私のヒーロー   作:Sakiru

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決意

 

 

虹夏(にじか)、この雑草美味しい。虹夏も食べる?」

 

「食べないよ!? って言うか、よくそんな堂々と食べられるね!? 人の視線とか気にしないの!?」

 

「そんな事をいちいち気にしていたら、ベーシストは『変人』だなんて言われない。それに、これも『ロック』だよ、虹夏」

 

「『ロック』って言葉を悪用しない!」

 

 STARRY(スターリー)へと向かう道すがら、リョウが時々立ち止まっては目を輝かせる。そして次の瞬間には雑草へ手を伸ばし何の躊躇いもなく咀嚼(そしゃく)をしていた。

 喜多ちゃんの多弦ベースを買い取り、リョウの所持金は底を尽いてしまった。

 最初は冗談だと思っていたけれど、本人の宣言通り、街の至る所に生えている野草を見付けてはそれを食べるようになった。

 

「よくお腹壊さないねえ……」

 

 私が呆れながらそう言うと、リョウは「ふふん」とドヤ顔を見せてくる。

 

「最初は腹痛に襲われたけど、図書館で調べた今の私に死角はない。虹夏も知っておいて損はないよ」

 

「その時が来ないことを私は祈るよ」

 

「そう言えば、この前ぼっちにあげたら吐いていたっけな。郁代(いくよ)からは葛藤の末断られたけど」

 

「後輩たちに何してんの!?」

 

 ぼっちちゃんには後でお詫びの品を渡そう。幼馴染で親友の私が止められなかった責任だ、これは。

 リョウからの雑学講座を適当に聞き流していると、STARRYが視界に映ってきた。

 

「ぼっちちゃんと喜多ちゃん、もう居るかな?」

 

「郁代からグループロインきてた。今、ぼっちからギター教わっているって」

 

「え、ほんと!?」

 

 慌てて携帯端末を取り出して確認すると、リョウの言う通りだった。喜多(きた)ちゃんからのロインに、私はスタンプで返信する。

 ちなみにリョウは既読無視をしていた。そういう所だぞ、山田(やまだ)

 

「喜多ちゃん、ギターの練習凄く頑張ってるね」

 

「そうだね。ぼっち、意外にも教え上手みたいだし実は期待している」

 

「リョウがそんな事を言うだなんて!?」

 

 何か言いたげにジト目で睨んでくるリョウを他所に、私は近くの自動販売機でジュースを二本購入した。

 頑張っている二人への、私からのささやかな差し入れだ。

 

「あー、喉が渇いたな……」

 

 チラチラとリョウがアピールしてくる。それはもう、チラチラと。

 私はため息を吐くと、同じジュースをもう二本購入した。四本あるうちの一本をリョウに「ん」と手渡す。

 

「ありがとう。虹夏は下北沢の大天使だね」

 

「ありがたや、ありがたや」とわざとらしく拝んでくるリョウ。実に調子が良いが、私は奢るとは一言も言ってない。

 店長に報告して、お給料から天引きして貰う予定だ。

 

「お姉ちゃん、ただいまー!」

 

「……おう、お帰り。それと、ここでは店長と呼ぶように」

 

「まだバイトもしてないんだし良いじゃん」

 

 私が抗議すると、お姉ちゃんは「何度も言わないと覚えないだろ、お前」と言う。

 

「そんな事より、ぼっちちゃん達もう来てるぞ。早く行ってやれ」

 

「分かってるよ! 行くよ、リョウ!」

 

 リョウを連れて、私はスタジオへ向かう。STARRYでは有料だがスタジオを貸し出しており、練習する事が可能だ。

 高校生の私たちにとっては決して安くない額だが、楽器を思い切り演奏する為にはそれなりの環境が必要な為仕方がないと割り切っている。私たちの場合はアルバイトをしている為、給料からの天引きという形で支払いをしている。

 ドアをノックすると、すぐに「はーい! どうぞー!」と明るい返事がきた。喜多ちゃんの声だ。

 

「やっほー! 練習してる?」

 

 挨拶をすると、喜多ちゃんは「はい!」と元気よく頷いた。気合い十分といった所だね。

 視線を彷徨わせている──多分、挨拶の返事をするタイミングを見計らっているんだと思う──ぼっちちゃんにも声を掛ける。

 

「ぼっちちゃんは、調子どう?」

 

「あっはい、ま、まあまあですね……」

 

「そっか! はいこれ、頑張っている二人に差し入れ! 良かったらどうぞ!」

 

 喜多ちゃんとぼっちちゃん、それぞれに手渡す。

 喜多ちゃんが太陽のような、ぼっちちゃんが控え目に笑みを返す中、リョウがベースを取り出した。そして、ぼっちちゃんへ静かに問い掛ける。

 

「どこまで教えた?」

 

「あっはい、今はFコードを教えている所です」

 

 私はドラム専門だけれど、その『Fコード』という単語には聞き覚えがあった。

 確か、初心者が(つまず)きやすい所だ。最初の壁、登竜門と表現される事もある。

 

「リョウ先輩〜、助けて下さい〜! Fコードが〜!」

 

 喜多ちゃんも例に漏れず、躓いているようだった。半泣きでリョウに泣き付いている。

 

「後藤さんにも言ったんですけど、上手く押さえられなくて……」

 

「……そう。でもこればかりは、練習するしかない。それだけ、Fコードは難しい」

 

「うぅ……! 私、手の指が短いのかしら? だから上手く押さえられないの?」

 

 両手を開いたり閉じたりしながら、喜多ちゃんがそう嘆く。

 その発言に、リョウとぼっちちゃんは顔を見合わせた。そして苦笑いを交わす。

 

「あっあの喜多さん……」

 

 ぼっちちゃんが喜多ちゃんへ恐る恐る声を掛ける。

 首を傾げる教え子に、先生はこう言った。

 

「えっと……さっきは言いませんでしたけど、構造上、手の大きさや指の長さに関わらず、コードは押さえる事が出来ます……」

 

「えっ、そうなの!?」

 

「は、はい……。だからリョウさんの言う通り、反復練習が一番の近道です……」

 

 その言葉には確かな重みと説得力があった。きっと、ぼっちちゃんもここで躓いたのだろう。

 

「後藤さんはどうやって、これを乗り越えたの?」

 

「私の場合は……その、特にやる事がなかったので。本を読んで、お父さんに聞いて、がむしゃらにギターを弾いていました」

 

 そしたらいつの間にか出来るようになったと、ぼっちちゃんは言った。

 

「ぼっちちゃんのお父さんもギタリストだったんだ?」

 

「あっはい、私の使っているギターは元々はお父さんので、それを貰いました」

 

「そうなのね! 何だか素敵だわ、そう言うの!」

 

 私の質問にぼっちちゃんが答え、それに喜多ちゃんがキターン! と感想を口にする。

 

「あっ、でもお父さん的には洋楽にハマって欲しかったみたいなんです。家で飼っている犬にも、『ジミヘン』って名付けていますし……」

 

「洋楽は良い。ぼっちのお父さんは分かってるね」

 

 リョウも会話に加わり、賑やかな雰囲気になる。

 私はそこから少し距離を置いて──お姉ちゃんの事を考えていた。

 私のお姉ちゃんも昔はバンドをやっていて、とても有名だった。その腕はプロ並みだと言われていて、ライブをしようものなら会場が満員だったのを覚えている。

 そんなお姉ちゃんはギタリストだった。私はお姉ちゃんの影響で音楽を始めたけれど、私が選んだ楽器はギターではなくドラムだった。

 その理由はとても安直なものだった。

 だからこそ、今になって思う。お姉ちゃんはもしかしたら、私にギターを選んで欲しかったんじゃないかって。そして目の前の二人のように、私にギターを教えたかったんじゃないだろうか。

 今尋ねても、きっと、お姉ちゃんは答えないだろう。答えをはぐらかすのが目に見えている。

 そんな事を、ふと思った。

 

後藤(ごとう)さん、私頑張るわ! 家でももっと練習する!」

 

 喜多ちゃんのやる気は戻ったようだった。これなら近いうちにマスターするだろう。

 

「ぼっち、意外に教えるの上手みたい」

 

 陽キャの圧に押されているぼっちちゃんを眺めていると、リョウがそんな事を耳打ちしてきた。

 どういう事だと目で尋ねると、リョウはこう言った。

 

「郁代、もう既に『土台』が出来ている。数日前まで音楽と無関係だった人間とは思えない」

 

「……そんなに?」

 

「うん、間違いないよ」

 

 音楽に関して言えば、リョウはとても誠実だ。普段の適当さはそこにはなく、また、妥協も一切ない。そのリョウがそう断言するのならきっと、その評価は正しいのだろう。

 

「正直、最初は心配していたけど……ぼっちと郁代の相性は意外にも良いみたい」

 

「あっ、それは私も思ってた」

 

 喜多ちゃんは陽キャ、ぼっちちゃんは──失礼かもしれないけれど──陰キャ。基本、陽キャと陰キャはその纏っている雰囲気や価値観などから反りが合わない事が多い。

 だがしかし、二人の場合は違うようだった。

 いや、それは違うか。喜多ちゃんが上手く対応している、といった方が良いだろう。

 ぼっちちゃんとの適切な距離感はどこなのかを探りながら、コミュニケーションを図っている。

 

「はーい! それじゃあ、そろそろミーティングやるよー!」

 

 結束バンドの結束力が高まっているのを感じ取りつつ、私はバンドリーダーとして指示を出す。

 いつも使っている丸テーブルへの移動中、喜多ちゃんとぼっちちゃんがこんな会話をしていた。

 

「そう言えば、流れで私がボーカルやる事になっているけれど、後藤さんは良いの?」

 

「……へっ!? む、無理です!?」

 

「そうかしら? 後藤さん、声質良いと思うけど……」

 

「むむむむむむむむむむむ無理です!?」

 

 そんな会話をBGMに、私たちは各々席に着いた。

 こほん、と私は咳払いをして注目を集めると、今日の議題を口にする。

 

「アー写を撮りたいと思います!」

 

 私が宣言すると、反応は各々だった。

 リョウは至って普通に、喜多ちゃんはキターン! と目を輝かせて、そしてぼっちちゃんは嫌そうにどんよりとした雰囲気を出していた。

 

「アー写って、アーティスト写真の事ですよね?」

 

「そう! その通り! 早いうちに撮って置いた方が良いと思ってさ! 写真あった方が宣伝にも繋がりやすいし!」

 

「それは納得です!」

 

 陽キャの喜多ちゃんは写真撮影の重要性を分かっているようだった。

 

「あの……この前のライブの時はどうしていたんですか?」

 

「この前? あの時は喜多ちゃんが逃げちゃってたから……──」

 

 そう言いながら、私は記念として残しておいたファイルデータを開くと、質問してきたぼっちちゃんに見せた。

 

「う、うわぁ……」

 

 思わずと言ったように、ぼっちちゃんが引く様子を見せる。

 だが、それも致し方のない事だった。

 リョウと私が並んでいる中で、喜多ちゃんだけが別枠扱いとなっている。それはまるで、卒業アルバムの全体集合写真の日に欠席してしまった生徒への措置のようだった。

 喜多ちゃんが気まずそうに視線を逸らす。

 

「えーっと、話を戻すとね! スタジオで写真を撮るのはお金がないので無理です!」

 

「えっ、そうなんですか!?」

 

「そうなんだよ、喜多ちゃん。お姉ちゃん──店長に交渉したけど、鼻で笑われてお終いだった」

 

 とはいえ、それはある意味では当然と言える。

 スタジオでのアー写は、それだけ特別なのだ。その箱がそのバンドを認めている、強く推している事を意味しているのだから。

 結束バンドはそのステージにまだ立てない。

 

「それに、アー写はバンドの方向性やメンバーの特徴とか伝えるものだからね。場所は厳選しないと」

 

「その通り。それに屋外なら、お金が掛からない。これで、バンド活動をするにあたっての費用を抑えられる」

 

「リョウは単純に生活費がままならない程お金が無いだけでしょ」

 

 そんな突っ込みを入れつつ、私はノートを開いた。

 まずは定番所──階段や海、公園、フェンスなど──を例として書き、そこから、メンバーの意見を募っていく。

 

「ぼっちちゃんから時計回りに行こっか!」

 

 私、ぼっちちゃん、喜多ちゃん、リョウの順番でそれぞれ書いていく。

 そしてやはりというか、喜多ちゃんの熱量には目を見張る物があった。一体どれだけの案があるのだろう。すらすらとボールペンを動かし、ノートへ記入していく。

 

「ふぅー! 私は書き終えました! リョウ先輩どうぞ!」

 

「フッ、郁代が全部書いたから私には無いよ」

 

 リョウがそう言うと、突然、喜多ちゃんがプルプルと震え始めた。

 それはまるで、火山が噴火する間際のようだった。そして次の瞬間、喜多ちゃんは大きく口を開けて叫ぶ。

 

「もう無理です! これ以上は我慢出来ません!」

 

「うきゃあああああああ!?」

 

「ど、どうしたの喜多ちゃん!?」

 

 驚いたぼっちちゃんが私の腕にしがみついてくる中──ちょっと……いや、かなり痛い──、喜多ちゃんは涙目になりながらこう訴える。

 

「リョウ先輩、ずっと前から言おうと思っていたんですけど、『郁代』って言うのやめて貰って良いですか!?」

 

「……? 郁代の名前は郁代でしょ?」

 

「あー、もう! そうなんですけど! けど!」

 

 私がぼっちちゃんの頭を撫でて落ち着かせている間にも、喜多ちゃんはヒートアップしていく。

 

「私、自分の名前が嫌いなんですよ!」

 

「……? そう?」

 

 リョウが不思議そうに首を傾げる。私も「そうかなあ」と前置きしてから自分の意見を言った。

 

「とても素敵な名前だと思うけど……ぼっちちゃんもそう思うよね?」

 

「あっはい。そう思います……」

 

 しかし、喜多ちゃんは首を何度も激しく横に振った。

 

「私の名字は何ですか!?」

 

「えっ……何って、『喜多』でしょ?」

 

「そうです! 『来た』! はい、私の下の名前は!?」

 

「『郁代』でしょ?」

 

「そうです! 『行くよ』! これで私が何を言いたいのか分かりますよね!?」

 

 ごめん喜多ちゃん、全く分からない。

 私たちが困惑していると、それに業を煮やした喜多ちゃんはボールペンを強く握りノートへ力任せに字を書いていく。

 

「これを見ても、皆さんは同じ事を言えますか!?」

 

 果たしてそこには、『来た』と『行くよ』が書かれていた。

 流石にここまでくれば、喜多ちゃんが何を言いたいのか伝わってくる。

 何とも言えない空気になる中、喜多ちゃんはうがぁー! と天を仰いで叫んだ。

 

「何ですかこれ、ダジャレか何かですか!? 『来た〜』、『行くよ〜』って!? あは、あはははは!?」

 

 とうとう喜多ちゃんは壊れた。

「私のフルネームは『喜多喜多』です」などと言い出す始末だ。

 喜多ちゃんの名前コンプレックスは相当だ。ぼっちちゃんの青春コンプレックスに通じるものがある。

 

「と、取り敢えず外に出よっか!」

 

 私がぼっちちゃんを、リョウが喜多ちゃんを引っ張ってSTARRYから出る。

 

「あれ? 楽器は持っていかないんですか?」

 

 公共の場に出た事で我を取り戻した喜多ちゃんが、そんな疑問を口にする。

 同意なのか、ぼっちちゃんも口を開けた。

 

「楽器持っていた方がさらに格好良く撮れると思いますけど……」

 

「きみたちはね! そうだろうね!」

 

 私が反射的にそう言い返すと、「ふぎゃあ!?」とぼっちちゃんが飛び退った。そしてリョウの背後に隠れる。

 

「虹夏、ぼっちが怯えてる」

 

 呆れたようにリョウが言ってくる。私はうぐっと言葉に詰まると、視線を逸らしながら口をモゴモゴと動かした。

 

「みんなは良いじゃん。ギターやベースを持つと映えるからね。でも私は持ち運びが難しいドラムだよ?」

 

 出来るのはドラムスティックくらいだ。

 他のメンバーがキラキラと輝く中で、私は二本のドラムスティックを持つだけ。これのどこが格好良さに繋がると思うのか。

 

「わ、私は可愛いと思います……」

 

 おずおずと顔を出し、ぼっちちゃんがそんなフォローをしてくれる。

 もしリョウが同じ事を言ったら煽りだと思っているだろうが、人が違うだけで受ける印象はこんなにも変わるのか。

 私の強い訴えにより、楽器込みでは撮らない事となった。下北沢の街をぶらぶらと探索する。

 

「あ! 伊地知先輩、あそことか良くないですか?」

 

 喜多ちゃんが発見したのは、そこはかとなく良い感じのお店の壁だった。

 流石喜多ちゃんだ、ここなら申し分ないだろう。

 

「おっ、良いね! それじゃあ早速撮ってみよう!」

 

 左から喜多ちゃん、リョウ、私、ぼっちちゃんと並ぶ。

 スマホを専用三脚にセットし、「はい、チーズ!」と写真をパシャパシャと数枚取る。

 だがどの写真もイマイチなもので、何かが欠けているような気がしてならない。

 

「って言うか、ぼっちちゃん全部俯いているし」

 

「ご、ごめんなさい……写真普段撮られないので、慣れなくて……へへっ、私を撮る価値なんてどこにもないんです……」

 

「あー! ごめん、ごめん!」

 

 青春コンプレックスを発動させようとしているぼっちちゃんを宥つつ、私は写真と睨み合いっ子した。

 やはりというか、どうも見映えが悪い。

 私もリョウも、ぼっちちゃんと同じで写真を撮られる事には慣れてないからなぁ。

 その一方、この中で唯一パーフェクトな子が居た。

 

「喜多ちゃんは凄いねぇ……どれも可愛く撮れてるよ」

 

「そんな事ないですよ」

 

 と言う喜多ちゃんだが、そんな事思っているのが丸分かりの表情だ。

 とはいえ、そんなツッコミを捩じ伏せるだけの圧倒的な可愛さなのだから凄いと思う。

 

「みんな、『バンドマンの手本たる存在』の私を真似るのだ。さすれば、すぐに終わるであろう」

 

「その自信はどこから来るのさ」

 

「フッ、私は常に自信で生きている」

 

 ドヤ顔を見せるリョウに、喜多ちゃんが「流石です、先輩」と黄色い声を出す。

 前から感じていたけれど、喜多ちゃんはもしかしたら面食いなのかもしれない。

 リョウのノルマ分、貢ぎたいって言っていたし……これは間違いなさそうだ。

 結局、喜多ちゃんに話を振られたぼっちちゃんも「あっはい」と同意してしまった事で、リョウを手本とする事になってしまった。

 

「イエスマンが二人……」

 

「これが結束力の賜物」

 

「断じて違うからね!?」

 

 リョウの手本を真似て、私たちは写真を撮る。

 出来た写真はダークなもので、確かに『様』にはなっているように感じた。「流石です、先輩!」と喜多ちゃんがリョウを褒めちぎる中、しかし私は満足感とは程遠い感情を抱いていた。

 

「何だか違うんだよなぁ……」

 

『様』にはなっているが、私たちのバンドには合ってないと思う。

 他の写真を再度見直し、結束バンドが結束バンドである事を伝えるにはどうすれば良いのか考えていると、こんな会話が聞こえてくる。

 

「そう言えば、後藤さんはイソスタやってるのかしら?」

 

「わ、私ですか……? い、いえとんでもない……! 私なんかにイソスタなんて……!」

 

「そうかしら? 最近はトゥイッターやってる子よりも、イソスタやってる子の方が多いのよ?」

 

「ごごごごご、ごめんなさい……。トゥイッターもやってないです……承認欲求モンスターが……へへっ……」

 

「ええ!? それじゃあ、やってるSNSはロインだけなの!?」

 

「あっはい。私は下北沢のツチノコです……」

 

「先輩方!? 後藤さんが何かに擬態しました!? クネクネしてます!?」

 

「ぼっちの体は人間の体じゃないってこの世界の神が言っている」なとリョウが意味不明な発言をした。

 これはいよいよ次回へ持ち越しかと判断を決め兼ねていると、喜多ちゃんが「そうだ!」とポンと手を叩いた。

 

「ジャンプとかどうですか? 絵になりますし、私たちの素の部分が出るんじゃないかと思うんですけど」

 

「おっ、良いね! 喜多ちゃん天才!」

 

「うむ、そこに着眼するとは流石。有識者が言っていた──OPでジャンプするアニメは神アニメだと」

 

「ねえ、さっきからリョウは何を言ってるの?」

 

 リョウの発言は無視し、喜多ちゃんの発案通り、私たちはジャンプをする事にした。

 だがこれも難航する事になる。

 

「虹夏、一人だけ遅れてるよ。まるで一人だけ婚期を逃したアラサーみたい」

 

「それはお姉ちゃんだから! 私じゃないから!」

 

 ジャンプのタイミングがシャッター音に合わなかったり。

 

「うひゃ!?」

 

「ぼっちちゃん、大丈夫!?」

 

「あっはい。幸い、転ばなかったので……助けてくれてありがとうございます。このご恩は私の孫まで忘れません」

 

「重いよ!? それ、かなり重いよ!?」

 

「へへっすみません……私は体重がこの中で一番ある重い女です……」

 

「いやそう言う意味じゃなくてね!?」

 

 着地に失敗したぼっちちゃんをフォローしたり。

 

「喜多ちゃん、何で今ジャンプしなかったの?」

 

「ごめんなさい! 隣のリョウ先輩があまりにも凛々しくて……見惚れてました!」

 

「フッ、私の顔面偏差値に恐れ慄くが良い」

 

「キャー!」

 

 黄色い悲鳴を上げる喜多ちゃん。周りに通行人が居たら、私たち変質者だと思われていただろう。

 うぅーん、このバンド、もしかしなくても私しか常識人が居ないのでは? 

 これから先苦労する未来が思い浮かぶようだ。

 とはいえ、私はこのバンドのリーダーだ。

 何も出来ない私がその役目に就くのは当然の事だろう。

 

「はーい、それじゃあ、次こそ撮るよ! せーの!」

 

 パシャリと、シャッター音が切られる。

 

「どう? 流石に疲れてきたから、そろそろ終わりにしたい」

 

 リョウが確認してくる。

 だがその前に、私はスマホを操作してデータを削除していた。

 写ってはいけない物がそこには写っていたからだ。

 

「だ、駄目だった!」

 

「そう……? まあ、それなら仕方ないけど……虹夏、挙動おかしくない?」

 

「そ、そんな事ないよ!?」

 

 こういう時のリョウは鋭い観察眼を持っている。ましてや私たちは幼馴染。互いの癖は把握している。

 リョウは私が何かを隠しているのを確信しているようだったけれど、私の態度から察したのだろう、素直に引き下がった。

 

「みんな、気合い入りすぎ! 高く飛びすぎてカメラの外に出ちゃってたから、気を付けて! 今度はもう少し抑えよう!」

 

 私の指示に、メンバーはそれぞれ頷いた。

 そしてようやく、アー写を撮影する事に成功する。

 

「良いですね! データ下さい!」

 

 キターン! と目を輝かせながら喜多ちゃんがそう言ってくる。

 言われるまでもない。私は結束バンドのグループロインに一枚の写真を投稿した。既読がすぐにつく。

 

「これが……アー写……! 皆と撮った写真……! えへへへへへへ……!」

 

 頬を緩ませるぼっちちゃん。余程感動しているのか、スマホの画面を凝視する。

 家族以外と写真を撮った事がないって言っていたし、本当に嬉しいのだろう。

 私は秘かに、機会があれば積極的に写真を撮っていこうと思った。

 

「結束バンド、これから本格始動ですね!」

 

「うん! 夏までに曲を作って! それからライブして! デモCD作って! 今冬ファーストミニアルバムを売ろう!」

 

「凄い、全部が未定だ。私はこのバンドの将来が不安だよ」

 

 呆れたように言うけれど、リョウには言われたくないよ。

 

「この前話した通り、作詞はぼっちが担当する事になる。私は家に帰ったら作曲を始めるから、また出来たら言うね」

 

「あっはい分かりました」

 

「うん、宜しく。何か良い言葉が浮かんだら、メモに残しておくと良いよ。基本的な事だけど、それが大事」

 

 私と喜多ちゃんが盛り上がっている横で、リョウとぼっちちゃんの作詞作曲コンビがそんな話をしていた。

 私はそれを聞いて、興奮を隠せなかった。

 そうだ、これからだ。

 これから、私たちのバンドが始まるんだ。

 

 そしていつか必ず、このバンドで『夢』を叶えたい。

 

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