私のヒーロー   作:Sakiru

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バイトをしよう!

 

 学校が終わった、放課後。

 私とリョウはHRが終わるとすぐに教室を出て、STARRY(スターリー)に向かっていた。今日出された課題の出題範囲を聞いてくる親友に呆れつつ──聞いてきてもどうせやらず、課題提出日に泣き付いてくるのが目に見えているからだ──帰路につく。

 

「ぼっちちゃん、今日は一人で来れるかなぁ?」

 

 先週の事を思い出す。

 だが、ぼっちちゃんがSTARRYに入るのは今日で三回目だ。流石に三回目になれば、誰かに声を掛けられるまで店の前で体育座りはしないだろう。

 ロインでも送ろうかと悩む私に、リョウが少し呆れたように言ってきた。

 

虹夏(にじか)、それは過保護だよ。もっと子供の自立を促さないと」

 

「そうだよね──って、いやいや、私はまだ一度も妊娠した事もなければ子供を産んだ事もないからね!?」

 

 そんな突っ込みをしつつ、数十分後、私たちは目的地に到着した。ぼっちちゃんの姿はない。それはつまり、まだ来ていないか既に中に入っているかのどちらかだ。

 ぼっちちゃんの成功を祈りつつ、私はゆっくりと店のドアを開ける。

 今この時間、お店は準備中だ。機材の確認や清掃など、お店を開く為の準備を行っている。

 そして、店長が普段腰掛けているノートパソコンの前。そこには店長と、ぼっちちゃんが居た。

 良かった、ぼっちちゃんお店に入れたんだ! そんな感慨を私が抱いていると、こんな会話が聞こえてきた。

 

「本当に新しいバイトを誘ったんだな、虹夏の奴」

 

「はっはいぃぃぃぃぃっ!」

 

「って言うか、何であの時ダンボール箱の中に入って演奏してたの?」

 

「ぴごゃぎぁあああああ!?」

 

「えっ、何その奇声? お、おい大丈夫か? 口からなんか泡が出てるけど!?」

 

 気付けば私は、リョウを置き去りにして走っていた。そして、大声を出す。

 

「お姉ちゃん、ぼっちちゃんには優しくしてって言ったじゃん!」

 

 私はぼっちちゃんを背中に庇いながら、店長──お姉ちゃんを強く睨んだ。

 気の強いお姉ちゃんだけど、突如として現れた私の存在に動揺を隠せない。

 

「お、おぅ虹夏お帰り。いやだけど、私、何もしてないぞ……?」

 

 心底心当たりがないように、お姉ちゃんが首を傾げる。そして、同意を求めるように「なぁ?」とぼっちちゃんに声を掛けた。

 

「ひぃ!?」

 

 小さな悲鳴を上げ、ぼっちちゃんが私の服の袖を握ってくる。

 

「お姉ちゃんがぼっちちゃんに何かしたとは私も思ってないけど! お姉ちゃん、ぼっちちゃんが初めてここに来た時に怖がらせちゃったじゃん! 覚えてないの!?」

 

「あー……そういや、そうだったか……?」

 

「そうだよ! だから出来るだけ優しくしてねって、朝お願いしたじゃん!」

 

 私が指摘すると、お姉ちゃんは気まずそうに視線を逸らした。朝私とした会話を、今思い出したのだろう。

 

「だいたいお姉ちゃんはいつも──」

 

 そして、私がお姉ちゃんへ日頃の不満を伝えようとしたその時だった。

 遅れて合流してきたリョウが「でもさ」と口を挟んでくる。

 

「あの時店長が修羅になっていたのは、虹夏がスタジオを出て行ったからだよね」

 

「うぐっ……」

 

「店長の人相が悪いのは周知の事実だけど、虹夏にも責任の一端はあると思う」

 

 ド正論を言われ、私は口を噤んだ。

 確かに私があの時制止の声に耳を貸していたら、お姉ちゃんがあんなに怒る事はなかったかもしれない。

 ……あれ? もしかしなくてもぼっちちゃんとお姉ちゃんのファーストコンタクトが失敗したのは私のせいなのでは? 

 

「……ごめんなさい調子に乗りましたすみません」

 

 自覚した私は早かった。テーブルの下に潜り込み、謝罪の意を表明する。

 

「人相が悪い──ハハハ、そうだよな……って、いや、に、虹夏!? おい、急に突然どうした!? そんな奇行、私初めて見たぞ!?」

 

「ぼっちのが移ったか」

 

「えっ!?」

 

 お姉ちゃんたちが何か言っているけれど、私の耳には届かない。

 ……いつも明るさと勢いだけで乗り越えようとしてすみません。

 そんな風に私が懺悔していると、「にっ、虹夏ちゃん」と声が掛けられた。反射的に顔を向けると、そこにはぼっちちゃんの顔がすぐ近くにあった。

 あっやっぱりぼっちちゃん顔整ってるね──現実逃避気味にそんな事を思う私に、ぼっちちゃんが必死に言ってくる。

 

「わ、私を心配してくれてありがとうございます。で、でも大丈夫ですからっ」

 

「……ほんと? 怒ってない?」

 

「は、はいっ。怒るだなんてとても……!」

 

「だから」とぼっちちゃんは言葉を続けた。

 

「そこから出てきて下さい。いっ、一緒にバイトしようって、言ってくれたじゃないですか」

 

 ……そうだ、ぼっちちゃんの言う通りだ。

 こんな所で隠れていても何も好転しない。私はテーブルの下から出ると、お姉ちゃんに向き直った。

 

「に、虹夏……?」

 

「失礼な事を言ってしまい、申し訳ございませんでした!」

 

「お、おぅ……それは分かった。私も悪かったからな、これからは気を付ける。だが虹夏、さっきのあの奇行はいったい……?」

 

 店長から許しを貰った私は、ぼっちちゃんに顔を振り向かせた。一瞬だけ目が合うと、ぼっちちゃんは照れ臭そうににへへと笑った。

 

「よし、ぼっちちゃん! 記念すべきバイト初日、一緒に頑張ろう!」

 

「はっはい……! よろしくお願いします……!」

 

「うん、頑張ろう」

 

 結束バンドの結束力が少し上がった気がした。

 こうして、ぼっちちゃんを迎えたSTARRYは今日も営業開始の準備をするのだった。

 

 

 

 

§

 

 

 

「まずは掃除から始めよう!」

 

「えっ、こんなに綺麗なのに……?」

 

 ぼっちちゃんが不思議そうに首を傾げた。

 確かにぼっちちゃんの言う通り、店内は一見すると綺麗に見える。不快に思うお客さんはまず居ないだろう。

 

「お店を閉める時に清掃してるけど、埃とかゴミって完全に除去する事は中々出来ないんだよね」

 

「な、なるほど……確かに言われてみれば、そうかもしれないです」

 

「うん、だから必ず営業前と営業後は掃除しているんだ。ライブする側と、それを観る観客。どっちにも満足して貰える環境を維持しないとね」

 

 私がそう説明すると、ぼっちちゃんは同意の相槌を打ってくれた。同じ女の子だからか、理解が早くて助かる。

 

「それじゃあ、まずはテーブルを片付けよっか!」

 

「あっはい」

 

「『せーの!』で行くよー!」

 

 ぼっちちゃんと息を合わせ、テーブルを持ち上げる。「あわわっ」と思ったよりも重たかったのかぼっちちゃんは少しふらついたけれど、何とか持ち堪えた。ギターを弾いているだけあって、体幹はしっかりあるようだ。

 協力して拭き掃除を終わらせた私たちはそのまま、床に掃除機を掛ける。最後にモップで磨けば、掃除は終了だ。

 

「それじゃあ、次! 次はドリンク関係かな!」

 

「ど、ドリンクですか……?」

 

「そう! こっち来て!」

 

 ぼっちちゃんと一緒に、カウンターの奥に入る。「おお……!」と何やら感動しているぼっちちゃんに苦笑しながら、私は一冊の本を棚から取り出して手渡した。

 

「こ、これは……?」

 

「マニュアル。機械の使い方や、ジュースとかお酒の提供方法が書かれているんだ」

 

 そう説明すると、ぼっちちゃんは顔色を一気に暗いものに変えた。

 マニュアルはそこまで分厚いという訳じゃないけれど、読むのにはそれなりの時間が掛かる。完全に網羅するのにはもっとだ。

 

「分からない事があれば私や店長に聞けば良いんだけど、それでもアルバイトする以上はある程度の対応方法は知っておいて欲しいんだよね」

 

「そ、そうですよね……」

 

「そんなに不安にならなくても大丈夫だよ。機械が壊れる事なんて早々ないし、カラオケとかコンビニみたいなワンオペはないからさ。ぼっちちゃん以外にもスタッフは居るから」

 

 私がそう言うと、ぼっちちゃんは安堵の息を吐いた。

 

「ジュースとか生ビールの提供方法は簡単なんだけど、それ以外はちょっと面倒臭いから気を付けてね」

 

「め、面倒臭いというのは……?」

 

「カクテルとかロックとか水割りにお茶割りとか──まあ、色々と種類があるんだよね、アルコールってさ」

 

 マニュアルを開き、私が該当ページを見せるとぼっちちゃんは絶望の表情を浮かべた。

 まあ、気持ちは分かるよ。私も最初は何が何だか分からなかったからね。

 ましてや私たちはまだ高校生、つまり未成年だ。実際に飲んだ事がない物を作って提供するのは難しい。

 

「まあ、こればかりは経験を積むしかないかな。大丈夫、やっていけば身体が覚えるよ──って、ぼっちちゃん!?」

 

「カクテルは〜〜棚右端から〜〜」

 

「ちょっ、いつの間にギター出したの!?」

 

 私が驚愕の声を出す中、ぼっちちゃんはギターを弾いていた。

 いや、ほんと何で!? 

 ブツブツと何やら呟きながらギターの弦を揺らすぼっちちゃんは控え目に言ってホラーだ。

 

「こら、そこ! 仕事しろ!」

 

 お姉ちゃん──店長が拳骨を振り上げながら近付いてくる。ぼっちちゃんはまだ気が付いてないけれど、これはピンチだ。

 これ以上、お姉ちゃんとぼっちちゃんの仲が拗れるのは何としても避けないと。

 

「よーし、ぼっちちゃん! 覚えるのは今じゃなくてゆっくりで良いから、次の説明に行くよー!」

 

「──ハッ! ご、ごめんなさい……お願いします……」

 

「はい任されました!」

 

 何とか現世に戻ってきたぼっちちゃん。店長を見ると、『次はないぞ』とガンを飛ばしてきた。そんなだからいつまで経っても彼氏が出来ないのだと言いたい。

 

「えーっと、ドリンクスタッフの仕事は注文されたドリンクを用意して渡すだけだから慣れれば簡単だよ」

 

 そして私は、一枚の紙をぼっちちゃんに見せた。

 

「これは……?」

 

「ドリンクチケット! 受付で、通常のライブチケットとは別に五百円払うと貰えるんだ。つまり、ワンドリンク制なんだよ」

 

「……五百円、ですか」

 

 あからさまに、『ドリンク一杯五百円って高くない?』と表情に出すぼっちちゃん。

 私はその誤解を解くべく、簡単に説明した。

 

「STARRYに限らずね、殆どのライブハウスはワンドリンク制を設けているんだ」

 

「えっと、それはどうしてですか……?」

 

「お姉ちゃん──じゃなかった、店長曰く、興行場で営業許可を貰おうとすると審査が厳しいんだって。だからライブハウスの扱いはあくまでも『飲食店』なんだ」

 

 法律には詳しくない為、これ以上の説明は難しい。だが、ぼっちちゃんの誤解を解くにはこれで充分だろう。

 

「『飲食店』……! 私が、『飲食店』でバイトを……!」

 

 感極まって両手を合わせる、ぼっちちゃん。ぼっちちゃんの中で飲食店でのアルバイトはハードルが高かったようだ。

 とはいえ、ぼっちちゃんの人見知りな性格を考慮すればそれは当然とも言える。

 それから私はぼっちちゃんにいくつかの業務を教えた。一つの業務を教える度にぼっちちゃんは溶けたり爆発したりしていたけれど、何とか生存したまま研修は終わった。

 

「リョウには今日受付を任せているから、ぼっちちゃんは私と一緒にドリンクスタッフをやろっか!」

 

「あっはい……──えっ!?」

 

「大丈夫、心配しないで! 私が隣に居るからさ!」

 

 胸を叩いて、頼りになるアピールする。しかしぼっちちゃんは自分の世界に閉じこもってしまった。

 流石にこの現象を何度も見れば、あと数分は復活するのが無理なのは想像出来る。私は営業時間開始までぼっちちゃんを放置すると、店長から今日の引き継ぎを聞いていた。

 そして、時間は十七時となりSTARRYの開店時間となる。

 

「ほら、ぼっちちゃん! 覚悟を決めて!」

 

「はははははは、はぃぃぃぃぃぃぃイ!?」

 

 語尾は奇声になっていたが、これなら大丈夫だろう──多分。

『本日は終了しました』というプレートをカウンターに置こうとする不届き者を制裁していると、一人の若い女性が近付いてきた。

 今日のお客さん、第一号だ。良かった、常連さんだ。これなら多少の失敗をしても怒らないだろう。いや、失敗はしちゃいけないんだけど。

 

「すみません、コーラ下さい。あと、氷は入れないで貰っても良いですか?」

 

「可能ですよ。畏まりました、氷抜きコーラですね。すぐにご用意します」

 

 私は差し出されたドリンクチケットを受け取ると、ぼっちちゃんに顔を向けた。

 

「ぼっちちゃん、コーラだよ。氷は無しね」

 

「こここここここ、コーラ!? ここここここ、氷、無し!?」

 

「オッケー、まずは落ち着こうか」

 

 私はぼっちちゃんの手を優しく握ると、一緒にドリンクディスペンサーに向かった。ドリンク専用のグラスを棚から取り出し、設置する。使い方はとてもシンプルで、商品名が書かれたボタンを押すだけで良い。飲食店なら一つはあるだろう、普遍的な機械だ。それこそ、普通の生活を送っていれば人生で一度は使った事があるだろう。

 だが、ボタンを押す──それだけの事に、ぼっちちゃんは緊張しているようだった。ボタンへ伸ばしている右手は震えているし、呼吸も荒い。何だったら目の焦点すら合ってない。

 そんなぼっちちゃんの震える手を、私は優しく再度握った。

 

「ぼっちちゃん、大丈夫だから」

 

「…………虹夏、ちゃん」

 

「一緒に押そう」

 

「はっはい……!」

 

 ぼっちちゃんと一緒に、『コーラ』と書かれたボタンを押す──その直前。私はギリギリの所で手を離した。

「あっ」とぼっちちゃんが声を出す。だが手は止まらず、ぼっちちゃんはそのままボタンを弱々しくも押した。

 次の瞬間、ディスペンサーの駆動音と共に黒色の液体が出される。三分の二ほどグラスに注がれた所で、ぼっちちゃんの手は自然とボタンから離れていた。

 

「ほらね、やれば出来るじゃん!」

 

 私が声を掛けると、呆然と立っていたぼっちちゃんは我を取り戻したようだった。ハッと私を見ると、達成感に満ちた顔で大きく首を縦に振る。

 

「よし、じゃあこのままお客さんにドリンクを渡そう!」

 

「………………こひゅう」

 

「ご、ごめん! まずは私がお手本を見せるから! 死んじゃダメだよ、ぼっちちゃん!?」

 

 力尽きようとするぼっちちゃんを引き摺りながら、私はカウンターに戻った。一部始終を見ていたのだろう、お客さんが微笑ましいものを見る目で笑いかけてくる。

 

「その子、初めて見るわね。新しい子?」

 

「そうなんですよ! 今日からウチでバイトとして雇う事になった、ぼっちちゃんです!」

 

「ぼ、ぼっちちゃん……? そういう名前なのかしら?」と困惑するお客さんに、私はコーラをカウンターの上に置いた。

 

「お待たせ致しました、こちら氷抜きのコーラです!」

 

「ありがとう。虹夏ちゃんはいつも頑張ってて偉いわね」

 

「ありがとうございます! これからも宜しくお願いします!」

 

 私が笑顔を浮かべると、お客さんも返してくれた。そしてお客さんは固まっているぼっちちゃんに「頑張ってね」と声を掛けるとカウンターを離れていった。

 お客さんを見送った私は、ぼっちちゃんに身体を向ける。

 

「──まあ、こんな感じ。どう? 簡単でしょ?」

 

 私の問い掛けに、しかしぼっちちゃんは首を激しく横に振った。今にもちぎれそうだ。

 だが、お客さんは待ってくれない。次のお客さんが近付いてくる。

 

「ジンジャーエールお願いします」

 

 スーツを着た若い男性が、そう注文してきた。仕事帰りだろうか、表情にはやや疲労の色が含まれている。それでもここに来たということは、それだけ音楽が好きだという事だ。

 そのように私があたたかい気持ちになっている横で、シュッと空気が揺れる音が出た。

 見れば、カウンターにジンジャーエールの入ったグラスが置かれている。

 

「あー……えっと、お待たせしました! こちら、ジンジャーエールです!」

 

「あ、ありがとう」と引き攣った表情で受け取る男性客を、私は引き攣った笑顔で見送った。

 私はしゃがみ込んで隠れているぼっちちゃんに声を掛け、

 

「お客さんに失礼だよ、ぼっちちゃん!」

 

 そう、注意した。

 ぼっちちゃんはビクンっと身体を大きく震わせると、恐る恐る顔を上げる。そして今にも泣き出しそうな表情で、口をモゴモゴと動かした。

 

「だ、だって……心の準備が……」

 

「それは分かるけど、逃げるのは駄目!」

 

「うぅ……」と呻くぼっちちゃんに、私は言った。

 

「ライブハウスのスタッフがお客さんと関われるのは、ここと受付くらいしかないんだよ。だから私たちの対応、その一つ一つがとても大切なんだ」

 

「……はい」

 

「目は合わせられなくても良い。笑顔で接客も、出来ればして欲しいけどまだ大丈夫。まずはちゃんと立って、お客さんに向き合う事から始めよう」

 

 私がそう説得すると、ぼっちちゃんは小さくも首を縦に振った。

 それから私たちは、お客さんにドリンクを渡して行った。ぼっちちゃんも精一杯、笑顔を浮かべようと頑張ってくれた。最後の接客では目を合わす事にも成功した。

 正直、不安はまだ沢山あるけれど初日だからこんなものだろう。

 

「じゃ、今日はお疲れ」

 

「お、お疲れ様です……」

 

 ぼっちちゃんの業務時間が終わり、私は店長と一緒にぼっちちゃんを見送っていた。

 ペコペコと何度も頭を下げながら、夜の街に消えていくぼっちちゃん。

 

「なあ、虹夏」

 

「なに?」

 

「あの子──ぼっちちゃんだが、大丈夫か? 正直、私は続くか心配なんだが」

 

 店長の心配は尤もだ。はたから見たら、今のぼっちちゃんは何をしでかすか分からない爆弾のような物。

 それは今日ずっとぼっちちゃんに付いていた私も、同じ意見だ。

 だが、だからこそ私は自信を持って答えられる。

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ぼっちちゃんは、やる時はやる子だからね」

 

 そう、ぼっちちゃんはそういう子だ。私はそれを確信している。

 

「ふっ、そうか。それはそうと、私の事は店長と呼ぶように」

 

「いてっ」

 

 こうして、ぼっちちゃんのバイト初日は幕を閉じた。

 明日は何を教えようかな……いやでも、暫くはドリンクスタッフに専念して貰おうかな。私は明日の事を考え、自然と頬を緩ませるのだった。

 

 

 

 

§

 

 

 

 翌日。

 ぼっちちゃんからメッセージが届いた。

 

『すみません風邪を引いてしまってアルバイトに行けそうにないです本当にごめんなさい迷惑を掛けてすみません』

 

 風邪なら仕方ない。私はぼっちちゃんに『お大事にね!』と返信し、お店の事は大丈夫だと伝えた。

 今は身体が早く快復する事を祈ろう。そしてまた、ぼっちちゃんと楽しくバイトをするんだ。

 

 

 

 

§

 

 

 

 ぼっちちゃんは学校を三日も休む程、体調を崩してしまった。先週の金曜日には学校に行っていたそうだけれど、アルバイトは店長の判断により中止となった。

 そして今日の月曜日から、ぼっちちゃんはアルバイトを再開する事となる。

 

「虹夏、嬉しそう」

 

「えっ、そう?」

 

「うん、長い付き合いのある私には分かる。最近の虹夏は毎日が楽しそう」

 

 親友の言葉を聞いて、私はそうかもしれないなと素直に思った。

 こんなにも楽しいと思うのは、お姉ちゃんが私をライブハウスに連れ回してくれていた時以来か。

 

「さあ、早くSTARRYに行くよー!」

 

「はいはい」

 

 呆れ顔のリョウと歩いていると、ポケットに入れている携帯端末が震えた。着信の合図だ。

 電源をつけて確認すると、ぼっちちゃんからメッセージが届いた旨が表示されている。

 もしかして体調まだ悪いのかなと不安に思いつつアプリを開くと、そこにはこんな文章が投稿されていた。

 

『すみません……! EDMガンガンかけてリョウさんとエナジードリンク片手に踊り狂いながらバイトしててください』

 

 ……。

 …………何だこれ。

 

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