなかった

 

 

 

 胴は黄金の機械的な鎧に包まれ、黒のアンダースーツが全身を覆っている。頭部には二本の黄金の角を冠し、深紅の巨大な瞳が暗闇の中で不気味に光っている。

 

「何だよこれ……」

 

 その言葉に反応したのか、黄金の何者かは俺を見た。そして……。

 

「津上……」

 

「え……」

 

 聞き覚えのある声。

 

「沢木?沢木なのか……?」

 

「逃げろ……逃げるんだ津上……うっ!」

 

 腰の機械の様なものから火花が散り、沢木が苦しみ出した。そして膝をつき、仰向けに倒れた。しばらくもがいていたが、その内に動かなくなった。腰の機械が何度も明滅し一際大きく輝くと、鎧の異形は消え沢木の姿が現れた。目を閉じた沢木は眠っているようだったが、既に息遣いは感じられなかった。

 沢木は死んだ。間違いなく。何故、どうして。

 大量の足音。突き破った壁の内側には階段が見え、階下から武装した部隊が列をなして駆け上がってきた。銃を俺に向けて構え、瞬く間に俺を取り囲んだ。そして何も言わず俺を押さえつけた。

 

「放せっ!」

 

 抵抗するが体は全く動かない。銃のストックが降ってくるのと同時に強い衝撃。

 俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 目が覚めて最初に見えたのはガラス越しにこちらを見る白衣を着た者たちだった。

 聞こえてくる単語は頭に入っても意味を理解できず、しかし微睡みから俺を連れ出すのには充分な大きさだった。

 罪人の様に磔にされ、酷い痺れで指一本動かせずただ時間がゆっくりと過ぎて行くのを眺めるだけしかできない。いや、実際にはそれ程経っていないのかもしれない。時間の感覚がおかしくなっているのかもしれない。自分の事が分からない。

 

 いつの間にか目の前に機械のアームが伸びてきた。それは細長く黒い何かを持っており、それを俺の腰の辺りに据えている。

 

『起動実験開始』

 

 くぐもっていながらもはっきり聞こえた音を合図にして、黒い物体が腰に押し当てられる。それから帯が伸びて腰に固定され、中心に埋め込まれた黄金の球体が光を放つ。

 

「う……ああああああっ!」

 

 腰を中心に全身に電流を流し込まれた様な痛み。光は一際強く輝きそれに伴って思考が白く塗りつぶされる。白に、空に、ゼロに——。

 

 

 

 次に気が付いた時には地面に手を突いていた。震える身体を無理矢理動かし乱れた呼吸を整え顔を上げる。俺の姿が目の前のガラスに薄く映る。

 それは黄金の鎧を身に纏い、黄金の角を冠し、深紅の瞳を持った何か。沢木と同じ姿だった。

 

 

 

『バイタル安定……適合率90、95パーセント。高水準を維持』

 

 腰の機械に付けられたケーブルから何かのデータを採っているのだろう。そしてようやく気付く。これが奴らの言っていたG3に代わる新しい装備なのだと。沢木を含め今までに消えた装着員達は、これを完成させるために利用されたのだと。

 つまりこのままだと俺もどうなるか分からない。逃げないと。

 辺りを見回し扉を見つけた。おぼつかない足取りで扉の前に立ち、碌に入らない力を振り絞って扉を殴りつける。一撃で扉が変形し、次の拳で小さくだが穴が開いた。

 

『各部正常に動作を確認……供給停止』

 

 球体から光が消え、それと同時に鎧が溶けていく。支えを失った生身の体は情けなく崩れ落ちた。

 扉が開き白衣の男が俺に近づく。何かが俺の首に押し当てられ入ってくる感覚。

 何も考えられなくなって、また、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

「翔一くん……翔一くん!」

 

 体が揺さぶられている。目を開くと心配そうに俺を見つめる女の子がいた。

 

「マナちゃん……」

 

「良かった……生きてた」

 

 真っ白な部屋の真っ白なベッドに俺は寝かされていた。ベッド以外は何も無い殺風景な部屋、と言うより病室。隔離部屋と言う表現が合っているかもしれない。

 

「大丈夫?痛いとこ無い?」

 

「大丈夫だよ」

 

 体の感覚はまだ無かったが、心配させまいと笑顔を作る……作れているかは定かではないが、それでも笑ってみせた。

 

「翔一くん、ずっと寝てたから……」

 

「ずっとってどれくらい?」

 

「分かんないけど、多分十日より長く、かも」

 

「そんなにか……」

 

 俺が眠っている間に、何人の装着員がいなくなったのだろう。そしてその中に姉さんはいるのだろうか。

 

「姉さん……」

 

 俺の呟きを聞いたマナちゃんが、意を決した様に口を開く。

 

「翔一くん、ここから一緒に逃げよう」

 

「逃げる?」

 

「うん……お姉さんも一緒に」

 

「でもどうやって?」

 

「大丈夫、ずっと探して考えてたから」

 

「いつ?」

 

「次に私が翔一くんに会いに行ける時に」

 

 逃げるなんてできるのか、正直疑わしかった。でもマナちゃんの真剣な眼差しは信じるに値すると思った。信じたいと思った。

 

「分かった。一緒に行こう」

 

「うん。一緒に」

 

 マナちゃんが俺の手を取って、小指同士を絡ませる。少しだけ手の感覚が戻って、ちゃんと指切りをしたと実感できた。

 

「翔一くんは元気になるまで休んでね……もう行かないと」

 

「そっか。じゃあまたね」

 

「うん、またね。おやすみ、翔一くん」

 

 マナちゃんが俺の顔を撫でると何故だか急に眠気が襲ってきて、心地よい眠りが俺を包み込んだ。意識が落ちてからも、マナちゃんの微笑みが脳裏に焼き付いていた。

 

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