仮面ライダーΑΓΗΤΩ(アギト)   作:赫牛

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氷川誠(2)

「氷川くんまた考え事?今度は一体何なのかしら」

 

「え、あ、いや……」

 

 Gトレーラーに戻って着替え、いつでも出動できるように待機しているとつい考え込んでしまった。

 

「なによ、男ならもっとはきはきしなさい」

 

「すみません、さっき現場で顔見知りに会ったような気がして」

 

 ほんの数秒しか見ていないはずなのに、さっきの少女の姿が目に焼き付いている。

 確かにどこかで見た気がして、どうにも引っ掛かっている。

 

「そう。で、どうなの、思い出せそう?」

 

「いや、全然」

 

「じゃあ貴方にとってはあんまり重要じゃない人なんでしょう。パッと出てこないなら考えるだけ時間の無駄よ」

 

「いやいや小沢さん、重要な人でもど忘れする事だってありますよ。もしかしたら氷川さんの初恋の人だったりして」

 

「初恋だろうがなんだろうが思い出せなかったら他人よ。大体初恋の人なんて覚えてたって意味ないでしょ」

 

「飲み会だったらこういう話で盛り上がる事だってありますよ、ね、氷川さん?」

 

「え?ええ、そうですね……」

 

 僕の覚えている限りではそんな話で盛り上がった事は一度もない。

 

「くだらないわね。そんなのに脳のリソースを割くなんて考えられないわ」

 

「じゃあ小沢さんは初恋の人の事覚えてないんですか?」

 

「覚えてないわよ。顔も声もきれいさっぱり忘れたわ」

 

「なんか、逆に凄い……」

 

 緊張感のない会話。

 でもこれは気を抜いている訳ではなく、今まで何度もアンノウンに対応してきた経験から来る余裕だ。

 少なくとも二人はそうだと思う。

 でも僕は完全にあの少女の事で気を取られていた。

 いかんいかん、集中しなくては。

 戦いの場では、気を抜いたら命に関わりかねない。

 G3として戦って殉職した刑事も何人か知っている。

 何年も戦ったからと言って慢心する訳にはいかないのだ。

 

 僕がふうっと息を吐いた時、スピーカーからビープ音が鳴った。

 個別の回線ではなく、全てG3ユニットへ通信する際の合図だ。

 

『各隊に緊急連絡。藍御区(あいぎょく)市民ホール付近でアンノウン複数体確認。待機中のG3ユニットは、至急現場に急行せよ』

 

 ついにお出ましか。

 

「来たわね。用意して氷川くん!」

 

「はい!」

 

 僕がG3ユニットの制服を脱いでいる間に、小沢さんがデスクに向かいマイクの電源を入れる。

 

「Gトレーラー、出動します!」

 

 中にまで聞こえる程の音量のサイレンが鳴り始め、トレーラーが発進する。

 そして服を脱ぎ終え黒いアンダースーツ姿になった僕は、様々な形の青と銀の装甲がセットされた装置の前に立つ。

 これらを身に纏うことでG3へと『変身』するのだ。

 開かれた胸部ユニットに入り込むようにして立つと、駆動音と共に胸部ユニットが閉じて体に固定される。

 続いて両足、両腕が青い装甲に覆われ、腰にバッテリー残量を示すベルトがセットされる。

 このように装甲は機械によって自動的に装着されていく。

 最後に仮面の様になった頭部装甲が顔に押し当てられ、収納されていた装甲が後頭部を覆う。

 装甲が映す視界にずれがないか確認し、デスクに置かれたモニターに映っている自分視点のカメラの動作もチェックする。

 どちらにも問題はなし。棚から金属製の特殊警棒を取り、トレーラー後方に停められているバイクに跨る。

 右ハンドルがある部分に警棒を差し、グリップを回す。

 バイクが起動し、排気音が発せられる。

 後ろを確認すると、トレーラー後方の扉が開き、公道へ降りるためのスロープが展開されていた。

 小沢さんがキーボードを叩くと、車輪を固定する装置ごと後ろへとバイクが下がる。

 

2123(にいちにさん)、G3ユニット1、戦闘オペレーション開始!」

 

「ガードチェイサー、離脱します!」

 

 尾室さんの操作によって装置のロックが外され、バイクが後ろ向きに滑る。

 道路に着地すると同時にギアを入れ、バイクを走らせる。

 Gトレーラーを追い越し、サイレンを鳴らしながら市民ホールまでの道を走り出した。

 すっかり暗くなっていることもあって、今日は人通りが少なくて助かる。ガードチェイサーの他とは一線を画す馬力が十全に発揮されている。

 

 5分ほど走った頃だろうか。

 またしてもビープ音が鳴る。

 

『各隊に緊急連絡。志鳥区(しとりく)二丁目においてアンノウンの目撃情報あり。G3ユニット1は、至急現場に急行せよ』

 

『聞こえた氷川くん?私たちだけ別行動よ。すぐ向かってちょうだい』

 

 通信越しに小沢さんの声が聞こえる。

 

「分かりました!」

 

 モニターに表示されたナビに従って、ハンドルを右に切った。

 

 

 

 

 

 アンノウンが目撃されたのは雑木林の中らしい。

 バイクを停め、ボタンを押して収納されていた銃を取り出す。

 

『GM-01アクティブ、発砲を許可します』

 

「了解」

 

 銃を構えながら雑木林の中に入っていく。

 夜という事もあってか想像以上に視界が悪い。風で草木が揺らめくのもそれに拍車をかけている。

 G3のカメラなら全く見えないと言う事もないが、うっそうと広がる木々の間を縫って進むと来た道を見失いそうになる。

 

 少し進んだ所で、足が何かに引っ掛かった。

 木の根の様に硬い感触ではない。もっと柔らかな……。

 見下ろすと、人の手が地面から突き出していた。

 手を握るが反応がない。これはもう。

 いや、まだだ。

 まだ息があるかもしれない。

 まだ間に合うかもしれない。

 手の周りの土を掘る。

 無駄かもしれないけど、兎に角掘る。

 助かる可能性がゼロでないなら、最善を尽くさなければ。

 

 後ろで何かが駆ける音がした。

 振り向いて銃を構えるが、視界には動くものはない。

 油断なく目を光らせている時だった。

 

『氷川くん後ろ!』

 

 G3に搭載されているカメラは前でなく後方と左右も撮影し、Gトレーラーのモニターへと映像を送っているのだ。

 咄嗟に振り向くと銀の影が飛び掛かって来るところだった。

 後ろに倒れ込みながら連続して発砲する。

 ほとんどが命中し、影が地面に叩きつけられる。

 同時に起き上って向かい合う。

 甲羅を背負い、両手はヒレの様にも見える。亀の様な特徴を持つアンノウンだ。

 アンノウンが唸り声をあげて突進する。

 それを受け止め、大きく投げ飛ばす。

 距離が出来たところですかさず発砲。アンノウンの身体から火花が飛び散る。

 このまま仕留める。

 進もうとした時、足首を掴まれた。

 

「何っ!?」

 

 地面からもう一体、金のアンノウンが出て来た。

 

「ぐあっ……!」

 

 体勢を崩され、腹に蹴りを入れられる。

 金のアンノウンが、銀のアンノウンを庇う様に立ちはだかる。

 アンノウンが徒党を組むのは珍しい事ではない。

 ただまずいのは他のG3ユニットが別の現場にいることだ。

 小沢さんが応援を要請しているが、到着がいつになるか分からない。それまでは一人で対応しなければならない。

 多対一で戦った経験はない訳ではないが、指で数える程しかない。それにいずれの場合もすぐに応援が来た。

 果たしてどこまで戦えるのか。

 金のアンノウンが跳躍する。

 咄嗟に発砲し今度は相手が体勢を崩す。

 しかし同時に銀のアンノウンが体当たりしてくる。

 避け切れずに吹き飛ばされる。

 G3の装甲は硬く、衝撃を吸収して装着者への負担を軽減する機能も備わっている。

 それでも胸を強打されたような痛みが走る。

 立ち上がった瞬間に、後ろから羽交い絞めにされる。

 無防備な胸部に金のアンノウンが何度も体当たりをする。

 

「かはっ……!」

 

 一瞬呼吸ができなくなる。

 

『胸部ユニット損傷!バッテリーユニットに強度の衝撃、バッテリー出力80%にダウン!』

 

 尾室さんがダメージを読み上げる声も遠くで聞こえるような気がした。

 まだだ。まだ倒れるんじゃない。

 まだ戦え、氷川誠。

 

「うおおっ!」

 

 手を振り払い、銀のアンノウンに蹴りを、金のアンノウンに拳を打ち込む。

 再び組み付いてくる金のアンノウンをいなし、銀のアンノウンに向けて投げ飛ばす。

 もつれあったアンノウンたちが倒れるが、すぐに起き上がって僕に向かってくる。

 2体同時に体当たりされ、そのまま押し倒される。

 アンノウンの腕が振るわれ、G3の装甲が傷ついていく。

 逃れようと体を反転させるが、今度は背中から押さえつけられ攻撃を受ける。

 

「ぐああっ……!」

 

 蹴りとばされ、思わず出た声と同時に警告音が鳴る。

 

『姿勢制御ユニット損傷!G3システム戦闘不能!映像信号ロストしました!』

 

『オペレーション中止!氷川くん離脱しなさい!』

 

 二人の声が聞こえる。もう止めろと警告している。

 だがまだだ。

 まだ僕は戦える。

 

「うおおおおっ!」

 

 腹から叫んでアンノウンに突撃する。

 姿勢制御ユニットの助け無しでは、装甲の重量のせいで満足に動くこともできない。

 

『氷川くん!』

 

 だがそれでも動く。

 まだ生きてるんだから、止まる訳にはいかない。

 

「ぐっ……」

 

 蹴り飛ばされようとも何度殴られようとも。

 諦める訳にはいかない。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 装甲のあちこちから煙が立ち昇る。

 息も苦しい。

 でもまだだ。まだ……。

 

 アンノウンがじりじりと距離を詰める。

 しかしその途中で立ち止まる。

 そして何かに気付いたように右手の方を見る。つられて僕も右を見る。

 

「何だ……?」

 

 光があった。

 場違いな程に輝くそれはどんどん大きくなる、と言うより、こちらに近づいて来ているようだ。

 そしてぼんやりと人型のシルエットが浮かび上がる。腰の部分から光が発せられている。

 銀のアンノウンが光に向かって突撃する。

 だがそれはいなされ、逆に拳によって吹き飛ばされる。

 光が一層輝きを増し、周囲を染め上げた。

 

 

 

 そしてそこには、黄金の戦士が立っていた。

 

 

 

 黄金の鎧に、同じく黄金の角を2本戴き、赤い複眼を光らせる者。

 一度だけ、見た事がある。

 適性試験の際、初回受験者を対象とした説明会での映像資料に完成予想図があった。

 見間違えるはずがない。あれは……。

 

「アギト……」

 

 銀のアンノウンがアギトに組み付く。

 だがその手がアギトによってすぐに引き剥がされ、がら空きの胴体に拳が突き刺さる。

 金のアンノウンが動こうとする素振りを見て我に返る。

 アギトがどうこうじゃない。優先すべきはアンノウンだ。

 アギトに飛び掛かった金のアンノウンに空中で組み付く。

 起き上がり、振るわれる腕を避けてパンチを繰り出す。

 連続して攻撃をすると、アンノウンがふらついた。

 その隙に落ちていた銃に手を伸ばす。

 唸り声をあげてアンノウンが襲い掛かろうと向かってくる。

 肉薄する瞬間、銃をアンノウンの腹に押し当てる。

 アンノウンが驚いた様に動きを止めた。

 そしてそのまま左手でアンノウンの身体を押さえつけて発砲する。

 一発、もう一発、また一発。何度も打ち込む。

 アンノウンの腹部から血が吹き出し、G3の装甲を赤く染める。

 口から血を垂れ流したアンノウンは後ろに倒れ、そのまま動かなくなった。

 

 一瞬気が抜けた。

 しかし直後にアギトの事を思い出す。

 少し離れた所で、アギトが銀のアンノウンと戦っている。

 アギトが蹴りを入れアンノウンが大きく吹き飛ばされる。

 アギトの角が展開し6本になった。

 アギトの足元に龍の頭の様な紋章が現れる。

 アギトが手を身体に引き寄せ、半身を下げて腰を落とす。

 紋章がアギトの脚に吸い込まれていく。

 アギトが跳び上がった。

 

「はあっ!」

 

 キックがアンノウンに向けて放たれる。

 アンノウンは後ろを向き甲羅で攻撃を防ごうとする。

 だがキックを受けた甲羅は、そこからひび割れて砕け散る。

 アギトが残身を取る向こう側で、アンノウンが爆発した。

 

 圧倒的だ。

 少し見ただけでもその強さが分かる。

 小沢さんはああ言っていたが、本当にG3はアギトに負けていないのか?

 どうあっても埋められない差がアギトとG3には存在しているように感じる。

 アギトが歩き出す。

 

「あの!」

 

 僕の呼びかけにアギトが立ち止まり、こちらを見た。

 

「あの……貴方は、アギトなんですか?」

 

 アギトは何も言わない。

 そして僕に背を向けた。

 

「待って……」

 

 追いかけようとした時、背後から複数の足音がした。

 

「応援に来ました!アンノウンは!?」

 

 G3が何人か駆け付ける。しかし。

 

「いや、もう……」

 

 もう終わったのだ。

 視線を戻した時、アギトの姿は既に見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

「本当なの?アギトに助けられたって」

 

「ええ、間違いありません」

 

 昨晩の戦いの後、治療を受け異常がないか検査を終えた僕はGトレーラーで二人と話をしていた。

 昨日の被害者は、あの場にいたG3全員で地面を掘り返し、奇跡的に助ける事ができた。

 だがそれよりも、気になるのはあのアギトの事だ。

 

「変ね、アギトが実戦投入されたなんて話は聞いた事ないわよ。本当に見間違いじゃなくて?」

 

「だから言ってるじゃないですか。間違いなくあれはアギトです。少なくともG3ではありませんでした」

 

「尾室くん、どう思う?」

 

「え、僕ですか!?えー、まあ氷川さんは嘘をつくような人ではないですけど……」

 

「そうね。私も同感だわ。だからこそ信じられないの」

 

 カメラが壊れていた為、二人はアギトの姿を確認していない。

 他のG3装着員もアギトを見なかったと言う。まるで自分が嘘をついているような気分だ。

 

「私たちに黙って導入したのか、それともそうじゃないのか、いずれにせよ、上からの通達を待つしかないわね」

 

「そうですよね……」

 

 報告書にはアギトの事も記載した。

 上層部がアギトに関してどう出るかは分からない。

 だがそれよりも。

 あのアギトは、一体誰なんだ?

 

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