仮面ライダーΑΓΗΤΩ(アギト)   作:赫牛

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氷川誠(1)

 僕は不器用な人間らしい。

 自分ではそうは思わないが、周りの人は口を揃えて僕を不器用だと言う。

 親も、高校生の時の彼女も、警察学校の同期もみんなそうだった。

 勿論今の同僚だってそうだ。

 なんだよ、みんな不器用不器用って。

 ちょっと豆腐が箸で掴めなかったり草むしりで根っこが取れなかったりゆで卵の殻が上手く剥けないだけじゃないか。

 それがどうしたって言うんだ。そんな事できなくても生きていける。

 

 それと僕はくそ真面目な人間らしい。

 それは自分でもちょっと分かる。

 くそが付くのは心外だが、僕は真面目と言うか頑固と言うか、融通が利かない所がある。

 冗談が咄嗟に理解できないし、親しい間柄であってもルールを守らない人は見過ごす事はできない。

 自分でも良くないと思っていて、何とか直そうとはしている。

 ジョークの本を買ったり、車を運転する時に制限速度を少しオーバーしてみたり。

 でも同僚からは、それがくそ真面目って言うのよ、と言われてしまった。

 

 不器用だし頭も固い。

 だからだろうか。

 僕がアギトに選ばれないのは。

 

 

 

 

 

「どうしたの氷川(ひかわ)くん、そんな暗い顔して」

 

 声をかけられて顔を上げると、同僚でありユニットのリーダーでもある小沢(おざわ)さんがこちらを覗いていた。

 

「あ、いえ、ちょっと考え事を……」

 

「考え事ねえ……、何考えてたか当ててあげよっか?」

 

「絶対分かりませんよ、そんなの」

 

「何で自分はアギトに選ばれないのか、でしょ?」

 

「え?どうしてそれを……」

 

「だって氷川さん、分かりやすいんですもん。ね、小沢さん?」

 

 もう一人のメンバーの尾室(おむろ)さんまで見透かした様な事を言う。

 

「そんな……僕はそんな分かりやすい人間じゃないですよ!」

 

「いいえ、貴方結構分かりやすいわよ。まあ今回分かったのはそれだけじゃないけど」

 

「それだけじゃない、とは?」

 

「だって貴方、適性試験受けてからこのところずっとそんな調子じゃない。こっちまで気が滅入って来るわよ」

 

「それは……すみません……」

 

「まあうちとしては、一番動ける氷川くんが残ってくれて正直嬉しい面もあるけどね」

 

「でも僕がいなくても、北條(ほうじょう)さんがG3として活躍してくれますよ」

 

「あれは駄目よあれは。G3としては兎も角、人間としての性根が腐ってるわ」

 

「そこまでではないと思いますけど……」

 

「そうですよ。僕が出動する時だって応援してくれますし」

 

「どうだか」

 

 小沢さんがデスクに向き直る。

 Gトレーラーの中で交わされる、何でもないいつものG3ユニットの会話だ。

 

 僕……氷川(まこと)は刑事であり、このG3ユニットでは実戦を担当している。

 かつては香川県警に配属されていたが、G3の装着員に選ばれたのと同時に上京し、警視庁のアンノウン対策班に所属となった。

 

「それにしても暇ですね。ここ一週間アンノウン出現の通報もありませんし」

 

「暇なのは良い事よ。G3が錆びつかないかだけが心配だわ」

 

「アギトが実装されちゃうと、いよいよ僕らの出番もなくなっちゃうんですかね」

 

「弱気な事言わない。要はアギトより活躍すれば良いんでしょ。開発段階の図面見たけどG3だって負けてないわよ」

 

 アンノウン。本来であれば、未知のものを指す言葉。

 しかし数年前から日本の警察の中では、とある事件の犯人たちの呼称となっている。

 シルエットは人型。しかしその姿は異形のもの。

 人々を襲いその命を奪う謎の生命体。それがアンノウン。

 そしてそれらに対応し殲滅するために開発された強化スーツがG3であり、サポートの2人と装着員の3人がユニットとなって事件解決にあたる。

 通信でサポートを受けつつ、アンノウンと戦闘して市民を守るのがG3としての責務であり、僕が今ここにいる理由だ。

 僕はG3の最初期の装着員として選ばれ、幾度もアンノウンと戦ってきた。

 今ではG3も量産され全国に配備されているが、被害が多いのはやはり首都であるこの街だ。なかなか香川には帰れずにもう何年も経ってしまった。

 

 そしてアギト。

 今の僕の目標となるもの。

 G3よりもさらに洗練された、技術の粋を結集して作られた強化装備だと言う。

 勿論装着員に志願した。G3の最優秀装着員に選ばれた僕ならなれると言う自信もあった。

 だが僕は選ばれない。

 今まで三度適性試験を受けてきたが、全部落ちた。

 何故選ばれないのか何度も考えてきたけど、結局答えは出なかった。

 

 そんな風に内省していると、パソコンから呼び出し音が鳴った。

 

「はいこちらG3ユニット1……はい……はい。分かりました」

 

 応対を終えた小沢さんがくるりと椅子ごと回転する。

 

「氷川くん、ボケっとしてる場合じゃなくなったわよ」

 

「どういう事ですか?」

 

「菊谷公園で死体発見の通報よ。既に捜査一課が向かっているけど、普通の死に方ではないらしいの。貴方も行ってちょうだい」

 

「つまりはアンノウンの仕業という事ですね。分かりました。すぐ向かいます」

 

 スーツに着替えるため、僕はGトレーラーを後にした。

 

 

 

 

 現場には非常線が張られており、民間人を遠ざける物々しい雰囲気が漂っていた。

 テープをくぐると、顔見知りの2人が目に留まった。

 

「お疲れ様です。河野(こうの)さん。北條さん」

 

「おう、お疲れ」

 

 挨拶を返したのは河野刑事。捜査一課のベテラン刑事で、アンノウンによる事件の現場ではよく顔を合わせる。

 そして。

 

「やっと来ましたか。こんなに遅れての到着なんて、G3装着員としての自覚が足りていないんじゃないんですか?」

 

「……すみません、道が混雑していたもので」

 

 開口一番嫌味を飛ばしてきたのは北條刑事。捜査一課の刑事でもあり、僕と同じG3装着員でもある。

 ユニットは違うが同じ使命を持つ仲間なのだが、何故か僕の事を敵視して事あるごとに嫌味を言ってくる。

 小沢さんの前ではああ言ったが、僕もこの人は苦手だ。

 

「遺体を確認してもいいですか?」

 

「ああ、こっちだ」

 

 河野さんに連れられて公園の奥まった所まで進み、地面が掘り返された一角まで来た。

 穴の側に遺体が横たわっている。全身が土にまみれて汚れている。

 

「その仏さんな、ここに埋まってたんだよ。手だけが出てたとさ」

 

「人間による犯行の可能性は?」

 

「限りなくゼロに近いな。遺体は死後1時間しか経っていないし、何より地面が掘り返された形跡がなかった。まるで土の中に引きずり込まれたみたいにな」

 

「みたいではなくその通りと言う事ですか」

 

「そうだろうな。兎に角アンノウンの仕業って事だ。今度出たら頼むぞ」

 

 ぽんと肩を叩かれる。そのまま河野さんは現場を去っていった。

 

「この付近でまた事件が起きれば間違いなく貴方が動員されるでしょう。期待してますよ。せいぜい頑張ってください」

 

「……ありがとうございます」

 

 嫌味なのか激励なのか分からない言葉を残して、北條さんも現場を後にする。

 再び遺体を確認する。

 目立った外傷はない。おそらく土の中で息ができず窒息死したのだろう。

 普通の人間には不可能だ。

 このような不可能犯罪を引き起こすのがアンノウンである。

 入らないはずの木のうろの中に押し込まれた遺体や、晴れた日の落雷による焼死。

 およそ人間業ではない。

 このような不可思議な力を持つ存在に対抗するために、G3は必要なのだ。

 

 アンノウンによる同じ手口の犯罪は立て続けに起こる事が多い。

 同じ死に方をした被害者たちの関連性は今の所見つかっておらず、護衛等を付けて事件を未然に防ぐ事もできない。

 次にアンノウンが出現する場所も特定できないため、事件が起こった時に迅速に現場に向かう事が求められる。

 だからこの後はGトレーラー内で待機だ。

 現場を後にしようと振り返った時だった。

 視線を感じる。

 直感的に右を向くと、遠くの方にいる少女と目が合った。

 長い黒髪が目を引き、どこか儚げな印象を受ける。

 どこかで見た事があるような気がする。

 少女は微笑むと、後ろを向いて歩いていく。

 

「待って……」

 

 何故か追いかけないといけないような気がして走る。

 だがいつの間にか少女は消えてしまった。

 

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